世界は俺が嫌いらしい。   作:まあまああまあま

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描写が気に入ってないので後々書き直すかもしれません。


揺れるは森、揺らすは三頭犬

 時はシリウスの班が森に入るころまで遡る。

 シリウスたちはシンたちのグループに負けずとも劣らずのペースでゴブリンを狩っていた。……はずだった。

 実力だけ見れば可能だっただろう。しかし、森に入ってからしばらく経つというのに一向にゴブリンが出ない。

 

「……なにかおかしい。一度もど」

 

 戻って指示を仰ごう。そう告げようとした言葉は、しかし轟音によって遮られた。

 災害かと錯覚するほどのそれは、鼓膜を、森を、世界を三度震わせた。

 耳を塞ぎ蹲るものも出るほどの轟音。その轟音の持ち主は、森の奥から力強く、雄大にその歩みを進めてきた。

 

「ケルベロス……!」

 

 三つの頭を持ち、地獄の番犬とも呼ばれるその魔物は、牙をむき出しにし、シリウス達へ今にも飛び掛かりそうな勢いだ。

 唸り声がする。口の一つから炎がちらちらと漏れ出す。口の一つから冷気が迸る。口の一つからそよ風が舞う。

 

「来るぞ!!」

 

 シリウスのその掛け声が、開戦の合図となった。

 

 

 

 

 単純な、文字通りの()()で言ってしまえば4対3とシリウスたちに分がある。にもかかわらず、シリウス達は苦戦を強いられていた。

 実力不足? それもあるだろう。いくら優秀とはいえ入学してから半年、練度が足りないのも当然だろう。

 しかし、一番の問題は──

 

「ごめ、ん! ぶつかった!!」

 

 集団戦への慣れである。

 カリキュラムに集団戦が組み込まれるのは二年に上がってから。現時点では集団戦の基礎すらなっていない。ぶつかる、位置取りが被る、同じ頭を違う属性魔術で狙い威力が相殺される。

 対して三頭犬(ケルベロス)は独立した思考を持っているとはいえ一つの生物。互いの首をカバーしあうような動作をしている。

 そしてなによりも、シリウスがその実力を発揮しきれていないというのが大きい。

 

(明らかに私たちがシリウスくんの足を引っ張ってる……。誤爆を恐れて思うように動けてないんだ……!)

 

 シリウスは高火力の魔術を好んで使う。しかし、敵味方が入り混じる戦場でもし誤爆をしてしまえばどうなるかは火を見るより明らかだろう。

 シリウス達が思うように動けない中、三頭犬は巧みな連携でシリウスたちを追い詰める。徐々に疲れが見え始める。少しずつ傷が増えていく。

 

 敗北。その二文字が脳裏によぎる。死が己の眼の前に立ち塞がっている。

 恐怖は思考を鈍らせ、視野を狭める。涙で視界がぼやける。15の少女は己の死など覚悟していない。ゴブリンの討伐という簡単なことが目的ならなおのこと。

 

 少女に向かって氷柱が飛んでくる。予備動作を見逃した彼女は慌ててそれを回避しようとする──が、ここは森の中。平坦な地であれば容易に回避できたであろうそれは、しかし彼女が木の根に躓いたことで肌を傷つける。

 決して深くはない。それでも初めて受ける明確な傷。それに加え、転倒。この戦闘で初めての明確な隙。三頭犬ではない。炎の幕を他の班員との間に引き、転倒した少女に狙いをつける。

 

 それぞれの方向を向いていた3つの頭が一点を見つめる。鋭い犬歯を剥き出しにしてその一点に駆け出す。

 

(ああ、ここで死ぬんだろうな)

 

 恐怖はあった。しかし、それ以上に少女は冷静だった。死まで秒読みだというのに、胸中にあるのは諦観だった。感情がオーバーフローしたのか、何も感じない。痛みがなければいいな。そう思い目を閉じる。

 

 がちん、という音が聞こえた。しかし、痛みを感じることはなかった。

 疑問に思い、目を開く。誰かの背が見える。その奥に三頭犬の姿が見える。三頭犬の前に立ち塞がるその人は、果たしてシリウスだった。

 

「立って! ひとまず距離を取るんだ、時間は僕が稼ぐから!」

 

 己の左腕を噛まれながらシリウスは叫ぶ。三頭犬を蹴り飛ばし、すぐさま追撃する。

 少しの間呆然としていた少女は、しかしすぐに立ち上がり他の仲間のもとへ駆ける。己のできることを果たすために。

 

 

 

 

 

 

 なんとかユナさんの救助は間に合った。その場から離れたっぽいし一先ずは安心。問題は目の前のこいつ。タイマンでやったら勝率は三割くらい。みんなが協力してくれても四割くらいだろう。シンがいればとは思うけど、ないものねだりしたって現状が変わるわけじゃない。

 

 僕が、やらないと。

 決意を固めると同時に三頭犬が炎を吐いてきた。咄嗟に氷結で相殺しようとする。が、その必要はなかった。一陣の旋風が三頭犬の大きく開かれた口に吸い込まれていった。

 

「シリウスくん! 私達が合わせる、好きに動いて!!」

 

 防御用に準備していた氷塊をそのまま三頭犬目がけ放つ。

 今までは各々がそれぞれの考えで動いていた。しかし、ここで"シリウスの補助"という目的を全員が共有した。それは、たどたどしくはあるものの確かにチームであった。

 氷塊が三頭犬の鼻筋に突き刺さる。頭の一つがキャウン、という甲高い声を上げる。それは、この戦闘が始まってから初めて見せた隙であった。

 

「叩き込むぞ!!」

 

 シリウスは高火力技を、他の面々は速度を重視したものを打ち込む。ただでさえ頭数はシリウスたちのほうが多い。三頭犬は凌ぐので精一杯で攻撃に転じる隙が無い。

 そこだけ切り取って見るのであればシリウスたちが有利だ。だが、実際は異なる。素のスペックという点でシリウスたちは三頭犬に大きく差をつけられている。

 三頭犬にとって脅威となるのはシリウスからの一撃のみ。それ以外は鬱陶しいな程度のもの。対してシリウスたちはこの均衡が崩れれば、次のチャンスはいつになるかわからない。あまりに長期戦が続けば魔力切れも見えてくる。

 余りにもギリギリの綱渡り。それを崩したのは、三頭犬の雄叫びだった。

 一つの頭が凌ぐうちに二つの頭が天に向かって吠えた。魔力を乗せ、大きく吠える。それはシリウスたちの魔術を打ち消すだけにとどまらず、衝撃波となりダメージを与える。

 攻守が入れ替わる。シリウス達はどうにか攻撃を受け流す。

 

(やりにくいな……!)

 

 三頭犬は魔術だけでなく、近接攻撃も仕掛けてくる。対してシリウス達には魔術しかない。近寄られれば明らかに不利なのはわかりきっている。

 時間をかければ敗色濃厚。近寄られても不利。威力ではなく発生速度を重視した魔術は打ち消され牽制にしかならない。加えて。

 

「っ!」

 

 三頭犬に噛まれた左腕がずきり、と痛む。構えていた魔術は想定より低い威力で放たれる。三頭犬はそれを意にも介さず反撃の炎を放つ。

 

 隙がほしい。この局面を土台からひっくり返すような、決定的ななにかが。

 願いが天に届いたのか、それとも単なる偶然か。視界の隅に、綺麗な緋色の髪が見えた。

 

(ソフィア……!?)

 

 それは別グループにいたはずのソフィア・ヴァイオレスであった。三頭犬はソフィアの存在に気づいていない。

 微かな勝機が確かに見えた気がした。

 

「デカいのを叩き込む! みんな、サポートを頼む!」

 

 シリウスは立ち止まり、魔力を高めてゆく。三頭犬の後ろで同じように高めているソフィアのそれを覆い隠すかのように。

 正念場。この場の全員の脳裏にその言葉がよぎる。

 三頭犬はシリウスの魔術の発動を阻止せんとより苛烈に攻撃を仕掛けてくる。他の面々は厳しい表情であるもののそれを凌いでゆく。

 どちらか勝っても可笑しくないそのやり取りは、果たしてシリウスたちに軍配があがった。

 

「凍てつけ!!」

 

 森の巨木かと見間違うほどの巨大な氷柱が、三頭犬目掛け放たれた。放たれたそれが当たる瞬間。

 三頭犬の口元が、いびつに歪んだ。

 

 夢幻。今まで決して使うことのなかった4つ目の魔術属性。

 シリウスが穿った三頭犬が霧散する。最悪のタイミングで切られたその手札に対応するすべもなく、三頭犬の牙がシリウスに突き刺さる──

 

「ああそうだ、ひとつだけ。本命は、僕じゃない」

 

 瞬間、暴力的なまでの炎が三頭犬を襲った。螺旋を描いた炎は三頭犬を飲み込み火力を強めていく。周囲の木々も燃やし尽くさんばかりのそれが終わったとき、そこに三頭犬の姿はなかった。

 

 辺りは静寂に包まれる。誰も呼吸ができなかった。三頭犬がいつ姿を表しても良いよう緊張の糸を貼り続け、そして

 

「おわっ……たぁ…………」

 

 その言葉が、終了の合図となった。

 安堵の声が聞こえる。命の危機から解放されたことに啜り泣く声がする。

 その音を背に、シリウスはゆっくりとソフィアの下へ歩き出す。

 

「色々聞きたいこともあるだろうけど、とりあえず。ソフィア、駆けつけてくれてありがとう」

「っ……! ええ、当然でしょ。あなたを倒すのは私なんだから! だから…………そうよ、私以外に負けちゃだめなんだからね!!」

 

 頬を染め、照れと笑みを同居させたように答えるソフィア。しかし、何かを思い出したように表情を改めるとシリウスに話しかける。

 

「そうだ、シリウス。リミアたちが……!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「シン・アラクシス様、どうか我々と共に世界に反旗を翻しませんか?」

「……何だてめぇ。二人になにしやがった」

 

 気を失っているのか横たわるリミアとレイラの前に立ちはだかるシンと、それに対峙する黒衣の男。誰にも知られることなく、シン・アラクシスの物語も進み出していた。




当たり前ですが「リミアたち」にシンは含まれていません。
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