風魔術だけでも異世界は楽しいです ~美少女転生からのちょうどいいスローライフ~   作:暁刀魚

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魔術師の少年

「げっ」

「げっ、とはなんだ。喧嘩か? 売るぞ?」

「君が売るのか!?」

 

 街を歩いていると、なにやら大荷物の見覚えある少年と再会した。

 魔術師姿の、生真面目さとプライドがないまぜになったような少年。

 パーティ「モクゾー」のルークだ。

 

「ああ、いや。すまない。大変失礼な反応だった、謝罪する」

「本当に真面目なやつだね、君は。怒ってないから。喧嘩ならいつでも売るけど」

「だから喧嘩は売らないでもらえると助かる……」

 

 顔には、一番会いたくない相手にあってしまった……とありあり書かれているルーク少年。

 少年と言っても、プリンセスと年は同じくらいだろうけど。

 

「もしかして、拠点をカザルマに移すのかな?」

「な、なぜわかった?」

「日用品をそんなに買い漁ってるから」

「……く、そうだよ。ケイマが言い出してな」

 

 ケイマというのは「モクゾー」のリーダーの少年。

 女の子の方はキョウという。

 一人だけ仲間外れボードゲームか?

 

「あはは、それは私の存在を考慮したうえでの提案だろうなぁ」

「わかってるよ。……性根を入れ替えて、人を立場で見下したりは、今後しない」

「期待してるよ、未来の二つ名魔術師くん」

「……流石にそれがからかってるのはわかるぞ!?」

 

 おおっと。

 まぁ何にせよ、「モクゾー」パーティは本当に有望株だ。

 そんなパーティが近くにいるというのは、なかなか楽しみが増える。

 別に私がどうってわけじゃないんだけど。

 他人の冒険譚って、聞いてて楽しいんだよね。

 

 

 +

 

 

 ルークにとって、強さとは努力によって必ず身につくものだった。

 しかし努力とは才能なのだと、冒険者になったルークは知ることとなる。

 多くの人間が、その日を適当に生きれればそれでいいと思っていて。

 努力なんてものを、内心小馬鹿にしていると。

 そう気づいたのは、「モクゾー」のケイマとキョウ、二人の冒険者に拾われる少し前のことだった。

 

 ケイマとキョウ、それからルークは同郷だ。

 モクゾーという村の出身で、パーティ名もそこから来ている。

 ルークは二人とはそこまで仲のいい間柄ではなかったが、広い冒険者の世界で同郷というのはそれだけでつながりになる。

 

 二人に拾われるまでのルークは、傲慢だった。

 自分の努力を当然のものと考えて、周囲の怠けを切り捨てる。

 そんな人間が、周りから疎まれないはずもなく。

 魔術学園ではエリートと呼ばれていた彼が、冒険者としては落第生だったのだ。

 そんなルークを見かねて、ケイマとキョウはパーティに誘い。

 以来、なんだかんだうまくやっていったといえる。

 

 眼の前の女。

 白迅のフーシャに出会うまでは。

 

「――浮遊よ」

「うわ……! そこまでしてもらうわけには行かないんだが!?」

「別に、これくらいならお代は取らないよ。どこに運べばいい?」

 

 人の買い物を、勝手に浮遊魔術で浮かして運ぶ。

 おかしな女だ、と内心思う。

 だが、流石にそれは失礼すぎるので言葉にはしない。

 そもそもルークは、眼の前の女に一生かかっても拭いきれないほどの失礼をすでに働いているのだから。

 

「……こっちだ」

「あいあい」

 

 自由な女、見るからに軽薄そうで、ルークが嫌悪する怠惰を至高と断ずる女。

 反りが合わないのは当然だが、フーシャの圧倒的な寛容さが、ルークとフーシャを繋いでいた。

 

「……あなたは、風鳴りなのか?」

「ん? そーだよ。だから風魔術以外は使えないの」

 

 風鳴り。

 ときに、体内の魔力を生み出すための器官に異常をきたして生まれてくる者がいる。

 そういったものは特定の属性に極端な適性を見せるが、他の属性を使えない。

 属性ごとに、この特性には名前があって、風属性の場合は風鳴りだ。

 人には属性の得意不得意があるが、普通なら複数の属性を使えるのが当たり前。

 なので、人によっては風鳴りを呪いというものがいれば、祝福というものもいる。

 

「あなたにとっては、どうだ?」

「当然、祝福だよ。これのお陰で、子供の私でも生き残ることができた」

 

 親を殺されたと、以前言っていた。

 野盗に殺されたのだという、この世界ではよくあることだ。

 だからこそ、誰でも想像できる不幸と言える。

 

「何より、私の師匠になってくれるはずだった人が言ってたんだよね。この世にあるものは、すべてを祝福だと思え……と」

「君の師匠らしい言葉だな……」

「前にも言ったけど、もう死んじゃったけどね。私の家族だった行商キャラバンの護衛だったから、一緒にね」

 

 ルークは、言葉が詰まる。

 沈黙が広がる中、二人の足は止まらず。

 やがて、絞り出すようにルークは聞いた。

 

「……なぜ、その話を僕にする?」

「隠すようなことじゃないし。それに、なんとなく似てると思うんだよね、私と君って」

「はぁ?」

 

 流石にそれは、疑問符を浮かべざるをえなかった。

 自由極まりないフーシャという女と、真面目で融通の効かないルーク。

 むしろ正反対じゃないか?

 

「才能に振り回されてるところ。才能を使わないと生きていけないところ」

「それ、は……」

 

 周囲から孤立しがちなルークは、魔術という才能に頼らなければ自分を維持できなかった。

 たしかにそれは、そのとおりだ。

 しかし、フーシャとルークではあまりに背負ってきたものが違うだろう。

 だからこそ、ルークは語る。

 

「……僕は、順風の守り手のようになりたいんだよ」

「へえ?」

「弱きを守り、正しきを貫きたい。僕は他人を見下してしまう愚かな人間だ。間違っている人間だ。そんな人間が正しく生きるには、正しいことを貫くしかないんだ」

 

 杖無しへの警戒も、元を返せば正しさの押し付けだ。

 見た目で、フーシャをただの杖無しと判断した。

 それがどれだけ愚かなことであるかも、気が付かず。

 

「だが、僕は無知だった。賢しらになったつもりでいた。愚かしいだろう。こんな僕に、わざわざ付き合う必要なんてない」

「あはは……どこまでも私を突き放してくるねぇ」

 

 仕方ないだろう、とルークは思う。

 眼の前の女は眩しすぎる。

 容姿とか、そういうのは関係ない。

 生き様があまりにも、風のように軽やかで。

 それでいて、自由だ。

 

「順風の守り手のようになりたいって、本当?」

「……ああ」

「あまり良いものじゃないよ、やってることは人殺しだ」

「……だが、正しいことだ」

 

 きっと、眼の前の少女もそれはわかるだろうと、ルークは思った。

 彼女は家族と師匠を、野盗に殺されたのだから。

 

「そうだね。……野盗は、この世でもっともちょうどよくない存在だ」

 

 だから、そんな言葉が。

 するりと飛び出た時。

 

 

 わかっていたはずなのに、背筋が震えた。

 

 

 本当に、この少女は底が見えない。

 風のように掴みどころがなくて、最後の一歩を他人に踏み込ませない。

 そのことを、ありありと見せつけられたように感じた。

 

「……まぁ、なんだ」

「――あ」

 

 ふと、フーシャの言葉で我に返る。

 一体どれほど、眼の前の少女に気を取られていたのか。

 二人の距離は少しだけ広がっていた。

 

「君が順風の守り手になる必要はないよ」

「え……?」

「そもそも、真面目すぎて向いてないし。順風の守り手が、ただ正義の名のもとに悪を断罪してるわけじゃないでしょ」

「いや、まぁ。それはそうなんだろうが」

 

 ルークがフーシャを追いかけると、フーシャはその距離のまま前を進む。

 話をするには問題ないが、隣をあるくというには遠い距離だ。

 

「君はもう少し、素直に自分の気持ちを吐露することだね。内面は真面目でいい奴なんだから、それを知ったらもう少し周りもかわいがってくれるだろ」

「いや、別に可愛がられたいわけじゃ……」

「そういうところを気に入ってるから、『モクゾー』の二人も君をパーティに加えたんだと思うよ」

「……!」

 

 そうだ、少なくとも。

 自分には自分を認めてくれる人が二人はいる、と。

 ルークは改めて思い直す。

 

「それに、カザルマの街はいい街だ。きっと、君たちの冒険はいいものになる」

「あ、ああ……」

「んで……ついたっと」

 

 やがて、フーシャとルークは目的地――モクゾーの拠点としている宿にたどり着く。

 下ろすよ、とフーシャが言って。

 荷物に再び重さが戻ってきた。

 

「っと」

「よし、それじゃあ頑張れ有望株。君たちの立身出世を楽しみにしてるよ」

 

 手を振って、フーシャはルークの側を去っていく。

 結局ルークは、そんなフーシャが見えなくなるまでそこに立ち尽くし。

 帰ってきたはずなのに宿へ入ってこないルークを心配した、ケイとキョウがやってくるまでフーシャを見ていた。




TS女はわるいおんな以下略
この話までがプロローグみたいな感じになります。
この後もお話は続きますが、とりあえずここまでお読みいただきありがとうございます。
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