風魔術だけでも異世界は楽しいです ~美少女転生からのちょうどいいスローライフ~   作:暁刀魚

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護衛任務の手隙

 私の主な仕事は護衛任務だ。

 「カザルマ」の街と、隣の町を行ったり来たりする行商人の護衛として雇われることがほとんど。

 たまに「カザルマ」から隣町に移動したと思ったら、更に隣の街まで護衛して……なんてこともあるけど。

 まぁ、そう何度もあることじゃない。

 

 一週間のスケジュールにすると、二日から三日を護衛の行きと帰り。

 講習を一日、ダンジョン探索を一日。

 護衛が二日で終わった場合は、ほか冒険者パーティのヘルプに入る事が多い。

 大抵はプリンセスパーティだ。

 あのパーティ、私が入ることを前提に後衛入れてないからな。

 

 このうち、三日かかる護衛ってのはどういうことか。

 基本、カザルマの街と隣町は朝早くに出れば夕方には到着できる。

 森の中を突っ切る一本道なので、迷う心配もないし街道も整備されているから立ち往生の心配もない。

 じゃあどうして、依頼が三日かかる時があるの? という話。

 一つは単純に帰りの護衛依頼がなくて立ち往生する場合。

 もう一つも単純、片道に二日かかる依頼者というのがいるのだ。

 

「じゃあ、今回もお願いねぇ、フーシャちゃん」

「はい、よろしくお願いします」

 

 今回の依頼者は妖艶な雰囲気の、美人だが若干老いを感じる御婦人。

 及び彼女を中心とした、複数の荷馬車からなる行商キャラバン。

 こういう手合は、移動するだけで二日の日程が必要になる。

 大人数の移動ってそれだけで大変なんだよ。

 特にこういうキャラバンは家族単位で動くから、子どもも複数いるし。

 

「それにしても、フーシャちゃんがこっちの街にいて助かったわ。貴方がいないと、旅の手間が段違いなんだもの」

「あはは……じゃあ、始めますね」

 

 この御婦人とは何度か仕事を一緒にした仲だ。

 「カザルマ」の街を中心として、周囲の様々な村を渡り歩くキャラバン。

 この中世風異世界において、山奥にある村のインフラとしてなくてはならない存在だ。

 馬車が数台に、馬がいっぱい。

 それに伴う人間の数もかなりいる。

 私が普段お仕事をする相手としては、おそらく最大規模。

 間違いなく、やり手御婦人だ。

 

「――浮遊よ!」

 

 私は、そんなキャラバンの()()()()()()を一度に引き上げる。

 周囲から、おお……とか、相変わらず凄いな……みたいな声が聞こえてきた。

 私にとって、浮遊魔術は幼い頃から最優先で磨いてきた魔術だ。

 自分の特異体質がなくても、浮遊魔術に関しては誰にも負けない精度があると自負している。

 ちょっとだけ得意げにしながら、自分も浮遊させて馬車の幌に飛び乗った。

 私が護衛依頼を受ける時は、ここが定位置である。

 

「それじゃ、出発しましょうか!」

 

 御婦人の声は、先程までの穏やかさを残しつつ力強いものだった。

 活をいれるという意味で、長年彼女が磨き上げてきた技術である。

 その技術は、私の浮遊魔術と比べても、年季の差で向こうのほうが上かもしれないな。

 

 

 +

 

 

 一日目、何事もなく予定していたポイントまで到着できた。

 元々、冒険者の街であるカザルマの近くにあるこの森は、新人の講習に使われる程度には安全だ。

 以前の野盗狼やギガントオーガは例外。

 だが、そういう例外が時折起きる場所でもあるので、行商人なら護衛は雇っておいたほうがいい。

 

 もともと、この行商キャラバンには常駐の護衛が一人いる。

 御婦人の息子さんで、一時は大規模パーティのリーダーを務めていたほどの凄腕。

 なので、仮に野盗狼が出ても撃退は余裕。

 ギガントオーガだって、あの怪我だったら遠くまで誘導した後退却してくるなんてこともできるだろうな。

 

「さて、じゃあ今日も頼むぞ」

「こっちこそ、よろしくお願いしまーす」

 

 そんな護衛の青年と、私は一日目のキャンプ地でお互いに構えた状態で向かい合っていた。

 私が偽弾魔術をいつでも放てる態勢なのに対し、護衛さんは木剣を構えている。

 これから、模擬戦形式の決闘を始めようというのだ。

 周囲を、キャラバンの人たちが楽しげに囲って観戦していた。

 

「……はじめてちょうだい!」

 

 ――商隊の隊長である御婦人の合図で、私と護衛さんが、同時に動く。

 

 現在、私達がいるのはカザルマの街と隣町の中心にある、開けた場所。

 ちょうど小川が流れており、この大規模キャラバンがキャンプ地にした上で私と護衛さんが余裕を持って模擬戦決闘を行えるくらい広い。

 もともと、ここは今回みたいに一日で街を行き来できない人たちや、森の中で一夜を過ごすことになった冒険者向けの休息地だ。

 ここら一帯に魔物よけの結界が貼ってあり、焚き火用の木材まで置いてある。

 

「偽弾よ!」

「おらぁ!」

 

 私の放った風の弾丸。

 それを護衛さんは――木剣で()()()

 護衛さんは、自身の肉体を魔力で強化している。

 当然それは木剣にも及び、肉体強化の出力と精度が私の偽弾を上回っていれば”切る”ことができる。

 残念ながら護衛さんの肉体強化の精度は、今の私に少し劣る程度なので弾くことしかできない。

 だが、弾ければルークよりは戦闘になる。

 やがて私の弾丸を弾きながらこちらへ接近し、ついには切りかかってきた。

 それを、私はただ回避する。

 

「っく! 相変わらず……まったく、あたらん!」

「反撃しますか!」

「もう、少し……!」

 

 私は前衛ではない。

 だけど、風が聴こえるせいで相手の考えることや剣の動き、その他諸々が読めてしまう。

 なので回避性能に関しては、間違いなく下手な二つ名持ち剣士より高い。

 なお剣を打ち合うと即負ける。

 こっちの剣は読みやすいんだとか、そりゃそうだ。

 

「そろそろいいかな!」

「やっぱりだめか……!」

 

 最終的に、私が偽弾で反撃を開始。

 私への攻撃と偽弾の対処という二つの行動を強いられた護衛さんは追い詰められ、敗北した。

 

 

 +

 

 

 さて、こういう二日かかるキャラバンに同行した時の楽しみというものが一つある。

 食事だ。

 旅において、モチベーションを保つための最も有効な手段は美味しい食事。

 なので旅慣れた行商人の作る料理は、とても美味しい。

 このキャラバンは、隊長の御婦人が料理好きなのもあって、飯が絶品とよく言われている。

 

「んー、おいしい。ミルクが……ミルクがいいんだよなぁ」

「うふふ、食感を変えないかしら。焼き立てのパンがあるわよ」

「本当ですか?」

 

 御婦人が、パンを持ってこの世界のシチューに相当する料理――面倒なのでシチューで統一する――を食べているとやってきた。

 そのまま、私のお皿にパンを乗せると、隣にどかっと座った。

 うーん、豪快。

 

「さっきは、ウチのバカ息子とありがとね」

「いえいえ、腕の良い剣士との戦闘はこっちもいい経験になりますから」

 

 バカ息子、とは言うものの。

 病気でなくした旦那さんの忘れ形見だ。

 多分、可愛くて仕方ないんだろうなぁ。

 

「それで、一応聞いておくけど。ウチのキャラバンに所属する気はないわよね?」

「それは……残念ながら」

「やっぱり、常駐ってなると恐怖が勝っちゃうわよね」

 

 御婦人は、私の来歴を当然というべきか、知っている。

 というか私のキャラバンと、この人が見習いをしていた商店で取引があったんだよね。

 まぁ、知らないわけがない。

 

「でもこうして、依頼を受けてくれるだけでも私は嬉しいわ」

「私も、こうやって大きなキャラバンの護衛をするのは好きです。特にここは、ご飯が美味しいので」

「嬉しいこと言ってくれるわね。あーあ、フーシャちゃんがうちの息子とくっついてくれれば全部解決なのに」

「あはは……」

 

 確かに、このキャラバンの家族になれば否応なく常駐になるけれども。

 その場合、隊長の子どもに後継者がいなくなってしまう。

 それに加えて、もう一つある。

 

「というか……息子さん、カザルマの商店の子と付き合ってますよね?」

「あ、やっぱりぃ? 息子の恋愛には口出ししないようにしてるけど、どうなるかしらねぇ」

 

 一応ひそひそ話したが、案の定知っているようだ。

 この様子だと、キャラバンの人全員知ってるんじゃないかなぁ。

 まぁ、そういうわけなので私の席はないのである。

 そんな話をしながら、キャラバンのシチューに舌鼓をうって。

 一日が過ぎていった。




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