風魔術だけでも異世界は楽しいです ~美少女転生からのちょうどいいスローライフ~   作:暁刀魚

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ゴブリンは間引きだ

 私はこの世で野盗の類が一番嫌いだが、ゴブリンもそこそこ嫌いだ。

 単体なら雑魚のくせに、群れるとやたら強い。

 ゴブリン以外の種を使って繁殖するせいで、一匹いれば無限に増える。

 成長も早くて、殺しても殺しても切りが無い。

 

 ただまあ、拠点を持たないゴブリンや、繁殖を行わないダンジョンのゴブリンはそこまで脅威ではない。

 けど、一度拠点を持ったり、上位種が誕生したゴブリンの群れは最悪だ。

 それをきっちり滅ぼしたはずなのに、一年経っても未だに影響が各地で見られる。

 カザルマの街でも、以前よりゴブリンは若干の増加傾向にあった。

 まぁ、それを把握してる人間は少ないんだけど。

 

「んじゃ、今日も出発するよー!」

「はい!」

 

 浮遊魔術によって浮かび上がった荷台の上で、御婦人の号令を聞く。

 どうでもいいけど、やろうと思えば私はこの数を一日でカザルマまで運ぶことができる。

 ただし、そうすると魔力をそっちに使いすぎて戦闘が一切不可能になり、襲われるとまずい。

 護衛さんがいるとはいえ、危険を冒す理由もないので移動には二日かけるのがセオリーだ。

 

「隣街からここまでは、魔物もあんまりいなくていい感じだったんだけどなー」

 

 うつ伏せで寝転がりながら、私はひとりこぼす。

 周囲へ聞こえるということはない。

 あくまで、本当にただの独り言。

 

「んー、向こうの街にいる冒険者パーティが複数いて、カザルマにいるパーティがダンジョンに集中してるってところかな」

 

 更新日から、まだ一週間も経ってない。

 お宝求めてダンジョンアタックなパーティは結構いるだろう。

 結果として、ゴブリンが溜まったか。

 

「やりますかぁ」

 

 そう言って、私は意識を周辺に向ける。

 体の感覚が薄くなって、代わりに”風”に対する感覚が活性化する。

 風鳴りの感覚っていうのは凄いもので、やろうと思えば凄く遠くにある小さな雑草の動きとかまで察知できる。

 代わりにあんまり使いすぎると、感覚が活性化しすぎて消耗するんだけど。

 この世界は異世界だ。

 消耗した体力は、回復魔術や回復ポーションで補える。

 連続使用しなければ、デメリットはあんまりない。

 逆に言うと、連続使用によって障害が残るくらい使いすぎた時のデメリットが大変だ。

 下手な回復魔術で、治療できるものじゃないからな。

 

「……見つけた、あっちか」

 

 そんな感覚が、数匹のゴブリンの群れを捉える。

 ちょっと大きなゴブリンが一匹と、小さめのゴブリン数匹。

 こういうのは間違いなく、大きいゴブリンが群れのリーダー。

 なのでそれを――

 

「――風弾よ」

 

 私は、誰にも察知できない速度、精度、そして静音性を誇る風の弾丸で狙撃。

 木々の間をうねるように駆け抜けて、ゴブリンの眉間に弾丸は突き刺さった。

 遠くで、ゴブリンたちの困惑する声が聞こえる。

 何をしているかと言われれば、言うまでもなく間引きだ。

 

「休憩」

 

 一気に活性化させた感覚をもとに戻す。

 別にそこまで消耗していないけれど、この後カザルマの街に帰るまでこれを続けるので余計な消耗はさけたい。

 それに、さっきの探知で周囲に敵がいないことは確認済み。

 次のポイントまでは、休憩タイムだ。

 

「……次」

 

 んで、ある程度時間が経った所で、再びうつ伏せになって周囲を探知。

 先ほどと同じように、ゴブリンを発見。

 まとめ役と思われるゴブリンを狙撃して討伐した。

 そんな流れを、かれこれ四回繰り返す。

 そう、四回だけだ。

 それじゃあ間引きになってないじゃんと思うかもしれないが。

 これが一番、ちょうどいい間引きの仕方なのである。

 

「よーし、カザルマの街が見えてきたぞ」

 

 商隊の人が、そんな合図を仲間に送る。

 私は、そちらに視線を向けつつ先ほど狙撃したゴブリンの様子を、観察しておくことにした。

 ゴブリン達が変な知恵を付けてないか、確認する必要があるのだ。

 

 狙撃したゴブリンは、自分たちのリーダーが狙撃され、最初は困惑と怯えを見せる。

 周囲を警戒しながら身を寄せ合い、やがてなにもないことを悟ると――

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 何故、と思うかもしれないが、ゴブリンは野蛮ながら知恵のある存在だ。

 当然ながら、そのコミュニティは力によって支配されている。

 目の上のたんこぶだったリーダー個体が死んで、自由になったと喜ぶわけだ。

 

「フーシャさん、周囲に魔物の気配はあるか?」

「ないですー」

 

 こっちを襲ってくる位置に魔物がいないことを告げつつ、観察を続ける。

 やがて喜び終わったゴブリン達は、死んだリーダー個体を引きずってどこかへ連れて行く。

 どこへ行くかといえば、巣に連れ帰るためだ。

 何をするかといえば、食料にするためだ。

 いやぁ野蛮な生態なんだけど、ゴブリンって共食いするんだよね。

 幸いなのは、巣の中で喰うから、そのグロ映像を目撃する必要がないこと。

 問題は、巣の中で喰うせいで、いまいち共食いの認知度が少ないこと。

 

「それじゃあ、このまま森を抜けるわよー」

 

 御婦人の号令で、とりあえず仕事の終了を意識する。

 朝早くから出たので、到着はまだ昼を少し過ぎたくらい。

 昼食、何食べようかな。

 

 

 +

 

 

「んで、ゴブリンを何でわざわざ最低限の数しか討伐しないかっていうと」

「え、えとえと……可哀想……だからですか?」

「そんな気持ちは欠片も持ってないかなぁ」

「あうう」

 

 後日、プリンセスと先日の間引きの件をギルドの個室で話していた。

 ギルドの個室は申し出れば冒険者なら誰でもレンタル可能で、大変格安。

 野郎どもが食堂を席巻してる時、女性陣はたいてい個室で女子会を開いてるぞ。

 逆に野郎どもは、あんまり個室って使おうとしないんだけど。

 そこはなんというか、違いを感じて面白いよね。

 

「私が討伐するのは、統率個体。要するに群れで一番厄介なゴブリンだ」

「あ、そ、それを討伐すれば……統率力が下がって、誰でも倒しやすくなる」

「厄介なゴブリンさえいなければ、新人でも討伐できるからね」

 

 そしてこういう厄介なゴブリンは、万が一放置しておくと成長してしまう。

 ゴブリンにも上位種のホブゴブリンだの、ゴブリンメイジだの、まぁ色々いるけど。

 ゴブリンジェネラル以上の統率個体に進化してしまうと、ゴブリンが集団化してしまう。

 そうなると大変、山奥の集落とかを狙うようになって大惨事だ。

 

「それに、統率個体を倒すと、一旦は配下のゴブリンは喜ぶんだけど」

「だ、だけど……?」

「その後、仲間割れを始める」

「え、ええ!? せっかく自由になれたのに、ですか?」

「ゴブリンに、その自由を扱える知性はないんだよ」

 

 だから統率個体だけを潰せば、ゴブリンの間引きは十分可能なのだ。

 それに、もう前回のゴブリンキング誕生から一年が経っている。

 そろそろ間引きも必要なくなる頃合いだ。

 

「それにしても、大変ですね。せっかく順風の守り手さんがゴブリンキングを退治してくれたのに」

「何事も、後始末のほうが大変ってことだねぇ」

 

 いやぁ、ゴブリンキングさえ斃せば後はなんとかなるかなと思ったのに。

 倒れた後に即座に別のゴブリンが集団を統率。

 もう一度、集団を殲滅するために順風の守り手が出動することになってしまった。

 

「そうだ、魔法使いさん。私、そのキャンプとっても楽しそうで、やってみたいです!」

「おおう、そういえば護衛に二日かけるってのは話すの初めてだったっけ」

「えへへ、お夕飯、とっても美味しそうです」

 

 と、そこで話題がキャラバンの護衛に移る。

 しかし、アレだ。

 残念ながらプリンセスには言わなければならないことがある。

 

「プリンセス、でも残念なことが一つある。そういう移動に二日かかるキャラバンはね、自前の護衛がいるんだ」

「あう」

「私みたいに、特別雇ってでも使いたい能力がないと、過剰戦力なんだよ」

「あうあう」

 

 特にプリンセスは、常にシェナイトさんとのコンビ運用が前提。

 しかもかなりの有力パーティで、依頼料は割高。

 雇う予算が……商隊にも、ないのだ。

 

「プリンセスに、私の浮遊魔法みたいな能力があれば別だけど……」

「うう……い、一台くらいなら、持って、運べます」

「運べるの!?」

 

 プリンセスはかなりのパワータイプなのだが。

 流石にそこまでできるとは思わなかった。

 とはいえ、キャラバンは複数荷台がある上に、せっかくの護衛の両手を塞ぐのは……うん、厳しいな!




ちょうどいいを追求した間引き術です。
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