風魔術だけでも異世界は楽しいです ~美少女転生からのちょうどいいスローライフ~   作:暁刀魚

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「冒険譚」は私には書けない、あと官能小説

 私の趣味は読書だ。

 というか、前世のオタクコンテンツみたいに楽しめるものが読書しか残らなかったと言うか。

 アニメも漫画もゲームも存在しない世界で、本だけが前世と変わらず楽しめる娯楽だった。

 特に小説という面では、前世に勝るとも劣らない粒ぞろい。

 

「人は経験したものしかかけない、とは言うけれど。実際に体験できるとやっぱり描写の質感が違うなぁ」

 

 人のいない店内で、聞こえない程度の独り言を零しつつ本棚の表紙を私は眺めていた。

 そう、この世界には剣と魔法のファンタジーが根付いている。

 そんな世界の創作は、前世の想像の中の世界のそれとはまた違う感触だった。

 

「ゴルドバさん、新しい冒険譚出版したんだ。買わなきゃ」

 

 この世界における一番流行している創作形態。

 それは「冒険譚」と呼ばれるもので、簡単に言えば作者が実際に体験したという体で書かれる創作だ。

 今例に上げているゴルドバさんという人は、「ゴルドバ漫遊記」という作品を出版している。

 主人公はゴルドバさん本人、ということになっている架空のキャラクター。

 そんなキャラクターのゴルドバさんが実際に体験した冒険を、登場人物のプライバシーとかにある程度配慮して、脚色多めに描く。

 結果として、「冒険譚」はフィクションでありながら、この世界における真実なのだ。

 

 前世において、これと最も近い形態は「動画配信者のゲーム実況」だろう。

 配信者のゲーム実況には、「友人のゲームを隣で眺める需要」みたいなものが存在するはずだ。

 「冒険譚」もそれと同様。

 現実に存在する冒険者の冒険に、()()()()()()()()()かのような体験を得られる。

 まさに、剣と魔法が実在する世界だからこそのスタイル。

 

「うーん、新作が、新作が多い……!」

 

 こういう「冒険譚」、私は大好きだ。

 元々前世でも、実況配信はそこそこ嗜んでいた身。

 楽しみ方は異世界人でも十分理解できるし、何より私自身は冒険譚みたいな派手な冒険を現実でやろうとはおもわない。

 その分、創作の「冒険譚」で探究心を満たすわけだ。

 

 特に、脚色の中に存在する作者のリアルみたいなものが垣間見られるのが面白い。

 ダンジョンをメインに潜る作品の作者は、リアルでもダンジョンをメインに活動してるんだろうな、とか。

 作者はゴブリン系のモンスターと戦うのが苦手なんだろうな、とか。

 そういうのが描写の節々から感じ取ることができる。

 メインとなるストーリー部分は、どれだけ脚色されていてもいいのだ。

 面白ければそれでいい。

 大事なのはそこに存在する、作者の半実在性。

 現実のVだって、リアルの人間とキャラクターとしての二つの側面を持つからな。

 どっちかだけじゃだめで、その二つが上手く混在しているのが大事なのだ。

 

「それはそれとして、冒険譚以外の娯楽小説もいいよねぇ」

 

 いい……プロは多くは語らない。

 訳では無い。

 一人なので思う存分語ってしまう。

 「冒険譚」以外の娯楽小説も存在する。

 中でも流行りは、純粋なフィクションとしての冒険者小説と、貴族恋愛。

 前者は、「冒険譚」という半実在性を重視しない、創作に重きを置いた小説。

 まぁ、普通のファンタジー小説だ。

 いや、ファンタジー世界のファンタジー小説は現代ものなのか?

 とにかく、実在しない冒険者のお話も、当然ながら多くの読者に愛されている。

 中には現実では存在しないような特別な力に目覚めて成り上がったり……前世のラノベみたいな小説も結構あった。

 

 貴族恋愛ってのは、前世で言うところの異世界恋愛。

 女性向けの恋愛に重きを置いた内容が主で、それこの貴族が実権握ってる社会でやっていいの? みたいな描写も多い。

 だが、なんやかんや許されている。

 原因は、この貴族小説をはやらせたのが貴族の女性だったからだそうな。

 今では平民も貴族恋愛を書いているが、そういう小説をだめってことにすると貴族女性の書いたものも禁止しないといけなくて、みたいな。

 後、リアルの家名は使わないように、という共通認識もあるのが大きいだろうな。

 あくまでフィクションだから。

 

 さて、話は変わるんだけどこの私、白迅のフーシャ。

 書籍化の打診を受けたことがある。

 というか、二つ名持ちの冒険者で読書好きなら、大体の冒険者はギルドから一作書いてみないかと言われる。

 もし当たれば、仲介したギルドにも報酬が入るからだそうな。

 もちろん断っても全然問題ない。

 やってくれたら嬉しいな、くらいのものだから。

 

 残念ながら、私はこの打診を断った。

 前世だったらもったいなく感じていたかもしれないけど、残念ながら今だとそうも行かない。

 まず、目立ちすぎずに過ごしたい私のスタイルに真っ向から喧嘩を売っている。

 前世でちょっと書いてみて挫折したくらい、私には「書く」才能がない。

 何より、何よりだ。

 

 

 私の冒険者生活は、地味すぎる――!

 

 

 前世だったら、そういう日常モノもありじゃない? みたいな考えもできたけど。

 この世界じゃそういう日常モノは流行ってないの……!

 流行る土壌はあるかもしれないけど、私みたいな素人には無理。

 転生者が誰でも前世知識でチートできると思うなよ、みたいな。

 

 というわけで、私はもっぱら読み専だ。

 たまに書いてみたいなー、と思うことはあるものの。

 マギライター――この世界の小説を書くための道具、昔のタイプライターみたいな代物――の前に立っては何も思い浮かばず諦めるのが常だ。

 

 というわけで、今日も積みを増やすために、書店を漁っているわけだ。

 積みを増やすことは罪というけど、やっぱりコレクションが増えるとそれだけで楽しいものだよ。

 と、思いながら、ふと目に飛び込んだ一冊の小説。

 

「――ぬらぬらガードナー先生!?」

 

 思わず叫んでしまいそうになった。

 ぬらぬらガードナー先生。

 昨今、話題を集める()()()()()()()()()だ。

 この世界、触手におけるエロは実在する。

 中にはそれが好きだっていう女性も結構いる。

 なにせゴブリンみたいに汚くないし、男と違って面倒じゃない。

 ぬらぬらガードナー先生は、そんな触手エロの神秘を探求する官能小説家だ。

 どうでもいいけど、ぬらガー先生は実際に触手とエロエロしたことはないと思う。

 でも、エロエロしたことないからこその官能感が素晴らしいのだ。

 こう、童貞にしか書けないエロのパッションみたいな……ナニを言ってるんだ私は?

 

 そう、官能小説家である。

 断じて、今私が見ている一般コーナーに本が置かれていていい小説家じゃない。

 いやしかし、名義こそぬらぬらガードナー先生だけど……

 

「内容は……普通か?」

 

 タイトルは「気高き女騎士の迷宮協奏曲」。

 タイトルだけなら、普通の小説だ。

 表紙絵も……まぁ、普通。

 女騎士の胸が極端に大きいこと以外は、特筆する点はない。

 ちなみにこの世界の表紙絵はラノベみたいなのが多いぞ。

 感謝だ。

 

「しかして本文は……」

 

 立ち読みはアレなので、購入するしかない。

 この世界、挿絵の文化はないので、挿絵だけパラパラ見る意味も薄いし。

 ……もしかして、アレか?

 アレなのか?

 

 漫画と比べて、小説は表紙とタイトルがまともなら一般コーナーにおいてもいい、みたいな。

 前世における裏技みたいなアレが、この世界でも有効なのか――!?

 

 

「――何をしているの?」

 

 

「んひゃい!?」

 

 そんな時、思わず声をかけられた。

 しかも知り合いに。

 

「シェ、シェナイトさん!? どうして!?」

「そんな挙動不審で、変に思わないわけ無いでしょう」

 

 ああ、うん。

 確かにどう考えても、今の私は変な人だった。

 

「何か、変な本でも見ているの?」

「え? あ、いや、べべべべ、別にそんなことは!」

「どう考えても、変な本を買おうとしてるじゃない。……プリンセスの前では隠しなさいよ」

「人前で読めるわけ無いでしょ!」

 

 ここまで、小声。

 周囲に迷惑をかけないという一点において、私は全力だった。

 

「……それで、買うの?」

「え? あ、うん。もともとこの人の本は何作か買ってるし……あ、いや別にいかがわしいことには」

「…………そう」

 

 違うんだよ、私はこう、エロいことはそんなに興味がないんだよ。

 TSしてからこっち、色々あってリアルでそういうことしたくねぇなって気持ちが強くなったんだよ。

 それはそれとして、創作の中のぬっちょぬちょはちょっと興味あります!

 じゃなくて。

 

「別に、いいわ。プリンセスの前にだけは、出さないで」

「え? あ、えっと。……破廉恥とか言わないの?」

「何? 言ってほしかったの? ……いかがわしいお店みたいだから、嫌よ」

 

 あれ? なんか思ったより普通だ。

 男嫌いのシェナイトさんなら、こう、侮蔑の視線を向けて「破廉恥」って言ってくれると思ったのに。

 ちょっとご褒美です。

 じゃなくて!

 

「……まぁ、買いますけど」

「そう、じゃあね」

「あ、うん、じゃあね」

 

 そうして、シェナイトさんは済ました顔で去っていった。

 ……あの人、何しに来たんだ?

 

 ちなみに「気高き女騎士の迷宮協奏曲」は、エロの限界を責めた内容だった。

 こう、少年誌でできるエロの限界を追求した、みたいな。

 大変よかったです。

 というかぬらガー先生、ストーリー部分もやっぱ面白いな……




いったい何者なんだぬらガー先生
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