風魔術だけでも異世界は楽しいです ~美少女転生からのちょうどいいスローライフ~ 作:暁刀魚
冒険者の依頼には幾つかの種類がある。
主に「護衛」とか「採取」とか「討伐」とか。
その中で、ダンジョンには基本「採取」の依頼しか存在しない。
護衛する商人はいないのだから当然だが、討伐が存在しないのは意外に思うかもしれない。
でも、よくよく考えてみればこれは当然だ。
ダンジョンにポップする魔物は階層によってある程度決まっていて、一部の例外を除いて討伐する必要もないのだから。
ダンジョンの魔物を倒して、ドロップ素材を手に入れる依頼も採取依頼の一種である。
例外というのは、以前のミノタウロスみたいな奴。
それともう一つ。
現在私は、そのもう一つを依頼として請け負ってダンジョンの中層に潜っているところだ。
ギルドからの直接依頼だったので、否やはない。
まぁ、本当に面倒だったら断るけど、適当言って。
「とはいえ今回は、ちょうどいいのが私しかいないんだからしょうが無い」
今回、私が討伐する魔物は「マーベラス・ミラー」という魔物だ。
それは一言でいうと、透明なガラスの逸物だ。
……透明なガラスの逸物だ。
マーベラス・ミラー。
略してマーラ様。
なんて。
ともかく。
このマーベラス・ミラー、非常に厄介な魔物だ。
暗がりからその透明さを活かして、女性冒険者に襲いかかってくる。
そして、あーんなことやこーんなことをしてくるえっちぃなモンスターなのだ。
そう、えっちぃなことをしてくるのである。
もともと、ゴブリンなんかも繁殖のために人間の女を襲うことがある。
魔物がえっちぃなことをしてくる世界なのだ、ここは。
その中でも特に、ダンジョンにだけ生息するえっちぃなモンスターを、一般的に「エロモン」と呼ぶ。
そのまんまだな。
このエロモン、代表的なのは触手だ。
ぬらっとしていて、その体液には媚薬効果があって。
女性冒険者を絡め取ってねっちょねちょにしてくるアレだ。
他にも、男性向けエロモンとして「
こいつらは一言でいうと、美少女を疑似餌に使う植物だ。
つまり蟲惑魔。
これに引き寄せられてえっちなことをした男を、ぱくっと本体が喰らってしまうのである。
こいつら、なんか特定の冒険者には結構人気がある。
原因は恐らく、ダンジョンのモンスターに生殖能力がないからだろう。
魔力だけで生成されているからな。
しかも、最悪エスケープクリスタルがあれば逃げ出せる。
おかげで、特殊な環境でプレイしたい変態さんには、こういったエロモンは好評だ。
でも、大多数の一般冒険者にとってエロモンは害しかないんだよ。
仮に捕まってえっちぃなことをされると、理性が飛んじゃっていざという時にエスケープクリスタルを使えなかったりするし。
単純に風紀が乱れて、冒険者の評判が悪くなったりするし。
エロモンにエロエロされたなんてことがバレたら、普通の人なら冒険者続けられないぞ。
なので、ギルドとしてもエロモンの存在が確認されたらできる限り早急に「討伐」してほしいわけで。
今回、透明で暗がりに溶け込む性質のせいで、見つけにくい「マーベラス・ミラー」を風鳴りの私に討伐してほしいと頼んできたわけだ。
私としても、創作の中ならそういうエロモンも嫌いじゃない。
きっと、ぬらぬらガードナー先生だってそうだろう。
だけどそういうのは、創作として見るからいいのであってだな。
とか思いつつ、「マーベラス・ミラー」の気配を、風を頼りに追いかける。
しかし――
「……見つからないなぁ」
私の捜索能力を以てしても、「マーベラス・ミラー」はなかなか見つからない。
近くにいるのは間違いないのだ。
だが、女である私の近くにマーラ様がいるということは、既に向こうも臨戦態勢ということ。
冒険者トップクラスの探知能力と、エロモントップクラスの隠密能力の対決だ。
絵面以外は、熱い。
「……しかたないな、少し集中しよう」
私は、意識を内の方に埋没させる。
このあたりにいるはずの、マーラ様の気配を探るのだ。
確かに――いる。
どこかで、近くで、私を狙っている。
けど、警戒して突っ込んでこない。
こっちが向こうの存在に気付いていると、向こうも気付いているのだ。
さながらそれは、達人の決闘――
まぁ、結果として私はマーラ様に意識を向けすぎていたから。
それ以外の存在――特に、敵意を持たない相手の接近に気付けなかったのだが。
敵意があったら、流石に気付くよ。
問題は、敵意がないことなのだが。
「あ、魔法使いさん。こんなところで、珍しいですね」
そしてよりにもよって、声をかけてきたのがプリンセスだったのが大問題だ。
「プ、プリンセス?!」
思わず正気に戻って、私は声のする方を見る。
たしかにいた、巨大なハンマーを抱えて、こっちを不思議そうに見ているプリンセスが。
あのハンマーが、プリンセスの得物だ。
「どうしてここに!?」
「あうぅ、え、えっとその……最近このあたりで、ベリーベリースライムが目撃されたらしいんです」
プリンセスは、基本下層でシェナイトさんと二人パーティが基本だ。
中層に潜ることはない。
それは単純に、潜っても目当てのものが見つからないからというのが一つ。
二人にとって、中層はあまり旨味がないから、というのがもう一つ。
だから、今回みたいな例外が起きないと潜らないだろう。
しかし、今はそんな例外が起きてしまっている。
ベリーベリースライムというのは、とても美味しいベリーのゼリーをドロップするスライムだ。
こういう、美味しいものをドロップする魔物は人気が高い。
プリンセスが、休日に一人でダンジョンに潜ってくるくらいには。
しかし――
「魔法使いさんも、珍しいですね?」
「ああうん、私はギルドの依頼。このあたりにいるはずの魔物を討伐するんだ」
「え!? 魔法使いさんでも見つけられないんですか!?」
プリンセスがここにいるのは、まずい。
なにせここには、エロモンがいるんだぞ!
プリンセスは純粋培養の無垢なお姫様。
シェナイトさんが、徹底してエロコンテンツを検閲している。
子どもの作り方すら知らないのだ。
そんなプリンセスの前にエロモンを晒してみろ。
シェナイトさんに殺される……!
「まぁ、でも近くにいるのは解ってるよ。ああでも、だから危険だし、プリンセスには一旦ここから離れて……」
「ま、任せてください! 私、魔法使いさんのお役に立てるくらい強くなりました!」
「いやえっと……」
そうじゃない、そうじゃないのだプリンセス――
と、思っていたその時だった。
不意に、周囲の風に変化が起きる。
いや、そうだ――!
「――よし、ありがとうプリンセス!」
「え!? え?!」
困惑するプリンセスをよそに、私は即座に魔術を起動する。
「――風弾!」
無数の弾丸が、
そう、先程までマーベラス・ミラーは一向に私を襲う素振りをみせなかった。
私がマーラ様の存在に気付いていたからだろう。
それに対する警戒で、マーラ様が動かなかった。
結果として生まれた膠着状態は、プリンセスによって砕かれた。
知性はあっても、所詮魔物は魔物。
眼の前の餌に飛びついてしまったのだ。
結果、私がプリンセスにマーラ様の存在を気取られることなく倒して、依頼達成。
いやぁ、プリンセスには助けられてしまったな。
と想って、一息つこうとして――
倒したマーラ様が、大人の玩具をドロップした。
「ん? 魔物が何かを落としたみたいで――」
「――風刃!」
慌てて、即座に大人のおもちゃを破壊する。
マーラ様をかたどったピンク色のそれは、またまた木っ端微塵になった。
「ああ、もったいないですよ!」
「ご、ごめんうっかり……」
幸いにも、プリンセスは何をドロップしたのか見ていなかったらしい。
セーーーーーフ。
いや、それにしても。
さっきドロップしたアイテム、どう見ても現代的な大人のおもちゃだったよね?
……エロモンってなんだろう。
私はそう、疑問に思うのだった。
エロそうでエロくない、そんな話三本でした。
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シェナイトさんが殺しにきてくれます!