風魔術だけでも異世界は楽しいです ~美少女転生からのちょうどいいスローライフ~ 作:暁刀魚
異世界はとにかく娯楽が少ない。
この世界には様々な本があって、それは毎日の退屈を慰めるには十分なものだ。
しかし、前世のそれと比べると娯楽の数は見劣りする。
前世が多すぎたというのもあるだろうが、それでもやっぱり前世に慣れすぎてしまったオタクとしては少し不満だ。
そんな異世界において、魔術というのはある意味で分かりやすい娯楽だ。
オタクなら、やはり異世界に転生したら魔術を学ぶべきだと思う。
純粋に自分が強くなれる上に、研究と称して色々なことを試すのは純粋に楽しい。
前世における、カードゲームのデッキビルドやTRPGのキャラメイクに通ずる楽しさがある。
他にも水魔術が使えたら衛生面の問題も一気に改善するし。
火魔術を使えたら、旅の色んな場面で楽ができる。
土魔術を使えたら、それこそ錬金やゴーレムづくりで宇宙(みたいな広がり)だ。
まぁ、私は使えないけどね!
……そう考えると、戦闘において風鳴りは便利だけど趣味には寄与しないなぁというのが実際の感想だ。
とはいえ、だからといってできることが無いわけではない。
むしろ、大体の魔術に関する趣味は、一つの属性を極めるだけでも問題なかったりするのだ。
「――偽弾よ!」
その日、私はギルドの修練場にやってきていた。
ここは冒険者ならば誰もが利用できる場所で、剣の練習や魔術の練習ができる。
しかし、基本的に普段は閑散としている場所だ。
なにせ使用するにはお金が必要だし、だったら実戦で鍛えたほうが早いというものだ。
新人冒険者は特に、お金がかつかつになりガチだからね。
「んー、何か違うなぁ」
「あ、フーシャ先生。こんにちは!」
そこで私が、先日とある魔術書で知った技術を試していると。
見知った顔が声をかけてきた。
ダリルくん。
リフィルちゃんの幼なじみで、何かと私に声をかけてくる将来有望な冒険者。
以前、青少年のあこがれをバキュームしてしまった一人だ。
「こんにちは、ダリルくん。今日は練習かい? 熱心だね」
「一日でも早く、フーシャ先生に追いつきたいんですよ。それに、今日は休みってことになってるんですけど、やることがなくて暇で」
「あー、私と同じだぁ」
まぁ私の場合は怠惰の果に暇を持て余しているだけで。
ダリルくんの場合は、休日でも熱心だから修練場に来ているんだろうけど。
やっていることは同じ穴の狢である。
というと、何かダリルくんが少し顔を赤くしていた。
それで照れるのは初心がすぎるんじゃないか?
「それにしても、一人なんて珍しいね。リフィルちゃんに振られちゃったのかな?」
「ち、違うっすよ! アイツはアイツで魔術師同士の集まりに顔を出してます。というか、振られるとか別にそういう関係じゃ……」
「あはは、そんなこと言ってる間に、他の人に取られないようにねぇ? ――私とか」
「……っ!」
そんなこと言ってるから、からかいたくなってしまうじゃないか。
と思いつつ、いよいよ以てダリルくんが顔を真赤にしてしまったので、このくらいにしておこう。
私は再び魔術の検証に戻る。
「偽弾よ!」
私の言葉に反応して生まれた偽弾魔術は、一言で言うと色がついていた。
その色は、なんとなーく赤とか青とか、そういう色に見える。
「え、えっと……フーシャ先生は何をしてるんですか?」
「んー、魔術に色を付けてるの。ダリルくんも、魔術に色を付ける技術については知ってるでしょ?」
「あ、はい。水属性とか風属性の魔術は、そのまま生み出すと視認しにくくて誤射につながるから、パーティ組んで魔物と戦う時は色を付けるんですよね」
「そうそう」
水は透明な水の塊だし、風に至っては完全な無色透明だ。
それが武器になるときもあるけれど、逆に他者の足を引っ張る時がある。
色を認識できても、それに対応できない知能が低い魔物相手のときとかは、色を付けることで誤射を防ぐのだ。
「一般的に、色を付ける必要のある属性に色を付ける時、その色は一定の色になるんだ。水だったら青、風だったら緑、みたいにね」
「どうしてそうなるんですか?」
「属性の根源たる、精霊のベースカラーがそうだから、と言われている」
この世界には、いわゆる精霊と呼ばれる存在もいる。
というか、ファンタジーに存在しそうなものは、基本雑多に存在していた。
中でも精霊は、地水火風光闇、それぞれの属性を司る存在がいるわけだ。
水だったらウンディーネ、風だったらシルフ。
それぞれ、ウンディーネの身体は青ベースだし、シルフの身体は緑ベースだ。
「んで、ここ最近、ベースカラー以外の色を付与できないかっていう研究がされてる。風属性の魔術に、青色や赤色をつけるんだ」
「えっと……それに何の意味が?」
「意味は二つある。一つは曲芸に使えるってことだね」
こう、極彩色の魔術を自由自在に操れたら、映えるだろう。
それを使った曲芸を、場末の酒場とかで披露したら受けそうだ。
「もう一つは、偽装。仮に赤色の風弾が飛んできたら、ダリルはそれを何だと思う?」
「えっと……火弾が飛んできたと思います、か?」
「かもしれない。今のところそもそも色を自由に変える技術自体が検証段階で、私も試してみてるけどあんまり成果はないけどね」
言いながら、手のひらの上を踊る、ちょっと色が変わったかなって感じの魔力の光。
赤っぽい色、青っぽい色、はっきり緑だと解る色。
やはり、普通に色を付けるよりも難易度の高い技術だということだ。
「そういうことなら……俺、近くで色が変わった魔術が着弾するところ、見てましょうか?」
「え? 確かに撃たれる側の意見はほしいけど……ダメだよ、危ないから」
「大丈夫ですって! フーシャ先生なら安全に撃ってくれると思いますし!」
「き、期待しすぎじゃないかな!?」
なんか、びっくりするくらい期待されている!
いや確かに、やろうと思えばできるかもしれないけど。
それはそれとして、有望な新人を危ない目に合わせたくはないぞ。
しかしなぁ、こうも期待されていてそれを裏切るのもなんというか、ちょうどよくない。
私はいい感じの先輩でいたいのだ。
とすると、考えられる最適な方法は……こうかな。
「じゃあ、ちょっとそこに立っててね」
「はい!」
「――風界よ!」
直後、ダリルくんの周囲に風の結界が発生する。
私が放った魔術なら、だいたい防いでくれる結構強固な結界だ。
「声、聞こえてる? 息も大丈夫?」
「はい、大丈夫です!」
少しくぐもって聞こえるけれど、問題はなさそうだ。
これなら、ダリルくんは近くで魔術を見つつ、それで怪我する心配もない。
まさにちょうどいい方法と言えるだろう。
「んじゃあ行くよお」
距離を取ってから、腕をふる。
向こうは聞こえていないだろうけど、それに腕を振り返してくれた。
私はそのまま、魔力に意識を傾けて――
「――風弾よ!」
赤く染めた風弾を、魔術を当てるための的へとぶつける。
ある程度の魔術なら、専用の吸収装甲で受け止めてくれるスグレモノ。
詠唱に装甲を破壊する効果を混ぜると、簡単に破壊できてしまうので実戦だと使いにくいが。
的あての的としては最適なそれに、寸分たがわず風弾が着弾した。
色は薄いけど、赤くなっていることは端から見ても解る。
後はこれで、撃たれた側がこれを火弾だと認識してくれれば成功なんだけど――
「どうだった?」
その様子を、間近で見ていたダリルくんに質問する。
対するダリルくんの顔は、なんというか――
「えーと、その……フーシャ先生の魔術が速すぎて、身体強化してても視認できなかったっす」
――気まずそうなものだった。
まぁ、うんアレだね。
私が本気で魔術使ったら、新人のダリルくんにはそうなるよね。
ごめんなさい。
なお、その後速度を落として試してみたけど、色がうすすぎて火弾には全然見れないという答えをもらった。
やっぱり、色をもっと派手につけられるようになるまでは、誤認させるのも上手くは行きそうにないな。
将来性のある技術だとは、思うんだけどねぇ。
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