風魔術だけでも異世界は楽しいです ~美少女転生からのちょうどいいスローライフ~ 作:暁刀魚
プリンセスは騙されやすい。
その騙されやすさたるや、何故か依頼を見つけようとすると絶対に詐欺依頼を引き当てるくらいだ。
いっそ、詐欺依頼を見つけるための探知機にするのはどうか、いや流石にお貴族様にそんなこと……みたいな話をギルドの人達がしているのを聞いたことがある。
まぁうん、プリンセスは気にしないけどシェナイトさんは許さないと思うなぁ。
しかし、プリンセス本人としては、なんとか自分でも依頼を受けられるとシェナイトさんに証明したい。
そこで今回、プリンセスは私に相談を持ちかけてきた。
仮にも新人の講師として、新人向け依頼にもそこそこ詳しい私に相談を持ちかけるというのは、実際正解だろう。
というわけで私監修の下、プリンセスは詐欺じゃない依頼を選ぶことに成功した。
その依頼は――
「ま、魔法使いさん! この森の中から、採取する薬草を探せばいいんですよね! わ、私頑張ります!」
「よおし、私がついてるから、存分にやっちゃいな!」
薬草採取だ。
これ、ギルドに行けば常に貼り付けられてる常設依頼である。
他にも下水道の掃除とか、ゴブリンの退治とか色々あるが。
一番無難なのを選ばせてもらった。
そう、いくら詐欺依頼しか持ってこないプリンセスでも、常設依頼なら受けられるだろうという算段である。
結果として、それは上手く行った。
「あ、みてみて魔法使いさん! これがその薬草だよね?」
「うん、正解。森の中ならどこにでも生えてるから、よーく探してみて」
よぉし、と気合を入れるプリンセス。
一応、この時点で依頼の性質を考えれば「達成」といえなくもないのだけど。
本人のやる気を削ぐことはないので、黙っておく。
「薬草って、ポーションの材料に使うんですよね」
「そう、一般的に薬草っていうのは、魔力を帯びた草全般を指すんだ」
この世に雑草という草はない、とは言うけれど。
この異世界に薬草と呼ばれる草はない。
人間がそうであるように、この世界の生命には魔力を帯びている物が多数存在する。
古今東西さまざまな草の中にも、魔力を帯びている草は存在するのだ。
「正確に言うと、魔力はどんな生命にも宿ってるんだ。その中でも、加工すればポーションに使えるくらいの魔力量を持ってる草のことね」
「な、なるほどぉ」
「食べると、ほんのちょっとだけど魔力を回復できるよ。極限状態で、薬草をかじって魔力を補給。その魔力で何とか身体を強化して帰還した、みたいな例もたまに聞くね」
なんかこう、ドラゴンをクエストするゲームのイメージで、薬草で回復するのはHPって気がするけど。
この世界だとMPを回復するのが、薬草だ。
というか、ゲームみたいに即時HPを回復する手段が、大量の魔力で傷を癒やすことなので。
「あ、あっちにもあります。あっちにも!」
「あんまりはしゃいで、森の奥まで行っちゃダメだよ」
「はーい!」
なんて、トコトコ駆け出すプリンセスを、私はのんびり追いかける。
いやぁ、元気でいいね、プリンセス。
ちょっと背丈が縮んでデフォルメされてるのは気のせいか……?
異世界だし、そういうこともあるか……
+
「見てみて、魔法使いさん! こっちに来てください!」
「ん? なになに?」
先行していたプリンセスが顔を上げたかと思うと、ぱたぱたと駆け出してからこっちをみる。
そのまま、目を輝かせながら手を振って私を呼んだ。
何やら面白い場所があるみたいだけど、一体なんだろう。
私の感覚だと、集中しないとそこに開けた場所があることしかわからない。
というか、プリンセスが私を驚かせたいみたいなのに、集中して構造を把握しても意味ないしな。
「すっごく素敵な、お花畑さんです!」
私が隣に立つと、プリンセスが解説してくれた。
素敵なお花畑。
そんなプリンセスの表現が、なんというかとても”似合う”場所だった。
確かに素敵な場所だ。
しかし何より、そこをプリンセスが華やかな笑顔で「素敵な場所」と表現することで完成する、みたいな。
「ふむ。じゃあここで休憩しようか」
「本当ですか? やったぁ!」
嬉しそうなプリンセスが、花を踏まないように花畑の中を歩いていく。
色とりどりの花に彩られた、黒髪の幼い少女の笑顔が映える。
「それにしても、まさかこんな場所があるなんて。結構長く、この森で活動してるけど、初めて知ったよ」
「そうなんですか? 魔法使いさんなら、何でも知ってるかと思ったのに」
「流石に何でも知ってるわけじゃないよ。それに、探知はできるけど、別にそれを全部記憶するわけじゃないしね」
私の探知能力なら、カザルマの森とも呼ばれるこの場所をまるっと探知することも不可能じゃない。
でも、探知した構造を覚えられるかといえば別問題。
むしろ、その都度探知すればいいから、構造を覚えようって気はしないんだよな。
「そうだ、魔法使いさん。お花の冠を作りたいんです。いいですか?」
「お、いいね。シェナイトさんのお土産にするの?」
「はいっ。それに、えと……えへへ、お楽しみ、です」
というわけで、休憩がてら花冠を作ることになった。
私はシェナイトさんから渡されたサンドイッチに舌鼓をうちつつ、作成に集中するプリンセスの口にも放り込んでいく。
「あむ、むむむ、んむんむ、んむむ」
「食べながらしゃべっちゃだめだよ」
「んむ……あう、ごめんなさい」
口いっぱいにサンドイッチを頬張るプリンセスは、なんだかリスみたいだなぁ、と思いつつ。
私は食事を終えると、プリンセスの隣で本を読み始めた。
「それでね、それでね。シェナイトさんが下層のダンジョンで、すっごく大きなナメクジさんを倒したの。かっこよかったなぁ」
「あの人は物怖じしないからなぁ」
「うぅ、私はなめくじさん、怖いから苦手です……強くならなくちゃ」
休憩中、プリンセスといろんなことを話す。
最近知り合った魔術師の少年が、どこから出汁をとっても美味しい男だって話をしたり。
食べちゃダメだよ、ってプリンセスに本気で止められたり。
プリンセスの方も、前回の更新日に魔物が普段より多くて大変だった、みたいな話をしてくれた。
「やっぱり、タイラントが近いんでしょうか……」
「そうだねぇ、新人の子にも、エスケープクリスタルの使用は徹底するよう伝えないと」
タイラント。
ダンジョンの暴走期間とも言われるそれは、ここ最近冒険者の間でもそろそろなんじゃないかと話が広がっている。
今はまだ気にするほどではない、というのがギルドの考えだが、準備は進めているようだ。
まぁ、そこら辺の話は長くなるのでまた今度ということにして。
「よいしょっと……できました! 二人分、です」
「おお、かなり本格的だ」
「昔はこうやって、お花の冠を作ってたんです。はい、魔法使いさん……いかがですか?」
そうして、プリンセスは花冠を私の頭に乗せてくれた。
少しズレそうなのを直して、軽く笑顔を見せる。
するとプリンセスも、嬉しそうにはにかんでくれた。
「自分じゃ見られないんだけど……うん、良さそうだね」
「はいっ。すっごく素敵です!」
うん、後で保存魔術をかけてもらおう。
ルークなら、いい感じにできるかな?
「それじゃ、もう少し薬草を取ったら帰ろうか」
「わかりました! よぉし、頑張るぞ……!」
何にしても、休憩は終わり。
私達は薬草採取へと戻った。
――その後依頼が終わり、プリンセスは薬草採取の報酬を手に入れた。
はっきり言って、普段のプリンセスの収入からしたら、微々たるものだ。
それでも、手に入れた報酬と作った花冠をシェナイトさんへ見せたら、なんとシェナイトさんは泣いてしまった。
それだけ、プリンセスの成長が嬉しいんだろうな。
なお、私に対しては露骨に警戒の視線を送っていた。
いやだから、確かに私はプリンセスを誑かすわるい魔法使いだけど、変なことはしてないって!