風魔術だけでも異世界は楽しいです ~美少女転生からのちょうどいいスローライフ~ 作:暁刀魚
この世界に転生してよかったことは、料理が美味しいことだ。
異世界といえば、中世風ファンタジーゆえの食文化の未発達が常だ。
マヨネーズとか開発してSUGEEするための土台というか。
まぁ、そういうことが往々にしてある。
でも、そうではない場合もたまにある。
というか、わざわざ主人公が料理で現地人を魅了しない限りは現代ほどじゃないけど発展している場合が多いだろう。
私は当たりを引いたというわけだ。
ただ、少しだけ問題がある。
料理の味に関しては、不足ない。
問題は――
「あ、魔法使いさん、魔法使いさん」
「どうしたの? プリンセス」
その日、私が護衛依頼を終えて街に帰ってくると、プリンセスが嬉しそうによってきた。
ぱぁ、と顔を輝かせて。
「あのねあのね、実は今日、下層でいいものを手に入れたの」
「いいもの?」
それはもう楽しそうに。
何か面白い魔導具でも見つけたかと思ったのだが、プリンセスが見つけたのは――
「デリシャスオークのお肉!」
そう、あの人型で豚みたいな感じの魔物。
ファンタジーなら定番のお肉だ。
「これをね、ナイトさんとステーキにするの! 魔法使いさんも、一緒に食べる?」
「私? いやあ、遠慮しておくよ。デリシャスオークって凄い
「あう……ありがとね、魔法使いさん」
お腹に手を当てて、空腹そうなプリンセス。
それを理由に、私は提案を辞退した。
とはいえ実際のところは、オーク肉がなんとなく苦手だから、なんだけど。
――というか、アレだ。
人型魔物のお肉が、全般的に苦手なのである。
これはまぁ、なんとなく解ってくれる人も多いのではないだろうか。
だって人型だよ? どうしたって苦手意識が湧くのは現代人なら普通のはずだ。
ただ、この世界だとそこまで人型魔物の肉に苦手意識はないらしい。
食べられるなら、それは食材だ、って感じ。
単純に、文明が発展しきっておらず、まだまだ食べるものに余裕がない場所も多いからだろう。
あと単純に、私の場合はオーク肉だと思って食べるから苦手なだけだ。
既に加工してあって、何のお肉かわからなくなっていれば特に気にならない。
この世界、オーク肉も四足の豚型魔物の肉も、そこまで大きな違いはないからな。
中途半端に薄情というか、自分に都合がいいだけなのであった。
とはいえ、生きていくからには自分を精一杯甘やかしたいじゃん?
「しかし、流石にデリシャスオークの肉はもったいなかったかなぁ」
その日、宿の自室に戻ってきて一人呟く。
デリシャスオークといえば、その名の通りとにかく肉が美味しいことで有名なオークだ。
既に地上ではその美味しさ故に狩り尽くされており、絶滅している。
現在はダンジョンで時たまポップするデリシャスオークを討伐して、そのドロップとして肉を手に入れる以外、肉の入手手段がない。
非常に高値で取引される魔物肉であり、プリンセスですらなかなかお目にかかれないごちそうでもある。
それを一緒に食べないかと誘ってくれるあたり、プリンセスの私に対する好感度は高いのだろうが。
「……まぁ、プリンセスがいっぱい食べられるならそれでいいか」
ということにしておく。
んで、私はといえば、現在そんなプリンセスに触発されてあるものを買ってきていた。
一つはグレートホーンボアと呼ばれる猪の肉。
とにかく大きな角が特徴的だが、一般的には非常にオーソドックスな魔物肉として知られている。
味がとにかく無難なのだ。
前世のやすい豚肉と、ほとんど遜色ない味。
もう一つが――
「……買ってきてしまった、オーク肉」
オーク肉だ。
アレほど、食べないと言っていたのに。
なんで買ってきてしまったのか、というと。
ちょうどいい食べ方を考えるためだ。
いくら私がオーク肉が苦手とはいえ、食べられないとなると何れ困ることもあるかもしれない。
そういうときのために、対策を考えるのだ。
対策料理で、少しでもオーク肉への苦手意識を払拭できないか、とも考えている。
「んで、何にするかだけど……」
正直、私の料理スキルは低い。
前世では、レシピを見てそのとおりに作ることしかできないタイプだった。
そのうえで、調味料の塩梅がよく解らなくて味を大雑把にさせてしまうような。
今の人生がどうかというと、まぁ多少は改善したけど女子の平均としてみたら低いほうだろう。
シェナイトさんはかなりの料理好きで、プリンセスもその手伝いをしているから最低限はできるという。
リフィルちゃんも「モクゾー」パーティのキョウさんも、しっかりものって感じだしなぁ。
「まぁ、そんな私にもできる、ちょうどいいレシピがあるんですけどね」
というわけで今日の夕飯。
まず、買ってきたお肉をひき肉にする。
買ってきたのは普通のコマ肉なんだけど、それをこう、風刃魔術で細かく刻む。
ミンチ、ミンチ、ミンチって感じだ。
こだわればいい感じのひき肉にもできるんだろうけど、私は適当なのでいい感じにできればそれでいい。
んで、卵やらなんやらの、こっちの世界の具材を混ぜて種にしていく。
ポイントはこっちの世界にしかない薬草。
魔力を帯びた薬草は、中には前世ではありえないような効果のものも多い。
魔物肉と合わせるとその臭みとかを消してくれたりとか。
ファンタジーは料理を楽にしてくれるのだ。
出来上がった種は、これまた調理用の魔導具で焼いていく。
この世界には、火元を必要とせず調理ができるフライパンとかあるんですよ。
使用者の魔力は必要だけど。
ソースに関しては、既製品を使用する。
料理下手が、ここをこだわってもしょうが無いのだ。
代わりに、上等なチーズを買ってきた。
ハンバーグを作るのに使った素材の代金よりも高い、高級チーズだ。
出来上がったハンバーグにソースとチーズをかけて……できあがり。
んんー、焼けたお肉の臭いがとても美味しそう。
「んじゃ、いただきまーす」
こっちの世界にも、いただきますという言葉は存在する。
実際にはもう少し意味合いが変わるんだけど、まぁ知らなくても通じるので問題はない。
主食となるのが、お米じゃなくてパンなのが少し寂しいけれど。
この世界、お米はあるんだけど高いんだよね。
お米中心の生活を送るのは、流石に今の収入でも無理。
「ああー、肉に絡んだソースとチーズが……おいしい!」
肉自体は、本当によくあるハンバーグの味だ。
凝ったことは何もしていないし、それが当然である。
しかしソースとチーズに合わせるとなれば、話は別。
美味しいものを、美味しくするだけの土台は十分にある。
肉汁が、肉汁が染みる!
合わせるのがパンでも、十分すぎるくらい美味しかった。
お肉を平らげた後は残ったソースとチーズをパンにつけて、余す所なく食べきる。
ファンタジー世界で、もったいないは敵なのだ。
「んー、たまには自分で料理するのも、悪くないなぁ」
基本的に、私はあまり自炊をしない。
単純に面倒だし、この世界には食事処も多いからね。
野宿をするときも、大抵はどこかの商隊を護衛しているときがほとんど。
その商隊の料理を食べられるので、作る必要もそんなにない。
料理を手伝ったりはするけど。
まぁ、それくらい。
「んで、肝心のオーク肉対策だけど……」
さて、ここからが本題。
オーク肉に対する苦手意識は解消されたか。
正直、ハンバーグは美味しく食べることができた。
しかし、オーク肉を改めて意識すると……
「……うーん、やっぱり苦手意識が拭えない」
いや、だって、うん。
ミンチにした上に混ぜてるもの、原型とか意識しませんよ。
みたいな。
とはいえ、一人で旅をしている時にオーク肉を処理する方法としてはちょうどいいかもなぁ。
今度は、オーク肉単品で挑戦してみよう。
そしたらミンチの仕方とかも勉強して……(沼にハマっていく音)