風魔術だけでも異世界は楽しいです ~美少女転生からのちょうどいいスローライフ~   作:暁刀魚

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先輩風の始まり

 私がこの世界に転生して、そろそろ二十年くらいになる。

 気がついたら異世界で女になっていて、それはもう驚いたものだ。

 前世はどんな理由で死んだのかわからないが、死んだってことだけは覚えている。

 正直、前世の娯楽には色々と未練もあるのだが、それを言っても仕方がない。

 

 私が求めるのは、とにもかくにもちょうどいい生活だ。

 幸いにも、私が生まれ落ちたのはそこそこ安定した大きさの行商キャラバンで。

 しかもそのキャラバンの護衛をしていた魔術師から魔術の手ほどきを受けたところ、その才能を開花させることができた。

 風属性魔術は、浮遊魔術で重い荷物を浮かせることができるから、行商と非常に相性がいい。

 これは将来的に、このキャラバンの護衛兼荷物運びとして安定した生活を送れるぞ、と。

 その時の私は思っていた。

 

 

 しかし、何の因果か、キャラバンは野盗に襲われて全滅してしまった。

 

 

 私は何とか生き残ったけど、当然ながらキャラバンは解散。

 一人で生きていかざるを得なくなり。

 私の、キャラバンに一生寄生する計画は、おじゃんになってしまった。

 

 そこからは、まぁまぁ大変な人生だったと思う。

 小さい子供の女だし。

 魔術師としての腕は確かだけど、師匠を持ったこともなければ魔術学校にも通ってないし。

 成長するにつれて、私の体を狙おうとする男は増えてくるしで散々だった。

 

 そんな生活を送ったからこそ、私は改めて「ちょうどいい生活」への決意を固める。

 やろうと思えば、幾らでも無双して周囲の称賛を集めることはできた。

 顔もいいし、そこら辺の男に取り入ることだってできただろう。

 ただ、どうしても思ってしまったのだ。

 何かと厄介事を運んでくる美少女ボディに、これ以上面倒を増やしたくない、と。

 

 自分が可愛いのはいいのだ。

 TS転生ってのも、性別を選べるタイプのゲームでとりあえず女主人公を選ぶ派閥の私にとっては悪いことではない。

 化粧とか、おしゃれとか、そういうのはまぁ面倒だけど。

 多少の手入れだけで、百点維持できるくらいこのボディは優秀だ。

 

 が、それに付随する厄介事が多すぎる。

 何? 何なの? 男はみんな獣なの?

 前世にアレだけいた私の同類、草食なオタクはどこに行ったんだ。

 

 まぁ、とにかく。

 紆余曲折はあったものの、今の私の生活は安定している。

 冒険者というのは安定しない職業で、普通なら定職について安定を取るのが自然。

 でも私は優秀だから、冒険者でもいい感じの生活を送れるくらい稼げてしまうのだ。

 だったら、いいじゃないか。

 働きたい時に働いて、休みたい時に休める。

 そんな生活を、ちょうどいい生活を送ってもいいじゃないか、と。

 

 常々思っているわけである。

 

 

 @

 

 

 冒険者における安定した稼ぎは、残念ながら冒険ではない。

 むしろ冒険とは、安定と最もかけ離れた言葉だろう。

 なにせ簡単に命を落としてしまう危険性がある。

 なので私は、基本的に冒険者だけど冒険はしない。

 いや、思い立って冒険に出かけるときもあるけれど。

 基本的な職務は、先日やったような馬車の護衛がほとんどだ。

 

 なにせ私は風属性魔術の使い手。

 護衛という場面では、おそらく他の属性魔術の追随を許さない器用さを誇る。

 特に浮遊魔術による荷物の軽量化は大好評で、それを目当てに私へ仕事を依頼する人間も多い。

 そして他にも、私にとって大事な稼ぎがあった。

 それは――

 

「じゃあ、ここで一つ問題。ゴブリンという魔物の、一番の特徴は何だと思う?」

 

 ――教師だ。

 現在、私は新人冒険者を集めて冒険者としての講習を街の外の森の中で行っている。

 冒険者は安定しない職業だけど、人気は高い。

 理由は夢があり、誰でもなることができるから。

 一攫千金を夢見て、農村の次男坊とかがギルドのある街までやってくるのだ。

 特に私が拠点にしている「カザルマ」の街にはダンジョンがある。

 まさに、冒険者の街。

 そんなカザルマには、新人冒険者もわんさかいた。

 そういう冒険者相手の講習というのは、冒険者にとってかなり美味しい安定した仕事である。

 

「えーと……キモイ?」

「まぁ、それも一番の特徴といえばそうだけど……答えは人型であること」

 

 一人の少年の身も蓋もない回答に苦笑する。

 いやまぁ、ゴブリンがキモイのはわかりますよ。

 臭いし、汚いし、何より雄しかいなくて、繁殖方法が他種族の雌との交配しかないのが一番いやだ。

 これ、オタクはエロゲみたいな想像するかもしれないけど。

 ゴブリンが一番に狙うのは人間ではなく、家畜だ。

 牛や豚の雌相手に腰振ってるゴブリンとか、絵面最悪すぎてあまり思い出したくない。

 と、そんな事考えてる場合じゃない。

 

「人型の魔物は、人型であるせいで新人のウチは殺すのをためらっちゃう事が多いの」

「確かに、魔物ならともかく人間を殺したくはないしなあ」

 

 私は、最初のウチは魔物を殺すことすらためらったけどね。

 平和ボケした前世は、自然界で生きるための四肢を私からもいだのだ。

 頑張って自力で生やして、現在はそこまで気にしてないけど。

 

「ただ逆に言えば、ゴブリンには人間と同じ弱点が幾つかあるの」

「えーっと、頭とかですか?」

 

 聡明そうな女の子が、ずばり正解を引き当てる。

 

「そう、獣型の魔物と違って、人型の魔物は二足歩行で頭が切り飛ばしやすい位置にあるんだ」

 

 いいながら、私は自分の剣を振って、ゴブリンの頭を切り飛ばす動きを見せる。

 剣はあまり使わないので、そこまできれいな剣筋ではないけれど。

 魔力を使うと身体能力が強化できるため、ゴリ押しでそれっぽい振り方ができる。

 

「二足、四足に限らず地面を移動する魔物は、足を切り飛ばすのも有効だよ」

「でも、狙うのって難しくないですか?」

「そう、難しい。ただこれは心構えとか、意識の問題でね」

 

 私自身が一番痛感していることなのだけど、冒険者をする上で一番大事なのはメンタルの維持だ。

 まず何より、常日頃から魔物との殺し合いで疲弊する。

 そこへ個人主義な冒険者は妬み嫉みの類がつきものとくれば、とにかく疲れてしまうのも無理はない。

 

「魔物との殺し合いにおいて、冷静に相手の急所を狙えるようになれば、冒険者として一人前って言えるってこと」

「切れなくてもいい……ってことか?」

「そう、狙うことにためらいを無くすのが一番大事。そもそも人も魔物も、剣で切られれば動きが鈍る。だからどこを切ったかは重要じゃない、どこを狙ったかが重要なんだ」

 

 これは新人の子たちに語ることではないけれど、重要なのは新人のうちに殺し合いへ慣れることだ。

 新人のうちは、周囲に熱意のある人間が多い。

 加えて、自分は新人だからという甘えも許容される。

 その間に、感じなくても良い殺し合いの疲弊に慣れてしまう。

 そうすれば、後は人間関係にだけ悩めばいい、という話。

 前世の感覚からすると、全く以ってなんだそれはって話だけど。

 魔物との戦いが日常なファンタジー世界じゃ、これくらいのメンタルは必要だ。

 と、自分のことを棚に上げつつ考える。

 ついでに、私の感覚が、風からある事実を掴む。

 

「ただまぁゴブリンには――」

「ふ、フーシャ先生!」

 

 と、その時。

 真面目そうな女の子と、私に積極的に声をかけていた少年が二人声を上げる。

 恐らく、耳ざとく気付いたんだろう。

 この二人は間違いなく優秀な冒険者になるな。

 

「――ゴブリンです! こっちに近づいてきます」

「ちょうどいいね」

 

 数はそんなに多くない。

 藪の中から猛然と突っ込んでくる奴が一つ。

 こちらを注意深く狙っているのが幾つか。

 少年少女が気付いたのは、この突っ込んでくるやつだ。

 

「さっきから人型魔物の急所について話したけど、それは実戦に繋がる内容じゃない。少しずつ今後を見据えて練習していく内容だ」

 

 おそらく、あのゴブリンは囮だろう。

 群れの中で、最も弱いゴブリンを囮にして、獲物がそれを倒したと思ったら不意打ち。

 結構、ゴブリンも知恵を使う。

 これ、ゴブリンにとっては間引きも兼ねてるから厄介なんだよな。

 他のゴブリンを取り逃すと、結果的に強いゴブリンを取り逃すことになりかねない。

 

「だから、対ゴブリンのわかりやすく有効な戦術を教えるね」

 

 言いながら、新人を守るようにゴブリンの前に立つ。

 迫りくるゴブリンの、私より情けない剣筋を剣で弾きつつ――

 

「ゴブリンには、生殖機能がある。つまり、ゴブリンの急所は――()()()()()と概ね一致する」

 

 

 ゴブリンの股ぐらを、勢いよく蹴り上げた。

 

 

 瞬間、空気が凍りつく。

 自分でもちょっと勢いよく蹴りすぎてしまったな、と思うものの。

 何なら隠れているゴブリンまで停止している。

 これ幸いと、その首をこっそり風魔術で刈り取っておいた。

 後で新人への教本に使おう。

 

「とまぁ、こんな具合に」

 

 ザクっと、股間を押さえて震えるゴブリンの首を切り落としつつ。

 何とかごまかせないかなぁ、と思いつつ笑みを浮かべて新人達へ振り返るものの――

 

「ひっ」

 

 そんな、恐怖の声が新人の中からこぼれる。

 結局、最後まで新人のうち、男性陣は股間を押さえながら講習を受けていたのだった。

 なお、次回講習に参加する男性新人冒険者の数は、なぜか増えた。




股ぐら蹴り上げて笑顔のフーシャ先生は、なんかいっそ逆に惚れ惚れしてしまう美しさがあったと、後に新人冒険者は語る。
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