風魔術だけでも異世界は楽しいです ~美少女転生からのちょうどいいスローライフ~ 作:暁刀魚
「あっ」
「やぁやぁルーク、元気そうだね」
「やめろ! 人が逃げようとした途端、ニヤついた笑顔で近づいてくるのをやめぐえええ」
逃げようとしたルークのローブを引っ張って、喉元を圧迫しながら呼びかける。
なんというか、もはや芸術的なフリみたいに逃げ出すもんだから、思わず捕まえてしまった。
「まぁまぁいいじゃないか。私としては知り合いに魔術師が少なくて、話に飢えてるんだよ」
「あんたみたいに、やたらと距離感の近い人間。友人の魔術師の一人や二人くらいいてもおかしくないとおもうが」
「杖無しだからね、警戒されちゃうんだ」
「あ、そ、それは……すまない」
なお、実際はカザルマの街が新人の街だからである。
基本的に、冒険者の新人に魔術師はほとんどいない。
何故なら冒険者になる年頃の少年少女は、十歳から十二歳くらいだ。
そのくらいの年頃の魔術師は、魔術学校に通っている時期である。
なので杖無し云々の理由は、そういう理由もないわけじゃないけど、単純にルークをからかっているだけだ。
「それでルーク、君は今日も一人なのかな?」
「僕を友人がいないみたいに言うな! 一人でいることが好きなだけだ!」
それを友人がいないというと思うのだが、流石にそこは指摘しないでおこう。
どうやら休日は、基本一人で過ごしているらしい。
「まぁ、ケイマとキョウってどう考えてもアレだしね」
「……パーティに入れてもらえてるだけ、僕としてはありがたい限りだよ」
カップル的なサムシングのケイマとキョウのお二人。
ルークも否定はしないようだ。
それはそれとして、暇ならルークに聞きたいことがあったのだ。
「それじゃあルーク、暇つぶしがてら私の話に付き合ってほしいんだけど」
「面倒な話なら、お断りだが」
「ルークって、詠唱はどうしてる?」
「……ああ、そういう話か」
ルークは私を何だと思っているのか。
私としては、普通に魔術談義がしたかっただけだ。
というか、この質問は魔術師と親しくなったら必ずしている質問である。
決闘で偽弾魔術をぶつけ合うのと同じくらい、相手の魔術師としての方向性が測れるからだ。
詠唱。
魔術において、それは切っても切れないものだ。
それはこの世界においても変わらない。
しかし、私達は普段魔術の詠唱を、起動ワードしか口にしていない。
「風刃よ」とか、「偽弾よ」、みたいに。
じゃあどこで詠唱しているの? という話。
「詠唱って、その人の魔術理論がもろにでる部分だと思うんだよね」
「そりゃあそうだろう。詠唱は
頭の中で、魔術を発動するための術式を練り上げるのが、この世界における詠唱である。
詠わずとも、唱えずとも、口に出さずとも思考は思考だ。
何より、この世界の魔術は体内のマナを活性化させて放つもの。
大気中にマナが存在するタイプの世界ではないので、脳内詠唱でも効果は十分だ。
「まぁ、中には口に出して詠唱するタイプもいるけどさ」
「それはそいつが未熟なだけだろう? 君みたいな風鳴りを前に、口に出して詠唱なんてしてみろ。次に何が起こるか丸わかりじゃないか」
無論、口に出して魔術を行使することもできる。
でも、一般的にそれは半人前のやることだ。
詠唱は、聞こえてしまえばそれだけで次に相手が何をやるか解ってしまう。
私なら言うまでもなく、丸聞こえだし。
もし相手が口に出して詠唱する魔術師だとわかれば、熟練の魔術師ならそれを聞き取る魔術を行使するだろうな。
「そういうルークは感覚派? 理論派?」
「まぁ、理論派だろう。……あまり笑うなよ?」
で、詠唱をする上で、魔術師は二種類にワケられる。
感覚で詠唱するタイプと、理論で詠唱するタイプ。
どういうことかといえば、簡単だ。
「僕は、
「……すべて?」
「そうだ、すべてだ」
魔術を行使するために必要なのが、詠唱。
魔術ごとに詠唱はすべてきっちり決まっている。
極論、そのきっちり決まった詠唱を読み上げるだけでも、魔術は使用可能だ。
前にも話したけど、魔術は知識。
知っていれば誰でも発動できるというのは、こういう時に強い。
「ちょっとくらいは省略しないの?」
「一切しない。……それを言うと、中には馬鹿にしてくるやつもいるがな」
詠唱は、省略が可能だ。
それをどこまで省略するかどうかで、詠唱に対するスタンスが変わる。
感覚派はこの省略が激しく、理論派は省略が少ない。
「省略しないほうが、魔術というのは精度が上がるだろう。僕は精度を高めるほうが性に合ってるんだ」
「そう言われると、たしかにそうなんだけど。極端だなぁ」
以前の決闘でもそうだったが、ルークの魔術は非常に繊細だ。
高い精度を誇り、狙った獲物は絶対に外さない。
思うにこれは、対人においては不利になる。
ブレが発生せず、ルークの狙いを読みやすくなるからだ。
だが、対魔物においては非常に有効だ。
魔物は狙いを読まないのだから。
「……いやでも、それにしてもあの連射速度は一言一句詠唱してたら実現しないんじゃ」
「そのために、練習したんだ」
「練習?」
「……一秒でも早く脳内で詠唱を終える練習」
「わお」
それはなんというか、愚直すぎる。
確かに、一言一句詠唱してたら遅くなってしまう魔術の発動を、その詠唱をできるだけ早く終えることで短縮はできる。
だが、それができるようになるまでに一体どれだけの努力が必要なのか。
「努力さえすれば、誰でもできることだ」
「その努力ができるって事自体、一種の才能だろうけどねぇ」
「……解っているさ、流石にな」
ううむ、そこら辺はルークにとっても色々思うところがある部分みたいだ。
あんまり触れないでおこう。
「そういう君はどうなんだ」
「私? 私は普通だよ」
「普通?」
んで、私の話。
別に、そんな特別なことではない。
ただ――
「私は、無詠唱。起動ワードだけで魔術を使ってる」
手足の延長のように、魔術を使うだけだ。
「……は?」
「ああ、普通っていうのは、風鳴りの普通ってこと」
「風鳴りの……って」
「風鳴りに限らないけど、特異体質持ちはほとんど感覚的に魔術を使えるんだ」
というか、風鳴りの周囲の風を感じ取る能力は、言ってしまえば無意識に行使している魔術だ。
同じように、適性のある属性の魔術なら、ほとんど無詠唱で魔術を行使することだって不可能じゃない。
「いや、しかし……それにしたって、無詠唱というのは流石に無茶だろう。一体どれだけの修練が必要になるのか……」
「ルークの早口と同じだよ。努力すれば、風鳴りになら誰でもできることなの」
「あ、ああ……同じか? いや、まぁ同じか」
何でそこで悩むのか。
理論派と感覚派の、魔術に対する認識の溝は深い。
絶対同じだって、多分。
「しかしなんというか……僕は自分の魔術理論に関しては、かなり極端だという認識だったが……まさか同じくらい極端な人間がいるとはな」
「正反対って感じだねぇ。私としては、特異体質持ちなら誰だって感覚を研ぎ澄ませる方向に行くと思うけど」
「まず、その特異体質持ちが貴重だろう。僕の知り合いに、風鳴りの人間は君しかいないぞ」
「そうなんだ、特別感あるね」
私は単純に、ちょうどいいやり方を模索しただけだ。
自分が魔術師の適性という側面では、かなり偏っているのは事実。
ちょうどよくない、極端なバランスの中でどのように自分を磨くか。
試行錯誤した結果が、今だ。
なんて考えていると。
「……ん? どうしたの、ルーク」
「特別…………ああ、いや、なんでもない」
ルークがふと、足を止めていた。
歩きながら話していたのに、どうしたのだろう。
「全く、こうして話していて、解ったのは君が破天荒すぎるということだけだ」
「ええ? 私はちょうどいい生活を送りたいだけなんだけどな」
何やら、ルークの私に対する評価がおかしい気がする。
それを言ったら、ルークだって人のことは言えないと思うんだけどなぁ。