風魔術だけでも異世界は楽しいです ~美少女転生からのちょうどいいスローライフ~ 作:暁刀魚
ダンジョン。
ある意味で、この世界の資源を支える大事な鉱山。
出てくるものは魔物の素材から魔導具、たまにエロい玩具まで湧いてくる。
そんなダンジョンで一攫千金を求めて、今日も冒険者は活動を続けるのだ。
カザルマの街で、ダンジョンに潜る一番有名な冒険者パーティはプリンセスパーティだ。
なんたって顔がいい、そして強い。
加えて、一応隠していることにはなっているけど貴族の娘とその従者だ。
ある意味で、生の冒険譚を見ているようなものだな。
ただ、プリンセスがピュアすぎる上に、それを守るナイトさんが男嫌いな関係上。
男との接点が極端に少ない。
加えて、女性陣とはそこそこ仲良くやっているけれど、実力が離れているので冒険を一緒にすることも少ない。
有名ではあるけれど、冒険者として接点のある人間は、実はあんまりいなかったりするのだ。
そういうところも二人のアイドル性を高めているわけだけど。
そんなプリンセスとナイトさんの間に挟まる、TS転生者の影が一つ――
つまり私だ。
というか、私は二人に付き合ってダンジョンの下層を探索することが多い。
実質的なプリンセスパーティの第三メンバーとなっていた。
いいのかなぁ、挟まってもいいのかなぁ。
そう思いつつ、今日も二人と一緒にダンジョンを潜っている。
「プリンセス、今よ!」
現在は、ハイミノタウロスと呼ばれる、ミノタウロスの上位種と戦闘中だ。
シェナイトさんは、フル装備で盾を構えハイミノタウロスの攻撃を正面から受け止めている。
その盾捌きたるや見事なもので、正面からの打ち合いにも関わらず。
シェナイトさんは盾に傷ひとつ付けていない。
すべての攻撃を、負担にならないよう弾いているのだ。
「はい! 行きます!」
そこへ、シェナイトさんの合図を受けてプリンセスが突撃する。
圧倒的な踏み込み速度から、シェナイトさんの脇を抜けてハイミノタウロスに肉薄したプリンセス。
そのまま、自分の身体よりも数倍重たいハンマーを構えて、勢いよく振り抜いた。
『オオオォオオオオォォォォオオオ!!』
ハイミノタウロスは、それを強引に受け止める。
自身の得物である斧をシェナイトさんの盾に、斧を握らない手をプリンセスのハンマーに。
誰が見ても、それは無茶だ。
だというのに、ハイミノタウロスはプリンセスの攻撃を受け止めて見せる。
さすがは下層のモンスター、と言いたいところだけど。
プリンセスがすごいのはここからだ。
「はぁああああ!」
プリンセスの周囲を漂う魔力の流れが、なんだかうねるように変化する。
正確にはそれによって変化した風を私が感じ取っているだけなんだけど。
要するに、プリンセスは更にパワーをパワーし始めた。
結果として、受け止めたハイミノタウロスの腕を圧倒し始める。
『オオオオオォォオオオオオ!?』
突如として襲いかかる痛みと、自身の膂力以上のパワーに困惑するハイミノタウロス。
このまま行けば、問題なくプリンセスはハイミノタウロスをハンマーで撃ち抜く。
やっべ、私仕事してねぇ。
「風弾よ!」
慌てて、ハイミノタウロスの足を撃ち抜いた。
途端にガクン、と崩れ落ちるハイミノタウロス。
抜けた力は、プリンセスのハンマーを受け止めることを不可能にした。
シェナイトさんが勝ちを確信して一歩引く中、プリンセスは逆に踏み込んでハイミノタウロスをハンマーで壁に叩きつけた。
戦闘終了だ。
「お疲れ様、ふたりとも」
「お疲れ様です、魔法使いさん! 最後の援護、ありがとうございました!」
「……逆に言うと、最後の援護しかしていないのだけど」
まぁまぁまぁ、まぁまぁまぁ。
こっちをジトッと睨んでくるシェナイトさんに、まぁまぁとジェスチャーをする。
「ごめんよ、二人の連携があまりにも見事で見入ってちゃったんだ」
「ほ、本当ですか!? ありがとうございます!」
「それに、二人の連携は見せる場所によってはお金が取れるものだからね、何だったら私もお金を払いたいくらい」
貢ぎてぇ……プリンセスに赤スパ飛ばして困惑してるところを眺めてぇ。
そんな感情が、私にはあります。
「必要ないわよ、というかこっちが雇ってる立場なのにお金を貰うわけには行かないでしょ」
「いやまぁそれは流石に冗談だけど、あんまり働かないようだったら報酬は減らしてもらっていいよ。私としても、自分の勘を鈍らせないのが目的だから」
先日の新人講習の時のように。
強敵との立ち回りは、常に実戦で磨かれる。
サボってばかりだとなまってしまうから、プリンセスパーティに同行しているわけで。
「それもやらないわよ。別にお金がないわけじゃないし」
「そ、そうですよ! あ、そうだ魔法使いさん! 今度は私と連携しませんか?」
「ん? プリンセスとの連携?」
「いいんじゃないかしら」
私が首を傾げた所で。
ずずいっとシェナイトさんが顔を近づけてきた。
とても近い!
「プリンセスにとっても、いい経験になるし。私は賛成よ」
「……普段は私とプリンセスを二人にするのはためらうのに、こういう時だけ積極的だね」
「それは貴方がプリンセスをたぶらかそうとしてるからでしょ」
流石に戦闘中にまで、そんなふざけ方はしないだろうとシェナイトさん。
まぁ、下層はガチなモンスターが多いから、手を抜いたりはできないけどさ。
「そういうことなら……やろっか、私とプリンセスで」
「やった! ありがとうございます魔法使いさん」
というわけで、プリンセスと二人で魔物を倒すことになった。
さて、何が出るかな。
と、言う話をしてから数分。
早速次の魔物に出くわした。
「ハードスパイダーだ! プリンセス、動きがすばしっこいから注意して!」
ハードスパイダー、蜘蛛の魔物で俊敏かつ糸を利用した三次元的な動きが特徴だ。
普通なら、シェナイトさんがその俊敏な動きを引き付けることで対処する。
というか、俊敏な事以外は特徴の薄い魔物なので、タンクのシェナイトさんとは相性がいい。
よりにもよって、そんなシェナイトさんが見学に回ったタイミングで面倒な魔物を!
「私が牽制してる間、回避に専念して。プリンセスがそうして回避して攻撃引き付けててくれれば、こっちで攻撃を当てて動きを止められるから!」
「わかりました!」
このあたり、プリンセスとシェナイトさんは相談いらずで連携を決められる。
日常的に相手の動きを見ていて、何をしたいかが解ってるからこそ。
私とプリンセスは仲がいいけど、流石にツーとカーで会話はできない。
とはいえ、じゃあ私達の戦闘がプリンセスとシェナイトさんより手間取るかといえばそうではなく。
「やっ! たっ!」
身体強化によって、迫りくる蜘蛛を悠々と回避するプリンセスの横から、私が風弾を飛ばす。
するとハードスパイダーは攻撃だけに専念できなくなる。
対処するにはプリンセスの横を抜けて、後衛の私を狙うしか無いが。
プリンセスの手の中で常に構えたまま待機している、彼女のハンマーがそれを許さない。
結果として、順当に逃げ場をなくしたハードスパイダーは、私の風弾に足を撃ち抜かれた。
「今!」
「はい!」
そのまま、一撃必殺。
ハイミノタウロスの時みたいな抵抗はなく、プリンセスはハードスパイダーを叩き殺して見せた。
「やった! やりました!」
「お疲れ様、いい動きだったよプリンセス!」
「魔法使いさんも、すっごく避けやすい援護でした!」
普段はちょっとおとなし目なプリンセスが、飛び跳ねる様に喜ぶ。
うーん、かわいい。
「……お見事だったわね。二人共、いい動きだったと思うわ」
「シェナイトさんが、私を手放しに褒めている……」
「貴方は私を何だと思っているの? それに、貴方とプリンセスの連携が見ていて勉強になるのは事実よ」
今日のシェナイトさんは、なんだか私に優しい。
というか、ダンジョンに潜っている時はだいたい優しいのだ。
私がプリンセスを誑かすと、だいたい鋭い視線をこっちに向けてくるのに。
試しに喜ぶプリンセスの頭を撫でて見ると――
「あうう、恥ずかしいですよう魔法使いさん」
「プリンセスは可愛いなぁって」
「あうううう……」
「……」
……何も言わなかった。
こっちに視線を向けてくるけれど、睨むと言うほどではない。
いつものシェナイトさんの仏頂面だ。
…………もしかして、だけど。
自分の見ていない所で、私が誑かすからだったりする!?
百合は近くで見ていたいタイプ!?
シェナイトさんは、何も言わなかった。
謎は深まるばかりだ……なお、ダンジョン探索はもう少し続く。