風魔術だけでも異世界は楽しいです ~美少女転生からのちょうどいいスローライフ~ 作:暁刀魚
私とプリンセス、シェナイトさんの三人パーティは大型モンスターと対峙していた。
開けたダンジョンの一角に、そいつがいたのだ。
蜥蜴を巨大にしたようなモンスター。
地竜と呼ばれる、ドラゴンの一種だった。
ドラゴンはこの世界でも強大なモンスターで、カザルマのダンジョンの規模だと普通は出現しない。
ここは下層なので、以前のダリルとリフィルみたいな事故はそうそう起きないが。
倒せるパーティが発見したら、倒しておくべき敵だった。
ので、今回は私達が討伐を決意したわけである。
『ゴオオオオアアアアア!』
「ブレス、来るよ!」
「解ってるわ。このくらい……防陣!」
地竜の口から、ブレスが撒き散らされる。
ドラゴンお決まりの攻撃手段だ。
地竜の場合は、土砂のごとく土が吐き出される!
それをシェナイトさんが盾に魔術をかけて耐えるのだ。
魔術、と言っても魔術師が使うものほど複雑ではない。
この世界にスキルは存在しない。
代わりに、効果を限定的にすることで扱いやすくした魔術を、一種のスキルのように前衛が使用することがあった。
盾職であれば、定番の魔術はヘイトを取るための「挑発」とこの「防陣」。
盾の強度を上げて、無理やり相手の攻撃を受ける魔術だ。
「風刃!」
シェナイトさんの盾の後ろに隠れた私が、地竜のブレスを避けつつ風刃でその身体を切り刻んていく。
痛みに身じろぎすることでブレスの勢いが落ち、更には次の攻撃の一手にも繋がるのだ。
「プリンセス!」
「はい!」
ブレスの終わりが見えたタイミングで、シェナイトさんが叫ぶ。
すると、プリンセスがそのブレスを飛び越えて地竜に殴りかかった。
狙いは私が風刃で切り刻んだ場所だ。
「やあ!」
『ゴオオオオ!』
ハンマーが叩きつけられる。
痛みに悶える地竜が後ろに跳んだ、仕切り直しだ。
先程から、こんなことを何回か繰り返している。
「そ、そろそろ倒れませんか?」
「倒れるとしたら……その前に動きを変えてくると思うよ」
いわゆる、発狂モードだ。
ゲームみたいに、魔物の行動パターンが変化するのである。
ダンジョンの外だとそういうことはないのだが。
ダンジョンの中だと、たまにパターン変化は見受けられる。
多分、ダンジョンの魔物は魔力で作られた生物だからだろうな。
「来るわよ」
シェナイトさんが呼びかける。
それに合わせて、私達も地竜の次の動きを警戒していると――
「地竜さんが天井を這い回りはじめました!」
ドスドスドスと、天井を這い回る地竜。
しかも結構俊敏だ。
加えて厄介なことに、ブレスを吐こうとしている。
「あんな動き回りながらゲロ……じゃない、ブレス吐かれたら足の踏み場がなくなる。阻止しよう」
「貴方、今とんでもないこと言ったわね」
「早く!」
シェナイトさんの追及を躱しつつ、私は魔術を放つ。
「風弾!」
顔面に、それを叩きつけた。
流石にドラゴン、私の風弾を受けても致命傷には至らない。
しかし、一時的に口を閉じさせることには成功した。
「このままトドメを!」
「は、はい!」
「しょうが無いわね……挑発!」
口を閉じさせた状態で、挑発の効果を受けた地竜がシェナイトさんに向かう。
それを受けてプリンセスがシェナイトさんに向かう地竜の横を通り抜けて反転。
挟み撃ちの格好になった。
「フーシャ!」
「解ってる――風盾よ!」
「……防陣!」
私がまず、シェナイトさんの前に風の盾をつくる。
その後ろで、シェナイトさんが『防陣』を発動。
二段構えの盾が、迫りくる地竜を受け止めた。
一瞬、風に受け止められたことによって音が消え、その後風盾が破られシェナイトさんの盾に地竜が激突する。
そして、動きを止めた。
二重の盾が、何とか地竜をしのぎきったのだ。
なお、ぶっちゃけやろうと思えばシェナイトさんは一人で地竜の突撃を受け止められる。
そうしなかったのは、それをすると盾がお釈迦になるからだな。
とにかく。
これによって、完全に地竜は動きを止めた。
そこに、後方に回ったプリンセスが迫る。
「行きます……!」
最大まで高めた身体強化によって、跳躍。
地竜を飛び越え――その頭部めがけて、巨大ハンマーは振り下ろされる。
『ゴ、ォ……!』
断末魔が細く響き。
地竜は動かなくなった。
+
「……や、やっぱりこれもタイラントの兆候なんでしょうか」
倒した地竜が消え、ドロップした素材を回収しながらプリンセスが呟く。
私とシェナイトさんは顔を見合わせると、端的に。
「まだなんとも言えないね」
と、代表して私が答えた。
タイラント。
以前から少し話に出ているそれは、言ってしまえばダンジョンの暴走だ。
ダンジョン中から、本来ならありえない魔物が出現し続け、しかもそれらがダンジョンの外にまで出てくる。
世界によっては、こういうのを「スタンピード」なんて呼ぶ世界もあるんじゃないだろうか。
とにかく、そういう感じで非常に厄介な現象だ。
もし仮に、防衛に失敗してダンジョンの魔物が街に溢れたら、大変なことになる。
「一応、推測としては今回のタイラントは不発に終わるらしいわ」
「兆候の発生件数が、普段より少ないってこと?」
「そういうこと」
その割には、私は兆候に二件も出くわしてるんだけどな……。
まぁ、転生者ってのは事件に巻き込まれやすいもんだし、そういうもんか。
とにかく、タイラントは不発に終わることがある。
以前の上層のミノタウロス事件や、今回の地竜みたいな。
兆候と思われる現象が複数確認されても、タイラントに至らず終了する可能性。
それなら、街に被害が出なくてよかったじゃないか、と思うかも知れないが。
「
シェナイトさんは、そうやって肩を竦める。
この場合、考え方としてはシェナイトさんのほうがこの世界だと自然だ。
「あ、あう……街の人に被害が出ないのは、いいことですし……」
「プリンセス、一応私達はダンジョンのドロップ品を目当てに冒険者をしているのだから、目的を見失ってはダメよ」
「……そ、そうですね」
一応、心優しいプリンセスはそうやって心配するのだが。
こっちのほうが少数派といえる。
なにせタイラントで、強力な魔物があふれかえるということは――
「……お母様の形見の剣をドロップする、チャンスなのだから」
「……はい」
書き入れ時、ということだ。
ダンジョンの魔物を倒せば素材をドロップするのは、タイラントでも変わらない。
なので多くの冒険者は、タイラントが起きたらそれで大金を稼ごうとする。
これには一つ利点もあって、災害として事態に対処するよりも冒険者のモチベが上がるのだ。
なんというか現金だなぁ、と思うが。
これが長年タイラントと付き合ってきたこの世界の処世術なのだから、突っ込むのは野暮というものだった。
「形見の剣は、まだドロップ報告がないんだね」
「……はい」
そういえば、プリンセスのダンジョンに潜る目的はこのダンジョンに眠っているはずの、形見の剣を見つけることだ。
プリンセスの母親は優秀な冒険者で、色々あってこの国の王に見初められて妾となった身だ。
そんな母親が冒険者時代に使っていた剣が、色々あって盗まれ。
最終的にそれを手にした冒険者が、このダンジョンで死亡した。
冒険者が死亡すると、その装備はダンジョンに呑み込まれ宝箱等からドロップするようになる。
プリンセスは、そのドロップを狙っているわけだ。
「まぁ、そんな暗い顔しないの」
「……魔法使いさん」
「お母さんだって、形見のドロップに執着してほしいわけじゃないだろうしね。前にも言ったけど、楽しんで探すべきだよ」
この話は、結構なんどもプリンセスにしている。
亡くなった母親の形見ということで、プリンセスは剣に執着しているけれど。
その探し方は、あくまで冒険を楽しんだ末であるべきだと、私は何度も言っている。
「冒険者の冒険は、楽しいものであるべきだと思うからね」
「……貴方が言うと、実感を感じるわね」
「でしょ? まぁ、何事も楽しむためには、未来に期待を持つべきだよ。例えばこの通路を曲がった先に、デリシャスオークが湧いてるかもしれないでしょ?」
「もう、魔法使いさん。デリシャスオークはそんなに簡単にポップしませんよ」
言いながら、私は地竜を倒した大きな広間から、通路を曲がって別の場所へ移動しようとする。
そしてそこに、奴はいた。
「……いたわ、デリシャスオーク」
ぽつりと、先頭に立っていた私が零す。
「え!?」
思わず、といった様子でプリンセスが駆け出して、私の隣に並ぶ。
その目は、明らかに食欲で輝いていた。
「……まぁ、プリンセスが元気になってよかったってことで」
「ねぇ、こんな高頻度でデリシャスオークが湧くのは、タイラントの兆候じゃないかしら?」
「多分……違うんじゃないかなぁ」
「それだと、貴方の運がおかしいということになるのだけど」
それは……否定できませんね!