風魔術だけでも異世界は楽しいです ~美少女転生からのちょうどいいスローライフ~ 作:暁刀魚
今日は護衛任務だ。
以前、野盗狼が出てきた際に護衛していた行商人一家の護衛である。
あれ以来、何度か彼らの護衛依頼を受けるようになった。
お得意様ってやつだな。
んで、そうなると一家とは自然と仲良くなる。
商人の旦那さんと奥さんは、二人共商家の出身だそうで。
二人して、かなりやり手の商人のようだ。
その子どもの少年も、幼いながらに計算ができるというのだから才気に満ちていると言えるだろう。
んで、そんな少年がふと移動の最中に私へ声をかけてきた。
「フーシャお姉さん、僕に魔術を教えてもらえませんか?」
馬車の幌に寝転がっていた私を見上げて、目を輝かせていた。
ふむ、と私は本を閉じて起き上がる。
「こらっ! すいませんフーシャさん、息子が勝手なことを」
「いえいえ、そうですね……ちょっと待ってください」
私は意識を集中させて、周囲の気配を確認する。
遠くにうさぎ型の魔物が一体。
他にもぽつぽつと魔物は存在するが、どう考えてもこの馬車を襲える位置にいない。
そういうことであれば、多少意識をこの少年に向けてもいいだろう。
「構いませんよ、周囲に魔物もいないみたいなので、移動の最中でよければ」
「ほんと!? ありがとうございます!」
「まったく……すいません、追加でお代はお支払いするので、よろしいでしょうか」
「いえいえ、今後ともご贔屓にしてもらえれば、十分ですよ」
何故なら、私は杖なしだからだ。
ただでさえ正式な魔術師の免許を持っていないのに、お金をもらって人に教えるわけには行かない。
後、単純にここから街までは二時間もかからないのでお金を払う必要があることまで教えられないのだ。
その事を伝えて、納得してもらう。
杖なしと言ったら驚かれたけど、追求はされなかった。
私の過去を、ある程度察しているのか、誰かから聞いたのか。
まぁ、気にすることでもあるまい。
「じゃあ、早速だけど……よっと」
「わわ」
私は、ふわりと浮遊魔術の効果で地面に降り立つ。
眼の前で行われる、魔術の行使。
少年は興奮頻りだ。
「少し掴まっててね」
「は、はい」
少年は察しが良い、私が彼の手を掴むとそのまま浮遊で浮き上がることを即座に理解したのだ。
ワクワクした様子で空に浮かび、私と一緒に幌へ飛び乗った。
「すごいすごい! 僕もこういう魔術を使えるようになりたいです!」
「それはもしかして、移動を楽にできれば両親に楽をさせられるから?」
「あ、えへへ……はい」
少しだけ照れくさそうに、少年は言った。
本当に利発な子だな。
私の場合、これが使えれば多少サボっても許してくれるだろうって理由で、魔術を習い始めたのに。
「じゃあ、今日は魔術の基本について話そうか。君は魔術についてどれだけ知ってる?」
「えっと……詠唱をして、起動ワードを口にすれば魔術を発動できるんですよね」
「そうだね、基本的にはその通り」
この調子なら、魔術がどういうものかっていう基礎的な知識はありそうだな。
「なら、今日は魔術の発動する仕組みについて話そうか」
「……! それ、とっても気になります! 魔力と詠唱と起動ワードがあれば発動するってことは解るんですが、仕組みはさっぱりだったので」
どうやら、私の提案は少年にとっても魅力的だったようだ。
魔術というのは、発動すればそれでいいと考える人がほとんどだ。
スマホの使い方を理解できれば、製法に興味を持つ必要がないのと同じ。
ただ、少年の場合はその製法に興味がある、と。
うん、なかなかいいことじゃないか。
「魔術に限らず、魔力を使用して行う行為全般は、体内で魔力を練り上げることで使えるようになる」
「肉体強化とか魔力放出ですね」
「そう。そうして体内に魔力を放出する際、特定の方法で魔力を加工して打ち出すことで、人は魔術を行使できるんだ」
その特定の方法こそが、詠唱と起動ワード。
これの素晴らしいことは、詠唱と起動ワードさえしっかりしていれば、誰でも同じように魔術を行使できるということ。
「言うなれば、人間は脳内で製品を作ってるんだ。極限まで単純化すれば、誰にでも同じものが組み立てられるような感じで」
「ははあ」
「詠唱を覚えて、それを口に出して、最後に起動ワードを言えば……多分、今でも君は魔術を使うこと”だけ”ならできると思う」
もちろん、場合によっては私みたいな特異体質だったり。
向き不向きの関係で、上手く魔術を行使できない可能性はあるけれど。
使うだけなら、非常に簡単なのが魔術だ。
「でもそれは……危険じゃないですか? 今ここで、僕がうっかり魔術を暴発させて、フーシャさんを傷つけてしまうかもしれません」
「あはは、その心配はないよ。この方法で発動した魔術は、非常に精度が悪いんだ。人の体は頑丈にできてるから、そう簡単に傷にはならないよ」
この世界の人間は前世と比べて頑丈だ。
体内の魔力は、加工を行わずとも最低限の肉体強化を常に身体へ施している。
この世界の人間が車に轢かれても、そうそう死ぬことはないだろう。
流石に無傷とはいかないけど。
「精度……ですか」
「そう、魔術を行使するためには精度が大事。魔力を消費するのも、威力を上げるのも、狙いを正確にするのも全部発動の精度が影響してくるんだから」
「どうすれば、精度を高められるのでしょう」
「そうだね……ちょっとイメージしてみて?」
私はそう言って、ある例え話をする。
「子どもの玩具に、木積ってものがあるでしょう」
「木を積み上げて、家などを作る遊びですね。村の子供達がそれで遊んでいるのを見たことがあります」
自分は、本を読んだり計算を覚えるほうが楽しかったと、少年は少し恥ずかしそうに言う。
うーん、大人びている。
「魔術っていうのは、頭の中で木積をするようなものなんだ。それによって完成した家が綺麗であればあるほど、精度が上がるの」
「あ、なるほど」
「頭の中で、魔術を放つイメージを正確にするの。詠唱はそれを助けるためのもので、説明を聞きながら木積を決まった動作で積み上げるようなものさ」
慣れた人間なら、説明書なしでも決まった形に積み上げられるようになるし。
なんなら、アレンジを入れてしまうこともできる。
ある意味で、ここが魔術の面白いところだ。
「よくわかりました、フーシャさん!」
「ありがとう、そう言ってもらえると教えたかいがあるよ」
一応、これでも講習の講師を定期的にしているわけだから、人に教えるのは得意な方だと思う。
とはいえ、私の教え方は基本的に受け売りだ。
本の内容を覚えたり、他の講師から教え方を聞いたり。
自分で考えて、人に教えたことはあまりないように思える。
特に魔術を教える経験ってあまりない。
だからだろう、私にとって魔術を教える経験というのは未だに――
「……フーシャさん、どうしましたか?」
「あ、ううん。なんでもないよ。話を続けようか」
それから、私は街につくまで少年に魔術を教えるのだった。
+
「いやぁ、無茶を言ってしまい、申し訳なかったね」
「いえいえ、私にとってもいい経験になりました。基礎を振り返るのも、いい経験になります」
「そう言ってもらえると、助かるよ」
仕事が終わり、街で商人さんと別れる時。
旦那さんからお礼を言われた。
周囲に音を遮るものがない場所だから、私と息子さんの会話は旦那さんにも聞こえていたことだろう。
そのうえで、お礼を言ってもらえるのは私の話す内容がよかったってことでいいんだろうな。
「これはお礼というわけではないのだけどね、せっかくだから受け取ってもらえないだろうか」
「これは……ベリーベリースライムのゼリーじゃないですか。いいんですか? こんな高級なもの」
「ああ、お金だと受け取ってもらえないだろうしね」
そりゃそうだ、既に受け取らないと言ってしまっているし。
しかしこれはあれだな、知り合いを車で送迎した時に「燃料代」って言ってお金を受け取るようなものだな。
仄かな脱法感。
いや、杖なしが魔術を教えちゃいけない決まりはないんだけどさ。
「……ところで、息子の魔術に対する才能はどうでしたかな」
と、そこでひそひそと。
気になったのだろう、旦那さんが聞いてきた。
「ええと……はっきり言いますね?」
「はい……」
私は少しだけためらってから、言う。
「……多分、天才なんじゃないかと」
そしてためらった割には、かなりいい感じの答えを返した。
これには、理由がある。
「……やはりですかぁ」
「魔力の総量も、見た感じ多いですし。何より魔術に対する学習態度が素晴らしいです。アレなら、魔術師としても研究者としても大成しますよ」
「…………やはりですかぁ」
旦那さんは、嬉しさ半分、寂しさ半分といった感じで苦笑した。
私がためらった理由は単純。
旦那さんとしては、商人を継いでもらいたい気持ちもあるし、魔術師の道を応援したい気持ちもあるだろう。
複雑な親心、というやつだった。
幌の上でお姉さんに魔術を教えてもらいたい方は
評価、お気に入り、感想等頂けますと幸いです。