風魔術だけでも異世界は楽しいです ~美少女転生からのちょうどいいスローライフ~   作:暁刀魚

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カードゲーマーフーシャ

 夜、仕事終わりにギルドで飲もうかと思ったが、残念ながら知り合いの女性冒険者が捕まらなかった。

 基本的に、異世界で女性が一人で酒を飲むのは避けたほうが良い。

 絶対に男が寄ってくるし。

 男漁りがしたいなら、また話は別だけどさ。

 なので諦めて、お酒だけどこかで買って部屋で飲もうかと思っていると――

 

「勝負だ!」

「勝負!」

 

 何やら、ギルドの一角が騒がしい。

 どうやら野郎どもが、ギャンブルに興じているようだ。

 発言の内容からして、この世界のポーカーに相当するゲームかな?

 役の名前が違う以外は、特にルールに相違はない。

 

「お、フーシャじゃねぇか」

「げっ」

 

 そんな様子を、遠巻きに眺めていたら。

 男の一人がこっちに気付いた、以前私に後輩とモーションをかけてきたむくつけき男だ。

 名前は覚えてないので、先輩男と呼ぶことにしている。

 

「げっ、とはなんだよ。お前も賭けに興味があるんじゃないのか?」

「声がしたから見てただけだよ」

 

 こういう賭け、普通女性は声をかけられたりはしない。

 場末の酒場でやっているならともかく、ギルドでそういう賭けに女性が巻き込まれてトラブルになったりしたら、男側にペナルティが発生するからな。

 女側も、目当ての男がギャンブルの輪に加わってない限りは、野蛮だ何だと参加しようとはしないのだ。

 

 例外が、私。

 野郎どもと気軽に会話ができて、しかも美人。

 自分から賭けに乗ってくるときもあるので、何かあれば向こうも声をかけてくる。

 今回みたいに。

 

「せっかくだから、お前さんもやってけよ。好きだろこういうの」

「好きな時と、そうじゃない時がある。今日は後者」

「まぁまぁそう言わず」

 

 しつこいなぁ、と思いながらその場を立ち去ろうとする。

 口ではしつこいだけで、実際に立ち去ってしまえば追おうとしない程度には、こいつらもわきまえているのだ。

 そんな時だった。

 ふと、私の感覚がある匂いを嗅ぎ取る。

 

「……お前ら、今何賭けてる?」

「おお? もしかして気付いたか? ブドノーのワインだよ。めっちゃ高級な奴」

「――乗った」

 

 ブドノーといえば、ここから私が空をとんでも一週間くらいはかかる遠くの街だ。

 ワインの醸造が盛んで、そこで作られたワインは大陸一。

 私は荷物の中から、保存用の瓶を一本取り出した。

 

「私が勝ったら、そのワインをこの瓶に入れてもらってく」

「いいね。せっかくだからこの場で飲んでくれたほうが俺達としても盛り上がるんだが」

「あんな度の強いもん、男の前で飲めるわけ無いだろ」

 

 というわけで、先輩男に誘われてギャンブルに参加することとなった。

 ルールはさっきも言ったけどポーカー相当。

 役の名前が違うのが面倒なので、適時前世の役に変換していこう。

 

「ルールは?」

「タイマンで、サマはなしだがそれ以外は何でもあり。二勝先取の降りは一回まで」

「……そのルールに私を交ぜていいのか?」

「今日は勝てるかも知れねぇだろ」

 

 なんだか、随分と私有利なルールでギャンブルをしているようだった。

 他にも、参加料金をワインを提供してくれた胴元の冒険者に支払う必要があり。

 二人の参加料金でちょうど一杯分。

 勝ったほうが、その一杯を総取りって感じらしい。

 度の強いワインだから、瓶に入れるのは一杯で十分だな。

 

「胴元ぉ、参加者一人追加だ。よろこべ、常勝無敗のフーシャ様が来てくれたぞ」

「おー」

 

 周囲の男たちが、私を見てヒュー、と口笛を吹く。

 こういう場に、相手が私でも女が来てくれると盛り上がるんだろう。

 

「相手にするのは誘ったてめぇがしろよ。俺達は見てるだけだ」

「わかってるって、フーシャもそれでいいよな」

「別に構わないよ」

 

 とはいえ、実際に私とギャンブルがしたいかはまた別の話。

 誘ってきた先輩男以外は、誰も手を上げようとはしなかった。

 これは、今行われているポーカーのルールが関係している。

 具体的には――

 

「んじゃ、やろうぜ」

「はいはい」

 

 私と先輩男、二人の手にカードが配られる。

 配られた時点で私はワンペア、対する男は――ブタだな。

 

「勝負」

「……チッ、勝負だ」

 

 その後、カードを入れ替えて勝負。

 私はツーペアになり、男はワンペアにしかならなかった。

 

 さて、私には風鳴りとしての能力がある。

 それは相手の考えていることや、狙っている行動を読み取れてしまう力でもあった。

 なのでこういう対面して行うカードゲームに、私はめっぽう強い。

 今回のルールだと、相手より先に二回勝利したほうが勝者なのだが、一回まで降りが認められている。

 

「勝負だ」

「降り」

「……チッ、俺の大役が」

 

 相手の思考が読み取れる私は、どれだけポーカーフェイスを向こうが保とうとその役を見抜ける。

 つまり、実質相手は私に三回勝たないと行けないのに、こっちは二回でいい。

 私有利とは、そういうことだ。

 というわけで――

 

「私の勝ちだな、ワインはもらってくぞ」

「くっそー、一回は勝てたのに!」

 

 今回も、私が賭けに勝利する形となった。

 常勝無敗の名は伊達ではないのだ。

 ちなみに、思考が読み取れるのに加えて私は運が結構いい。

 死んでも次の人生を手に入れられるあたり、悪運が強いのだろう。

 まぁ、肝心な時に自分しか生き残れない程度の悪運ではあるのだが。

 

「なぁ、もう一回やってくれよ、もう一回」

「やらないよ。ワイン一杯貰えれば十分なんだから」

 

 せがんでくる先輩男を振り切る。

 周囲の連中も、せめてもうちょっと粘ってくれねぇと卓に花がねぇよと、先輩男に白い目を向けていた。

 そんな時である。

 

「すいませんフーシャさん、次は俺とやってくんないッスか?」

 

 横から、声がかけられた。

 見ればそこには、先日先輩男と一緒に声をかけてきた、後輩くんの姿が。

 さっきまで観客の中にいたのは見ていたが、わざわざ私を誘う理由はなんだろう。

 

「いや、私はこれで店じまいにするつもりなんだけど……」

「参加費はフーシャさんのほうも俺が持つっす、仮に俺が賭けに勝ってもワインはフーシャさんのものでいいっす」

「……それ、君が勝ったら私にどういう要求をするつもりなのさ」

 

 まさか、えっちな要求をするつもりじゃないだろうね。

 君、このまえ彼女ができたって言ってたのに。

 と、思ったら。

 

「…………っす」

「おい、何言ってるか聞こえねぇよ!」

 

 か細い声で、彼は言った。

 周囲が囃し立てる中、風鳴りの私だけは彼が何を言ったか聞き取れる。

 

「――いいよ、乗った」

「本当っすか!?」

 

 そして、その内容を聞いて、私は勝負を受けることに決めたのだ。

 周囲が首を傾げる中、私と後輩くんがテーブルにつく。

 勝負は二勝先取、先ほどと変わらない。

 んで――

 

「勝負っす」

「勝負」

 

 結果、私はツーペア、彼はスリーカードだ。

 これで彼の一勝。

 周囲が、後輩くんの先制に盛り上がる。

 続けて、二戦目は私の降り。

 三戦目は私の勝ち、と続いた。

 そして四戦目――

 

「勝負」

「勝負ッス!」

 

 後輩くんが仕掛けてきた。

 彼には降りの権利が残されてるのに。

 普段の彼なら、ここで私が余裕の態度を見せれば日和って降りを選択するのに。

 まさにそれは、流れを掴むには十分な選択だ。

 

 私がスリーカード、対して彼はフォーカード。

 文句なしで、彼の勝ちだった。

 

「おお、常勝無敗にあのポーカー下手が勝ったぞ!」

「まじかよ、俺アイツが勝ってるのも、フーシャが負けてるのも初めて見たぞ!」

 

 周囲は大盛りあがりだ。

 負けた先輩男だけは悔しそうだったけれど、観客としてはそれはもう迫力のあるゲームに見えただろう。

 

「いやー、最後のアレは見事だったね。流石にあそこまでの勝負手を引かれたら私でもどうしようもないや」

「や、う、運が良かっただけっすよ」

 

 謙遜する後輩くん。

 私は胴元の冒険者に、さっき私の分を入れてもらった瓶とは別の瓶を渡す。

 そうしてできた二本目の酒瓶を――後輩くんに手渡した。

 

「はいこれ、君の勝ち分だ」

「え? いや、さっき言った通り、これはフーシャさんに渡すって……」

 

 そこで私は、彼の肩をポンと叩くと耳元で――

 

 

「君の彼女は、結構お酒が好きなんだ。プレゼントしたら喜んでもらえるよ」

 

 

 そう、囁いた。

 さっきの彼の発言は「今度の彼女の誕生日に送る、プレゼントのアドバイスが欲しい」というものだった。

 そのアドバイスの答えが、これだ。

 いやはや、なんだかアツアツだねぇ。

 

 だから、そうやって顔を真赤にするのはやめたほうが良いよ?

 浮気にしかみえないからさ。




初恋のフーシャ先輩に耳元でささやかれたいひとは
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