風魔術だけでも異世界は楽しいです ~美少女転生からのちょうどいいスローライフ~   作:暁刀魚

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スリーピング・ウィッチ

 私には、時折どーーーーしても働きたくない日が発生する。

 週――前世と同じくこの世界は七日で一週間――に二日は理由がなければ休むようにしているけれど。

 それとは別に、なんとなく今日は働きたくないって日が訪れる。

 そういう日は、当然休む。

 仮にその日がダンジョンの宝箱がリポップする更新日だとしても。

 というか私、そんなにダンジョン潜らないし。

 今日も休みだ、諸般の事情でだるくて仕方ない。

 

 でも、そんな日でもギルドに顔を出すことはある。

 暇な時間は読書――この世界において、唯一前世とそこまで変わらず摂取できる娯楽――に勤しんでいる私だが。

 こういう日はギルドで読書をするのが鉄板だ。

 

 理由は、人の流れを見るのが好きだから。

 ギルドは冒険者ならば必ず集まる場所。

 当然そこには人の流れが発生する。

 依頼を受ける人、依頼を出す人、冒険者、ギルドの職員。

 単純にギルドに併設された食堂を目当てにやってくる人もいる。

 私みたいに、冒険をサボって昼間から飲んだくれてる人もちらほらだ。

 私はお酒、あんまり呑まないけどね。

 

「今日も賑やかだなぁ」

 

 人付き合いはそんなに好きではない。

 でも、人のいる場所はそこまで嫌いではない。

 一見矛盾しているようだが、要するに私は人間観察が好きなのだ。

 ギルドの喧騒から聞こえてくる話に、心のなかで相槌を打つ。

 SNSのタイムラインを眺めている感覚、といえば伝わるだろうか。

 人の発信した内容が、ときに拡散されて伝わってくる。

 中には不快なものもあるけれど、興味深いもの、面白いものもある。

 前世では、絨毯をきれいにする動画で結構な時間を潰した私だ。

 今の人生でも、ギルドの無駄話で一日を潰せる自信があった。

 

 

「あ、魔法使いさん、こ、こんにちは……」

 

 

 ただ、今日はどうやら私に声をかけてくる人がいたようだ。

 普段から、あまり人と関わろうとしない私に対し、声をかけてくる人種は2つ。

 一つは新人、講習で顔を合わせることが何度かあるから、挨拶をされることがある。

 もう一つは……単純に顔見知りだ。

 

「ん、プリンセスか。おはようプリンセス」

「えう……もうお昼ですよ、魔法使いさん」

 

 そこには美しい黒髪に、ドレスみたいな鎧を纏った可憐な少女がいた。

 背丈は私と同じくらい、少し彼女のほうが高いかな。

 ちょっと自信なさげにおどおどしているけれど、その実瞳の奥の意思はとても強い。

 侮ってはいけない剣の使い手でもある。

 

 名前はシェフィ。

 私は彼女を、プリンセスと呼んでいる。

 同じように、彼女は私を魔法使いさんと呼んでいた。

 

「今日は一日、何もしないって決めたから。時間の感覚がなくって」

「魔法使いさんが、羽を休める日なんですね」

「そういうプリンセスは、おやすみ? ナイトさんはいないんだね」

「あうう、プリンセスは恥ずかしいですよう」

 

 そんなプリンセス、見た目は実にお姫様って感じだ。

 明らかに、着ている鎧が高級である。

 本人は一介の冒険者を自称しているけれど、明らかにその正体はお貴族様である。

 なので私は彼女のことを率先してプリンセスと呼んでいた。

 本当は実際にお姫様――この国の第四王女なのだけど、こう言っておけばまさかシェフィが本物の王女だと思う人はいないだろう。

 末端貴族が身分を隠して冒険者をするくらいなら、この世界だとよくあることだし。

 

「ナイトさんは、お買い物です。私は……今日こそ、一人で依頼を選ぼうと思って。ちゃんとした依頼を選べれば、ナイトさんが褒めてくれると思うんです」

「ははは、また詐欺依頼掴まされそうだけどね。本当に選べたら、私も褒めてあげる」

「本当ですか!?」

 

 この騙されやすそうなプリンセスには、従者のナイトさんがいる。

 本名はシェナイトさん、長身でしっかりした雰囲気の女性だ。

 いかにも騎士って感じで、実際に女騎士。

 遊撃のシェフィとタンクのシェナイトさんっていう、前衛二人の冒険者パーティをプリンセス・シェフィは組んでいた。

 

「魔法使いさんは、どんな本を読んでるんですか?」

「娯楽小説、『冒険者ダイハドの冒険』ってシリーズ」

「あ、私もそれ、読んだことあります。えへへ、魔法使いさんとおそろいだ……」

 

 この世界の本は、種類豊富だ。

 錬金術による印刷技術は、前世のそれに十分劣らないものがある。

 娯楽小説から、魔術の論文まで。

 様々な本が世界には出回っている。

 私は雑食に、それらを読み漁っていた。

 

「そうだ、そろそろお昼にしませんか?」

「お昼? お昼かぁ。……面倒だし、いいかなぁ。あんまり食欲もないんだよね」

「ええ、駄目ですよう。冒険者なんだから、いっぱい食べないと」

 

 異世界ではあるものの、この世界の料理は結構美味しい。

 というか、食事に限らないけど文化レベルはかなり高い。

 娯楽が少ないという一点を除けば、正直こっちでの生活も悪いものではなかった。

 

「パフェ、食べませんか? 私が奢りますから」

「え? 悪いよ。別にお腹も空いてないし」

「ほら、この間一緒に冒険した時、私何もできなかったから……ごめんなさい、あうう……だからその、お礼……したくて……ごめんなさい」

「ええい、自分で言っていて落ち込まないの!」

 

 ちょっと考える。

 このちょっと落ち込みやすいプリンセスが、元気を出すためにも。

 以前のお礼という形で彼女の提案を受けるのは、なんというか「ちょうどいい」塩梅なんじゃないだろうか。

 実際、先日三人で冒険に出たのに私が大立ち回りして、二人の出番がなかったのは事実。

 バランスをちょうどよくするためにも、ここは受けるか。

 

「わかった、食べよう。でもそのかわり、パフェだけだからね」

「はーい。じゃあこの『秋季限定特盛ギルドパフェデラックス&ゴージャス』を……」

「一番でかくて高いのに躊躇なく行った!?」

 

 このプリンセス、ご飯はいっぱい食べるタイプである。

 

 

 +

 

 

 それから、私はプリンセスと二人でパフェに舌鼓を打った。

 プリンセスも健啖家だが、私も結構食べるタイプだ。

 一度何かを腹にいれてしまったら、結構その後もするすると入っていくのもある。

 結果――

 

「はい、魔法使いさん。あーん」

「……公衆の面前であーんは恥ずかしいな」

 

 その後、プリンセスはパフェを平らげると、そのまま次の甘味に手を伸ばした。

 うず高く積み上げられる完食された食器。

 そしてそのたびに、私は味見と称して甘味を詰め込まれるのだ。

 一口だから、腹に溜まるということはない。

 でもね、人はね、糖分を取ると眠くなるんだよ。

 私は健康優良児だが、それでもね。

 

「ふああ」

「えへへ、美味しいねえ魔法使いさん。あ、次はこのアイスを……」

 

 女性冒険者も多いこの異世界。

 むくつけき男のたまり場みたいなギルドの食堂にも甘味は多い。

 多分プリンセス、このまま全部制覇するつもりだぞ。

 

「あ、プリンセスとフーシャさんだ」

「仲良く美味しそうなもの食べてるねー」

 

 と、そこにやってくる顔見知りの女性冒険者。

 甘味を食べてる私達をみて、自分たちもお昼に甘味を食べようと思い立ったみたいだ。

 甘い食器は更に増えていく……

 

「プリンセス、あーん」

「あーん……あうう、おいひいよお」

「フーシャさんも、ほら、あーん」

「んー」

 

 女性冒険者はどんどん増えていく。

 中には頼んだ甘味を自分で食べず、私とプリンセスに食べさせようとしてくる者も現れる始末。

 もしやこれ、餌付けされてない?

 

「わー、こうしてみるとフーシャさん小さい……身長どれくらい?」

「百五十ちょうど……」

「ほっぺたぷにぷにすぎない? 二十歳になる女の肌か? これが」

「魔法使いさんって、世界で一番かわいいかも……」

 

 うとうとと、眠みがどんどん強くなってくる。

 このまま眠っても、まぁ女性冒険者の中ならそこまで心配はいらないけど。

 あんまり、よろしくない。

 というか、なんか私持ち上げられてない? 膝の上に載せられてない?

 くそう、感情にほんの少しでも悪意が混じれば、風を通して感じ取って体が自動で反応するのに。

 善意だけの感情が乗った風は、甘味みたいに甘ったるい。

 ちなみに、寝てても即反応するから、このまますけべしようとしても無駄だぞ。

 

「プリンセス、こんなところにいたの」

「あ、ナイトさん。みてみて、魔法使いさんとってもかわいいの」

「……たしかあなた、今日こそちゃんとした依頼を受けるって言って出ていったけど。依頼は?」

「あっ」

 

 もはや半分寝ている私の耳に、凛としたシェナイトさんの声が聞こえてくる。

 青みがかった髪を首元で束ねて、大人の女性って感じの美人さん。

 今は、プリンセスが今日も依頼を受けられなかったことを指摘しているが。

 実際はとても過保護な、プリンセスの従者だ。

 

「それにしても……人をこれだけ集めるプリンセスとフーシャのカリスマ性、相変わらず末恐ろしいわね。特にフーシャ」

「フーシャさんはほら、アレっすから。気ままな猫みたいな自由さがいいんですよ」

「掴みどころのない、素敵な風の魔法使いさんなんです」

 

 なんか、失礼なことを言われているような、褒められているような。

 ほとんど眠気に負けた私の意識は、そんな彼女たちの言葉を聞き取ることはできなかった。

 

 ――なお、そのまま私は寝落ちして、翌日プリンセスが拠点にしている高級宿で目を覚ました。

 なんでもあの場にいた女性冒険者全員でカンパしたらしいけど。

 あの子達は私をどうしたいんだ……?

 まぁ、プリンセスたちといっしょに食べたモーニングは、めちゃくちゃ美味しかったけどさ。




適当に生きてるTS女が、周囲からは自由気ままな猫みたいでかっこよく見えるの好き好き侍
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