風魔術だけでも異世界は楽しいです ~美少女転生からのちょうどいいスローライフ~ 作:暁刀魚
この世界において、最もちょうどよくない存在はなにか。
答えは野盗だ。
当たり前に生きる人々の命を奪い、財産を奪い、生活を奪う。
それでいて野盗たちは、「こうするしかなかった」とか嘯いてみせる。
そんな奴らのどこに、ちょうどいい要素があるっていうんだ?
まぁ、キャラバンを襲われた恨みは多分に含んでいるけれど。
基本的に私は、他人から命や金品を奪う連中は等しく絶対に許さないと決めている。
私のモットーは潜みすぎず、目立ちすぎず。
ちょうどいい立場のちょうどいい生活、だけれど。
唯一例外として、積極的に野盗のような「人々の生活を脅かす存在」に対しては対応することにしていた。
「ごめんね、わざわざ時間作ってもらって」
「ううん、いいんです。魔法使いさんの頼みです……それに、魔法使いさんの用事は解ってますから」
現在、私はプリンセスの豪華すぎる宿へやってきていた。
お姫様みたいなネグリジェを身にまとったプリンセス・シェフィと二人でお茶会の最中だ。
シェナイトさんは、プリンセスの隣で直立不動の姿勢。
今は従者モードなので、私達の会話に口を挟むことはないだろう。
「あ、あのね魔法使いさん、この前、また順風の守り手さんが現れたんですって」
「……プリンセス、この場でその前フリいる?」
「あうう……」
これがギルドの個室とかなら、まぁ誤魔化しのためにもちょっと持って回った言い回しは必要かもしれないけれど。
ここにいるのは私とプリンセスとシェナイトさんだけだ。
防諜もしっかりしているし、ここでならどんな話も盗み聞きされる心配もない。
具体的に言うと、魔術的な防壁により私ですら外から音を拾うことができないくらいだ。
「えっとえっと、順風の守り手さんがすごいって……そういう話は、したかったんです」
「ああうん、それなら後でいくらでも付き合うから」
しょんぼりとしながらプリンセスが口にした順風の守り手。
以前にも話題に上がったが、
報酬は受け取らず、狙う相手は国が対処するには相手が小物過ぎたり貴族とつながりがあったりして腰が重くなりがちな相手。
ないしは、冒険者では数の問題でどうにもならない相手だ。
「それで、えっと、ここから数日歩いたところに『モクゾー』って村があるんです。その村の周辺で、ちょっと変な動きがあるって……おねえ……」
「こほん」
「……大鷲さんが言ってました」
うっかり何かを言いかけたプリンセスに、シェナイトさんが咳払いをした。
何事も、建前が大事という話。
プリンセスが話を聞いたのは、この国の軍事を一括で取り仕切る『赤鷲』の二つ名を持つ女傑ではなく、大鷲さんという親切な人だ、と。
やはり、モクゾーの村を狙う計画を立てていたのか。
私達に襲撃をかけてこなかったのは、私達の来訪の予定を知らなかったからだろう。
加えて、念の為隙がないか探るために出した偵察が戻らなかった。
まあ、警戒するのは当然だな。
「相手はどんなやつら?」
「前に順風の守り手さんが壊滅させた、西の人買い組織の残党じゃないか……って言ってました」
「あいつら……まだ残ってたのか」
慈悲なく鏖殺、ないしは国に突き出したはずなんだけどな。
腐敗役人が賄賂とかもらって、こっそり解放したとかじゃないよね?
私は王族の方々は信頼してるけど、貴族連中にはむしろ疑いしかないぞ。
「まぁ、話はわかった。きっとその悪い奴らも、順風の守り手さんがなんとかしてくれるさ」
「ほんとですか? えへへ、ありがとね、魔法使いさ……」
「こほん!」
「あうう」
相変わらず、プリンセスは腹芸が苦手だ。
シェナイトさんの咳払いで、申し訳無さそうに縮こまる。
とはいえ、これで話は終了。
シェナイトさんが、プリンセスの横に立って聞いてきた。
「プリンセス、お茶とお菓子のおかわりは必要?」
「あ、うん。お願いしてもいいですか、シェナイトさん」
「解ったわ。それと、貴方は私が離れている間に変なことをしないように」
「しないってば」
相変わらずシェナイトさんは私を警戒しているなぁ。
いいじゃないか、ちょっとくらいプリンセスをからかっても。
といっても、今は普段と違って真面目な話をした後。
あんまりふざけたことを言う空気じゃないな。
「そういえばプリンセスはこの街に来て結構経つけど、生活には慣れた?」
「あ、はい。皆さんすっごく良くしてくれますし、とっても楽しいです。……まだまだ、騙されかけちゃうことは多いですけど」
「気をつけなきゃダメだよ。騙されてるって解ったときには、手遅れな場合だってあるだろうから」
プリンセスの怪力なら、大抵の事態は何とかできるだろう。
でも、もし仮に一服盛られてしまったら。
怪しい魔導具をこっそり使われたら。
いくらプリンセスでも、どうしようもないことはいくらでもある。
一応後者は、発動する時の怪しい気配を察知して、先んじて破壊するってことはできるらしいけど。
前者は、食事をする場所を気をつける、くらいしか方法はないだろうな。
実際、プリンセスはシェナイトさんや私と一緒じゃない時は、ギルドでしか食事をしないそうだ。
シェナイトさんの言いつけだろうけど、それがいいと、私も思う。
「ま、魔法使いさんも……無理、してませんか?」
「無理? 無理かあ。してるつもりはないかなぁ。だってほら、普段は色々と楽をして適当に生きてるわけだし」
「……適当には、生きてると思います」
「お、プリンセスも言うねえ」
「あ、あう! え、えっと……その、ご、ごめんなさい!」
冗談だよ、と言ってプリンセスを慰めようとしたら、不意に気配。
シェナイトさんが戻ってきたようだ。
3人分のお菓子と飲み物を手に、2人分は私達のテーブルへ。
残る一つは、少し離れた自分のテーブルに置いた。
従者とプリンセスの友人、その間の子みたいな行動である。
「こほん。それで、プリンセスは私をどう思ってるのかな?」
「え、えと……適当、だとは思うんですけど。それでも、行動を選択する理由には意味があるんじゃないか……って」
「まぁ、護衛依頼も新人講習も、回り回って私が住みやすい世界を作るため……みたいなところはあるけどさ」
流石に、それだけを理由に仕事を選んでないよ、と笑う。
護衛依頼をすれば、山賊のような輩から商人を守れるし。
新人講習で、新人が強く真っ当な冒険者に育てば、山賊なんてことをする必要のある人間だっていなくなる。
確かにそういう側面もあるけれど、それだけで世界が変わるとも思っていない。
「もっとわかりやすく、山賊になるような連中を更生させたかったら、冒険者ギルドの職員になるべきだよ。そうして偉くなって、今よりもっと冒険者制度を誰もが恩恵を与れる制度にしたらいい」
「そ、それって……すごいことですよね」
「そう、すごいこと。でもまぁ、私にそこまでの知恵はないし。何より冒険者制度は今でも十分、そういう連中を拾い上げられるようになってる」
正直、私にこれ以上この世界を良くするような行動は取れない。
冒険者制度は既に完成されているし、それがあっても冒険者にならないやつはならないし。
何より――
「順風の守り手がどれだけ奴らを殺しても、人の中の悪意が消えるわけじゃないんだから」
「……そう、ですね」
「ま、そんなことよりさ。お菓子食べようよ。シェナイトさんがせっかく持ってきてくれたんだから」
何にしても、この話はこれでおしまい。
もうちょっと、話していて楽しい話をしよう、と私は話題を切り替える。
それから、少しずつ話題を明るいものにしていって。
その日のお茶会は、最終的になごやかなものに終わるのだった。
――順風の守り手が動くのは、その後だ。