風魔術だけでも異世界は楽しいです ~美少女転生からのちょうどいいスローライフ~ 作:暁刀魚
ダンジョンは便秘である
私、フーシャは異世界にTS転生した風属性の魔術師だ。
”ちょうどいい”をモットーに、毎日をそれとなーく平和に生きている。
今の生活に至るまで、色々と大変なことも有ったけど。
現在は周囲に恵まれて、そこそこ楽しく毎日を送っているつもりだ。
そんなお気楽で、適当で、たまに若い子の脳を焼いちゃったりする自由人と周囲から思われている私だけど。
現在、一つのことに悩んでいた。
いや、別に私個人の悩みではないんだけどね。
個人の悩みで言ったら、順風の守り手関連のアレヤコレヤは区切りをつけることはできても、解決できる問題ではないし。
悩んでも仕方ないのだ。
じゃあ何に悩んでいるかと言ったら。
「……やっぱこれ、詰まってるよなぁ」
眼の前で起きている、風の”淀み”とでも言うべきものだった。
それはなんというか、地面の中から外に出ようとしている気配があって。
一言でいうと、”詰まっている”と表現する他無いものだ。
私は風鳴りという、風属性に対して極端な適性を持つ魔術師なのだけど。
風属性は、基本的に”探知”に優れた属性だ。
魔力の流れや気配の流れを、風として感じ取ることができる。
そんな私が、その場に溜まった風の流れを感じ取っていた。
一言で言えばそれは、一般的にこう表現される状況だった。
「ダンジョンが便秘だぁ!」
――ことの発端は、少し前。
「……ダンジョンのイレギュラーが解決しない?」
「みたいだね。以前から、タイラントの予兆と見られる想定外の魔物の出現は何度も確認されていたが……」
「それがまだ収まっていない、と」
私はギルドの一角で、ちょうど行きあったルークと昼食を取っていた。
チーム『モクゾー』の魔術師。
口は悪いが、根はいい子なルークである。
「私はダンジョンに詳しくないからなぁ、そんな事になってたんだ」
「流石に詳しくなさすぎだろ、ここ数日結構話題になってたぞ?」
「数日がかりで、護衛依頼をこなしてました」
ああ、と私の言葉にルークが頷く。
先日まで私は、商人の依頼を受けて遠くの街まで出かけていたのだ。
それは普段なら隣町までの往復で済むところを、更に別の街まで移動する結構長期的なものだった。
「ちなみに、これがお土産のプリンね、保存容器に入れてきたから今でも新鮮な美味しさだよ」
「……三つ分あるならいただくが」
「知り合いの分は、全員分買ってきたから安心して」
「感謝する」
目的は、このプリンを買うためである。
最近、その街ではとあるパティシエが新作プリンを開発したとかで、随分と噂になっていた。
それを食べるために、わざわざ依頼を受けて長期の遠征を行ったんだよね。
これを思い立ったら実行できるのは、実に自由気ままなちょうどいい生活だ。
さて、話を戻そう。
「で、ようするに……ダンジョンが便秘なんでしょ?」
「僕はその言い方は余り好かない。品がないだろ」
「冒険者に品性を求めちゃだめだよ。男はケダモノなんだから」
一般的に、ダンジョンの異常現象――タイラントと呼ばれる魔物の大発生は定期的に発生する。
それは少し前から予兆として、本来なら出現しないはずの魔物が、出現しない場所にポップするという自体が発生するんだけど。
ここ最近、どうにもそれが不定期に発生しているらしいのだ。
以前、私はプリンセスやシェナイトさんと「今回のタイラントは不発になりそう」なんて話をしたけど。
残念ながら、話はそこまで単純ではないらしい。
予兆は収まることを知らず、今も続いているというのだ。
「ってことは、溜まったものがそのうちどばーって吹き出るわけだ」
「言い方をどうにかできんのか。……まぁ、そうなるだろうな」
「大変だねぇ、ダンジョンの冒険者さんたちも」
タイラント自体は、冒険者にとって喜ばしい現象だ。
何せ魔物をいっぱい倒せばそれだけ儲かるから。
タイラント中は珍しいアイテムがドロップすることもある。
普段なら、冒険者もこれを大層喜ぶだろう。
でも、便秘は違う。
溜まって溜まってたまり続けた魔物の勢いは、通常のタイラントの比ではない。
対処しきれず、街に魔物が溢れたら大惨事だ。
「ギルドは、遠方から二つ名持ちの冒険者を雇って、これに対処する予定らしい」
「へー。私の知り合いも来るかな?」
「知らん。ただ――君も無関係ではいられないんじゃないか?」
「私が?」
そりゃまぁ、一人の冒険者として便秘タイラントに対応するつもりはある。
プリンセス達に頼まれたら、頑張って下層に潜ろうかな、なんて。
考えはするのだが――
「……まず、君だって二つ名持ちの冒険者じゃないか」
「おお、そういえば」
「忘れてたのか!? いや嘘だろ!? その白迅という二つ名は飾りか!?」
言われてみれば、私は二つ名持ちの冒険者だった。
二つ名、この世界における一流冒険者の証。
私も白迅という二つ名を与えられている。
白迅のフーシャ、なんだか少し自分には似つかわしくない響きだ。
とはいえ。
「まぁ、それは冗談として」
「全く冗談に聞こえんぞ! ……それと、先日からギルドのクエストボードに、一つ依頼が張り出されていた」
「依頼?」
「――君への指名依頼だ」
指名依頼。
ギルドが直接私に呼び出しをかけている、ということだ。
おそらく、私が長期遠征をしている間に張り出されたのだろう。
もし私を見かけたら、依頼が発生していることを伝えて欲しい。
なんて依頼書には書かれているそうな。
さて、ここまでの流れを考えれば、この依頼がなんであるかはすぐに察しが付く。
ようするに――
「……私にダンジョンが便秘かどうか、見てこいってこと!?」
ええー、めんどくさーい。
なんて、いくら怠惰でちょうどいいが信条な私でも、「ちょっと見てくるだけだから」と言われてノーと返せるわけはないのだった。
+
――結果、ダンジョンが便秘であることを突き止めたまでは良かった。
私はあの後依頼を受諾し、ダンジョンの最下層に向かった。
ダンジョンの最下層にはボスがいるのだが、私はそのボスをすでに討伐している。
なので現地では、魔力の流れから便秘になってるかどうかだけを確認すればよかったのだが。
ここでイレギュラーが発生した。
「なんでこんな時にドラゴンが出てくるんだよ! しかも火竜!」
魔物が湧いてしまったのである。
火竜、スマートなフォルムの西洋竜って感じの見た目で、炎を吐いてくる凶暴なドラゴンだ。
この世界に置けるドラゴンの代名詞でもあり、冒険譚ではちょうどいい中ボスとして結構気楽に配置される。
だけど、現実に現れると二つ名持ちが一人で倒すにはちょっと荷が重い相手だ。
「私は二つ名持ちのなかでも、下から数えたほうが早いくらいの強さってことになってるんだぞ!?」
飛んでくる炎のブレスを、風で舞いながら回避する。
ぴょんぴょんと飛び回りながら、ドラゴンを撹乱していた。
ここから取れる選択肢は三つ、一つは最下層から上の階層に上がってドラゴンをトレイン、他の冒険者と協力し討伐する。
もう一つは討伐する。
実は私は、実力をかなり隠している、とっても強いのだ。
火竜くらいなら、倒そうと思えば普通に倒せる。
そのうえで、それをギルドに報告するか否か。
「まずトレインはなし、他の人に迷惑かけたくない」
倒せるんだから、自分で処理するべきだ。
そして後は、報告するか隠蔽するか。
一見するとこれは隠蔽したほうが楽に思える。
どうせバレやしないのだ、黙っておいたほうが実力は隠せるだろう。
でもそうすると、ギルドは火竜が湧いてくるような危険な便秘だと判断できない。
結果として、誰かに被害が出たりするのはなんというか――
「……うん、ちょうどよくない」
決めた。
倒す、その上で報告する。
ただし――
「
実際はそんなこと一切ないのだけど。
そういうことにしてしまえば、話は早い。
私は実力をごまかせるし、ギルドは危険を察知できる。
まさにウィンウィン――ちょうどいいってやつだ。
「――風刃!」
早速私は、反撃に移る。
周囲に無数の風の刃を生み出し、それを回転。
数は一つや二つどころではない。
十、二十、三十と勢いよく増えていく。
暴れまわるドラゴンも、周囲の異様な光景に気づいて動きを止めた。
でも、それは失策。
「やぁ!」
私は即座に、生み出したとんでもない数の風刃で、ドラゴンを一気に切り裂いていく。
凶暴と呼ばれているドラゴンが、冒険者にとってはあこがれとも言われる大型魔物が。
――一瞬にして、粉微塵となった。
「ま、こんなところかな」
風が吹き荒れる、なびく髪を手で抑え、ドラゴンの消失を見守った。
無茶苦茶な倒し方をしても、ダンジョンの魔物は倒されると消えるから証拠隠滅が簡単。
というのも、私が討伐を選んだ理由の一つ。
――かくして、私はギルドに「ダンジョンが便秘である」と報告した。
便秘タイラント――正式名称”暴走タイラント”の発生。
それは、私が暮らすカザルマの街に、新たな風を吹き込むこととなるのだけど。
それはまだ、少し先の話。
というわけで、風属性TS魔術師、再開します。
ゆっくりペースです。
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