風魔術だけでも異世界は楽しいです ~美少女転生からのちょうどいいスローライフ~ 作:暁刀魚
私はプリンを買うために遠出をしていた。
それから帰ってきてすぐに、便秘調査だ。
で、帰ってくると同時に――
「――あなた、プリンセスをどこへやったの」
シェナイトさんに詰め寄られた。
何事!?
「シェナイトさん!? とりあえず私を悪者にしようとしてない!?」
「否定はしないけど、今回は証拠があるのよ」
シェナイトさん、プリンセス・シェフィの護衛兼従者兼親友。
過保護なところがあって、プリンセスが私に誑かされているんじゃないかと思っている。
まぁ、たぶらかしているのは概ね事実なんだけど。
それはそれとして、今回は冤罪だ……!
「これ」
「えーとなになに……『魔法使いさんのプリンがとっても美味しかったから、私も買いに行ってきます』……プリンセスがプリンを!?」
「巧いことを言ったつもりにならないで」
原因は、どうやら私が買ってきたプリンのようだ。
あのプリン、便秘依頼へ向かう前に知り合いへ配ったのだけど。
プリンセスがドハマリしてしまったらしい。
いやプリンセスはご飯は一杯食べるタイプだし、甘いものも大好きだけど。
まさかそんな行動を起こすほどとは思わなかった。
「私用の予備がまだ結構あったのに……!」
「どれくらい?」
「二十個」
「太るわよ」
シンプル罵倒が飛んできた。
いやぁ私って太らない体質だしぃ。
というか単純に冒険者は運動量多いからそうそう太らないしぃ。
ちなみに、この世界の魔術で作られた保存容器は非常に便利なので、できたてのプリンが一年は保存できます。
便利ぃ。
「とにかく、プリンセスを追わないといけないわけだ」
「ええ、プリンセスのことだから身体強化での全力移動で街を目指しているはずだわ」
「……私の飛行魔術じゃないと、追いつけないってことか」
多分それは、今日中に帰って来る算段なのではないかと思うのだけど。
私も予備のプリンがなくなったら、今度からは飛行魔術で行ったり来たりする予定だし。
私もめちゃくちゃハマってる? それはまぁ、そうね。
「このままプリンセスを一人で移動させてみなさい。謎の魔物の足跡が問題になって、最悪国が動くわよ」
「もしも仮に赤鷲が動く事態になったら……絶対私まで大目玉だよ!」
プリンセスが身体強化でどしーんどしーんと走ったら、衝撃で地面が陥没しかねない。
最終的に怪獣扱いされて、ギルドに討伐クエストが出されたら大問題だ。
もともと協力するつもりはあったけど、そういうことであれば動かないわけにはいかないな。
私達は早速、プリンセスを追いかけて街を飛び出した。
+
「……ねぇ」
「なにかな?」
空の上、二人きりのフライト。
現在の時刻は夕方、あの後ギルドに報告を済ませて私達はプリンセスを追いかけ街を飛び出していた。
夕日が綺麗だ。
「…………どうしてお姫様抱っこなのかしら」
「必要だからだよ」
現在、私はシェナイトさんをお姫様抱っこして飛行していた。
シェナイトさんは、なんだか恥ずかしそうだ。
「まず第一に、飛行魔術で他人を運ぶ場合、運ぶ人間に触れている必要がある。魔術で体を覆うわけだからね」
「手を繋ぐ程度でもいいのでは?」
「それだと制御が難しいんだよ。いや、私は風鳴りだからできないわけじゃないんだけど、わざわざ手間を増やす必要はないでしょ?」
飛行魔術は、簡単に言うと風の膜で身体を覆って、膜を動かす魔術だ。
風の膜は身体に触れているものしか覆えない。
そして触れている面積が低いほど制御が難しくなるから、手を握るよりも抱えたほうが圧倒的に楽だ。
「なるほど」
「うんうん、なのでこの持ち方はとても合理的なんだよ」
「――別に後ろ手に抱える形でも、問題ないのではなくて?」
「…………あ、見てみてシェナイトさん夕日がきれ……いだだだだ! ほっぺたつねらないで!」
制御が! 制御が乱れるから!
まぁ乱れないけど。
それはそれとして、後ろ手に抱えるってつまりおんぶなんだけど。
それはそれで文句言ってくるんでしょ、解ってるんだからね!
「とにかく。今はプリンセスのことよ。……そろそろ街に着くわね」
「それなんだけどシェナイトさん」
「なにかしら」
話が正常な方向に戻ったことで、私はようやくあることを報告できる。
さっきから、私は話をしながら周囲に探知を行っていたのだ。
結果として――
「――プリンセスの反応がどこにもない」
「……なんですって」
「もうすでに街も探査範囲に入ってるけど、そこにもいないみたい」
ようするに、つまり。
それは、アレだ。
「――プリンセス、迷子だよこれ」
その言葉に。
「――――ッ!!」
「あ、シェナイトさんの顔が真っ青に」
気持ちはわかるけど落ち着いて!
「これが落ち着いていられないわよ! プリンセスが迷子になったら、最悪野盗の類に襲われて――」
「うっ」
「――殲滅した結果、プリンセスが順風の守り手ということになってしまうわ!」
「そいつはまずいな!」
プリンセスは私と違って、正体を隠すための装備とかもないんだから。
素で殲滅したら、あっというまに正体がバレてしまう。
どうでもいいけど、プリンセスが負けることはありえないって思ってるんだねシェナイトさん。
――さて、プリンセスはおそらくプリンの街とは全く違う方向に向かっている。
じゃあどこに行ったのかと言えば、正直判らん。
カザルマの街から出発して向かえる街はそう多くないけれど、プリンセスは道を歩いてはいないだろう。
以前、私を追いかけてきた時みたいに道なき道を進んでいるはずだ。
「……そう考えると、あの時はよく道に迷わず私のところまで来られたね。シェナイトさんがナビしたの?」
「していないわ。……プリンセスは事態の緊急性が低ければ低いほど、うっかりが発生しやすくなるから」
天性のギャグキャラ系ドジっ子体質……!
ということは、今回はギャグ回だからひどいことにはならないはず。
野盗の連中がひどいことになるかもしれないけど、それは別になってもいいから問題はない。
「とりあえずどうする?」
「……ここから弧を描いて、反対側まで飛んで。プリンセスは自分の移動速度が解ってるはずだから、予定していた時間にたどり着けなければ道に迷っていると気付くはずよ」
「その言葉、信じるからね」
というわけで、シェナイトさんに言われるがまま弧を描いて反対側を目指す。
途中、少しだけカザルマの街をかすめた。
と、そこで違和感。
だけど答えは出ることなく、プリンセスは見つからず反対側まで到着してしまった。
「……今度は反対に弧を描いて」
「了解……っと。そろそろ夜になるな」
移動時間は、だいたい一時間くらい。
かなり速い速度で飛んでるから、冷たい風で体調を悪くしないよう膜を厚くしないといけないな。
なんてことを考えつつ、更に飛行。
そしてもう一度カザルマの街の近くを通って――そこで私は気がついた。
「――ねぇ、シェナイトさん?」
「何? 急いでくれるかしら、プリンセスがもしもドラゴンなんて討伐してしまったら――」
私はふと、空中で立ち止まる。
そして、カザルマの街がある方向に視線を向けた。
「……プリンセス、カザルマの街にいるんだけど」
「えっ」
世にも珍しい、シェナイトさんの素の声が聞けた。
ラッキー。
……ではない。
こればっかりはちゃんと確認しなかった私も悪いんだけど。
「――プリンセスが買いに行ったプリンって、カザルマの街で売ってるプリンだったんじゃない?」
「……………………」
「……………………」
「…………………………………………」
……なにか言ってよ!
重い沈黙が続いた後。
「…………ごめんなさい」
と、か細く呟くシェナイトさん。
その様子は、お姫様抱っこしているということもあってか、これまで見てきたどのシェナイトさんよりも可愛かった。
個人的には、これが見られただけで大満足だよ。
――なお、カザルマの街に戻った私とシェナイトさんを、何も知らないプリンセスは笑顔で出迎えてくれて。
私達は三人でおいしいプリンに舌鼓をうつのだった。
タイトルの割にプリンセスの出番が……!