風魔術だけでも異世界は楽しいです ~美少女転生からのちょうどいいスローライフ~   作:暁刀魚

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世界はもっと美少女であるべき

「おねーさん、あたしって美少女だと思いませんか?」

 

 町中を歩いていたら、不意にそんな胡乱なことを聞かれた。

 先日も町中でダリルに声をかけられたが、最近はそういう事が多いな。

 一つ違いがあるとすれば――今私に声をかけてきた人物は、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ことか。

 結構な異常事態だ。

 私の風探知はかなり優秀で、私に意識を向けている人間がいれば確実に察知する。

 これをすり抜ける人物がいるとすれば、私の無意識下における探知よりも隠密が得意な人物だけ。

 ただまぁ、今回は声をかけてきたのが知り合いだということはわかりきってるので、問題ない。

 

「……以前より、更に美少女になったんじゃない?」

「きゃあ☆ フーシャさんったら、お世辞が巧いんですから」

 

 えらく甘ったるい少女の声だ。

 この世界に、そんな声音で喋る人間はおそらく一人しかいない。

 振り返ればそこには、黒耳フードとゴスロリが特徴的な、一人の少女が立っていた。

 美しい黒髪と、私より少しだけ高い背丈。

 私は彼女の名前を知っている。

 というか、それなりに親交のある友人だった。

 

「――クロネ、久しぶり」

「久しぶりです、フーシャさん。フーシャさんも相変わらず美少女ですね」

 

 ”白狼”のクロネと呼ばれる二つ名持ちの冒険者がいる。

 今まさに、眼の前で私を美少女だといいつつ、両手の指を合わせるような感じの美少女ポーズを取っているのがそのクロネだ。

 言うまでもなく、ダリルと話をしたうっかり二つ名が”白狼”になってしまった猫耳フードの冒険者である。

 

「いつの間にこっちに戻ってきたの?」

「昨日の夜頃ですよ。あたしぃ、フーシャさんほどじゃないけど身軽なタイプなので、ぱぱっと来ちゃいました」

「一年ぶりの凱旋だね」

 

 二つ名持ち。

 一流冒険者の証であるその称号を持つものは少ない。

 少なくとも、この街を拠点にしている二つ名持ちは私だけだ。

 しかし、この街出身の二つ名持ちは、私以外に何人かいる。

 出身っていうのは生まれ故郷って意味じゃなく、カザルマで冒険者になった人って意味ね。

 んで、その一人がクロネだ。

 

「最近のクロネは何してるの?」

「えーっとぉ、王都で活動してました。王都のダンジョンに潜ったり、後輩の稽古つけたり」

「あっちは賑やかそうだよね」

「そうですねぇ。あ、一番受けた任務は王侯貴族のお子さんの指南役ですね☆」

「私のコネを活用しているようでなにより」

 

 クロネは見ての通り見た目がいい。

 なので、お偉いさんからのウケが良いのだろう。

 私というコネを持つ二つ名冒険者でもあるしね。

 

「まぁでも、一番は新しい冒険譚の出版準備ですねぇ。もうこれ、ほんっとうに大変なんですよ? 完成したら販売イベントもやらなきゃですしぃ」

「冒険譚の販売イベントをやる冒険者なんて、クロネくらいだと思うけど」

「そこはほら、私が美少女だから仕方ないっていうか」

 

 そんな二つ名持ちで貴族連中の覚えもめでたいクロネだが、一番の特徴といえばやはりそのアイドル的な人気だろう。

 美少女を自称するだけあって、その容姿はまさに傾国級。

 加えて自分を美少女だと世界に認めさせるために、冒険譚も自分で執筆したり。

 冒険者が関わるイベント――例えば、武闘大会みたいな――にゲストとして積極的に参加したり。

 無論、冒険者としての活動も積極的だ。

 未踏破のダンジョンの攻略に参加して、存在感を発揮したり。

 少なくとも、カザルマで講師と護衛ばっかりやってる私よりも、ずっと冒険者らしい冒険者と言えるだろう。

 そもそも冒険してないと、冒険譚の元になるエピソードが作れないし。

 

「いやほんと、よくそこまで頑張れると私は思うよ。ちゃんと休めてる? 睡眠時間削ったりしてない?」

「睡眠って、回復魔術で代替できませんか?」

「こわっ。私はできないからね、風鳴りなんだから」

「いい回復ポーション知ってますよ?」

「だから怖いって!」

 

 つまり寝てないってことじゃん!

 私は寝るからね、毎日八時間ぐっすりが理想だからね!

 といってもまぁ、この世界は本当に回復魔術や回復ポーションで疲労や睡魔を後遺症なくなんとかできてしまうので。

 人によっては、前世よりもやばい生活を送ってる人とかいる。

 一国の王様とかね。

 中には、王様になってから一生睡眠を取ることなく、老衰で死んだ王様とかいるらしい。

 寝ないほうが暗殺への対策がしやすくなるとか、そういう理由なんだけど。

 文字通り世界が違うなぁ。

 

「もちろん、私だって睡眠の重要性は理解していますよ? 回復ポーションで肉体は健康でも、精神までは回復できないんですから。美少女が美少女でいるための睡眠は取っています」

「そ、そう……」

 

 ならいいんだけど。

 でも、必要なら回復魔術で睡眠スキップするんだろう。

 とにかく、クロネは美少女であることにこだわりのある冒険者ということだ。

 ところで「後輩への稽古」って言い回しが少し気になるって?

 そこはまぁ……そのうちね。

 

「んで、クロネが戻ってきたのってやっぱり、ギルドに呼ばれたから?」

「そうなんですよぉ。何でも、カザルマ出身の二つ名持ち全員に声を掛けるつもりらしいですよ?」

「ああー……ってことはあいつらとかあの人とかも街に来るかもしれないのかぁ」

 

 カザルマの街に常駐している二つ名持ちは私だけだが、カザルマ出身の二つ名持ちは結構多い。

 不思議とカザルマは「新人冒険者の街」と呼ばれることがあるが、そもそも新人が集まりやすい理由はカザルマから輩出された二つ名持ちが他より多いのも理由だと思う。

 先人にあやかりたい、ってわけだ。

 そこに加えて、講師業に力を入れてる二つ名持ち――つまり私がいると、更に人が集まるんじゃないか?

 やっぱり私がこの街に新人を集める原因の一つ?

 ……話がそれた。

 

「来ない人は絶対来ないと思いますけど、来る人はだいたい来るんじゃないですかぁ?」

「クロネもそうだけど、皆一年近くカザルマに帰ってきてないしね」

 

 なんというか、タイミングがよかったのだ。

 これが一ヶ月くらい前に帰ってきてた二つ名持ちがいたとして、出発してすぐに呼び戻されたら面倒くさいだろう。

 結構な数の二つ名持ちが、しばらく街を離れていたことで二つ名持ちの集まりはいいはずだ。

 

「ま、それだけ危険が多いってことだろうけどね。ダンジョンのべ――」

「――――フーシャさん」

 

 と、そこで。

 クロネが何やら笑みを浮かべながらずいっと私の顔を覗き込んできた。

 圧が、圧が強い。

 

「それ以上は、ダメです」

「え、いやでも普通に言うでしょ、ダンジョンのべん……」

「ダメです。普通に言うからって美少女がその先を言っちゃダメなんです」

 

 しまった。

 クロネは美少女が美少女であることに、強いこだわり(迂遠な言い方)を持つタイプだ!

 ダンジョンの便秘なんて、公文書で使われないだけでギルドですらそう呼んでる呼称なのに!

 

「考えてみてください? その単語のことを知らない人に、どうやって説明するんですか? 美少女にその言葉を説明されて喜ぶ変態さんだけじゃないんですよ!」

「その言い方はそれはそれでどうなの!?!」

 

 いや、理解はできるんだけどさ!

 

「――今回、アタシがこの依頼を受けたのは、この件を冒険譚にする時あの呼び方を使わず、正式名称である暴走タイラントの名前を普及させるためです……!」

「うわぁ、なんて気高いのに俗に聞こえる理由なんだ……!」

 

 お、応援はしてます!

 あと、私も以後便秘っていう呼び方は場所を選びます……!

 というわけで、カザルマの街に世界を美少女で満たしたい二つ名冒険者のクロネがやってきのだった。




今回の新章は濃いめのキャラが多いです。
二つ名持ちだからね、しょうがないね。

評価、感想、お気に入りをいただけますとフーシャが更に美少女になります。
よろしくお願いいたします。
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