風魔術だけでも異世界は楽しいです ~美少女転生からのちょうどいいスローライフ~ 作:暁刀魚
私の普段の仕事は、護衛依頼か新人の講師だ。
でも、どちらも需要と供給が存在しなければ発生しない依頼。
本来冒険者というのは、受けられそうな依頼をどんどん受けていくものだ。
討伐に、採取に、護衛。
種類を選ばなければ、依頼の種類は多種多様。
仕事が途切れるなんてことはない。
けど、時には受ける依頼がないときもある。
そんな時はどうするか。
ダンジョンに潜るのだ。
ダンジョン、異世界にはよくあるもの。
この世界のダンジョンの仕様はモンスターは常時湧いてくる、宝箱は周期的にリセットされる。
上層、中層、下層とあって、それぞれの層の最深部にはボスがいる。
だいたいこんな感じだ。
世界観的な話をすると、この世界のダンジョンは一種の生き物であるらしく。
人間を宝箱や魔物の素材で釣って、それに釣られた人間を殺して食べるらしい。
なのでダンジョンで死ぬと、体が取り込まれて死体が残らない。
装備なんかも残らないので、伝説級のマジックアイテムとか持ってる冒険者が死ぬと、結構な損失だ。
代わりに、人間側もそんなダンジョンを都合よく利用している。
なにせボスを倒すと、以降その場所に転移陣が発生。
ボスを倒したことのある冒険者は転移陣を使ってショートカットできるように、ダンジョンを品種改良してしまったのだ。
恐るべし、人類の欲への探求。
「よっと」
――迫りくるコウモリ型の魔物を風で吹き飛ばす。空を飛んでいる魔物は風で飛ばしやすくて助かるな。
というわけで、やることのない私はダンジョンへ潜っていた。
私の仕事はどうしても、必要としている人がいないと発生しない。
なのでそれがない日は極力ダンジョンへ潜るようにしている。
ダンジョンに潜らない日が二週間以上続いたら、仕事があってもダンジョンを優先する場合もあった。
緊急性がある場合は除くけどね。
「――風刃よ!」
――風の刃が、吹き飛ばした魔物の翼をまとめて切り裂いた。いっちょ上がりだ。
というのも、冒険者の多くはダンジョンに潜る。
冒険者イコールダンジョンといっても、そこまで間違いではない。
しかし、ダンジョンを冒険する感覚とそれ以外を冒険する感覚はまるで別物だ。
ダンジョンには魔物が常に湧いて出る。
しかもトラップの類まであって、常に緊張を続けないといけない。
代わりに、「エスケープクリスタル」なんてものがあって、これを使うといつでもダンジョンを脱出できるのだ。
しかも次にダンジョンを潜る時、転移陣を利用して脱出した階層からスタートできる。
つまり、何日もダンジョン内を彷徨うことはない。
対してダンジョン外は魔物がそこまで湧いてこない。
常時緊張状態である必要はないが、依頼が一日で終わることは稀だ。
そうなれば、長い時間周囲を警戒する必要があったり。
夜は野宿で安全に寝られない場合もある。
私の場合は、ほとんど外の依頼が専門だけど、ダンジョンでの依頼を受けることもある。
なのでそういうときのために、ダンジョンの勘を忘れないようあえてダンジョンへ潜る日を設けているのだ。
基本的には週に一回。
これが、ダンジョンの勘を忘れないちょうどいいルーチンといえる。
「……ん」
倒した魔物は、ダンジョン内だと溶けるように消える。
これは魔物がほんとうの意味で魔物ではなく、ダンジョンが生み出した魔力の塊みたいなものだからなんだけど。
倒すと何故か素材の一部をドロップするのだ。
これがダンジョンでの報酬の一つになる。
なので倒したコウモリ魔物の牙を回収していると、ふとあることに気付いた。
「……誰かが、魔物に襲われてピンチになってる?」
私の風を感じ取る感覚は万能だ、遠くで発生した緊張状態を感じ取ることができる。
しかしそれにしても――
「ここは上層なのに、ここまで緊迫した風が流れること、ある?」
上層、一般的に魔物は弱く報酬も少ない。
私にとっては、ぬるいなんて場所ではないのだけど。
それでも私が上層に潜るのは――
「なら、私がいないとまずいか」
こういう、上層では起こらないはずのピンチを察知するためだ。
「――風足よ!」
――魔術を起動して、駆ける。足に風をまとわせて、跳ねるように高速移動するのだ。
私には、周囲の気配を察知する”風”がある。
それを使えば、こうしてダンジョン内の窮地を察知することも可能。
これはギルドからも直々に頼まれていることで、窮地を救えば臨時報酬が出る。
私はダンジョンの勘を維持できる。
新人冒険者は命が助かる。
ギルドは新人冒険者を守れる。
あとついでに私はギルドへ恩を売れる。
誰もが利益を得られる、「ちょうどいい」依頼。
まさに、私向けな依頼だ。
『――逃げろ、リフィア! このことをギルドに伝えるんだ!』
『ダメよ、そうしたらダリルあんた、死んじゃうでしょ!?』
声が聞こえてくる。
聞き覚えのある声……というか、アレだ。
以前新人講習をした時に、ゴブリンの接近に気づいた優秀な少年少女じゃないか。
その二人が、下手したら死ぬような相手と戦ってる?
損失なんてもんじゃないぞ。
全然ちょうどよくない!
「らああ!」
足に力を込めて、加速した私は一気に二人の下まで到着する。
ふたりともかなり疲弊した様子で、一体の魔物と対峙していた。
そこにいたのは――ミノタウロス!?
上層のボスクラスの魔物じゃないか、こんなところに湧いてくるわけない相手。
まさか、タイラントの時期が近いのか?
――なんでもいい!
「――避けて!」
叫び、二人のそばを通り抜ける。
風の勢いに乗って跳ねてきたから、ほとんど二人を飛び越える位置だったけど。
まぁ、助けに来たのを伝える意味でも叫んでおいた。
そのまま、
――勢いよく、ミノタウロスの牛面に蹴りを叩き込む。
風足魔術。
風を足にまとわせて、高速で跳ねて移動する魔術。
これの利点は、そのまま風を利用して敵に蹴りを叩き込めること。
私くらいになれば、上層ボスのミノタウロスを蹴り飛ばすくらい容易だ。
「え、あ……」
「な、ちょ……」
少年少女が、目を見開いてこっちを見ている。
私はそのままふわりと二人の前に着地すると、視線で下がっていてと促す。
「さてと」
私は基本、実力を隠す方だ。
先日の商人一家護衛のように、実力をひけらかすようなことはしない。
でも、完全に見せないわけでもない。
ちょうどいい塩梅、強すぎず弱すぎず。
ソロでやっていくのに十分な実力があると周囲に思わせるような。
そんな実力。
「ちょうどいい相手だ、全力でいかせてもらうよ」
上層ボスのミノタウロス、なんて。
まさにうってつけではないだろうか。
起き上がったミノタウロスは、頭を振ってから得物のでかい斧を構える。
それに私は、風の弾丸を無数に浮かべて、ちょっとだけ不敵に笑ってみせた。
+
まぁ、実際の私の全力とミノタウロスくんには圧倒的な差があるので、危なげなく完勝できるんですけどね。
「大丈夫かい、ふたりとも」
「え、あ……」
「あう……」
戦闘が終わると二人は、顔を真っ赤にしてこちらを見ていた。
なんというか、アレだ。
……うん、またやってしまったなぁ。
「大丈夫そうだね。……とりあえず、二人が無事で良かった」
「は、はひぃ」
「あ、ありがとうございます」
こうやって、上層で新人冒険者を助けていると。
彼らにとって、私の姿は鮮烈に映るらしい。
結果として、こう……アレだ。
私はよく、青少年の憧れをめちゃくちゃにしてしまうらしい。
「それと、どうしてエスケープクリスタルを使わなかったの?」
「あ……っ」
「かなりの極限状態で、使うって選択肢が浮かばなかったのはわかるけど、絶対にまずいって状態になったら即エスケープ、講習で教えたはずだよ」
「ごめんなさい……」
そんな私を指して、誰かが言った。
私の風属性魔術と、この世界の風属性魔術を使った前世で言う掃除機の類似品”バキューム”をあわせて。
「謝れるなら、よし。二人は絶対優秀な冒険者になるから、ここで死ななくて本当によかった」
「……は、はい!」
「ありがとうございます!」
青少年の憧れバキューム。
これ、私文句いってもいいんじゃないかなぁ。
なお、青少年の憧れをバキュームする要因は他にもう一つあるんだけど。
このときの私はそれを、知る由もないのだった。
なんかこう……衝撃的な出会いというか……