風魔術だけでも異世界は楽しいです ~美少女転生からのちょうどいいスローライフ~ 作:暁刀魚
冒険者ギルドが騒がしい。
何やら、人がいつもより集まっているようだ。
基本的に交流が断絶している冒険者の男性陣と女性陣が、ともにギルドに集まっているということは何かあったのだろう。
ただ、気配からして悪いことが起きた感じではない。
考えられることとしては、クロネがギルドにやってきたか。
彼女のアイドル性は本物なので、男女問わず彼女のもとには人が集まる。
しかし、すでにクロネがやってきてから一週間は経過しているので、もうギルドに彼女がやってきても周囲は落ち着いているはずだ。
ここ一年で新人になったダリル達みたいな若い子はともかく、他の冒険者はクロネがここの出身だと知っているのだから。
「人が集まる原因は……修練場の方にいる、かな?」
周囲の風を読み取って、なんとなく気配を探る。
どうやら人々は修練場の方に集まっているようで、自然と私の足もそちらに向いた。
今日はなにかおもしろい依頼がないか見に来ただけなので、面白い事件が起きているならそちらを優先するのだ。
で、修練場にやってくると――
「誰かが模擬戦をしてる感じだな、こりゃあ」
人が集まって、歓声を上げていた。
誰と誰が戦っているのかは、人だかりのせいでよくわからない。
私は風の流れを読んで、人だかりの中を他人に迷惑をかけないよう抜けていく。
時折知り合いと挨拶をしながら、やがて戦いが見られる位置までたどり着いた。
そこでは――
「ぎ、偽弾よ!」
ルークが、偽弾――模擬戦用の魔術を展開させていた。
それはいつぞやの、私と決闘をした時と同じ大量偽弾生成だ。
ただ、数は明らかに以前よりずっと多くなっている。
”白迅”としての私が対処するには、結構ギリギリの数だな。
流石ルーク、上達が早い。
しかし――ああ、うん。
今回はちょっと相手が悪いかもな。
「はーはっはっはっは! 見事!」
そこには、白銀の鎧をまとった騎士がいた。
身長は軽く2メートルくらいある、それはもうスペシャルな美丈夫。
逆だった金髪も相まって、まさに騎士様という呼び方が似合う男だ。
そんな男に、無数の偽弾が迫る。
男の手には、身長に見合ったサイズの木剣。
結構な長さのグレートソードを、男は一息にふるった。
その瞬間――
「なっ――」
まさか、いくらなんでも全て一振りで吹き飛ぶとは思わなかったのだろう。
ルークは驚愕をあらわにし、それが致命的な隙となった。
いやまぁ、ルークのアレは完全に切札だから、それが吹き飛ばされた時点でチェックメイトなんだけど。
詰めが甘い、と後でケイマとキョウに怒られそうだ。
ともあれ、その間に男が一気に近づいて、ルークに剣を突きつけて停止。
「……まいった」
「うむ、良い戦いだった。感謝する」
模擬戦に決着がついた。
周囲から歓声が上がる。
結果だけ見れば一方的な戦いだが、ルークへの健闘を称える声が多い辺りかなりいい感じに戦ったのだろう。
なんだかんだ言って、ルークは優秀な魔術師で使う魔術も派手目だからな。
周囲としては見ごたえのある戦闘だったはずだ。
さて、彼がこうしてこの街に戻ってきたからには、誰かしら知り合いが声をかけるべきなのだろうが。
周囲に私以外の知り合いはいない。
ということはここは、私が声を掛けるが正解か。
「――エドモンド、久しぶり」
「おや、この声は――フーシャ殿」
エドモンド。
それがこの騎士様の名前であり、私と騎士様は知り合いだ。
何せ彼も――
「――この”光騎”のエドモンド、久方ぶりの故郷カザルマへ帰還致しました」
カザルマ出身の二つ名持ち冒険者だからだ。
恭しく一礼してみせた彼は、”
光り輝く騎士様、って感じだな。
「……やはり、君はエドモンド殿と面識があったか」
「そりゃあ同じ街出身の冒険者だからね。それにしてもルーク、エドモンドと戦って健闘したのかい? すごいじゃないか」
「健闘? まさか。完敗だったよ。完全に手も足も出なかった」
肩をすくめて、ルークがそうこぼす。
多分、端から見て戦闘は成立していたけど、本人的には全く太刀打ちできていなかったんだろうな。
「ただ、やはり二つ名持ちの中でもトップクラスの戦闘力を誇るお方だ。学ぶことは多かったね」
「いやはや、それはこちらとしても嬉しい限りだ。ルーク殿、君は間違いなくまだまだ成長する。期待しているよ」
うーん完璧な騎士様。
周囲も、エドモンドがルークを褒め称えたことでルークに対する拍手が起こっている。
なんというか、いい感じにこの模擬戦は終わったようだ。
で、私がわざわざ出てきた理由はここから。
ルークに対する拍手が終わって、一息ついた辺りでエドモンドがすごい勢いでこっちを見た。
「さて、フーシャ殿」
「んぁい」
「――やろうか、一戦」
チャキ、とエドモンドが木剣を構える。
いや木剣だからチャキっとは鳴らないんだけど、イメージとして。
剣を構えたエドモンドの目は、それはもう爛々に輝いていた。
「今すぐできるかい? 仕事が溜まっているならお手伝いするよ。報酬はいらないさ、一戦戦ってもらえたらそれで十分。どうかな? やっていただけないかな? さぁさぁさぁ!」
「……き、聞いてはいたが、エドモンド殿はだいたい誰に関してもこんな感じなのだな」
「バトルジャンキーだからね」
――そう、このエドモンド、バトルジャンキーである。
他者と戦うことが大好きで、いつだって戦いのことしか考えていない。
寝ても起きても、戦い戦いのやべーやつだ。
「当然だとも! 私が目指すところはすなわち! 世界! 最! 強! なのだから!」
対するエドモンドは、世界! の部分でポーズを取って。
更に最! 強! のところでも更にポーズを取ってきた。
どれもこれも耽美で、優雅で、そして力強さを感じる。
そのポーズ自体は昔からやっているが、なんというか随分とキレが増したな。
これもまた、本人が強くなったという証拠なのだろう。
「ん、いーよ。分かった、やろうか」
「おお!」
私としても、久しぶりにエドモンドと戦うことに否やはない。
前にも言ったけど、私は戦闘自体はそこまで好きではない。
けれど、模擬戦や決闘の類は結構好きだ。
単純に、人死にが出ず相手と思う存分体を動かせるというのはなかなか楽しい。
「では、早速やろう、すぐやろう、今すぐだ!」
「僕と戦った後にこのバイタリティ、凄まじいな」
「彼は最強になるって頭につければ何でもできるタイプだからね」
最強になるためって言えば、女装だってためらいなくするタイプ。
なお、筋骨隆々すぎることを除けばかなり似合っている。
顔がいいからなぁ、顔がなぁ。
「というか、勝ち目はあるのかい? 彼は二つ名持ちのなかでも、かなり強い方だろう」
「おっと、それは流石に私を舐めすぎだぞ。確かに私は二つ名持ちの中だと戦闘力は最低限な方だけど、戦い自体が苦手ってわけじゃないんだから」
実際、”白迅”としての私は現在カザルマにいる二つ名持ちのなかで最も戦闘力が低い。
でも、だからといって私が一方的に負けるかと言えば、それは否。
「ここいらで、私が二つ名持ちってことを、周りに見せるのもちょうどいいかもね」
私は実力を隠している方だ。
ただでさえ本気――順風の守り手としての実力を他人に見せることはほとんどない。
加えて白迅としてすら、普段はあまり実力を見せてこなかった。
たまにいるんだよね、私のことを侮っている冒険者。
そういうやつに限って、私にナンパしてきたりするんだ。
最近は便秘の影響で外からの人間が多い。
そういう相手に、私がちゃんと強いってことを見せるためにも。
「よし、やろうか!」
「ああ、存分に!」
ここは、私の二つ名持ちとしての全力をお見せするとしよう!
カッコつけてるフーシャ先生。
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