風魔術だけでも異世界は楽しいです ~美少女転生からのちょうどいいスローライフ~ 作:暁刀魚
――白迅のフーシャ。
カザルマを代表する冒険者で、カザルマに定住する唯一の二つ名持ち。
護衛と講師を主とする働き方の関係上、あまり戦闘力を注目されることはない。
しかしそれでも”風鳴り”という特殊な才能を持つことから、フーシャをよく知る人間がフーシャを侮ることはない。
――対するは、”光騎”のエドモンド。
騎士然とした美丈夫で、世界最強になることを信条とする。
未踏破のダンジョンを踏破したことのある実力者で、中には彼こそ冒険者最強だと思う者もいるほどだ。
当然ながら、その強さは本物で、相対する人間を存在感だけで圧倒してしまう。
一見すれば、勝負は圧倒的にエドモンド有利に思えた。
しかし開幕、この場にいる誰も目に追えないほどの速度で踏み込んだエドモンドの一閃を、フーシャは
「風盾」
一言こぼし、出現した風の盾。
それを迫る剣に”添える”ようにぶつける。
すると、弾き飛ぶようにフーシャが横に飛んで、エドモンドの剣をすり抜けた。
その体は風を舞うように宙を飛んで、見るものが見れば”風足”の魔術を使っていると解るだろう。
そこからも、攻めるエドモンドと受けるフーシャの戦いが続く。
エドモンドの剣は非常に速く、鋭く、見事なものだ。
ルークが戦った時は、ルークが挑む側の相手だったこともあって多少の加減が見られた。
対して今回は、完全に同格同士の戦い。
剣の嵐は苛烈というほかなく、どこまでも鋭くフーシャを狙う。
何と言っても恐ろしいのは、その精密性だ。
この世界の人間は身体強化によって、常人離れした速度と精度で動くことができる。
しかしそれでも、本人の思い描いた剣をそのままの剣筋で振るえる人間がどれだけいるだろう。
イメージをより正確に、鮮烈に描くそのスタイルは一種の芸術とすら言えた。
「うわー、間に合って……ないけど間に合った! フーシャ先生がエドモンドさんと戦ってる!」「む、ダリルか」
人混みをかき分けて、ルークの隣に一人の少年がやってくる。
期待の新人冒険者のダリルだ。
ルークとは、フーシャを通じて知り合った友人同士。
「あー、ルークがエドモンドさんと戦ってるって聞いて、急いで見に来たのに。戦ってる所見られなかったよ」
「その割には、随分楽しそうだな。まぁ、僕の戦いよりあの二人の戦いのほうが参考になるのは間違いないが」
気安い関係だ。
少し年上ではあるものの、根が素直なルークはダリルにとって付き合いやすい友人だった。
「にしてもフーシャ先生、よくあれだけエドモンドさんの剣を避けられるよな。俺、ほとんど剣が見えないんだけど」
「フーシャのやつも見えてないだろう」
「え、そうなの!?」
「アレは見る前から感じ取ってるんだ。風鳴りには、相手の考えていることすら読み取る察知能力がある」
見れば、フーシャの動きはエドモンドが剣を振るうよりも先に行われている。
常に、相手の行動の一手先を行っているのだ。
そこに加えて、風盾と風足は相手の攻撃を遠ざけてしまう。
これではどんな達人だろうと、剣でフーシャに攻撃を届かせることは難しい。
「戦う前は、フーシャがエドモンド殿とまともに戦えるのか少し疑問だったが……これは僕が節穴だっただけだな。フーシャはエドモンド殿と
「確か、エドモンドさんって
「よく知っているな、そのとおりだ。この街だと他にもプリンセス・シェフィ辺りがそうだが……フーシャは近接戦闘しかできない相手とのタイマンにとことん有利だ」
何せ、全ての攻撃を避けられてしまうのだから。
ちなみに、シェナイトは盾によってフーシャの攻撃を通さないだけでなく。
搦め手としての遠距離攻撃を多少有しているので、相性としてはどっこいである。
「でも、フーシャ先生も避けるだけだなぁ。このまま、この状態がずっと続くのか?」
「そんなわけないだろ。正直、フーシャもだいぶ回避に手一杯って感じだけど……それでも布石は撒いている。ただ、今回はそれが上手く行くかは難しいところだが」
ルークがそういった所で、戦闘が動く。
不意にエドモンドの後ろに”偽弾”が発生したのだ。
それはルークが先程やってみせた、戦闘中に偽弾を配置するのとやっていることは同じ。
ただフーシャのそれは、最初は一発からエドモンドに襲いかかる。
一番の違いは――
「――速い!」
速度。
ルークのそれと比べると、圧倒的に速度が違う。
とはいえ、エドモンドも偽弾が飛んでくることは解っていたのだろう、体を軽くひねって回避する。
そしてその回避は一瞬の隙にもならず、エドモンドはフーシャを狙う。
しかし、偽弾が一発で終わるはずもなく。
二発、三発とエドモンドを狙い始めた。
「数はどんどん増えていくよ!」
「解っているとも! 少しずつ増やしてくれるのは、模擬戦を意識してくれているのかな?」
「そっちが速すぎて、速度に慣れてない序盤は展開する余裕がなかったの。また腕を上げたね!」
「そう言われると光栄だ!」
そんな会話をしながら、エドモンドは更に速度を上げ。
フーシャもまた、無数の偽弾でエドモンドを狙う。
戦闘のテンポが、どんどん観客の追いきれない速度になっていく。
偽弾はどんどん数を増し、エドモンドもまた剣速が苛烈になる。
――決着は近い、誰もがそう思った。
「模擬戦は、基本一発でも相手に攻撃を当てた方の勝ち。このまま行けば、いずれエドモンド殿はフーシャの偽弾を躱しきれなくなるはずだが……」
「そう簡単に、エドモンドさんが勝ちを譲るとはおもえないなぁ」
まだなにかある、というのはルークもダリルも思っていることだった。
そして、実際にエドモンドが動きを見せる。
「ぬう!」
高速で剣をふるい――それを強引に風盾へ叩きつけ始めた。
その様子に、ルークとダリルが唖然とする。
「エドモンド殿……無理やり風盾を突破するつもりか!?」
「し、しかも……偽弾を全部弾きつつ!?」
剣は、やたらめったらに四方八方から振られている。
しかしそれは、がむしゃらに風盾を叩いているのではなく、あらゆる所から飛んでくる偽弾を弾くためだ。
結果としてフーシャはその場に釘付けとなり、エドモンドは偽弾を弾きながら風盾を突破するべく剣を振るう。
「……長くは持たないぞ」
「このままだと、エドモンドさんが勝つのか!?」
周囲がエドモンドの優勢を確信する。
やがて、だんだんとエドモンドが風盾を圧倒し――最終的に。
「オオオッ!」
風盾をエドモンドが突破する――
――まさにその瞬間、エドモンドの剣をすり抜けた一発の偽弾が彼の右腕をかすめた。
「……ぬう!」
「よっし、間に合った!」
ガッツポーズをするフーシャ。
一瞬、その場にいる誰もが、何が起こったのか理解できなかったが。
どうやら、勝ったのはフーシャであるらしかった。
+
私とエドモンドの戦闘は、だいたい毎回あんな感じになる。
エドモンドが斬りかかり、私がそれを往なし。
私が偽弾を配置して、それが発射され始めてエドモンドが追い詰められると正面突破に戦法を切り替える。
私が追い詰めているということは、偽弾を大量に設置してその制御に気を取られているからだ。
んで、そこからは設置した偽弾を当てるか、風盾を突破されるかの勝負になる。
今回は私が偽弾を当てて勝利した。
一応、相性差のお陰で勝ち越せているのが現状だけど、今後はどうなるかな。
で、その後は他の冒険者もエドモンドとの戦闘を所望し始めた。
当然エドモンドもそれを受け、修練場は賑わう。
いつの間にかやってきていたダリルもその中のひとりに加わり、楽しそうにエドモンドと模擬戦をしていた。
憧れのエドモンドに戦いを挑むもの、久しぶりに帰ってきた同郷へ成長を見せるもの。
挑む冒険者の背景は、色々である。
私はその間、ルークと二人で外から模擬戦の分析だ。
いや、私としてはそんなにやることはないんだけど、せっかくルークがやる気だし、付き合おうかと思って。
で、夜になったら自然とエドモンドと食事を取ることになった。
そこで――
「いやぁ、相変わらずフーシャの姐さんはつよいっぺなぁ。おらまた負けちまっただよ~」
カッペ口調で話すエドモンドの姿があった。
当然ながら、これを見たことないダリルとルークは口をあんぐり開けている。
「エドモンドはもともと田舎の村の出身だから素はこうだよ」
「い、いやしかし……雰囲気は明らかに高貴な騎士といった感じの……」
「アレは仕事用だべよ。その方が皆がおらのこと信用してくれるから、そうしてるだ」
「昔は、上手く仕事とプライベートの切り替えができてなかったけど、今は完璧だねぇ」
そう、そもそもエドモンドはカザルマの出身だ。
正確には、近くの村出身である。
そんな彼が、如何に騎士様っぽい雰囲気を醸し出していても、中身はこんな感じなんだな。
「というわけでフーシャの姐さん、しばらくお世話になりますだ」
「クロネとイルナやバルクブラザーズも帰ってきてるよ」
「今度挨拶に行くべよ」
さて、こうして――カザルマの街に、代表的な二つ名持ちが帰ってきた。
クロネ、イルナ、エドモンド。
皆なんとも濃いメンツだ。
そんな彼らも加わって、便秘……もとい暴走タイラントが間もなく始まろうとしている。
一体、これからこの街はどうなっていくのか。
こうご期待ってところだな。
一応、今回の話の第一章がここまで、みたいな感じです。
何個か区切りを挟みつつ、暴走タイラントが終わるまでを描く予定です。
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