風魔術だけでも異世界は楽しいです ~美少女転生からのちょうどいいスローライフ~   作:暁刀魚

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週一フーシャ便

 某便の秘密的なアレが近くなってきたことで、カザルマには露骨に冒険者が増えてきた。

 冒険者だけではない、そんな冒険者相手に仕事をする商人も、各地から集まってくるのである。

 そうなってくると、必然的に増える仕事がある。

 主に便……的なタイラントの本番の間以外は、とても需要のある仕事が。

 そしてそれは、私にとっては本職とも言える仕事。

 ――すなわち、護衛である。

 

「おーおー、人がこんなにいっぱい……」

 

 現在、私はカザルマの隣町にやってきていた。

 護衛で、カザルマからこの街に知り合いの商人を送り届けた後である。

 正確に言うと、その次の日。

 とある目的を果たすため、私はギルドを訪れたのだ。

 そこには、大量の人、人、人。

 カザルマの街と違って、この街は街と街を結ぶ小さな宿場町にすぎない。

 ギルドも普段は結構閑散としていて、私みたいな護衛メインの冒険者以外は地元に常駐しているやる気のない人しかいないのだ。

 だけど、今日に限ってはそうではない。

 これもまた、暴走タイラントの影響だ。

 

 そう、ここにいる全員が便の詰まったアレを目的に、ここへやってきている。

 彼らの中には冒険者もいるが、大半は商人だ。

 商人、その護衛の冒険者、そしてここにいる人達に便乗する冒険者パーティ。

 ここにいる人達は、だいたいこの三つにわけられるだろう。

 そんな彼らの目的は一つ。

 そして、その目的を果たすために必須とも言える人間が、一人いる。

 

 

「暴走タイラントの件でカザルマに移動するみなさーん! 週一フーシャ便出発の時間でーす!」

 

 

 ――それが私だ。

 ここにいる彼らは、全員が()()()()でカザルマを目指す人間だ。

 といっても、中には私の護衛なんて必要ない人もいる。

 冒険者の護衛を雇ってる人とか、冒険者とか。

 そんな彼らが、どうしてこうも私の護衛を求めているかといえば、言わずもがな。

 浮遊魔術で私が彼らの荷物を持ち上げるからだ。

 

 ここ最近、私は護衛依頼を週一に絞っている。

 それもこれも、需要が多すぎるからだ。

 私の浮遊魔術は結構有名で、それを目当てに護衛を依頼する者も多い。

 知り合いやカザルマからこの街に移動する人なら依頼を受けてもいいけれど。

 知らない人まで依頼を受けていたら、あまりにも時間が足りないのである。

 そこで私は、週に一回フーシャ便と称して人の大移動を請け負っていた。

 これが、給金がめちゃくちゃいい。

 暴走タイラントで、わざわざダンジョンに潜って稼ぐより稼げる。

 すごい。

 

 といっても、そんな稼がなくてもいいくらい私はお金を持ってるんだけど。

 まぁ、こういうのは助け合いだからね。

 それに、仮にも二つ名持ちなんだから便……に際して何もしないのは体裁が悪い。

 そういう意味でも、フーシャ便はちょうどいい仕事なのだ。

 しかし――

 

「……あんまり反応がないな」

 

 えーと。

 もしかして、アレか。

 暴走タイラントが伝わらなかったか。

 え、じゃあ言わなきゃダメなの?

 ……言い直すのはずいな!?

 ええい、こほん!

 

「ダンジョンの便秘の件でカザルマに移動するみなさーん! 週一フーシャ便出発の時間でーす!」

 

 ――全員の視線が一斉に私へ向いた。

 はずい。

 

 

 +

 

 

 解った、クロネの言葉とダリルの一件で恥ずかしがってるけど、恥ずかしがってるから恥ずかしいのだ。

 暴走タイラントじゃ伝わらないし、諦めて今後も便秘と呼ぶことにしよう。

 クロネの前でだけは、便秘と言わないように気をつけて。

 

 ――そんな私の決意はさておき、フーシャ便は隣町から出発した。

 基本的にフーシャ便の定員は六十人までと定めている。

 今回は、その上限ギリギリの五十八人。

 本当に多いなぁ。

 そんな彼らの荷物をまとめて浮き上がらせるものだから、幾人かは私の風魔術に舌を巻いていた。

 で、そのまま私は現在空を飛んでいる。

 荷物に関しては地面から少し浮かした程度で、街道を移動させて、それを空から監視しているのだ。

 

 これだけの人数で移動すれば、魔物は基本的に襲ってこない。

 襲ってきても、適当に近くにいる冒険者が対処する。

 そのうえで私が空中で監視しているという安心感があれば、護衛に関する心配をするものはいないだろう。

 ただ、私が監視をしているのは魔物のためではない。

 よっぽどやばい魔物が襲ってこない限りは、手近な冒険者に任せることとなる。

 冒険者側にも、そうやって対処するようお願いしてるしね。

 前にも言ったけど、これだけの数を浮遊させたうえで戦闘までやるのは難しい。

 いや、できるっちゃできるんだけど、できないということにしておいたほうが丸い。

 何事もちょうどいい実力を発揮するのが一番だ。

 

「ん、前方からこっちに向かってくる人、発見ー」

 

 じゃあ何を監視しているかといえば、通行人だ。

 こちとら六十人近くがぞろぞろ歩く大集団である。

 そんなのとすれ違ったら、絶対に立ち往生することになるだろう。

 それを避けるため、事前に向かってくる人を見つけたら列の先頭の人に声をかけるのだ。

 早速、空から降りて先頭の冒険者に声を掛ける。

 

「ごめんなさーい、前から人が来てるから、ちょっと横にそれて歩いてもらっていい?」

「了解ー」

 

 軽くお互いに声を掛け合って、冒険者が横にそれる。

 それをみた後ろの人達もだんだんとそれていって、道の半分に人が通れる隙間が生まれた。

 後はここを、やってきた人に通ってもらうだけだ。

 こんなことを、一日かけて行うのである。

 驚くべきことに、私はこの人数を一日でカザルマに送り届ける予定になっていた。

 結構な強行軍だ。

 でもまぁ、これにも理由がある。

 昼頃、カザルマと隣町の中心あたりにある休憩スペースにたどり着いた。

 

「ここで一時間休憩しまーす、各自昼食をすませてくださーい」

 

 声を魔術で拡散して伝え、休憩を促す。

 ここまで結構急いできたから、集団にも疲れが見え隠れしていた。

 そんな中――

 

「なぁおい、このアホみてぇな名前の移動便は、いつもこんなちんたらしてんのかよ」

「うお」

 

 複数人のちんたらというかチンピラしてる冒険者が声をかけてきた。

 如何にもおらついてます、という厄介な冒険者だ。

 比較的治安の良いカザルマの街ではなかなか見かけないタイプ。

 新人の頃から私がしつけてるから、とか一部の連中は言うけど、新人が多いからギルドが治安を気にかけてるだけだからね?

 多分違うからね?

 こほん。

 

「そーですけど。もともとあの街からカザルマまでは、一日での移動が適正だよ」

「荷物持ちするからってわざわざ乗ってやったのに、こんな連中とぞろぞろ歩かされるとか思わねぇっての普通」

「はあ」

 

 ううん、勝手な人だなぁ。

 ソロな辺り、周囲に馴染めないタイプなんだろう。

 だからまぁこんなことも言っちゃうわけだけど。

 

「だいたい、てめぇみてぇな杖無しが二つ名なんざ似合わね――」

「なぁ」

 

 周りが見えてない彼は、気づいていない。

 ふと、彼に一人の冒険者が声をかけた。

 

 

「こっちも疲れてるんだから、がやがや騒ぐんじゃねぇよ」

 

 

 チンピラよりも更にガシッとした体躯の、威圧感バリバリ冒険者だ。

 それが、もうすごい剣幕でチンピラを睨んでいる。

 

「ひっ」

 

 あ、チンピラから悲鳴が漏れた。

 そして何も言えなくなった冒険者を、威圧感のある冒険者がこう、いい感じに脇にのけて事態を終息させた。

 私がやってもよかったけどやってくれた、感謝である。

 二つ名持ちではなさそうだけど、実力はありそうだ。

 

 とはいえ、この状況は割と私が狙って引き起こしている。

 いや、チンピラくんの恐喝は想定外……というかレアケースだけど。

 それを周囲が怒りとともにたしなめるのは、狙い通り。

 なにせ――

 

 

 この人数で集団移動すると、めっちゃ疲れるんだよ。

 

 

 そうなると、みんな疲れて文句を言う余裕がなくなる。

 もしくは文句を言うやつが現れても、疲れてて面倒を起こしたくない周りが止めてくれるのだ。

 これ、考えたの私じゃなくてギルドの職員なんだけど。

 最初に聞いたときは鬼かと思ったね。

 流石、野蛮な人も多い冒険者を統制しているだけはある。

 ギルドに喧嘩を売っちゃダメだよぉ。

 

 なお、ギルドが今回の仕事に関して規定したこととして、問題を起こした人に浮遊魔術は使用しないというものがある。

 なのであのチンピラくんは、この後この大人数に睨まれながら荷物を担いで歩くのでした。

 南無ぅ。




週一フーシャ便の命名がフーシャなのかギルドなのかは議論の余地があります
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