風魔術だけでも異世界は楽しいです ~美少女転生からのちょうどいいスローライフ~ 作:暁刀魚
本はこの世界におけるわかりやすい楽しみ、というわけで。
今日も今日とて私は本屋にやってきていた。
魔術だか錬金術だかによる製本技術が発展したこの世界は、前世とそこまで遜色ない本のラインナップが並んでいる。
といっても、前世では商店街の本屋みたいな規模の店がこの世界だとデフォルトだけど。
それでも、確かに多くの本が並んでいるのだ。
わっくわくぅ。
「今日はぬらガー先生の新作の発売日だぁ」
ぬらガー先生、正式名称「ぬらぬらガードナー」先生。
謎の官能小説作家として有名だったぬらガー先生だが、最近は一般でも筆を振るっている。
よっぽど筆が早いみたいで、これまでみたいな官能小説を変わらないペースで刊行しつつ、一般小説も書き上げているのだ。
すごい。
というか、成人向けから一般に進出しても、変わらず成人向けを書いてくれる作家って……ありがたいよね!
「っとと、そういえばもう一冊欲しい本があったんだった」
そして、今回の目当てはぬらガー先生の一般向け新刊だけではない。
もう一人、こっちは私の知り合いの本である。
つまるところ――
「あー、フーシャさんだぁ。私の本を買いに来てくれたんですかぁ?」
「うおーっ!」
不意を突かれた!?
この私が!?
風鳴りの私が!?
と、内心適当に驚きつつ振り返る。
いや、相手が誰なのかは解ってるんだけどね。
「クロネ、いきなり脅かさないでよ」
「ごめんなさーい☆」
クロネである。
ただし、衣装は白い耳のフードと白ゴスだ。
デザインはほぼ同一。
これは人目につきたくない時にクロネが着る服である。
若干、自分が注目されにくくなる効果があるぞ。
それでもなお目立つって? そこはクロネが人力で気配を消してるんだよ。
この子、武術の達人だから。
「それで、クロネはやっぱり自分の新刊を見に来たの?」
「そうですよー? どれだけ作家として有名になっても、新刊の発売日だけはドキドキです☆」
前にも話したけど、クロネは冒険譚作家だ。
自分が旅した冒険を、脚色を交えて本にしている。
これがまた本人の知名度と相まって、めちゃくちゃ売れるのだ。
とはいえ、知名度だけで売れているわけではなく、中身もちゃんと面白い。
そりゃまぁ二つ名冒険者の生の冒険譚なんだから、題材が面白くないわけないんだけど。
クロネのすごい所は、二つ名持ちとして有名になる前から冒険譚作家をしていたことだ。
「いやぁしかし、昔は本屋に来るのも緊張でかわいくなる、って言って逃げてたのに。今じゃすっかり大物の風格だねぇ」
「そ、そーいう昔の話はいいんですよぉ」
クロネはプリンセスと同年代だ。
その年で二つ名持ちだなんてとんでもない話だけど、そんな天才にも未熟な頃はあった。
特に冒険譚なんて、最初のうちはおっかなびっくりで書いてたものだ。
かわいいに関しては生まれた時から自信のあるクロネだけど、それ以外の部分は結構緊張しいでもある。
「というかフーシャさん、そういうのなんだかおばあちゃんみたいですよ?」
「いいんだよ、私は毎日が余生だから。のんびりゆったりちょうどよく暮らすのさ」
んで、私も長くカザルマでやっているから、優秀な二つ名持ちの未熟な頃を目の当たりにしている。
今回、外から帰ってきた二つ名持ちは全員私より年下で後輩だからね。
思いっきり先輩風を吹かすのさ。
「それでえっと、新作は王都での冒険を元にしてるんだったっけ?」
「そうですよぉ。王都で色々波乱があったんです。詳しくは中身を読んでみてほしいんですけどぉ」
「ふふ、ネタバレは厳禁だよ。楽しみにしておくから」
「はぁい☆」
当然と言えば当然だけど、この時期に販売される新刊は直近の冒険について記したものだ。
前に話していた今準備している新刊は、これから執筆されるもの。
というか、この街を舞台にした内容だろう。
暴走タイラントなんて、格好の舞台。
物語にしない理由がない。
というわけで、早速本を読むために二冊を会計しようとしたところで――
「って、あー! それ、ぬらぬらガードナー先生の新作!」
「えっ!? あ、こ、これ!?」
いきなり声をかけられてびっくりした。
話は終わったと思っていたので油断していたのと、クロネの口からぬらガー先生の名前が出たことで焦ったのだ。
よくよく考えたら、今私が手にしているぬらガー先生の小説は一般向けだった。
「やっぱりフーシャさんも、ぬらぬらガードナー先生の本、読むんですね!」
「よ、よむけど……どうかしたの?」
い、一応言っておくと、エロ本の方は余り読まないからね!
あくまで学術的な好奇心を満たすために、所有しているだけだからね!
愛読しているのは一般向けの方だからね!
「だってだって、ぬらぬらガードナー先生の本って、すっごく人気なんですよ! 最近じゃ私と人気を二分するんじゃないかってくらいに!」
「まず自分が世界一の冒険譚作家だと疑っていないんだな……成長したな……」
「そこはいいですからっ! 要するに、ライバルなんです。ぬらぬらガードナー先生は冒険譚じゃなくて完全な創作ですけど!」
ようするに、ジャンルが違うから一概に評価はできないという話。
たしかにそれはまっことその通りで、だからこそ評価を二分しているところがあるんだろう。
「といっても、あれじゃない? クロネとぬらぬらガードナー先生って、ジャンルもそうだけど作風も全然違うじゃん? 比べられなくない?」
「だからこそ、ぬらぬらガードナー先生の本を読み込んで、技術を吸収したいんです!」
「技術、技術かぁ」
といってもなぁ、ぬらぬらガードナー先生ってかなり感性で作品書いてるとおもうんだよな。
純粋な表現力とか、そういう部分は間違いなくクロネの方が上だ。
対してぬらぬらガードナー先生の小説にはとにかく熱意と勢いがある。
単純な文章に見えても、そこから感じ取れる登場人物の熱気みたいなものは、他の作家には出せない持ち味だろう。
対するクロネは、とにかく技術力重視。
ゆるふわかわいい系みたいな雰囲気を出しつつ、その実可愛さに対しては常にストイックなクロネ。
当然ながら、小説執筆に対しても技術力重視である。
というか、気になったんだけど。
「……読み込んでるの? ぬらガー先生の本を?」
「ぬら……? あ、もちろんですよ。一言一句ばっちり読んでます」
「マジか」
……やばくね?
何がやばいかって? それはとても単純だ。
「ところで、一つ気になったんですけどぉ」
クロネが、何の気なしに問いかけてくる。
「主人公の男の子とヒロインの女の子が一緒に寝たと思ったら、朝になったら裸になってたのはなんでですか?」
あぁ―――
私は思わず天を仰ぐ。
そうですよね、そこやっぱり気になりますよね。
「……ちなみに、ぬらガー先生の作品って何冊読んでるの?」
「え、三冊ですけど。
ですよね。
どういうことかと言えば、ぬらガー先生はかなりの数の本を出しているのだけど。
それは、つまり、今のクロネの発言と照らし合わせれば、理解できる。
「もー! やっぱり皆さんなにか隠してますよね! どうしてぬらぬらガードナー先生の話になると、歯切れが悪くなるんですか!?」
「えーっと、それは、そのぉ……」
とても、そう、とても単純な話。
キスをすれば子どもができると思っているし、できた子どもはコウノトリが運んでくると思ってる。
正確にはコウノトリ相当のこの世界の生き物ね。
名前は忘れた。
そんなピュアピュアな子に、ぬらガー先生の本は一般向けですら劇物。
ベッドインとか平気でする作風が、クロネに悪い影響を与えないか。
私は今からひやひやしてしまうのだった。
若干の更新の遅れを確認!
というわけでだいたい美少女に系統したプリンセスみたいな人です。