風魔術だけでも異世界は楽しいです ~美少女転生からのちょうどいいスローライフ~ 作:暁刀魚
ある日、私が
曰く――
「フーシャさーん! 助けてくださーい! ルークが寝取られちゃいそうなんです!」
「何だって!? それはまずい!」
私のおもちゃ……もといルークが!?
一体誰に!?
突然の一大事に、早速私はキョウさんから話を聞くことにする。
一体誰が私達の可愛いルークを、と思ったのだが。
「……エドモンドに、ルークが最近懐いてる?」
「そうなんですよー、ルークってばずっとエドモンドさんの話ばっかりするんです」
「言われてみると、この前もエドモンドといっしょに居たなぁ」
どうやら下手人はエドモンドらしい。
世界最強を目指す二つ名冒険者、光騎のエドモンド。
以前模擬戦をした縁からか、ルークは何かとエドモンドと一緒にいることが多いそうだ。
「これは……ギルティじゃないですか?」
「ギルティだね……許せないよね!」
ルークをからかっていいのは姉貴分のキョウさんと、悪いお姉さんの私だけなんだー!
うおおー!
と、二人で盛り上がりつつ、それはそれとしてここ最近のルークについて話す。
「エドモンドさんに負けてから、ルークってば随分と対人戦に力を入れてるみたいなんです」
「まぁ、完敗だったものねぇ」
「フーシャさんに負けた時もそうでしたから、負けず嫌いなんですよ、ルークって」
この世界では、比較的対人戦を好む武芸者が多い。
偽弾と木製武器を使えば、かなり安全に対人同士で戦えるからだ。
冒険者の中にも対人戦を特に志向するものはたまに居て、エドモンドもその一人。
私も模擬戦は嫌いじゃないし、冒険者になる人で対人戦が嫌いな人はそんなにいないんじゃないかな。
ただまぁ、対人戦に特化しすぎてもいけない。
対人戦用のクセがついちゃうと、魔物との戦いでミスをすることもあるし。
実際に人と人が戦う場合は、殺し合いが起きているということなのだから。
「だから、ルークが変なクセをつけないか心配、と?」
「まぁ、そうですねぇ。真面目なルークだから、クセがついても自分で矯正するんでしょうけど」
「そうだねぇ。とはいえ、あまり私達が干渉しすぎるのもね」
ルークを弄るのは、お互いコミュニケーションの範囲だから、やりすぎなければともかく。
本人のやりたいことを妨害するのは、単純に嫌がらせだ。
「エドモンドさんは、二つ名も持ってますし立派な冒険者だってことはわかってます」
「それでも、ルークが自分たちを離れると、寂しい?」
「そうですね……ただ、ルークを誘ったのも結構一方的でしたし、こればっかりはルークの意思次第です」
だよね、と頷く。
もともと「モクゾー」パーティは、ケイマとキョウの二人で結成されたパーティ。
そこに一人でいるルークを見かねて誘ったのが、今の「モクゾー」である。
一人でいたルークを誘うのは、見方によっては余計なおせっかいなわけで。
キョウさんとしても、色々思うところはあるんだろう。
「じゃあそうだね……」
「何かいい案があるんですか?」
「もちろん、こういう時は――」
私はすくっと立ち上がって――
「おーいルーク! こっちおいでー!」
そろそろーって、私達から見つからないようにギルドを歩いていたルークに声を掛ける。
周囲の視線が私とルークに向けられて、ビクッとした後観念した様子でルークがこちらに視線を向けた。
「え!? ルークいたんですか!?」
「私は風鳴りだからねぇ、隠れられると思ったら大間違いさ」
「というか、直接声をかけるんですか!?」
「こういうのは、それが一番手っ取り早いんだよ。お互いに悪いことをしてるわけじゃないんだからさ」
喧嘩をしているわけでもなく、そもそもエドモンドと一緒にいることを咎めているわけでもない。
ただちょっとさみしい、とキョウさんが思っているだけの状態だ。
ルークにしてみれば、私達が二人いるということはダブルでからかわれるということ。
彼がこそこそしていたのは、それを避けていたに過ぎない。
と、風が言っている。
多分エドモンドとのことを話されているということすら、考えていないだろうな。
あの嫌そうな顔は。
「……二人して、僕を笑い者にするつもりで呼んだのなら趣味が悪いな」
「ごめんごめん、流石にそんなことしないって」
仕方なさそうによってきたルークの第一声はフルスロットルだった。
私達がルークをからかうのは、ルークがからかわれても「まぁいいか」で流してくれる時だけだ。
今日はそういう感じじゃなさそうなので、真面目な話にならなかったら声を掛けるつもりはなかった。
そして私がエドモンドのことを話すと――
「……なんだ、そのことか。こっちこそ疑って悪かった」
「ルークいい子……」
「いい子……」
「帰らせてもらう」
すぐに真面目な感じで納得してくれた。
その後のやり取りは、お約束ということで。
「僕としては、別にモクゾーのパーティを抜けるつもりはないし、対人戦に傾倒するつもりもないよ」
「ルーク……」
「エドモンドさんと交流を持ったのは、向こうが見かけたら常に話しかけてくれるからだ」
「あ、エドモンドの方から声をかけてたんだ。なんか意外」
エドモンドは常に光騎……ないしは高貴を心がけている。
公明正大で、誰にでも紳士に接するのがエドモンド流だ。
特定の個人を気にかけることは珍しい。
「見込みがある、と言ってくれたよ。彼は僕と同じで努力の人だから」
「ああ、それは何となく分かる。昔のエドモンドはへっぽこだったからね」
「そうなんですか!?」
少なくとも、カザルマで冒険者になったばかりのエドモンドはごくごく普通の田舎者って感じだった。
今の高貴スタイルを身に着けたのも、カザルマのボスを攻略した辺りから。
それもこれも、本人の努力によるものだ。
今でもエドモンドは、毎朝の鍛錬を欠かしていないと言うし。
「何ていうかなー、昔のエドモンドはもっと隙があったんだよ。田舎者口調もそうだけど、高貴になってからもすぐに素を出すし」
「全然そんな感じはしないけどな。今の彼は……完成している」
「完成している……か、まぁそれも悪くはないんだけどね」
そこはまぁ、長年かけてたどり着いたエドモンドの今のスタイルだ。
ちょっと個人的には思うこともあるのだけど、ルークの前で言うことでもない。
「じゃあ結局、ルークはあくまでエドモンドさんと個人的に親交がある……ってことなんだ」
「そうなるな。ダリルと三人で呑むこともある」
「はえー、男の友情だあ」
なんだろうなぁ、なんかその三人は一緒に呑むところが似合うんだよな。
なんでだろう。
「そういえばキョウさんは、ダリルやリフィルとは面識ある?」
「あ、ハイありますよ。ふたりともいい子ですよね。ルークから変な影響受けないといいけど」
「受けるわけ無いだろ、なんならダリルは僕よりしっかりしてるんだから」
「それ、自分で言っちゃうんだ……」
まぁ、ダリルは今の年で中層冒険者だし、リフィルと二人きりでこの街を生きている。
かなりしっかりしているのは、間違いない。
「後はまぁ……アレだ。本当に気が合うんだよ、エドモンドさんとは」
「そうなの? あの完璧っぷりを見てると、全然そんなふうには見えないけど」
「素は田舎の方言が強く出るタイプだ、というのはキョウも聞いているだろう」
「まぁ、そうだけど」
キョウとルークの会話を聞きながら、ルークとエドモンドの相性の良さについて考える。
はて、本当に一体どこで気が合うんだろうな……と思っていたら――
「……故郷だと、お互い散々からかわれる立場だからな」
ああー、と私とキョウさんは二人で納得した。
ルークは言うに及ばず、エドモンドの高貴スタイルも故郷だとなんというか、微笑ましく見えるんだよね。
そういうところで、ルークとエドモンドは似た者同士というわけだ。
かくしてルーク達の意外な事情を知り、私は少しだけルークとエドモンドに優しくしようか……なんて考えるのだった。