風魔術だけでも異世界は楽しいです ~美少女転生からのちょうどいいスローライフ~   作:暁刀魚

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はくろーぷりんせすどーじょー

 何やら町の広場に人だかり。

 この街のランドマークである風車がある、街中央広場。

 普段はここで待ち合わせをしたり、色んな人が憩っていたりするのだが。

 時折人が集まって、何かをしていることがある。

 前回は筋肉筋肉してたけど、今回は何をしているのかな。

 

「うー! はー!」

「うー! はー!」

 

 そこでは、街の住人が武術の型の練習をしていた。

 この光景は……なるほど、大体わかった。

 練習をしている人の中に、それを主導している人物がいる。

 彼女を、私は視線で追った。

 ……ん、いない?

 おそらくここには、とある美少女がいるはずなのだけど。

 どういうわけか姿が見えない。

 代わりに居たのは――

 

「えい! おー!」

 

 プリンセスだ。

 何故か黒い道着を着て、練習に参加している。

 その顔は真剣そのもので、なんともやる気に満ちていた。

 いや、プリンセスは何事にも全力なんだけどさ。

 と、思っていると――

 

「フーシャさぁーん♪」

「わあ!」

 

 後ろから声をかけられた。

 びっくりした!

 というかこの流れ、前にも似たようなことやったよね!

 

「――クロネ! びっくりさせないでよ!」

「あはは! あたしがいるってわかってるのに、油断するフーシャさんがいけないんですよぉ?」

 

 前回は普通に声を変えられただけだったけど、今回はがっつり驚かされた。

 ううむ、クロネとは相変わらず相性が悪い。

 そして、そんなクロネも白い道着姿だ。

 ただし、フード付きの。

 フードによる猫耳は譲れないトレードマークなんだろう。

 

「それにしても、久々に狼牙流の稽古をやってるんだね。昔は見慣れた光景だったけど、なんだか懐かしい」

「そうですねぇ。というか、ひどいんですよぉ。あたしが居ない間に、みーんなサボって怠けてたんですから!」

「あはは……」

 

 狼牙流。

 それはクロネが修めている武術の流派だ。

 もともとクロネはカザルマの街出身だが、幼い頃に王都で過ごしていたことがある。

 それはこの狼牙流を極めるためで、なんでそうなったかといえばクロネに武術の才能があったから。

 んで、武術を極めたクロネはカザルマで冒険者となり、二つ名をもらってから各地を回るようになった。

 白い髪の、狼牙流使いだから白狼。

 本人としては”黒猫”がよかったらしいのだけど、どうしても黒猫フードより狼牙流免許皆伝の称号のほうが知名度大きくてねぇ。

 

「そういうフーシャさんも、ぜーんっぜん稽古、してませんよね?」

「いや、そもそも私は後衛なんだから、肉体労働は専門外なの」

「基本ソロなんですから、もしものときの立ち回りは学んだほうがいいですよ!」

 

 まぁ、そういわれるとそうなんだけどさ……

 クロネはカザルマの街で狼牙流を広めていた。

 その方法というのが、こうして町の住民を集めての練習。

 これは武術を身につけると言うよりは、体を動かすことを目的としたもので。

 日々の健康を意識しつつ、スペースさえアレばどこでもできるという点に優れている。

 

「ほらほら、せっかく来たんだし、フーシャさんも一緒に練習していきましょう?」

「んー、いやいいよ。この後本屋に行こうと思ってたし……」

「後でデザート奢りますから、ね?」

「消費した意味!」

 

 出てったカロリーがそのまま戻ってきちゃうじゃん!

 いやまぁ、ダイエットの必要ない私にとって、そういう提案は普通に魅力的なんだけど。

 ……そうだな、ちょっと気になることもあるし、せっかくだから参加していくか。

 

「もう、わかったよ。ちょっとだけだからね」

「やったー! ほらほら、あっちに行きましょう?」

 

 そう言って、私はプリンセスの横まで連れて行かれた。

 

「あ、魔法使いさん! こんにちやー!」

「こんにちはプリンセス、一体どうしてプリンセスはここにいるの?」

 

 挨拶をしながら、きれいなフォームで正拳突きを繰り出すプリンセス。

 狼牙流の基礎が完全に身についているようで、その動きに淀みはない。

 

「えとね、ネコさんが誘ってくれたの。この後一緒にパフェを食べるんだ!」

「ネコさん? ……クロネか。なるほどね、そういうことなら私も誘われてるんだ」

「魔法使いさんも来てくれるの!? やったぁ!」

 

 ぶん、ぶん!

 勢いよく突き出される拳と、嬉しそうなプリンセスの声音。

 ちょっとだけアンバランスだ。

 それにしても、ネコさんか。

 プリンセスがあだ名で呼ぶということは、かなり親しい仲であるということ。

 クロネは貴族への稽古のために王宮にも出入りしている。

 もともと面識があったんだろうな。

 ということは、この街でプリンセスの正体を知っている人間が一人増えたってことか。

 いや、だから何だって話だけど。

 

「それにしても――」

「はい! なんですか!?」

 

 私は、昔教わった狼牙流の基礎を思い出しつつ、正拳突きを始める。

 それと同時に、周囲を見渡しながら零した。

 

「……人、増えてきたね」

「あ、そ、そう! ですね!」

 

 拳の動きと言葉が連動しているプリンセス。

 私はと言えば、プリンセスに比べて圧倒的にへちょい動きでパンチを繰り出している。

 それと同時に、広場に人が集まってきたのを感じていた。

 

「クロネの奴、私を集客に使ったな!」

 

 それもこれも、クロネの策略によるものだ。

 いや、本人は策略のつもりなんて毛頭ないのだけど。

 天然でやってるのだ。

 常にこう、物事がいい感じに進むように。

 

「まぁー、私も人のことはいえないけどさぁ」

「そう! なん! です! か!?」

「そう! なの! です!」

 

 まぁこれは、私だってやっていることだ。

 私の「ちょうどいい」は誰かを不幸にしてまで守られるべきものではない。

 私と誰かがウィンウィンになるように動くのが「ちょうどいい」。

 クロネのそれもそうだ。

 私が意識的にやっていることを、半ば無意識に打算なくやっているにすぎない。

 それはある意味で人として正しいことだ。

 善良で、公正だ。

 

「はーい、それじゃあ次の型の練習にうつりまーす! 手を止めてこっちをみてくださーい!」

 

 そんなことを考えていると、クロネが広場にいる人達へ声をかけた。

 皆、それぞれ軽く体を休めながら、クロネの言葉を聞く。

 さて、ごちそうを奢ってくれるというのなら、それに見合った働きと――カロリー消化を心がけないとね。

 

 

 +

 

 

「というわけで、今日はありがとうございましたー☆」

「い、いえいえ。こっちこそ、手伝わせてくれてありがとね、ネコさん」

「そうだねー、パフェ奢ってくれてありがと」

 

 その後、私達は三人でお疲れ様会をしていた。

 なお、途中から私は型を指導する側に回ることとなった。

 狼牙流に関しては素人だけど、教師としてはプロだから……って。

 まぁ、教える内容を理解すればそれをわかりやすく伝えるのは私の得意とするスキルではあるけどぉ。

 

 んで、クロネ馴染の喫茶店でパフェを食べつつ。

 ふとプリンセスがクロネに問いかけた。

 

「そういえば、魔法使いさんはネコさんが天然で、魔法使いさんみたいなことをしてるって言ってたんですけど」

「えー、そうなんですかー?」

「んー? まぁそうだけど。……昔はこんなんじゃなかったのになぁ、とたまに思うことはある」

 

 昔のクロネはもっと純真で、人を無意識に手玉に取ったりはしなかった。

 なんというか、プリンセスみたいな感じだったのだ。

 それがいつのまにか、世界を股にかけて美少女冒険者として名を馳せ、人を使うのもすっかりうまくなっている。

 この成長を、惜しいと思うかすごいと思うか。

 いやまぁ、未だに性知識皆無だったりとかはするけどね。

 

「もー、フーシャさんが何言ってるんですか?」

「え、なんで?」

「だってぇー」

 

 パクり、とパフェを一口食べてからクロネは続けた。

 

 

「このやり方、フーシャさんから学んだんですよ?」

 

 

 ……………………………………………………………………………………あぁ。

 確かに、私のやり方――ウィンウィンを重視するやり方――とそっくりだけど。

 そっくりではあるけど!

 

「ま、魔法使いさん!? どうしてそんなに頭を抱えてるんですか!」

「私は……とんでもないことをしてしまったかもしれない……!」

「もー、フーシャさんってば、変な人ですねぇ」

 

 ああ、プリンセスの無垢な瞳が痛い!

 せめて、せめてプリンセスの純真は守ろう!

 そう、私は強く心に誓うのだった。

 

 あ、パフェはすっごい美味しかったです。




最近わるいおんなしかやってないフーシャです
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