風魔術だけでも異世界は楽しいです ~美少女転生からのちょうどいいスローライフ~   作:暁刀魚

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ギルドは見ている

 世間的な私の評判というのは、私のちょうどいいライフにおいて非常に重要な指針だ。

 目立たないのは、たいへんまずい。

 それだけ仕事が入ってこなくなる。

 指名依頼が暮らすに困らない程度入ってこないと、らくらくちょうどいいライフは送れない。

 

 かといって、目立ちすぎるのもまずい。

 二つ名持ちってだけで、すでに過度な評価を得ているまである私の立場。

 これ以上の評判は必要ない。

 例外はプリンセスパーティのような、有力パーティとのコネ。

 有力者が個人的に私を評価する分にはそこまでちょうどよさは崩れない。

 

 これを図るうえでの指針は、ずばりギルドだ。

 というか、ギルドが私に出してくる個別の依頼だ。

 具体的に言うと――

 

「フーシャさん、最近街の周辺で”ギガントオーガ”が確認されてるんです」

「ギガントオーガ? なんだってそんなのが」

「ギルドでは縄張り争いに負けたんじゃないかって、推察してるんですけど……すいません、()()任務をお受けしていただけませんか?」

 

 こういう依頼だ。

 今回私に任された任務は偵察。

 ギルドが私のことを、このギガントオーガを単独で倒せないと思っている証拠だ。

 それでいてダンジョン外での偵察という危険任務を、単独でも生存してこなせると思っている証拠でもある。

 ダンジョン内なら、エスケープクリスタルで一瞬で逃げられるからもう少し危険度は低くなるんだけどね。

 

「知り合いを誘ってもいい?」

「もちろんです。その場合でしたら、可能なら討伐を視野に入れてもらえると助かりますが」

「わかった」

 

 ギガントオーガは、名前の通りでかいオーガって感じの魔物。

 そもそもオーガって異世界モノでもかなりでかいイメージあるけど。

 それより更にでかい。

 普通のオーガが二メートルから三メートルくらいなら、ギガントはその倍ってところ。

 討伐するなら、複数人推奨。

 そして二つ名持ちクラスのパーティなら、まぁ十分討伐ができる範囲。

 

 うん、それくらいがちょうどいい感じだろう。

 

「それにしても、ダンジョンのミノタウロスといい、最近続くね」

「そうですね……ダンジョンに関しては、今のところあれ以来タイラントの予兆は起きてないんですが」

「まぁ、何事もないのが一番だよ」

 

 なんて話をギルド職員のお姉さんとしながら、考える。

 討伐するか、否か。

 まぁ、プリンセスに声をかけてみて、捕まらなかったら単独かな。

 

 

 +

 

 

 よくよく考えたら、もうすぐダンジョンの更新日だった。

 仮にもダンジョンの宝箱から「あるもの」を見つけようとしているプリンセスが、更新日を逃すのはまずい。

 すごく悲しそうに断られてしまった。

 今度、パフェを奢ってあげよう。

 

 というわけでの単独行。

 私は一人森の中を彷徨っていた。

 当てもなくただ森を歩くというのは、言ってしまえば一つの自殺行為なんだけど。

 私に限ってはそうでもない。

 飛行魔術という、距離という概念をなかったことにする風属性の奥義があるからだ。

 ちょっと飛んで、街に向かって帰れば道に迷うなんてことはおこらない。

 

「んー、たしかにこれは……”なんか”いるな」

 

 森を軽く歩いて、状況を確認するとわかる。

 明らかに、森の中に普段とは違う風が混じっている。

 危険な風だ。

 パンチラ的な意味じゃなくてね。

 

「多分、あっちかな」

 

 風は一方を流れるけど、風の痕跡はあらゆる方向に流れている。

 ここで感じ取るべきは後者だから、慎重に方向を吟味して追いかけた。

 この間、私の移動は常に無音だ。

 浮遊魔術、ものを浮かせて移動させるそれは、自分自身の身体にも有効。

 何よりこれ、音を出さずに移動できるので隠密の際は使わない理由はない。

 

「ギルドが私を偵察に指名するのも、これあってのことだしね」

 

 浮遊による隠密適性。

 風の探知による追跡能力。

 そしてなにより、ギガントオーガは飛べないから万が一の脱出も飛行魔術で可能とくれば。

 私の得意分野はいっそ魔術師じゃなくて斥候かもしれない。

 

「ん……あれかぁ」

 

 移動を続けていると、やがて目的の相手が見つかる。

 五メートルくらいの巨大なオーガ。

 ギガントオーガだ。

 今は、休憩しているのだろうか、木に寄りかかっている。

 当然ながら、こっちには気づいていない。

 ちょっと観察してみよう。

 

「なんか、想像以上に弱ってるな」

 

 ここに来るまで、風の中に若干血の匂いを感じた。

 オーガが弱っているのだろう、と推察はできたものの。

 思った以上の衰弱っぷり。

 放っておけば、このまま死んでしまうのではないか?

 

「……背中に、大きな傷があるな」

 

 木の陰に隠れて、きちんと確認はできないけど。

 多分、大きな鉤爪でつけられた傷があるはずだ。

 オーガの背中から感じる、血の匂いからして多分鉤爪。

 縄張り争いに負けたっていうのは、間違いなさそうだ。

 

「でも、どうしたもんかなぁ」

 

 正直、これなら。

 私が単独でオーガを討伐しても、そこまで疑問には思われないだろう。

 というか、この弱りっぷりなら不意打ちすれば確実に屠れる。

 ここで私が偵察にとどめて、ヤケになったオーガが街道で暴れるほうが一大事。

 うん、やろう。

 危険を排除するのが、私にとってもギルドにとっても、他の人にとってもちょうどいい。

 ただし、

 

「オーガさん」

 

 私は浮遊を解除して、足音を立てながらオーガの前に現れる。

 すると、途端にオーガはこちらを警戒して、脇においてあった得物だろう石の棍棒を握った。

 緊迫した空気が、肌をピリピリと焦がす。

 オーガは動かない、理解しているのだろう。

 私が――

 

 

「――あなたをここで殺してあげる」

 

 

 彼の死神になるつもりなのだと。

 風の匂いからして、彼は人を殺したことがない。

 多分、本当はもっと山奥でひっそりと自分の縄張りを守護して回るタイプの、比較的穏やかな魔物だったんだろう。

 老いか、はたまた新鋭の魔物が誕生したか。

 どちらにせよ、彼の時代は終わった。

 気高く戦い、結果として逃げ延び、ここにいる。

 ある意味でオーガは自分の寿命を全うしようとしているのだ。

 生きようとしながら、死に場所を求めている。

 そんな魔物を、不意打ちで殺すのってちょっと残酷だ。

 

「私はね、人を殺したことのない魔物には優しくしてあげることにしてるの」

 

 だからあなたも、戦士の摂理に則って殺す、と。

 そう彼に告げる。

 言葉の意味はわからないかもしれないけど、オーガは私の意図を理解したはずだ。

 棍棒をかまえて、そして迫ってくる。

 

 一瞬の間隙に、オーガの足音だけが響く。

 

 音という名の、風を伴う振動は素直だ。

 生きたいという願望と、生き恥を晒すくらいならという矜持が同時に伝わってきた。

 それを、ただ私の一存で後者にするのは、いささか傲慢ではある。

 上から目線でもある。

 ただ、ちょうどよさを求めるってのは、そういうものだ。

 

 人の利益を私の信条で勝手に決めて。

 勝手に分配するようなことをして、私は何様なのだろうって。

 まあ、そんなセンチなことを考える余裕もあるくらいに。

 私と今のオーガは、隔絶した差があった。

 

 振り下ろされた棍棒を躱す。

 それが地面に叩きつけられる前に、私はすかさず――

 

「風刃よ!」

 

 その首を、横薙ぎするように叩き切った。

 途端に棍棒は力を失う。

 前のめりに振り下ろしたのもあって、オーガはそのまま倒れ込んだ。

 あとには、何も残らなかった。

 

 

 +

 

 

 さて、最終的に私はオーガを不意打ちで討伐したことにして、ギルドに報告した。

 そこは正面から倒したって言わんかい、と思うが。

 まぁ、これがちょうどいいを求めるってことだ。

 彼にとっては、プライドを。

 私にとっては、バランスを。

 だからまぁ、傲慢のそしりは免れないのだ。

 それはそれとして、私は一つ失敗してしまった。

 あの後、私はオーガを浮遊魔術で街まで運んだ。

 解体すれば、素材になるからだ。

 

 で、オーガに限らず、人型の魔物っていうのは腰蓑を巻く。

 いっちょ前に大事な部分を隠すっていう文化が彼らにもあるのだ。

 で、オーガは縄張りを追われた激戦と、ここにくるまでの移動。

 それから私との戦闘で、腰蓑が限界を迎えていた。

 

 

 そして、よりにもよって町中で落ちた。

 

 

 かくして、私は逸物のクソデケェオーガを単独討伐した女として。

 オーガはクソデケェ逸物のオーガとして、しばらく「カザルマ」の街で話題を集めることになる。

 こういう名声は絶対にいらない!




しっとりからの落差です
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