風魔術だけでも異世界は楽しいです ~美少女転生からのちょうどいいスローライフ~   作:暁刀魚

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タイトルを書籍版のものにしました。
フーシャの太ももみたいにタイトルがミチっとしてますね。


あいつに勝ちたい(後)

 人が戦闘の一場面において取れる行動は非常に限られてくる。

 たとえば眼の前から偽弾が迫ってくる状況。

 取れる選択肢は左右への回避か上方へのジャンプ回避だ。

 このうち、ジャンプ回避は隙が多いので普通は取らない。

 実際には攻撃を弾きながらの直進、とかも入ってくるけど今回は武器を素手と限定し”一発でも当てたら負け”という縛りがあるので実質防御ができないのだ。

 

「偽弾よ!」

 

 ――ルークが偽弾を放ち、決闘が始まる。

 正面から迫りくる弾丸。

 このタイミングでのエドモンドの取れる行動は左右への回避、その二択に限られる。

 そしてこの時、エドモンドがどのような選択をしても問題はない。

 

「では、参ろうか!」

「――偽弾!」

 

 ルークはすかさず次の弾丸を発射する。

 エドモンドの回避は左だ。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ルークはそちらに弾丸を向ける。

 マシンガンのように弾が発射され、回避したエドモンドをうがとうとする。

 

「まだまだ!」

 

 エドモンドは更にステップ。

 ルークもそれを追う。

 その攻防が、何度か続いた。

 

「――ルークのやつ、結構正面から打ち合えてない?」

「……おそらくだが、エドモンドさんが()()()()()()()()のが大きいんだろうな」

 

 キョウの言葉に、ケイマくんが答える。

 そう、先程私はエドモンドが攻撃を防御できないと話したが、正確に言うとケイマくんの言う通り回避以外の行動を今、エドモンドは取れないのだ。

 偽弾を拳で弾くことはルールで禁止され、攻め込もうにも掠り当たりでもルークの勝利となるこのハンデ。

 とてもじゃないけど、エドモンドが攻め込むことは難しい。

 

「でも、普通にやったらどっかで隙を見せてそこからエドモンドさんに崩されるでしょ」

「だからフーシャさんが言ったんじゃないか? 全て計算して準備してるって」

「そうだよー」

 

 二人の言葉に頷いておく。

 そう、ルークはここまでの魔術の詠唱を、先程の十分間ですでに終えている。

 今、ルークが行っているのはすでに終わった詠唱の結果を、現実に出力しているだけ。

 はっきりいって今のルークは戦ってないし、そもそも戦いはすでに机上の中で終わらせている。

 さながら、将棋の事前研究のようだ。

 ルークはそれで、()()()()までの研究をすでに終わらせている。

 無茶だと思うかも知れないが、今ルークがやっているのは将棋のような複雑なやり取りではない。

 左右に動くエドモンドさんが()()()()()()()を予測して攻撃しているにすぎないのだ。

 だからルークの頭脳と、私のアドバイスがあればこの戦闘はすでに終局までの絵図が完成している。

 

「――まぁ、そう上手く行くとは限らないんだけどねぇ」

 

 その時だった。

 エドモンドが動きを見せる。

 左右の回避がにっちもさっちも行かなくなり、”詰み”が見えてきたからだ。

 

「なら、こうするべきか!」

 

 故に、上に飛ぶ。

 

「……来たか!」

 

 その瞬間、ルークはそれまで放っていた正面からの偽弾発射を停止させる。

 あの十分間築き上げた詠唱は、ここで破棄された。

 何せエドモンドはいつでも上に飛ぶことができる。

 二択までならともかく、三択を全て読みきることはルークには無理だ。

 だからこそ、ルークもまた次の手を撃つ。

 まずは飛び上がったエドモンドに――

 

「偽弾!」

 

 迎撃の偽弾。

 しかしそれが射線を通り抜けるよりも早く、エドモンドはより高く飛び上がった。

 

「速い! けどもう逃げ場は――」

「あるさ! ここに、足場がね!」

 

 空中ならば逃げ場がないだろうと、更に偽弾を放とうとしたルーク。

 しかしエドモンドは――()()()()()()ルークに肉薄した。

 

「まずい!」

「ルーク!」

 

 キョウとケイマが叫ぶ。

 そしてエドモンドが地面に着弾したことで土埃が発生し――

 

 ――中からルークが吹っ飛ぶ。

 

 観客たちは思っただろう。

 ”決まったか”……と。

 

「く、おお!」

 

 吹っ飛んだルークが着地して、少し滑る。

 なんとか態勢を立て直しながら、ゆっくりとルークは――

 

「……もともと、僕にとってエドモンドさんは尊敬できる先人というだけでなく、親しみの持てる友人でもあった」

 

 ぽつりと、こぼす。

 

「それは今の立ち振舞を身につける前のエドモンドさんと僕に、重なるところがあったからだ」

 

 土煙の中から、エドモンドは現れない。

 

「でもそれ以上に……成長した今のエドモンドさんが――僕の憧れと重なるんだよ」

 

 そしてルークは、ちらりとこちらを見た。

 きっと、ケイマくんのことなんだろうな、と私も視線をケイマくんに向ける。

 ふと、私とケイマくんの視線があった。

 ケイマくんは、私のことだと思ってる?

 ……どっちも、かな。

 

「だから負けたくなかった……()()()にだけは……そのために……エドモンドさん。貴方と戦うことが僕にとって一番の近道だと思ったんだ」

「――光栄だな」

 

 砂煙の中から、エドモンドの顔が見える。

 

「だから悪いけど――」

「……」

 

 そして、その顔には――

 

 

「勝たせてもらいました」

 

 

 一筋の傷跡。

 たらりと、そこから血がたれている。

 偽弾が、ギリギリ頬を掠めたのだろう。

 当たれば非殺傷とはいえそれなりに痛いし、掠れば相応に傷もつく。

 まぁ、ようするに――

 

「……ルークが勝った!」

「すごい! でも、どうやって!?」

 

 歓声が上がる。

 中にはルークがあの土煙の中で何をやったのか。

 正直なところ、私もそこは聞いていない。

 切り札といっていたけど、何をしたのやら。

 

「迫ってくるエドモンドから距離を取るために()()()()()()()()()()んだ。でかい一発を生み出して、ね」

「エドモンドの攻撃にあたってさえいなければ、それでいいわけだもんね」

 

 言いながら、エドモンドとルークの間に私は向かう。

 一応、この決闘の立会人みたいな立場だからな。

 

「そしてそれを目眩ましに、四方八方から攻撃を加えた。僕を攻撃する直前で偽弾をぶっ放したから、体勢が悪く――」

「避けきれなかった、といったところかな。いやはや、お見事」

 

 きっと視覚も最悪な中、だんだんと万事休すになったんだろうな。

 そう考えると、それでもある程度回避できてたエドモンドも立派だ。

 

「それにしてもこの癖――」

「む、どうしましたかエドモンドさん」

「いや、何。今回の戦い方を思うと――」

 

 そんなエドモンドがちらりとこっちを見て――

 

 

「いやぁ、フーシャの姐さんにボコボコにされてた頃をおもいだすだ、あっはっは!」

 

 

 珍しく、素の表情で頭を掻きながら大きな笑い声をエドモンドは上げた。

 一部の――エドモンドの素を知らない新人が目を丸くする中、エドモンドは笑顔でルークに近づいてくる。

 あ、ルークもちょっときょとんとしているな。

 

「おらぁ昔っから、フーシャの姐さんに稽古つけてもらってたんだけども、ぜーんぜん勝てなくて」

「そ、そうなのか?」

「相性ワルすぎだべよ。それで今回、ルークも姐さんのシゴキでここまで作戦を練ってきたわけだから、懐かしくなったんだべさ」

「むぅ……」

 

 なんか複雑そうな表情を向けるんじゃない。

 えーい、まとめるぞ、まとめだまとめ!

 

「とにかく! ルークはすごかった! ハンデ盛り盛りとはいえエドモンドに勝てちゃうんだもの。でも、これで満足なんてしないでよね。今回のハンデ、かなりルーク有利だったんだから」

「無論……わかっているさ。それに……僕が勝ちたい相手は三人いる。その全員に勝つまで、研鑽をやめるつもりはない」

 

 その言葉に、なんとなーく周囲から拍手が聞こえてくる。

 宣言としては、とてもいい宣言だっただろう。

 なんとなく、決闘に集まった観客はいい雰囲気のまま解散した。

 そうして、残ったのは私とエドモンド、それからモクゾーパーティの三人。

 いやあよかったよかった、という雰囲気で私達も酒場に行って飲もうか……なんて話しになったんだけど。

 

「……ところでルーク、さっき勝ちたい相手は三人いるって言ったけど」

「…………なんだ、キョウ」

 

 ふいに、キョウちゃんがなにかにきづいたらしく。

 ちらりと視線を、ルークに向ける。

 ……あ、言いたいことが私にもわかったぞ。

 

 

「それ、私入ってなくない?」

 

 

 ――沈黙。

 ケイマくんが「あっ」みたいな顔をして、エドモンドがなんだか楽しそうに笑みを浮かべる。

 そして私が爆笑する中で――

 

「……今日は失礼させていただく」

「待てぇ! 決闘だ決闘! 吠え面かかせてやる――!」

 

 逃げようとしたルークと、それを追い回すキョウ。

 なんだか、モクゾーパーティの日常って、こんな感じなんだなぁ、と。

 腹を抱えて笑いながら、私は思うのだった。




というわけでここまでで便秘編前半となります。
次回から本格的に詰まったものが出てきます。
お楽しみに。
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