風魔術だけでも異世界は楽しいです ~美少女転生からのちょうどいいスローライフ~ 作:暁刀魚
便秘開始(言い方を戻した)から初期段階の終了まではとにかく物量が物を言う。
タイラントのタイミングで出現した魔物はダンジョンの外に出ていこうとする性質を持つから、これを抑えるために冒険者は一日中ダンジョンに潜らないといけないのだ。
初期段階の終了までにかかる時間は、平均して一週間。
この一週間だけは、カザルマで活動しようと思うなら新人以外は常にダンジョンに潜れる準備をしておかないと行けない。
まぁ、そのかわり倒せば倒すだけギルドから報酬が出て、ギルドの食堂ではタダでご飯を提供している。
それを目当てに各地から冒険者も集まっているわけで、よっぽどのことがなければ問題という問題が起きることはないのだ。
まぁ、私にしてみればこの一週間だけはマジでくっそ忙しくて地獄みたいな感じだけど。
それをなんとか軽減するために、できる限り楽をするためにスケジュール調整頑張ったのだ。
二つ名持ちがやらなくてはいけない仕事だけど、他の仕事と比べたら楽な仕事を色々と見繕っていた。
一日目は、新人の便秘体験。
これは本当に、新人を上層に案内するだけなので、本当に楽な仕事だ。
そして二日目は――
「というわけで、今日は私とイルナが主導して、上層の大型魔物掃除をやっていくよー」
「おうともさ!」
「ふん!」
「ふん!」
「ふん!」
「……バルクブラザーズがポーズとってるけど、俺達もやらなきゃだめか?」
「いや、流石にいいんじゃない?」
現在、私はダンジョン上層に、イルナたち「筋肉共同体」パーティと、ダリル、リフィルの計七名で集まっていた。
何をするかと言えば、ダンジョン上層に出現する大型魔物の排除。
ミノタウロスとか、ああいう危険な魔物を根こそぎ狩り尽くす役割である。
本来なら下層に出てくるような魔物が、上層にわんさか湧いてくるのが便秘だ。
大体は近くにいる冒険者が処理するものの、中には狩りきれず溢れてしまう場合がある。
それを上層を飛び回ってなんとかするのが私達の役目。
これの何が楽って、大型魔物だけを目標にすればいいし、二つ名持ちが二人がかりでやる作業だから負担が少ない。
まぁ、二つ名持ちが二人も必要な重労働ってことでもあるんだけど。
「それにしても、俺達までパーティに入れてもらって本当にいいんですか?」
「何遠慮してんだい、今このカザルマで一番の有望株といえばモクゾーかあんたらだろ!」
で、そんなパーティの中に新人のダリルとリフィルがいるのは、経験を積ませるためだ。
それを解説したイルナが、ばしーんとダリルの背を叩く。
「いっつ……!!」
あれ、ミノタウロスの一撃より重いんじゃないか……?
ともあれ、そろそろ時間だ。
これから数時間、私達は風となって上層を駆け回ることとなる。
「んじゃ、手順は説明した通り、私が風足を全員にかけるから、それを使って冒険者の上を通り抜けながら大型魔物だけを叩くよ。探知も全部私がやるから、聞き逃さないよ―に」
「ほんと、こういう依頼だとフーシャは頼りになるねぇ」
「私が楽するためでもあるから、これが一番ちょーどいいんだよ」
何せ探査と支援を名目に、直接戦闘をサボれるからね。
これが下層でのガチ戦闘ならともかく、上層での蹂躙なら私が指揮をする必要もないし。
さぁて、行くぞおまえらー。
なんてゆるい掛け声をしつつ、私達は上層ダンジョンに潜るのだった。
+
ダンジョンの中を、七人の冒険者が駆ける。
ぴょんぴょんと跳ねながら、時折襲いかかる魔物はバルクブラザーズとダリル、リフィルに払われていく。
私は探査に集中し、大型魔物を見つけたらイルナが襲いかかる布陣。
「左に下層の魔物、ダイハガネラットだ!」
「おう!」
一列に並んで進む私達。
先頭はイルナで、最後衛が私。
そんな布陣で、ぴょーんぴょーんと進み、四方から襲いかかる魔物をイルナ以外の皆になんとかしてもらい、大型はイルナに叩いてもらう。
ダイハガネラット、だいたい名前通りの魔物で、全長二メートルくらいの鋼鉄製ラットである。
硬いし、でかいし、あとついでに速い。
普通の冒険者だと、対処が難しいのか放置されているようだ。
そこにイルナが飛びかかって――
「そお、ら!」
手にしている武器――バカでかい剣を振り下ろし
下層の魔物が、上層のゴブリンとかと同じようなノリで倒されたのだ。
ダリルとリフィルは目を剥いていた。
「すっげぇ、これが二つ名持ちの破壊力」
「先は長い……わねぇ」
イルナは筋肉を愛する、二つ名持ちの中でも特にパワー特化の戦士。
プリンセスと比べると型が独学な分荒削りだが、野生の勘とでも言うべき直感によって乱戦に強い。
逆にプリンセスは幼い頃から鍛錬を積んでいるので、戦い方が丁寧だ。
多分、魔物相手の多対一だとイルナの方が強く、冒険者同士の一対一だとプリンセスの方が強い。
まぁ、ワリと誤差だけどね。
「感心してる場合じゃないよー、まだまだ魔物は来るからね」
「あ、は、はい!」
そして、驚く二人に私が声をかけて、一向は上層部を駆け抜けるのだった。
+
「というわけで、お疲れ様ー」
「お疲れさまでした! フーシャ先生の戦い方も、イルナさんの戦い方も参考になりました!」
「私はそんなに戦ってないし、普段も見せてるけどねぇ」
「バルクブラザーズも、すっげぇかっこよかったぜ!」
それから数時間後、私達は役目を終えてギルドに帰還していた。
一度ダンジョン上層の大型魔物を一掃すれば、一日は持つ。
なので一日一回、二つ名組とプリンセス、シェナイトさん、それから強い冒険者パーティが持ち回りで掃除を行っていくことになる。
今日で二日目、昨日はプリンセスパーティが潜ったそうだから、明日はエドモンドとクロネがペアかな。
「んじゃ、明日も気合を入れて頑張るために、今日はいっぱい食べようか!」
「はい!」
イルナが音頭を取って、私達は夕食にありつく。
バルクブラザーズがダリルに褒められてポーズを取っており、なんとなく視線を集めている。
少し恥ずかしいけど、そうでなくとも私とイルナがいれば目立つんだ、気にするだけ無駄だな。
「にしてもフーシャ、この二人本当に新人かい? あたい達に全然問題なくついてこれてたじゃないか」
「まだ一年目の新人だよぉ。いやほんと、すっごいよねぇ」
「なんか、褒められると照れますね」
あはは、と頬を掻くダリル。
褒められるのは今のうちから慣れていたほうがいいぞぉ。
この優秀さだと、一生褒められて育つことになるんだから。
それにいい感じに返すのも、処世術の一つだからね。
「それもこれも、皆さんの支援のおかげですよ。フーシャ先生には魔術ですっごく助けられましたし、筋肉共同体の皆さんのパワーは規格外でした」
「ダリルは照れが残るけど、リフィルはなんだか熟れてるねぇ。こういうところで個性が出るのは面白いじゃないか」
「えへへ、褒めて伸びる子ですので」
そんなこんなで、ダリルとリフィルを褒めそやしていると、話はだんだん二人の今日の成果に移っていく。
今回の件で、ふたりとも色々と学ぶところがあったみたいだ。
「俺、イルナさんみたいにとにかくパワーで押し切る戦い方、挑戦してみようと思います」
「おおー、難しいと思うけど、やってみるだけならタダだしね」
ダリルはどっちかというと、守りを固めて堅実に立ち回るタイプなんだけど。
イルナみたいな一撃必殺を切り札として持っておくと、戦い方に幅が出るだろうね。
常に全力でいる必要はないんだ。
必要な時に、力を使えれば問題ない。
そしてリフィルは――
「あ、じゃあ私にも鍛え方、教えてもらえませんか?」
「お、リフィルの嬢ちゃんも筋肉に興味があるのかい?」
「ふん!」
「ふん!」
「ふん!」
「いや、それはえーっと……」
筋トレをしたい、と言い出した。
嬉しそうなイルナと、ポーズを取るバルクブラザーズ。
ただ、私の風鳴り的直感が、理由は筋肉ではないと語っている。
ということは――
「あー、こいつ。最近ちょっと太ってるみた――へぶっ!」
――そこでダリルが真相を語ろうとして、すごい勢いでぶん殴られて吹っ飛んでいった。
ナムサン!