風魔術だけでも異世界は楽しいです ~美少女転生からのちょうどいいスローライフ~ 作:暁刀魚
初期段階の便秘で、忙しく駆け回る毎日。
数日の休暇や、新人の付き添いなどで姑息なサボリをいれつつも、まぁ私だって二つ名持ちとして必要な仕事はしているわけだ。
ただまぁ他の二つ名持ちと比べて、仕事していないかと言えばそんなことはなく。
むしろ私は魔術師だから、魔物の殲滅速度は他と比べても速い。
その分を、楽したり別の仕事で回してるだけ。
……アレ、これ私のほうが仕事してね?
いやそもそも二つ名持ちとソレに準ずるメンバーをこれだけ集めて、一人しか魔術師が居ないほうがおかしいんだよ。
せめて街出身じゃなくてもいいから、一人魔術師を呼ぼうよ!
通りで多少楽をしようという私の目論見に対して、ギルドが「全然構わないですよ」って対応をするわけだ!
なんか損した気分だね!
ともあれ、今日も今日とてダンジョンで魔物を狩りまくっていると――
私は、一つの芸術を見た。
それは人という芸術だ。
指先から足の先まで、全てが一体となった総合芸術。
芸術とは様々な観点から評価の対象になるが、この場合は武芸と表するべき芸術だ。
人が舞っていた。
舞うように、踊るように、魔物を狩っていくのである。
繰り出される拳はその全てに無駄がなく、足さばきは常に敵の一歩上を征く。
まるで最初からその結末が決まっていたかのように魔物の首は宙を舞い、その肉体は壁に叩きつけられていった。
そして、その舞踊は突然終了する。
数秒、たったそれだけその光景に見入っていただけで――数十という魔物が片付いていたのだ。
「ふぅー……どうでした? フーシャさん!」
「――お疲れ様、クロネ。相変わらずすごいね」
戦っていたのはクロネだ。
狼牙流免許皆伝、その実力をいかんなく発揮していた。
「えへへ、そう言ってくれると嬉しいです。私の狼牙流は、とっても美少女ですよね☆」
「美少女っていうか……美の化身みたいだった」
「うーん、それはなんというか大人っぽすぎるというかぁ、もうちょっと女の子っぽく評価してほしいですね」
まぁ、本人はこんな感じなんだけど。
いつもどおりの美少女ムーブで、ウインクしてくるクロネ。
いやほんと、可愛いのはそのとおりなんだけど。
戦ってるときのクロネは、どうしても神々しさがある。
「フーシャさんも、この階層で魔物退治ですか?」
「ほかより多いみたいだからねぇ。クロネは……言うまでもないか」
「ですねー。暴走タイラント中なら多分このあたりに出ると思いますし」
クロネがこの階層――中層にいるのは、ある魔物を探してのことだ。
プリンセスとシェナイトさんが母親の形見を探して下層を潜るように、クロネはある魔物を目的に中層を潜っている。
まぁ、そこら辺に触れると長くなるし、重苦しくなるので一旦置いておくけど。
「とりあえず――ここの魔物を退治していこうか。せっかくだし、私と組もうよ」
「わぁ、フーシャさんと組めるなんて、光栄です」
「光栄なのはむしろこっちな気もするけどね、知名度的には」
あと後衛なのも私だね。
という冗談はさておき。
「じゃあじゃあ、フーシャさんっ」
「どうしたの?」
「――クロネとデートしませんか?」
「物騒なデートもあったものだなぁ。もちろん、いいよ」
というわけで、私はクロネと二人で魔物の殲滅を開始するのだった。
楽をしたいわけじゃないよ? ホントだよ?
+
さて、クロネの戦い方は本当に隙がない。
拳を振るうときは絶対に相手が反撃できない時だし、ケリを入れる時は必ず相手にそれが突き刺さる時だ。
相手に許すのは常に防御か回避だけ。
相手の攻撃は最初から見えているかのようにすり抜けていく。
純粋な戦闘技術の話をすれば、クロネのそれは最強だ。
エドモンドよりも更に強い。
純粋な出力と得物のリーチの差で直接やりあったらエドモンドが勝つ。
だけど、先日エドモンドとルークがやった決闘のルールでルークがクロネと戦ったら、絶対に勝てない。
読みの鋭さが段違いなのだ。
エドモンドが上方向に飛ぶという形でルークの偽弾を打開していたけど、クロネだったらそもそも左右避けの時点でルークを読み負けさせるだろうな。
んで、この特性は私と組んだ時、普通だったら不利に働く。
だって私がクロネの動きを読めないんだもの。
相手の思考を風を通じて読み取る私だが、クロネのそれは読めない……というのは、以前から語っている気がする。
これが実戦だと、後衛としてクロネをサポートすることになる私にとっては大変なのだ。
しかし、そこはクロネも達人級の武芸者。
恐ろしいことに、他の魔物には通常通り隙を見せないのに、私にだけは動きを”読ませる”なんて芸当をやってのける。
「風弾」
だから、後方から風弾をぶっ放す私には、クロネの動きが見えている。
だけど眼の前でクロネとやり合う魔物はそれがわからない。
クロネが左に動くのに合わせて風弾を放ち、その魔物の腕を吹き飛ばす。
するとそれをわかっていたクロネがほぼ同時に頭を打ち抜くのだ。
この時、本来なら魔物の腕が反撃としてクロネに飛んでいるはずだった。
最悪相打ち、その状況を私がサポートした感じになる。
「ありがとうございます、フーシャさーん」
「こっちは、クロネに合わせてるだけだけどね」
とはいえ、その動きはほぼクロネが意図した通りのもの。
感謝なんてされるいわれはない。
ふーむ、これはなんというか……いい感じだな。
そんな風に、私とクロネは魔物をペチペチしていく。
実に効率的。
この階層の殲滅は、私が一人で殲滅する時の二倍以上の速度で終わりそうだ。
「ふぅ、順調ですねぇ」
「だね」
「……でも、
なんて思っていると、少しクロネが複雑そうな顔をした。
うーん、相変わらずあのことを引きずっているみたいだ。
こういう時は慰めるのも、話題を反らすのも違うし……そうだな、聞いてみたかったことを聞いてみようか。
「そういえば、クロネってどうしてこっちで冒険者になったの?」
「こっちでって……カザルマですか?」
「そうそう、狼牙流の人なんだから、王都で冒険者に……って声もあったと思うんだけど」
狼牙流は王都に道場があって、その免許皆伝なクロネは流派の看板を背負ってほしいって声もあったはずだ。
だけどクロネは、カザルマに戻ってきて冒険者になった。
「故郷はこっちですしー……それに、イルナもいましたから」
「あー……まぁ、そうだよね」
多分、そうだろうと思ってた。
だからこそ、クロネにイルナとの思い出話をしてほしくて話を振ったわけだし。
「あたしってー、色んな人から期待されてるんですよ。武術の才能がありましたし、容姿もほら、美少女じゃないですか」
「そうだねぇ」
「だから、期待に応えたかったんです。強くなるのも、美少女になるのも。それがクロネなんです」
ソレは前に、聞いたことがある気がする。
例の”呪い”をクロネが受けたころだったかな。
「――そんな中で、ただ一人あたしに期待しなかったのがイルナなんです」
「そいつは初耳だ」
「悪い意味じゃないですよ? 同じ目線で、同じ考え方をしてくれたのがイルナだった。だから、あたしはカザルマを選びました」
「わかってるよ。だってクロネとイルナは親友なんだもの」
話を終える頃には、あらかた魔物の殲滅が終わっていた。
静かになったダンジョンで、私達は向かい合う。
クロネは恥ずかしそうに頬を掻いて苦笑し、私も少しだけ笑みを浮かべる。
「ありがとうございます、フーシャさん。話を聞いてくれて」
「ううん、いいって。またイルナと一緒に冒険ができるといいね」
「……はい」
女子が二人でデートをするって、それはつまり楽しいことをするためか、人生相談をするためだ。
今回は後者。
クロネとイルナは、ちょっとした呪いのせいですれ違っていて、けれども今でも親友同士。
今回の暴走タイラント(クロネを慮った表現)で、元通りの関係に戻れればいいんだけどね。