風魔術だけでも異世界は楽しいです ~美少女転生からのちょうどいいスローライフ~ 作:暁刀魚
便秘の初期段階が終わった。
それはつまり、暴走タイラントの一番忙しい時期が過ぎたということになる。
ここからは普段より魔物の出現は多いけれど、上層に強い魔物が湧きにくくなるのだ。
正確に言うと、階層に対して適性じゃない強さの魔物が湧きにくくなる。
なので新人も先輩冒険者の同伴があれば、ダンジョンに潜っても良くなるし、それは私じゃなくてもいい。
触手狩りで稼ぎすぎたこともあって、私はここから最終段階のボス戦までダンジョンには潜らないつもりだ。
アレだけ大量な触手をざっくばらんして、目立つんじゃないかと思ったそこのあなた。
初期段階は本当に魔物の数が多くて、二つ名持ちならアレくらい倒しても目立たないのだ。
私以外のメンバーは、この中期段階もガッツリ潜って稼ぐだろうしね。
とはいえ、その間ただ休んでるってのも健全じゃない。
週一フーシャ便を再開したり、教師としての依頼は普通に受けたりしつつ、のんびりこのお祭りを楽しむのだ。
初期段階は忙しすぎて、冒険者は街へ大量にやってきた商人の市場を楽しむことはできないけど、中期以降はそうではない。
特に初期段階が終わった直後は、結構な冒険者が休暇を取ることを選択する。
なので今日と明日あたりは、休みの冒険者で街がごった返すことだろう。
その間のダンジョンは、こういう時こそ稼ぎ時だと張り切る冒険者も一定数いるので問題なし。
さて、そんな中で私は、働いてる感を出すためギルドと協力してあるサービスを展開することにした。
「よってらっしゃいみてらっしゃーい、フーシャたたきやってるよー」
「……何をやってるんだ?」
「お、ルークぅ、良いところに来たねぇ! フーシャたたき一名ごあんなーい」
「まてまてまて」
私がギルドの一角で呼び込みをしていると、ルークが声をかけてきた。
他にも数名、何をやっているのかと興味の有りそうな男女がこっちをみている。
ふむ、ルークへ説明がてら、彼等も客引きしてみようか。
「何って、フーシャたたきだよ」
「……なんだ? 穴から出てくるフーシャを叩くのか?」
「そんな出店みたいなことじゃないって。一言で言えば……マッサージのサービスかな?」
「マッサージ?」
その言葉に、周囲の冒険者が視線をこちらに向ける。
結構な数が向けてきているな。
まぁ、そりゃそうだろう。
だって全員、便秘の初期段階で忙しく働いて疲れてるんだから。
「ルークは休みだってのにわざわざギルドまで来てるのは、ギルドの治療魔術サービスを受けるからでしょ?」
「……そうだが」
治療魔術サービスというのは、ギルドが治療魔術を使える人間を雇って治療魔術を冒険者にかけるサービスだ。
タイラントが発生した時、初期段階が終わった直後設置されることが多い。
これは冒険者達が忙しく働いて、体の疲れが溜まっているのを癒やす目的がある。
ちなみにタダ。
正確に言うと、費用はギルド持ち。
だからわざわざ、治療魔術の使えるルークも治療を受けに来ているのだろう。
技術を学ぶって意味もあるだろうけどね。
「治療魔術を使えば、そういった疲労は一発だよ。だけど、治療魔術だけじゃ癒せないものだって、あるでしょ?」
「治療魔術だけじゃ癒せないもの?」
「――心、だよ」
らぁぶ。
私はハートマークを作って、ルークに向ける。
きゃー、なんて歓声があがった。
ルークは少し慌てるが、あの子達はからかってるだけだから気にしないでね。
私? 私は……ふふふ。
「精神的な疲労は、気をつけないとダメだよ? 体は全然問題ないのに、ある時急にふと頑張れなくなることだってあるんだから」
「……そんなものか?」
「そんなものさぁ」
「まぁ、そういうことならせっかく出し、受けさせてもらおうか。……君がマッサージをするのか?」
何その不安そうな顔。
いや、私マッサージは得意だよ? なんならプロ級のウデマエだよ?
「まぁまぁ、部屋の中でマッサージしてるからさ、入ってってよ」
「わかったよ。……ん、してる?」
さて、中に入ると少し不思議な光景が広がっている。
そこには複数の冒険者が用意されたベッドの上に寝転がっている光景。
そしてそんな彼等の方から、とん、とんとなにもないのに叩かれている音が聞こえるのだ。
これは――
「……まさか、君。ここにいる全員を同時に風魔術で叩いてるのか?」
「そうそう、偽弾を応用してねぇ、気持ちいいところを叩いてるのさ」
私の魔術による光景だった。
そう、私はさきほど客引きをしたり、ルークと話をしている間も室内で冒険者の肩をたたき続けているのだ。
「……無茶だろ!? これだけの数を相手に同時に魔術を発動するなんて!」
「ルーク、しー。寝てる人もいるからさ」
「あ、す、すまん……」
幸い、今の声で起きた人はいないみたいだけど、気をつけてね。
ともあれ。
「別に難しいことはしてないよ。だって、詠唱は一度に済ませてるんだもの」
「一度に……?」
「ルークがエドモンドにやったのと同じだよ」
「え? あ、ああ」
さすがルーク、理解が速い。
ルークはエドモンドとの決闘で、詠唱を事前に終えることで実質自動で魔術を発動するなんて芸当をやってのけた。
アレと同じで、私はまず風を頼りに施術をする相手のドコが凝っているかを観察。
痛がってるところとか、熱のあるところとかを見極めて、そこに適切な速度と威力の偽弾を放つ。
偽弾にも、あたったときの衝撃はあるからね。
というか偽弾マッサージ自体は、割とポピュラーな技術だし。
「後はその放つ速度、威力、そして量を事前に詠唱して決定。発動したら後はそのまま放置で大丈夫ってこと」
「おお……そう聞くと理にかなっているな……」
ルークは、割と思った以上に感心していた。
これだけの数を一度に処理するには、私の風鳴りとしての才能が必要。
だけど、数人程度ならルークでも同時に処理が可能だ。
たとえば……二人とか三人くらいなら。
「ふふ、帰ったら『モクゾー』のみんなに、同じことをやってあげようって考えてるね」
「……別にいいだろ。それに、治療魔術の知見を得るためにやってきた場所で、マッサージの工夫まで学べるとはな」
「それはよかったね。ほら、あそこのベッドが空いてるから、うつ伏せで寝転がるんだよ」
「流石にそこまで面倒を見てもらう必要はない!」
小声で叫びながら、ルークはベッドに寝転がる。
私は軽くルークの体の不調を確認し、ささっと詠唱の準備をしてから偽弾を放つ。
「じゃ、至福の時間を味わってねー」
「……感謝する」
ぶっきらぼうな言葉を受けて、私は手を振ってそれに返す。
ふふ、と笑みがこぼれるのを抑えつつ、部屋を出た。
――ソレからの話なのだけど、私のフーシャたたきはそれはもう好評だった。
何せ、痛いところを風を通して感じることで、最適なマッサージができるのだ。
私の肩書に、凄腕マッサージ師の二つ名が追加された。
問題は、便秘が収まってもこれを頼まれること。
いやね、アレはあくまで私が仕事してる感を出すためにやったことであって、普段はそういうサービスやってないんだよ。
何なら、サービスを受けられなかった身内からも不満が出た。
いや、不満ってほど大事じゃないんだけどさ。
クロネが「クロネもマッサージされたいなぁー、チラチラ」とか定期的に言ってきたり、シェナイトさんに凄まれてプリンセスに実際にマッサージをすることになったり。
何ならギルドからも、報酬は出すから定期的にフーシャたたきをやってくれないか、と頼まれたのである。
まぁ、そういうことなら護衛依頼や教師につづく、第三の仕事としてマッサージを受けるのもやぶさかではないのだけど。
――フーシャたたきの名称は、ちょっと早まったかなぁ、と思わなくもないのであった。
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