風魔術だけでも異世界は楽しいです ~美少女転生からのちょうどいいスローライフ~ 作:暁刀魚
連日、お祭り騒ぎで盛り上がる「カザルマ」の街。
その日は、何やら大きめのイベントをやっているようで、私はふらふらとそちらに足を向けることとなった。
こういうイベントごとに、一介の参加者として参加するのは好きなのだ。
祭りのスタッフにはなりたくないけど、縁日を見て回るのは好きなこの感覚。
ついでに言うと、異世界はとにかく娯楽を自分から探さないと行けない。
必然的に、こういう場には何かと足が向くものなのだ。
『さぁさぁ、次の大食い対決挑戦者は誰だぁー!』
どうやら、やっているのは大食い対決らしい。
魔術による拡声によって、遠くからでも聞こえてくる司会者の声。
おそらくは街の外からやってきた大道芸人。
聞き覚えのない声だから、外部の人だろう。
こういうイベントの司会には、普段から見世物を披露している大道芸人が選ばれるのはよくあること。
もし仮にそういう専門職を差し置いて司会をするとなると……私かクロネの二択になるだろうな。
どちらも二つ名持ちで、片方はカザルマ常駐、片方は大陸で人気の美少女冒険者だ。
私は教師、クロネは師範として人前にたった経験もある。
まぁ、そんな話はさておいて。
大食い対決であれば、それにかこつけて美味しいものをいっぱい食べれるということ。
せっかくだし、私もちょっと挑戦してみようかなぁ、なんて思って人だかりの合間を縫って行くと――
『現在のチャンピオンはここまで十連勝の冒険者! プリンセス・シェフィだぁ!』
――あ、これは勝てないのでやめておいたほうがよさそうですね。
舞台の上には、あわあわとした様子で、観客を見下ろしているプリンセスの姿があった。
プリンセスはとにかくご飯をいっぱい食べるタイプだ。
貫禄の大食いキャラなのである。
だからこういう場があれば、無双するのは必定。
そしてプリンセスが大暴れしている現場に乗り込むと、大変なことになりそうなので私は遠慮しておくつもりだ。
なんというか、会場がヒートアップしていて手抜きとか許してくれなさそうなんだもの。
と、思っていたら――
「――ねえ」
「わあ、シェナイトさん、どうしたの?」
「どうしたの、ではないわ。助けてくれないかしら」
「プリンセスのこと?」
「ええ、あまり目立ちたくないのよ」
シェナイトさんに声をかけられた。
どうやらプリンセスは、なにやらいつの間にか大食い対決イベントに参加することとなり、そこから無双に続く無双で大暴れしているらしい。
基本的に、プリンセスは正体を隠した偉い人だ。
カザルマの街で普通に活動する分にはともかく、こうして街の外からやってくる人間がいる状況で目立つのは避けたほうが良いのである。
「まぁでも、参加しちゃったものは参加しちゃったんだし、プリンセスの気が済むまでやらせてあげたら?」
「私としても、最初はそのつもりだったわ。でも、既にプリンセスは十連勝。ここから敗北するかイベント自体が終わるまで、観客がプリンセスの離脱を許してくれないでしょうね」
「ああー、それはまぁ……そうか」
プリンセスは顔がいいし、食べっぷりも迫力がある。
それはもう、対決は盛り上がったことだろう。
そこから「もうやめます」は周りが許してくれないか。
「といっても、プリンセスに大食いで勝てる人間はいないでしょ」
「……そこが問題なのよね。このまま、勝ちを積み上げてイベント終了まで待つしかないかしら……」
「強いて言うなら、エドモンドはどうかな。彼は強くなるためにとにかくいっぱい食べることを是としているから」
言うなれば、プリンセスが天然の大食い、エドモンドが努力の大食いだ。
プリンセスに勝てるかどうかはわからないけど、エドモンドは長い時間をかけてかなりの量を食べれるよう自分を鍛えてきた実績がある。
「――そこにいるわ」
「……うわああああエドモンドが撃沈してるうううう!」
が、ダメ。
どうやら既にエドモンドは勝負を挑んだ後らしく、イベント会場の隅でお腹をすごい状態にして倒れていた。
あんな漫画みたいにお腹が膨らんでる状態になってる人、初めて見た……
「とすると……そうだね、ちょっと一工夫するしかないか」
「ひと工夫?」
「うん、ちょっと今から準備するから、待っててね」
なんにせよ、正攻法ではプリンセスに勝てる人がいないことはわかった。
だったら、搦め手でプリンセスを倒すしかない。
ちょっと邪道だけど、今回ばかりは理由も理由だし、許しておくれー。
+
『というわけで次の挑戦者はあの白迅のフーシャ! 二つ名持ち二人目の参戦だぁ!』
うおおー、と観客たちが盛り上がる。
あれから三十分ほどが経過し、私とプリンセスはともに大食い対決の舞台上にいた。
「あうあうあう、ま、魔法使いさん……だ、大丈夫ですか?」
「まぁまぁ、見ててよプリンセス。ちゃんと私がここから連れ出してあげるから」
プリンセスは、大食い対決に私が参加したことを不安に思っているようだ。
まぁそりゃそうだ、私は別に少食ってほどではないけど、プリンセスほど食べないのはプリンセスもよくわかってるからな。
でも、今回は我に秘策あり。
具体的には――今回お出しされる料理である。
『さて、今回の料理はカザルマ有数のスイーツとして有名なケーキだ! うーん、美味しそうな香りがここまで伝わってくるぜぇ!』
「わぁ、美味しそう……!」
出てきたのはいわゆるパウンドケーキみたいな感じのケーキ。
確かもうちょっとちゃんとした正式名称があるんだけど、多分司会は覚えられなかったのでただのケーキと呼称しているのだろう。
いや、そんなことはどうでもいいのだ。
それとプリンセスはなんだかんだ食事大好きなので、美味しそうなものがでてくると普通に嬉しそうに反応する。
可愛いね、会場の隅に撃沈した挑戦者が十二人(あの後二人増えた)がいなければね。
ともあれ。
『では、試合開始ー!』
司会の合図で、私とプリンセスはパウンドケーキに食らいつく。
一つ、二つ、と消費されていく。
最初はお互い、いい感じのペースだ。
私も結構お腹が空いていたので、このくらいなら問題なく平らげることができる。
問題はその後。
プリンセスに変化が訪れたのである。
「はう、あうう……ふああ」
なんだか、うつらうつらとし始めたのだ。
血糖値スパイク? プリンセスは健康そのものだよ!
なら何かといえば――
「あひえ、魔法使いさんが……三人にみえるぅ……」
そう、このパウンドケーキ、アルコールが使われている。
ブランデーを混ぜるケーキってたまにあるよね、あんな感じ。
そしてプリンセスは――そのレベルのアルコールでも、酔う!
ふふふ、これを理解したうえで私はこのスイーツを用意してもらったのだ。
クロネのサイン付き冒険譚小説を渡したら、用意してくれましたよ……ふふふ。
というわけで――
『な、なんということだー! プリンセス・シェフィ酔っぱらいによりダウン、勝ったのは白迅のフーシャー!』
勝ちました。
観客たちは、まさかの展開に唖然としている。
しかし、一人が拍手を始めると、最終的にはそれが歓声に変わった。
騒げればなんでもいいのだろう。
そして最初に拍手をしてくれた一人ことシェナイトさん、流れを作ってくれてありがとね。
――というわけで、無事にプリンセスは退場。
私も目的は達したので、後は次で適当に負けて退場すればいいだけ……なんだけど。
『では、次の挑戦者は「モクゾー」パーティのルークだぁー! 新進気鋭の魔術師が二つ名持ちに挑むぞー!』
なんと、ルークが挑戦者として名乗りを上げたのだ。
どうみても『モクゾー』パーティの他二人に煽られての参戦だけど。
……ルークにだけは負けられないなぁ!
というわけで本気を出した結果、ルークに勝利したものの私は限界を迎え、エドワード達の仲間入りを果たすのだった。
うっかり遅れていました。
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