風魔術だけでも異世界は楽しいです ~美少女転生からのちょうどいいスローライフ~ 作:暁刀魚
カザルマには、人々の期待を背負って二つ名持ちとして活動する冒険者がいた。
”光騎”のエドモンドは、現行の二つ名持ち冒険者の中では最強格とも言われる。
”白迅”のフーシャは、二つ名持ちとしての活躍は控えめだが、カザルマで知らぬものは居ない冒険者。
そして――
”剛筋”のイルナはこの街の孤児院から二つ名になった、言ってしまえば街の英雄。
”白狼”のクロネは冒険譚などを出していて、冒険者として非常に知名度が高く人気がある。
誰もが――私は除く――超一流の冒険者。
中でもイルナとクロネは、二人が新人の頃からよく一緒に行動している親友同士。
イルナには同じ孤児院出身のバルクブラザーズと組んだ冒険者パーティがあったから、常に一緒というわけではなかったけど。
大事な冒険をする時は、イルナ達”筋肉共同体”に必ずクロネが助っ人として参加していた。
助っ人として参加するってことは、それだけクロネは期待される存在ってことだ。
無論イルナにとっては、親友と一緒にパーティを組めたら楽しいってだけだし、クロネもそれは解ってるんだけど。
ただまぁ、クロネはどうしても気にしてしまうというか。
それが、あんまり良くなかったんだろう。
今から数年以上前、クロネとイルナ達はカザルマのダンジョンでボスを討伐しようとしていた。
ダンジョンのボスは、人によって出てくる魔物が異なる。
だからか、クロネとイルナ達は厄介な魔物を引き当ててしまったのだ。
”イトキリワニ”。
ワニ型の魔物で、スペック自体は当時のクロネとイルナ達でも問題なく討伐できる魔物。
ただ、こいつには厄介な特性があった。
呪いだ。
といっても、呪いの効果は様々で、どういった効果になるかは食らってみないとわからない。
曰く「その人間が一番嫌がる呪いを付与する」なんて話もあるけど、実際のところはどうなのだろう。
まぁ、検証してみないことにはわからないけど、そんなコトしたがる人がいるはずもなく。
詳細は今も不明のままだ。
ただまぁ、当たっているかどうかで言えば……当たっている気がする。
イトキリワニの呪いは噛まれることで付与される。
噛まれないように攻撃を躱しつつ、イトキリワニを釘付けにするのが有効な戦法。
クロネとイルナ達の場合は、クロネがイトキリワニの呪いを引き付けることになった。
まぁ、噛まれたら呪われてしまうのだから、防御型のイルナ達ではなく回避型のクロネが囮を引き受けるのは当然。
ただ――クロネは失敗した。
うっかり、噛まれてしまったのである。
その結果かどうかは知らないが、イトキリワニを討伐してからクロネとイルナは”すれ違う”ようになってしまった。
会おうと思ってもタイミングが合わず、どこかで致命的にズレてしまう
唯一成功したのは、寝ているイルナの元をクロネが忍び込む試みだけ。
ただ、その後イルナをクロネが起こそうとすると何故か外で事件が起き、クロネはその仲裁をしなくてはいけなくなってしまった。
とかく運命を狂わせる、何とも面倒な呪いだ。
この呪いを解除するためには、イトキリワニがドロップする素材を使う必要がある。
しかしボス部屋でイトキリワニを討伐した時は、残念ながら必要な素材以外の素材がドロップしてしまった。
だからクロネもイルナも、もう一度イトキリワニを見つけて討伐し、解呪の素材を手に入れるため各地を渡り歩いているのだ。
もしこの呪いがなかったら、少なくともイルナと筋肉共同体は今もカザルマの街を拠点にしていただろう。
そしてそんな状況を指して、クロネは言うのだ。
「――あたしはイルナちゃんの期待を裏切ったんだ」
――と。
そしてそんな関係は、暴走タイラントが始まった今でも続いていた。
+
「――大変だ、フーシャ! イトキリワニが見つかったんだ!」
「ほんと? そりゃ良かったじゃない」
「良かったは良かったんだけど……問題があって、今朝からクロネを誰も見かけてないっていうんだ」
「あー……なるほど?」
その日、私はギルドで昼食を取っていると、イルナはひとりで私の元へやってきた。
要件はイルナの言う通り、イトキリワニとクロネの失踪。
端的に言ってしまえば――
「クロネが、ひとりでイトキリワニを討伐しに行ったってわけだ」
「今のクロネの実力を考えれば、問題は無いかも知れないけどさ。イトキリワニの呪いは普通とは違う。そう考えると、どうにも不安になっちゃって」
「まかせてよ。今日はこのままダンジョンに潜る予定だったから、一緒に探してみよう」
まぁ別にダンジョンに潜る予定はなくても、イルナに付き合うつもりだけど。
それはそれとして、適当に返しながら私はイルナとともにダンジョンへ向かう。
イトキリワニの目撃情報は下層だそうなので、早速潜ってみると――
「――下着ドロボー!」
何やら遠くから、胡乱な声が聞こえてくる。
いや下着泥棒って、あの下着泥棒?
なんかそんな自体が発生しそうな魔物とかいたかなぁ?
というか、そんなコトしてる場合じゃないんだけど――
「あー……ワープラット、か。このあたりじゃ見かけないけど、ダンジョンに時折現れる魔物。何故か下着を取って転移しながら逃げていくから、エロモンじゃないかって噂だけどエロモンではないらしい」
と、イルナが解説してくれた。
それを証明するかのように――ダンジョンの奥から無数のラットが飛び出してくる。
便秘の影響がこんな形で……
私はそれを何とかやり過ごしつつ、対策を色々と考え始めた。
「この階層にイトキリワニがいるんだよね」
「ああ、目撃情報もあるし、クロネがこの階層を歩き回ってたって話もある」
「だったら、チャンスだよイルナ」
「チャンス?」
イトキリワニの呪いが、どこまで強力かは定かではない。
だけど、よっぽどのことがない限りクロネがこの階層にいることは事実。
そして、出ていくことはこれまたよっぽどのことがない限り、ない。
「今少し確認したんだけど……うん、いるね、クロネ」
「本当かい!? それなら、クロネと合流できる!?」
「……普通にやれば難しいけど」
可能性としては、合流できる可能性はある。
けど、ダンジョンは入り組んでいてそれこそ呪いが作用する絶好の場所だ。
とすればどうやってクロネを見つけるか。
イルナひとりじゃ、それは少し難しいだろう。
「だけど、ここには私もいる。それを頼りにイルナも私を呼んだんでしょ?」
「ああもちろんさ。フーシャ先生なら、きっと解決策を見つけてくれる……ってね」
「イルナに久しぶりに言われたな、それ」
イルナ達は、私の初期の生徒だ。
私が二つ名を持って、最初に教師系の依頼を請け負った時。
そこに参加したのがイルナとクロネとエドモンド。
まぁ、懐かしい話。
「多分、普通にやってもクロネには追いつけない。だから、まず私がイルナを抱える」
「風魔術の機動力でなんとかしようってわけだね」
「――そして、イルナが壁をぶち抜く」
「ぶち抜くのかい!?」
「あれ、普段からやってない?」
ダンジョンは、定期的にリセットがかかる。
それはダンジョンの構造すらもリセットしてしまうのだ。
だから、別に壁を破壊してもリセットがかかれば元通りなので、パワータイプの冒険者は結構壁を破壊しがちだ。
プリンセスとか道に迷うとよくやる。
「いやだって、なんか悪いし……」
「まぁ今回は緊急措置ってことで。私に抱えられた状態でも壊せそう?」
「ちょっとまってね……うん、問題はなさそう」
壁をコツコツと叩いて感触を確かめてから同意するイルナ。
なら、早速クロネのところへ向かおう……としたところで。
「うわっ!」
不意に出現したワープラットが、イルナの下着を盗んでいった。
「…………」
「…………」
「……いこっか」
「待ってくれないかい!?」
イルナは顔を真っ赤にして叫んだ。
せめて下着を変えるくらいはいいだろう、と。
「だめだよ、ここでラットが下着を盗んだのは間違いなく呪いの影響だ。ここで戻ったら合流は絶対できない。それに――」
「それに……?」
「私、飛んでる最中に下着を見せない技術には自信があるの、任せて」
「……信用できない!」
ええー、風神のはごろもで日夜飛び回ってる私が身につけた技術なんだけどなぁ。
なんか、妙に実感のこもった信用できない発言なんだけど。
まさかどっかで私の下着を見てたりしないよね?
ともあれ、急がないとクロネと合流できなくなるので、私は何とかイルナを説得して移動を開始するのだった。
シリアス回です。
ああシリってそういう