風魔術だけでも異世界は楽しいです ~美少女転生からのちょうどいいスローライフ~   作:暁刀魚

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期待外れの少女・後

「イルナってさ、クロネの呪いのことどう思ってるの?」

「どう、って……わああ! そんなに揺らされたら見えちゃうよ!」

「ごめんって」

 

 壁をバコバコしながら、クロネの元へ向かう。

 クロネは高速で移動しているので、なかなか追いつくのが難しい。

 それでも、着々とクロネの方へ近づいているのを私は感じていた。

 

「……申し訳ないことをした、と思ってるよ。アレはあたいがクロネを止めなかったのが原因さ」

「多分、クロネは自分がイルナの期待を裏切ったのが原因だ、って言うだろうね」

「だろうね。お互いに悪いと思ってて、けれども謝る機会がないのさ。こんなの、謝っちまえば一発だってのに」

 

 クロネとイルナには、今も固い絆が結ばれている。

 だからこそ、会って話をしてしまえば、わだかまりなんて一発で解けるのだ。

 解けるからこそ、呪いは二人をすれ違わせているとも言う。

 

「クロネはさ、色々と見ていて不安になる子だったんだよ」

「初めて聞いたね。多分、イルナしかそう思ってないと思うけど」

「他の人がどう思ってても、あたいにとってはそうなのさ。あの子は何でもできるからっていうけど、何でもできるからこそ、怖いんだ」

 

 ふむ。

 まぁ、なんとなく言わんとしている事はわかる。

 

「何でもできるってことは、失敗できないってこと。一つの失敗を長く引きずって、そのことが常に影になっちまう。今回のことがまさにそうさ。ちょっとのミスなんて気にしなくていいのに、未だにクロネは引きずってる」

「私も、少し覚えがあるなぁ」

 

 私はこの世界に転生してから、あまり失敗したことがない。

 というか、風鳴りの才能があれば大抵のことは失敗しないのだ。

 ――その唯一の失敗が、家族と大切な人を失うっていう最悪すぎる失敗なんだけど。

 

「けど結局そういうのってさ、失敗が多くても多くなくても引きずるものは引きずるよ。クロネが失敗を引きずってるのは、別に失敗に耐性が無いからじゃないと思う」

「そうかい?」

「私の場合がそうだから。結局、誰が失敗したとしても、引きずる失敗はでかい失敗だけだ」

 

 私には、失敗はあんまりない。

 けど、前世は普通に失敗もしたし、今の人生でも思い返すと恥ずかしいこともある。

 でも、引きずるような失敗はキャラバンの全滅くらいなものだ。

 だから結局、クロネがあの失敗を引きずる理由は――

 

「……それだけ、イルナとの関係を大事に思ってるから、のはずだ」

「…………まったく」

 

 少しだけ恥ずかしそうに、イルナは顔をそらしながら壁をバコッとした。

 そろそろ、クロネのもとにたどり着く……はず。

 そう考えて気を引き締めようとしたところで――

 

 

 ――不意に、クロネの気配が消失した。

 

 

「クロネの気配が消えた!?」

「はっ!? あの子、何かあったのかい!?」

「逆、なにもないから。いや、何かはあったんだろうけど、要するに本気を出したんだ、クロネが!」

 

 もし仮にクロネになにかあって――クロネが死ぬようなことが起きた場合、私はそれを察知できる。

 しかし今回は完全にクロネの気配が消えているのだ。

 クロネが気配を消している、ということにほかならない。

 原因は言うまでもなく、イトキリワニだろう。

 ……いやまて?

 

「――そいつ本当にイトキリワニか?」

「どういうことだい?」

「さっきから私はクロネを探すためにダンジョン全体を探査してるわけだけどさ、イトキリワニの反応が見つからないんだよ」

 

 そもそもクロネが気配を消していないのは、こっちに居場所を知らせるためだろう。

 クロネだって、この状況でイルナと合流できるかもしれないと考えているのだ。

 なのにそれを気配遮断――全力に切り替えたのは、イトキリワニの強さが原因としか思えない。

 

「多分変異種……もしくは上位種なんだ。ダンジョンボス級の変異種なんて早々出てこないけど、べん……暴走タイラントなら話は別だ!」

「あたいの前で取り繕わなくてもいいよ、フーシャ先生」

「それはそれ、これはこれ」

 

 というわけで、クロネが危ないかもしれない。

 そもそも、ダンジョンボス級のイトキリワニが出てくるだけでも、結構危険なんだ。

 その上位種ともなれば、二つ名持ち三人がかりで挑むのは当然といえば当然。

 

「つっても、フーシャの探知で何とかできないなら、あたい達にはどうにもならないんじゃないかい?」

「いや、一つだけ方法がある。クロネが気配を消してるのは、本気を出してるからだ」

 

 私は、この状況をどうにかする方法を既に考えついていた。

 というか、単純な話なんだ。

 

「だったら、気配を消さなくても問題ないくらい、クロネが調子を上げれば良い」

「いや、調子なんてそう簡単に上げられるもんじゃないだろ……?」

「ちょい耳貸して」

 

 ごにょごにょごにょ。

 

「そ、それ本当に言うのかい?」

「イルナなら本心で言えるでしょ?」

「い、言えるけどさぁ」

 

 何だか恥ずかしそうなイルナを急かす。

 ほら、クロネは今も戦ってるんだから。

 というわけで、イルナは何度か深呼吸をしてから――

 

 

「クロネ――――がんばれええええええ!」

 

 

 ()()()()()()によって、その声を階層全体に響かせた。

 

「クロネ、アンタならそんな奴に絶対負けない! 呪いなんて、関係ないんだよ!」

 

 クロネの調子を爆発的に上げる方法。

 それはイルナ――親友の応援。

 そもそもの話、だ。

 クロネにとって、イルナは自分に期待しない相手だ。

 誰からも期待されてきたクロネにとって、期待しないイルナはとてもありがたい存在だった。

 でも、根本的にクロネは期待されることで強くなるタイプでもある。

 それがクロネにとって当然だったから。

 深く心に刻み込まれた自身を鼓舞するエンジンに、親友の応援という最高のガソリンを入れる。

 それこそが、クロネに必要なものだった。

 

「――クロネの気配、あった。()()()()()()()だ!」

「そんな近くに居たのかい!?」

「クロネの方も近づこうとしてたんだよ! あっちにも探知能力はあるから!」

 

 私はイルナを下ろす。

 もう、私がイルナを運ぶ必要はない。

 壁の向こう側にいるなら、後はその壁を破壊するだけなのだから。

 隠して、イルナは少しだけ呼吸を整えてから――

 

 

「クロネ!」

 

 

 壁をぶち破り、クロネと変異イトキリワニとでも呼ぶべき魔物の間に割ってはいる。

 ちょうど、クロネが変異イトキリワニへ攻撃を仕掛けるタイミングで、全く同時にイルナも攻撃を仕掛けたのだ。

 

「イルナ! 来てくれたんだ!」

「もっちろん、逢いたかったよクロネ!」

「あたしも!」

 

 二人が、今にも抱き合いそうな勢いで喜び合う。

 けど、今はまだ戦闘中だ。

 

「あ、私も忘れないでね。――じゃあ、邪魔な魔物を片付けちゃおう!」

「はい、フーシャ先生!」

「わかってるさ、フーシャ先生!」

 

 こうやってると、昔ミノタウロスに襲われてた二人を、ダリルとリフィルの時みたいに助けたことを思い出すなぁ、なんて。

 そんな感慨にふけりつつ、私達は魔物との戦闘を開始するのだった。

 

 

 +

 

 

 ――まぁ、相手がいくら変異したダンジョンボス級とはいえ、二つ名持ち三人がいれば別に波乱もなく倒すことができる。

 唯一の懸念は、イトキリワニの呪いだけど、ソレに関しては私が対策を考えてある。

 風を口にかませたのだ。

 噛みちぎれ無いくらいの強度の風が、常に変異イトキリワニの口の中で暴れまわっていた。

 このせいで変異イトキリワニは本来の実力を出しきれず、イルナとクロネの連携によってダウン。

 私は、口に風を噛ませてるくらいしか、やることがなかった。

 

「クロネ、クロネ……あいたかったよ!」

「あたしも……あたしもあいたかった!」

 

 戦いが終わった後、クロネとイルナは抱き合って嬉しさを爆発させていた。

 周囲の魔物は、ここに来るまでクロネとイルナと私が纏めて殲滅してきたから、影も形もない。

 

「これで、クロネの呪いも解けるね!」

「それなんだけど、イルナ。あたし……呪い解けたみたい」

「本当かい?」

 

 どうやら呪いはクロネの精神的な部分が作用していたようで、そこを乗り越えた結果、今のクロネは呪いを無力化できるようになったみたいだ。

 まぁ、気になるなら一応、解呪の魔道具を使って使用するのも悪くはないだろう。

 変異イトキリワニのドロップした素材を使えば、解呪の魔道具も作れるだろうしね。

 なんて思いながら、素材を回収していると――

 

 

「ところでイルナ、下着は履いたほうが良いと思うよ」

「いやそれは……盗まれたんだよ……」

 

 

 二人は、締まらない話題に移行する。

 まぁ、平和だってことだから、悪くはないんじゃないかなぁ?




後半はちゃんとシリアスでしたね!
書籍発売まで後……3日!
次回から更新頻度少しあがります!
書籍もよろしくお願いします!
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