風魔術だけでも異世界は楽しいです ~美少女転生からのちょうどいいスローライフ~ 作:暁刀魚
「いらっしゃい、いらっしゃいだよー!」
ふと、知り合いのどこかノドカな声色が耳に入って、私は視線をそちらに向ける。
今日も市場は賑やかで、それはもうあちこちから呼び込みの声が響く。
そんな中であってもなお、一際通る声の持ち主。
普段であればもっと凛々しい雰囲気に身を包んでいるだろう”彼”が、屋台の一つで元気よく声を張り上げていた。
「こんにちわ、エドモンド」
「おー、フーシャの姐さん、いらっしゃいだよぉ」
光騎のエドモンド。
普段は豪奢な鎧に身を包み、如何にも強者って雰囲気の彼だけど、今回は素朴なシャツとズボン姿で頭にはハチマキを巻いている。
どこからどう見ても、屋台のあんちゃんだ。
彼を二つ名持ちのとってもつよつよ冒険者だと見抜ける人間は、そういないだろう。
いや、肉体はそれはもう筋肉モリモリマッチョマンなんだけど、それでもね。
普段のオーラに溢れた姿とはあまりにもかけ離れているのだ。
「見た感じ、故郷の屋台を手伝ってるのかな?」
「ああ、そうだべよ。オラの村の特産品のもろこしを焼いて売ってるだよ」
エドモンドはカザルマの近くにある村の出身だ。
そこではとうもろこしを特産品にしていて、カザルマで祭りみたいなことがあると必ず誰かが焼きもろこしを売りに来る。
今回は折角エドモンドがカザルマにいるわけだし、エドモンドがやればいいということになったのだろう。
んでこれがまた、塩のかかったおいしーもろこしで、私も見かけたら買うことにしているのだ。
「というわけで、焼きもろこし一つくださいな」
「毎度ありだべぇ、フーシャ姐さんに食べてもらえりゃ、それだけで噂になってくれそうだべなぁ」
「多分エドモンドがいつもの感じで客引きした方が、絶対人集まると思うけど……」
「それやったら、逆に人が来すぎて屋台がパンクするべよ」
「それもそっか」
儲けたい気持ちはあるけれど、人手が足らなくなるほど忙しくしたいわけではない、とのこと。
まぁ実際、大事なのはもろこしを売ることではなく、多くの人に故郷のもろこしの味を知ってもらうことのはず。
とはいえ、稼ぐ方法自体はあるわけだから、必要なら躊躇わずそれを試すのも悪くないとは思うけどね。
「にしても、エドモンドがもろこし売るのなんていつ以来?」
「実は子供の頃以来だべよ。フーシャ姐さんがカザルマに来る前だべ」
「そりゃあ私も知らないわけだ」
受け取ったもろこしは、熱いので少しだけ冷ますことにした。
エドモンドも「食べながら歩いてる私が広告塔になればいいな」と考えているわけだから、ここは後で食べるのがいいだろう。
屋台に並んでいる人はいないので、せっかくだからエドモンドとの昔話に話を咲かせることにする。
「にしてもこうやって、だべだべ言ってるエドモンドを見ると、昔を思い出すねぇ」
「昔って言っても、まだ五年くらい前だべよ。オラとクロネとイルナが冒険者になって、先輩のフーシャ姐さんが色々教えてくれたんだべな」
「当時はまだ二つ名持ちになったばかりだし、教師もしてなかったから、本当にただ”面倒を見た”くらいだけどね」
エドモンド達が冒険者になったのは、ちょうど五年くらい前のこと。
私はちょうどその頃に二つ名持ちになって、杖無しでも疑われることがなくなり、色々と楽になった時期だ。
そのせいか、ギルドから有望な新人の面倒を見てみないか、なんて頼まれたのが事の始まり。
三人とも、当時はまだダリルとリフィルくらいの年齢だったのに、強さはダリル達以上だった。
要するに、有望どころじゃなく、天才といえるくらいすごかったのだ、三人は。
「たった二年で二つ名持ちになって、それからは全員各地で大暴れ。私としても、鼻が高いというかなんというか」
「そう言ってもらえると嬉しいだなぁ。でも、まだ全然だべ」
いいながら、エドモンドはもろこしをクルクルさせる。
美味しそうな焼き目に満足そうな笑みを浮かべつつ、何気なく彼は言ってのけた。
「それに、全力のフーシャ姐さんには、未だに勝てる気がしないだ」
ぶふぅ。
わ、私が実力を隠しているとバレているぅ!?
「な、ななななな、なんのことかなぁ?」
「誤魔化さなくてもいいべ。フーシャの姐さんは普段は実力を抑えてる。本気を出したら、オラでも全く手が出ないべ。それが、自分がつよくなることでなんとなくわかってきただなぁ」
な、なるほど。
思わず動揺してしまい、ほぼエドモンドの発言を肯定するかのような慌てっぷりを見せた私。
しかしエドモンドからしてみれば、私が実力を隠しているなんてこと、一目瞭然なわけだ。
「最近、自分が少しずつフーシャ姐さんに近づいてきて、よーやく姐さんがやべぇって気付いてきただよ」
「ははぁ、そういうこと」
「それに姐さんも、本気でオラに隠してるつもりはねぇべ? その反応がいい証拠だず」
ああまぁ確かに。
もし私が全力を「知られてはいけない」相手に気付かれたら、こんなわざとらしい反応はしない。
なんかこう、頭がいい感じに冷えてきて、冷静に誤魔化したり「気付かれなかった」ことにするだろう。
順風の守り手やってる時みたいに。
「んで、そうして姐さんの実力を感じる度に思うだよ、この世界はまだまだ広いだなぁ、って」
「まぁ……そうだね。エルダーデーモンとか、私でも単独で倒せるかわからないし」
「まずそのくらいの魔物を単独で倒すっていう発想が、オラにはないべ」
じゅうじゅうと、もろこしの焼ける音が聞こえる中、どこか懐かしそうにエドモンドはいう。
「オラは、村じゃ一番の力持ちだっただ。気弱で、なっさけねぇやつだったけど。それでも周りからは頼られてたし、可愛がってもらってただ」
「……」
「ま、期待されてただな。オラが村の誇りだべ、ってなもんだず。だけんども、カザルマに行ったらぜーんぜん弱かっただ」
エドモンドは最強を目指している。
その根底にあるのは、村のみんなの期待に答えるため、という一つの願いだ。
それを昔、エドモンドから聞いたことがあった。
「とくにフーシャ姐さんは、二つ名持ちってこともあって当時としちゃ別格。もう全然雲の上って感じだったんだべよ」
「そう言われると……なんか照れるね」
「んで――今でも姐さんは、雲の上にいるっぺ。こりゃあ、後どんくらいあるきゃあ、オラもそこにいけるんだかなぁ」
私の強さは……なんというか、いろいろな要因で手に入れたものだ。
風鳴りという才能、強くならないといけない境遇、そして転生者特有のあれやこれや。
一番大きいのは最後で、私は魔術を使うのが楽しかったのだ。
おそらく、この世界の人間よりもずっと。
他人とは違う才能を持っていて、前世にはない特別な魔術という力を使える。
そんな状況で使う魔術が――強くなっていくことが
「ちょうどいい」を求める性分を超えて、今の私の強さはある。
「人っていうのは、どうしても境遇や才能でそのスタートは変わってくる。私なんて特に、ね」
「……んだな、変なこと言って申し訳ないだ」
「気にしてないよ、前にも言ったじゃん。それに、私はエドモンドだってすごいと思ってる」
エドモンドは確かに力があった。
村一番の力持ちで体格にも恵まれていて、それは確かに素質があったと言えるのだろう。
だけど、
「だってエドモンドには
そう、村の中では1番の素質持ちでも、冒険者になった時、それは単なる個性の一つでしかなくなる。
エドモンドは才能がなかったんだ。
クロネみたいな武術の才もなければ、イルナみたいな筋肉の塊でもない。
普通の青年。
それが努力によって今の位置まで辿り着いたのがエドモンド。
「まあなんて言うか、人それぞれなんだよね」
「もろこしにも、一つ一つ個性があるように、だっぺか」
「だべだべ」
なんてことを言って、私は話をまとめる。
それから一口齧った焼きとうもろこしは、なんとも塩が効いていて、熱さもちょうどいいものになっているのだった。
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