風魔術だけでも異世界は楽しいです ~美少女転生からのちょうどいいスローライフ~ 作:暁刀魚
攻撃が単調なうちに準備して一気に倒す。
なんか、ゲームの低レベル攻略みたいな倒し方だ。
でも、この世界でもそれは普通に有効である。
というかむしろ、現実だからこそそういう選択肢が豊富に取れるというべきか。
ゲームみたいな”バランス”っていう概念を、リアルはどこかに落としてしまってきているのだから。
「――んじゃ、早速行くよ、みんな」
私達は準備を終えて、転移陣へと足を踏み入れる。
最後にもう一度だけ皆の顔を視た。
全員が落ち着いていて、プリンセスだけがちょっと緊張しているけど、プリンセスが緊張しいなのはいつものこと。
なので、問題なく全員が自然体であることを、私は確認する。
これなら、戦闘で皆のパフォーマンスが落ちるってことはないだろう。
皆が頷くのを確認してから、私は転移陣に入った。
――そこでは、変わらず何かをチャージしながら、エルダーデーモンが出迎えてきた。
不穏な雰囲気だ、何をチャージしているのか未だにさっぱりわからない。
私達がいなくなったあとに、暴れまわるのはやめたみたいで、今はただじっとしている。
しかし私達が来たと気付けば、すぐに動き出すだろう。
事実、視線がこちらの方へと向いた。
「今だ、散開!」
私の指示にしたがって、皆が横っ飛びする。
連携らしい連携はあまりしない。
各自で最善の動きをする、というのが今回の一番有効な戦い方だと私達は判断した。
『――――!』
エルダーデーモンが拳を振るう。
その速度はあまりにも早く、私の目では追うことが出来ない。
でも、そもそも追うことの出来ない速度にも対応できるのが二つ名持ちだ。
私であれば、攻撃が来る前から風鳴りの特性で来ると気付けるし、他の皆もそれぞれの能力で対応可能。
最初の一発は、誰も居ない地面へと叩きつけられた。
『――!』
続けて、頭上から無数の火の玉が降り注ぐ。
これに対抗するのは――言うまでもなく私だ。
「風弾よ!」
全く同じ数の風弾を生み出して、ぶつけ合う。
威力もほぼ同等、無駄なく作った風弾だ。
これ以上の威力の風弾を生み出すこともできるし、コレ以上の数の風弾を生み出すこともできる。
しかし、そうする意味はあまりない。
私の役目は、あくまでこの火の玉を対処することなのだから。
「ははははは! エルダーデーモンよ、私を見るが良い!」
そして、火の玉を対処したら残るは物理攻撃の対処。
エルダーデーモンは両手で攻撃を仕掛けてくる。
つまり左腕と右腕を対処できないと行けない。
左腕の対処は――エドモンドに託された。
「こちらだ、私を狙ってこい!」
その言葉には、挑発の効果がある。
シェナイトさんも使っていた、盾職用魔術。
それにより、エルダーデーモンの攻撃がエドモンドに向けられる。
「ふぅううん!」
それを、エドモンドは正面から受け止めた。
かなり厳しそうだけど、自身のでかい剣で何とか。
エルダーデーモンは、それを正面から打ち砕こうとしているけれど、それは不可能だ。
なぜなら、相手をしているのはあの光騎のエドモンドなのだから。
「こっちも行きますよ! イルナ!」
「解ってるさ、合わせるよクロネ!」
そしてもう片方の腕を担当するのは、当然ながらクロネとイルナ。
こちらは単独で腕を受け止めることは不可能なので、連携してことに当たる。
ただ、それによってクロネとイルナは、エドモンド以上のことができるのだ。
すなわち――
「おらぁ!」
イルナが、右腕に斬りかかる。
それがエルダーデーモンの右腕と拮抗、しかし段々と押され始める。
しかしそこへ――
「てやあ!」
クロネが、腕に対してケリを叩き込んだ。
これにより、エルダーデーモンは痛みに顔をしかめる。
間違いなく、有効打だ。
イルナに対する右腕の圧も弱まり、今度はイルナが反撃する。
『――!』
それを受けて、腕を引っ込めるエルダーデーモン。
――イルナとクロネは連携により、エルダーデーモンにダメージを与えられていた。
エドモンドのように腕を完全に一人で受け止めることは出来ないけれど、代わりに反撃に転じることができる。
実にちょうどいい感じだ。
――さて、今回私達は一撃でエルダーデーモンを屠る。
しかし、第二形態に変化する直前まではダメージを稼いで、少しでも最後の一撃でエルダーデーモンを倒せる確率を上げるのが効率的だ。
そこでダメージを与えるのは、イルナとクロネの仕事である。
このまま膠着状態を作りつつ、じわじわエルダーデーモンを削っていく。
であれば残る二人、シェナイトさんとプリンセスにはどんな役割があるだろう。
まぁ、答えは単純で”最強の一撃でエルダーデーモンをワンパンする”のはプリンセスの役目だ。
プリンセスは私の風鳴りと同じく、身体強化に対して凄まじい適性を誇る。
それを利用し、魔力を練り上げて練り上げて練り上げて、とんでもなく強い一撃を作るというのが今回の作戦。
シェナイトさんは、その護衛だった。
「プリンセス、あとどのくらい?」
「も、もう少しですー!」
「焦らないで、プリンセスが傷つくことはない」
私が確認して、シェナイトさんが励ます。
シェナイトさんは時折私が打ち漏らした火の玉を盾で防いでいる。
基本的に火の玉撃ち落としはエドモンドとイルナとクロネに火の玉が落ちないようにしているので、シェナイトさん達の方には多少落ちてくるのだ。
シェナイトさんが防げるから、ここは放置でいいという話もある。
「フーシャ先生、もうすぐこっちはいい感じになりそうだよ!」
「グレンタンさん様々ですね、角の色で形態変化するかどうかが解るのが助かります!」
イルナとクロネも順調のようだ。
エドモンドは……まぁ、全然問題なさそうだな。
時折、いい感じの高笑いが聞こえてくる。
私も、火の玉落としはそこまで難しくないので、余裕がある。
クロネの言う通り、グレンタンの冒険譚にかかれていた角の予兆を気にしつつ、私はプリンセスの側に移動した。
「よし、最後の仕上げに入るよ、プリンセス」
「は、はい……魔法使いさん!」
既に魔力のチャージは殆ど終わっているだろう。
ごおおお、といったすごい気配を漂わせるプリンセスに私は色々と魔術をかけていく。
一つは風跳、これで一気にエルダーデーモンの頭までかっとんでいくのだ。
次にハンマーへ色々と風の魔術。
インパクトの直前にブースターになるような感じで、プリンセスハンマーの威力を底上げする。
ほんと、こういう準備は低レベル攻略みたいだなぁ。
「よし、終わり。……行けるね、プリンセス?」
「任せて……ください!」
むん、とプリンセスが力を込めると、周囲の空気が揺れた。
たまりにたまった魔力を少し開放させただけで、これだ。
威力は、かなり期待できるだろう。
とはいえ――
「……フーシャ殿! エルダーデーモンがプリンセス殿に気付いたぞ!」
「解ってるよ! 私とシェナイトさんで、プリンセスを必ず送り届ける!」
「ええ……!」
エドモンドが指摘するように、エルダーデーモンの火の玉が
プリンセスが被弾しないよう、私とシェナイトさんで守る。
「行ってくれ、自慢の筋肉を見せつけてやるんだ、プリンセス!」
「頑張ってください、プリンセスさん!」
イルナとクロネに後押しされて、覚悟を決めたプリンセスが飛び出す。
「挑発!」
「風弾!」
同時に、挑発と風弾で火の玉を引き付け撃ち落とし、プリンセスの道を作る。
「行きます!」
叫び、構え、跳躍し――火の玉の中を突っ切るプリンセス。
「行け!」
私の叫びに応えるようにプリンセスがハンマーを振り下ろし――
『――――!!!!!』
エルダーデーモンの声なき絶叫が、ダンジョンに響き渡った。
――やったか!?(ピコーン)
こいついつもフラグ立ててるな。
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