風魔術だけでも異世界は楽しいです ~美少女転生からのちょうどいいスローライフ~ 作:暁刀魚
プリンセスの一撃に、ボス部屋が揺れる。
エルダーデーモンはそのまま倒れ込み、プリンセスはその近くに着地。
動かないエルダーデーモンに、各々が「やったか?」と思考を巡らせていた。
しかし、ただ一人――私だけが即座にそれを察知する。
「――全員下がって!
そこからは早かった。
プリンセスはショックを受けた顔をしているけれど、行動に淀みはないし、ほかは言うまでもない。
全員が下がると、同時にエルダーデーモンから嫌な気配が吹き上がる。
「死んでないってことは、ちょっぴり倒しきれなかったってことですかぁ!?」
「それだったら、警告する前に私がとどめを刺してるよ! ……多分、コレはアレだ」
クロネの質問を否定しつつ、私はエルダーデーモンを睨む。
いや、違うな。
「こいつ、エルダーデーモンじゃない!」
エルダーデーモン、それはあまりに知名度が高くて視ただけで判断できてしまうくらい、姿も知られている。
だからこいつは、一見すると本当にエルダーデーモンに見える。
けど、実際には――
「……何かが剥がれていってるね」
「擬態していた……いや、真の姿を隠していた、といったところか」
一定以上のダメージを受けると、真の姿を解放する別の魔物だ……!
変異エルダーデーモンとでも言ったところか。
以前戦った、イトキリワニの変異種と同じだ。
「どうするの、フーシャ」
「一旦撤退を……とか、言ってられないよなぁ」
エルダーデーモンが変異したと同時に、周囲に無数の魔物が現れる。
ハイミノタウロスや、地竜といった大型魔物、それだけじゃない――
「イトキリワニまで出てるじゃないか!」
「もうあいつと戦いたくないですよ……!」
こりゃまずいな。
エルダーデーモンの第三形態の特性を引き継いだうえで、更にパワーアップしてるってことか。
どうしろってんだこんなの。
もしかしたら、変異エルダーデーモン単体なら私達でも倒せるのかも知れないけど、周りにボス級魔物がわんさかいたんじゃ……
「……魔法使いさん!」
「プリンセス?」
「……あの、えっと」
そこで、プリンセスが何かを叫ぶ。
私が視線を向けると、プリンセスは何か言いたそうにしつつも、それをためらっている。
ああだけど――なるほど。
私はこの場にいるメンバー、特にエドモンドに視線を向けてから頷く。
「言われてみればそうだ」
私は、自分の衣服に手をかける。
「ふええ!?」
言い出したプリンセスが顔を真っ赤にしているけれど、別に脱ぐわけじゃないからね!
魔道具の中には、衣服を即座に別の衣服に変える、なんてものもあるんだ。
ほら、フルプレートアーマーとか着脱が死ぬほど面倒だから、それを解決するために作られた魔道具だよ。
と、誰に言うでもなく説明して――
「ここにいる皆の前でなら、出せるじゃないか
私は衣服を、
これには認識阻害などの効果の他に、風神のはごろも以上に私の風魔術の効果を高める力があるのだ。
全力を出すなら、これしかない。
そして、以前エドモンドは私の全力について指摘してきた。
これはエドモンドだから気付いたってわけじゃなく――イルナやクロネだって気付いているだろう。
指摘しないだけで。
プリンセスとシェナイトさんは言うまでもない。
「――皆、聞いて!」
エルダーデーモンが起き上がりつつある。
周囲の召喚された魔物も、まもなく動き出すだろう。
「
我ながら、とんでもないことを言っていると思う。
でも、それが一番効率的で、確実なんだ。
「……フーシャ先生が全力じゃないことは気付いてたけど、まさかそこまで言い切れるくらい強かったなんてね」
「驚きですよねー、ぜひ全力のフーシャ先生にお手合わせしてもらいたいです♪」
「んだな。ま、先生がそういうなら安心だべ」
けど、皆何一つ文句を言わずに頷いてくれた。
「……なら、私は私のやるべきことをするまでよ」
「頑張りましょう、ナイトさん!」
プリンセスとシェナイトさんは言うまでもなく、それを受け入れてくれていて。
私は少しだけ嬉しくなる。
「というわけだ、変異エルダーデーモン! 勝負だよ!」
そして、起き上がった変異エルダーデーモンに指を突きつける。
エルダーデーモンは、皮のようなものが剥がれていた。
全体的に黒かったフォルムが赤くなり、更には――翼が背中に生えている。
私の言葉を聞いた直後、変異エルダーデーモンは――
『――――!!』
絶叫とともに
「逃がすか!」
かくして、私と変異エルダーデーモンの戦いが始まる。
+
変異エルダーデーモンは地上を目指している。
私達がうっかり中に入っても、動きを見せなかった時はおかしいと思ったんだ。
この形態に変異するにはチャージが必要で、そのチャージが終わるまではああしてじっとしているのがこいつの考えだったのだろう。
そして、チャージ自体は戦闘開始前にはおそらく既に終わっていた。
私達が通常形態を撃破したことで、今の形態に移行。
天井を突き破りながら、地上を目指して驀進しているというわけだ。
無論、私はそれを飛行魔術で追いかける。
「ギルドの人たちのおかげで、誰にも視られる心配がないのは助かったな!」
目に見えない速度で動くエルダーデーモン。
「風弾!」
『――!』
互いに、最大出力の攻撃をぶつけ合った。
私の風弾と、変異エルダーデーモンの拳――それらは半ば拮抗し、エルダーデーモンが受け流す。
少しだけ腕を痛そうに震えさせながらも、追撃の一撃を叩き込むエルダーデーモン。
「
私の体を風が包む。
すると、追撃の拳にそれが触れた瞬間、私は勢いよく後方へ吹き飛ぶのだ。
そのまま壁に何度かバウンドして、やがて動きを止める。
私の使う風魔術の中でも、名前の割には結構高度なもので、自分の出せる全力と同威力の物理攻撃すら受け流してしまう。
要するに、物理で私をどうにかするのは難しいわけだ。
『――』
だから、エルダーデーモンは私を無視して地上を目指す。
正面対決の相手としては面倒、そう判断したらしい。
けど、速度は私の方が上だと、さっき証明したはずだけどな。
そこからは打ち合いだ。
私が風魔術を放ち、変異エルダーデーモンがそれを受け流す。
どちらかといえばこちらが有利だが、変異エルダーデーモンを外に出したくない。
一応、認識阻害があるから私がフーシャであるということはバレないけど。
まぁ、念の為ね。
「風弾!」
何度も先回りして、攻撃。
変異エルダーデーモンをその場に押し留める。
一応、こちらが有利に立ち回れている、と言えるのではないだろうか。
まず速度で上回れている、というのが結構大きい。
攻撃力はほぼどっこいだけど、有利に立ち回れるからな。
『――!』
とはいえ、流石に変異エルダーデーモンもしびれを切らしたのか、動きに変化が見えた。
というか、その場に立ち止まって何やらコレまでにないことをしよう、というのだ。
魔力の流れが感じ取れる、風が奴の狙いを訴えている。
エルダーデーモンにはそもそも、物理と火の玉しかやってこない第一形態と、魔物を呼び出す第三形態の間に第二形態がある。
今までの動きは、魔物を呼び出し物理攻撃で戦うという、第一形態と第二形態をあわせたもの。
であれば当然、ここであいつがやってくるのは――
「必殺技だぁ!」
変異エルダーデーモンが口を開き、そこからとんでもない魔力の衝撃波が、私にむかって放たれた――!