風魔術だけでも異世界は楽しいです ~美少女転生からのちょうどいいスローライフ~ 作:暁刀魚
それは、私の風避を上から踏み越えて私を一発で蒸発させる、とんでもない威力だった。
ダンジョンの壁が何枚も突き破られ、ダンジョンを滅茶苦茶にしてしまう。
とはいえ、既に放たれると解っていた一撃だ。
回避自体は容易――だったが、問題はそこからだった。
変異エルダーデーモンは、無数の魔術を生み出していた。
炎、水、土、光、闇。
風属性を除く五属性が、私を覆い尽くすかのように展開されている。
「そこは風属性も使ってよ!」
風属性第一主義の私としては、許しがたい行為。
風を省くなんて! まぁ、私が風鳴りなのは向こうもなんとなく察しただろうから、余計なことをされないよう風属性を省いたんだろうけどさ。
それはそれとして、許せん!
「風弾! 風弾! 風弾風弾風弾!」
生み出された五つの魔術による攻撃と、同じ数の風弾を生み出す。
この世界ではさぁ、風属性が一番ちょうどよくて、強いんだよぉ!
「そらぁ!」
打ち合いが始まる。
魔術師と魔物、正面からの弾幕バトルだ。
さすがに、ここで負けるわけにはいかない。
しかし――数が多い。
「物量差で押し切られる? でも、威力は勝ってる……!」
どうやら、あちらの方が使用している魔術の数は多いらしい。
多分、魔力量の差だ。
あの大型魔物相手に、普通の人間が正面から魔力量で張り合うことは出来ないだろう。
加えて――
『――!』
「物理攻撃……!」
私の体が勢いよく吹き飛ぶ。
変異エルダーデーモンが私の弾幕にピンポイントで自身の弾幕をぶつけて突っ切ってきたのだ。
風避があるため、それ自体は防げるものの、勢いよく吹き飛ばされる。
更に、私が弾幕を発射していた地点から離れたため、変異エルダーデーモンの弾幕が私の弾幕をかいくぐってきて襲いかかる。
「この程度で! 風弾!」
当然、風弾を生み出してコレに対処。
物理攻撃と違って、魔術は風避で完璧に防げるわけではないのだ。
しかしそうやって風弾に意識を集中させていると、変異エルダーデーモン本体を見過ごしてしまう。
物理攻撃で追撃をしてきたり、私から距離を取って地上を目指したり。
更には――
『――――!』
「ビームぶっぱしながら近づいてくるなぁ!」
例の必殺技を叩き込みながら、私に肉薄してくる。
必殺技自体はチャージが必要なようだが、チャージさえ終わってしまえば何時でも放てるのだ。
当然、ソレに当たったら風避があっても一発で木っ端微塵なので、絶対に避けないと行けない。
どちらにせよ、押されていた。
――何か、対策を取らないと!
「いや、対策じゃだめだ!」
現状はジリ貧、決定打が足りていない。
向こうのほうが圧倒的に手数と攻撃力があって、こっちが勝っているのは速度と魔術の威力くらいだ。
このままここで、戦いにケリをつけるレベルの手を打たないと行けないだろう。
取れる選択肢は少ない、だけど変異エルダーデーモンもこれ以上新しい手を打ってはこないはず。
だとしたら、今最も気をつけるべきは――
「――そうか」
ふと、思いついた決定打。
この状況で、私が放てる最も有効な火力。
それは――
『――!』
「っとぉ!」
拳が飛んでくる。
それを風避で回避。
続けて迫ってくる魔術には、防御で対処。
どうせこっちから攻撃を仕掛けても、飛び回られたり魔術で撃ち落とされたりするんだ。
だったら、反撃はしなくていい。
タイミングを見極める。
変異エルダーデーモンの、思考を感じ取るんだ。
そして――同時に、準備を進める。
「悪いけど、ここで沈んでもらうよ! だいたいさあ、流石にちょうどよくなさすぎるんだよ、君!」
瞬発的な横移動で、迫る拳と魔術を連続で避ける。
エルダーデーモンが逃げないよう、時折牽制を入れつつ時間を稼ぐ。
そうしていれば、やがてエルダーデーモンはまた”ソレ”を使うはずだ。
「暴走タイラントは百歩譲っていいよ、街にも活気が出たし。久しぶりにあの三人にも会えたし」
言いながら、迫る拳を背を反らす体勢で交わす。
反撃の風弾はエルダーデーモンの頬を掠めた。
『――!』
「でもそれにしたって、エルダーデーモンが出てくる上に変異するのはやりすぎだ! だから――」
そして、その時は来た。
「――ここで沈める!」
『――――!』
エルダーデーモンが、再び口から光線を放つ。
その瞬間に――
「今だ! 風避!」
『――――!?』
「そのまま、
やることは、とても単純。
風避は相手の攻撃に対して、反発する風の幕を作ってそれによって攻撃を避ける魔術。
だったら、相手の攻撃の間近に展開すれば攻撃をその場で跳ね返すことも可能。
無論、普通にやればそれは例えば手元だったり、背中だったりから放たれる。
風避を貼られてから回避することも余裕だろう。
しかし、エルダーデーモンの必殺技は口から放たれる。
それはあまりにも近すぎるゆえに、回避が間に合わない。
「でえ、りゃあ!」
ただ、同時にこう思うものもいるかも知れない。
変異エルダーデーモンの光線は風避を貫通するのでは? と。
実際それはそのとおり。
ただしそれは、普通の風避だったら、の話。
この風避は私が魔力を込めて強化したもの、これなら変異エルダーデーモンの光線も弾き返せる。
まぁ、強化の代償として効果時間が減ってしまったけど。
ここで決着をつければ、それは弱点にならない弱点だ。
『――!!?!』
変異エルダーデーモンが、自身の放った光線によって内部をズタズタにされる。
このまま、押し切るぞ……!
「これで――終わり!」
やがて、光線が収まる。
エルダーデーモンはぷすぷすと煙を上げながら、その場に立ち尽くしていた。
魔術も放ってこず、ぐらりとその体が傾ぐ。
終わったか――そう、誰もが思うだろう状況で、しかし。
『――――!!!!』
拳を振り上げ、その手に炎を宿らせる。
形態変化――最後の変化だろう。
それを、私は――
「――――まだぁ!」
故に、拳を振り上げるより早く動いている。
しかし、同時に感じてもいた。
あの拳は拙い。
手を覆う炎が、とてつもない魔力を伴っているのだ。
下手すると、あれ一つでダンジョンを丸ごと破壊してしまいそうな。
私の魔術の威力では対応できない。
風避をしても、風の幕ごとエルダーデーモンはそれを吹き飛ばすだろう。
詰んでいる――最初からこの動きを読んでいなければ。
「――させ、るかぁ!」
私は、エルダーデーモンの頭上を取った。
その手には、風の剣が握られている。
一体、いつ、どこでそんな物を用意したのか?
答えは単純――エルダーデーモンの光線を反射した風避だ。
私はアレに、事前に風避の効果終了後、風の剣に変化するよう魔術を刻んでおいた。
ルークがエドモンドにやったような、詠唱段階で魔術を用意する手法。
そしてこの魔術は私の魔力を大量に、かつ事前に注ぎ込んである。
決着をつけるには、十分すぎるほどに――
「まあでも、アレだ……!」
風の剣を両手で握り、エルダーデーモンを見下ろしながら、零す。
「久々に、全力の全力で暴れられて――ちょうどいい感じに楽しかった……よ!」
そして、剣を振り下ろした。
変異エルダーデーモンもそれに対して拳を放ち――
――私がそれを両断する形で、決着がついた。
長時間魔力をチャージした私と、限界のところで追い詰められて魔力を開放したエルダーデーモン。
勝敗を分けたのは、きっとそこだろう。
だが、どちらにせよ真っ二つにされた変異エルダーデーモンは血に倒れ伏し――消滅した。
私の、勝ちだ。
次回、二章最終話です