風魔術だけでも異世界は楽しいです ~美少女転生からのちょうどいいスローライフ~ 作:暁刀魚
気がつけば、ダンジョンはかなり滅茶苦茶になってしまっていた。
しかし、暴走タイラントの最後に出現するボスを倒したことで、ダンジョンは更新されるだろう。
多分、明日には元通りのダンジョンと元通りの湧きに戻っているだろうな。
天井が崩れ、地面はえぐられ、壁という壁は破壊され尽くした戦場痕を見て、一つ息を漏らす。
「更新されてなかったら、流石にごましきれないよなぁ。それはちょうどよくないよ」
まぁ何にしても、すべて終わったからこそ言える適当だ。
エルダーデーモンが消滅したことで、発生したドロップを回収する。
角とか心臓とか、まぁ色々だ。
中にはちょっとおもしろそうな魔道具とかもあって、なかなか面白い。
ソレと同時に、暴走タイラントの終わりを感じてすこししんみりするのだ。
「っと、しんみりしてる場合じゃない。ボス部屋はどうなった?」
私は考えながら、近くの転移陣に足を向ける。
直接向かってもいいのだけど、転移陣でボス部屋に向かえば一発だからね。
というわけでボス部屋に向かうと――
「筋肉!」
「美少女!」
「「合体拳!!」」
謎の掛け声とともにイルナとクロネがイトキリワニを拳で叩きのめしていた。
何かラブラブなんとか拳みたいなノリだったな、なんだこれ。
「あ、魔法使いさん、そっちも終わったんですか!」
「うーん、終わったよ。そっちもってことは、プリンセス達もこれで終わりかな?」
「お疲れ様。まぁ、こっちはちょっと強い魔物の集まり程度のものだから、時間をかければなんとでもなるわ」
周囲を見渡すと、辺りにはもはや魔物の姿はなく、プリンセスとシェナイトさんが私に声をかけてくれた。
イルナとクロネがポーズを取って、勝利の喜びを分かち合っている。
エドモンドは……せっせとドロップアイテムを集めていた。
まぁ、かなりの数のドロップがあるので、終わったらさっさと拾い始めないと終わらないんだよね。
「あ、見て見てイルナ、何だかピンク色の棒みたいなのが――」
「ちぇえすとー!」
「ああっ、もったいない!?」
全員で、ワイワイと騒ぎながらアイテムを回収していく。
時折なんかえっちなアイテムを無知組が拾いかけては、保護者がそれを叩き壊したりしつつ。
「……やっぱり、ないですね」
「暴走タイラントなら、見つかるかと思ったのだけど」
「プリンセス達は、お母さんの形見を探してるの?」
「ええ……ここで見つからないとなると、ちょっと色々難しいわね」
前にも話したけど、プリンセスはプリンセスの母親の形見を探してダンジョンに潜っている。
暴走タイラントは凄まじい勢いでアイテムがドロップするから、普通なら見つかってもおかしくない。
しかし今に至るまで、形見は見つかっていないのだ。
考えられるとすれば、誰かが既にみつけてこっそり持ち出している。
ギルドには「探している」という張り紙を出してもらっているから、その張り紙を無視すると冒険者としての信用が下がるのだが、やってしまう人はいるだろう。
「……でも、私は頑張って探しますっ」
「もし誰かが持ち出しているなら、外で何かしら情報が見つかるはず。そっちはそっちでもう探してもらってるだろうし、今はダンジョンを探しながら待つしかないね」
「はいっ」
むん、と気合を入れ直すプリンセス。
私も、タイミングが合ったら人に話を聞いてみようかな。
なんて話をしていると、ドロップアイテムの回収が終わる。
変異エルダーデーモンはどれだけ魔物を呼び出したのか、全くすごい数のアイテムだった。
とはいえ、そんな後処理もこれでおしまい。
私の服もいつものはごろもに着替えて。元通りの”フーシャ先生”になる。
「じゃあ帰ろうか! 今日は美味しいものいっぱい食べるよ!」
「はーい! 楽しみにしてまーす!」
「あたいも腕を振るおうかねぇ」
「故郷のもろこし、いっぱいあるべよ」
二つ名組が口々にそんなことを話しながら、私達は転移陣に入る。
さー、これからどうしようか、なんて呑気なことを考えていたが――
待ち受けていたのは、それはもう結構な数の人だかりだった。
「うわっ」
「ひゃっ」
思わずプリンセスと二人で声を上げてしまった。
シェナイトさんが油断なく、プリンセスの前に立つ。
そこにいるのは、武装した冒険者――ざわざわと色めき立つ彼ら。
果て、一体何事かと思えば――
「か、帰ってきたぞ!」
「全員無事だ……!」
どうやら、エルダーデーモンが出たと聞いて駆けつけてきたようだ。
といっても、ここにいる多くの冒険者はエルダーデーモンを前にするとあまり役には立たないのだけど。
それでも、彼らなりにできることがないかと、ここまで来たのだろう。
中にはモクゾーパーティや、ダリルとリフィルの姿もあった。
私はそっちに手を振って、無事をアピールしておく。
「こりゃ、何か一つ演説でも打ったほうがいいんじゃないかい?」
「だったらクロネに任せよっか、そういうの一番慣れてるだろうし」
「えー、だめですよぉ」
んで、イルナの言う通り何かしら勝鬨を上げておいた方が良いんだけど。
何故かクロネに拒否されてしまった。
いや、一番慣れてるんだし、ここはやってよ。
と、思ったのに、誰も私の考えに賛同してくれない。
というか、全員こっちを見ている。
「…………ええと」
「こっちを見ないで、プリンセスがそういうことに慣れているわけないでしょ」
「あうあう」
ああ、プリンセスが隠されてしまった。
いや一応王族なんだから、人前に立つ練習はしてますよね!?
庶子だから全然練習してない? そんなぁ。
そしてエドモンドも完全に私に任せるつもりらしく――ようするに、私がやらないと行けないみたいだ。
ちょ、ちょうどよくない。
「言っておくけど、大した演説はできないからね?」
「いやいや、むしろそれがいいんじゃないかい。ほら、いつも通りの”ちょうどいい”演説を頼むよ」
「ううー、解ったよ」
まぁ、そういうことなら……本当に後悔しても知らないからね、全く。
というわけで、こほん。
「えーと、集まってくれてありがとう、みんな。見ての通り、無事にエルダーデーモンの討伐は終わったよ」
実際に倒したのが変異エルダーデーモンであることは、一応伏せておく。
そもそもそんな魔物の存在、確認されたこともないからね。
色々と調査をして、情報を明らかにするかは国やギルドの判断も必要だ。
そこら辺、私は完全に丸投げの構え。
「べん……暴走タイラントも、これで終幕。長かったお祭りも、そろそろおしまいだ」
危うく便秘と言いかけて、一部の冒険者が笑いを堪えている。
なお、中には暴走タイラントの呼び名を知らない冒険者もいるぞ。
それは流石にどうなんだ。
「でも、お祭りはもう少し続く! ここからは、稼いだお金でいっぱい騒ごう!」
おお、と少し歓声が上がった。
みんな、楽しいことは好きだからね。
「冒険は楽しい。魔物を倒すと達成感がある、強くなったらダンジョンに潜りたい、いいドロップアイテムを見つけたい。冒険者には、色々な楽しみ方があるよね」
いいながら、私は周囲を見渡す。
「でも、人生の楽しさって、ソレだけじゃないと思うんだ。時には休んで、平穏な日常を謳歌するのも大事だと思うよ」
その言葉に、皆がウンウンと頷く。
これからここにいる人達は、祭りの最後を楽しむ。
そして、日常に帰っていくのだ。
「それが終わったら、また冒険に出よう。休んで、冒険して、楽しんで。それこそが――ちょうどいい冒険者の生き方ってものなんだから!」
私がそう言って手を上げると、皆が完成とともに同じく手を上げた。
べん……暴走タイラントが始まって、色々なことが起きた。
久々に友人と再開したり、その問題を解決したり。
まさか冒険者として、私が全力を振るう時が来るとはおもわなかった。
でも、それももうおしまい。
後は祭りを楽しんで、そして――
――私はこれからも、ちょうどいい日常を送るんだ。
カクヨムの方にほぼ毎日投稿していたのですが、ちょうど今日最終話まで投稿するので、こちらも今日投稿させていただきます。
第二章、お読みいただきありがとうございました。
書籍に合わせてここまでやってきましたが、賑やかな便秘になったと思います。
また何かあれば続きを投稿したいとおもいますので、よろしくお願いいたします。
評価とか、感想とかいただけると嬉しいです。
では、またいつか。
ちょうどいい頃に会いましょう。