風魔術だけでも異世界は楽しいです ~美少女転生からのちょうどいいスローライフ~ 作:暁刀魚
これはマジな話なんだけど。
二十年も女やってると、慣れる。
イヤほんと、TSしたことある人ならわかると思うんだけど、人間ってのは環境に迎合するものなんだって。
TSしたことない? それはうん。
私の場合はそもそも、もともとTS系の創作が好きだったのもある。
ゲームは女主人公を使うタイプ。
なので、転生した当初が美貌SUGEEEだったのもあって、割と自分から慣れようとしてた。
というかこう、女性的なあれやこれやに興味があったというのもある。
しかしその後、なんやかんやあって私は落ち着いた。
やっぱ男はいいや、という感覚になったのである。
というか恋愛的なあれこれに興味がないのだと、再確認した。
美少女キャラは好きだけど、現実の恋愛は興味ない。
そんな前世のオタク感覚を、私は取り戻したのである。
なんか、変な変遷を辿ったな。
まぁ結果として、私はなんというかあまり性別を気にしなくなったと思う。
男女どちらの話も理解できるようになったというか。
男女どちらとも、”普通に”会話できるようになったというか。
これをちょうどいいというのかは分からないけど、まぁバランスよく使い分けられる様になったと思う。
「だからよ、プリンセスは絶対巨乳だと思うんだよ。あの鎧の下に隠されてるだけで」
「いいや貧乳だね、やっぱあの儚さに巨乳はねぇよ」
だからだろうか、隣で私が夕飯を食べているのに見知った男冒険者が気にせずこんな話を始めるのは。
もしも私以外の女性がいたら、絶対しないような話題だ。
無論私だって、いい気はしない。
プリンセスは妹のようなものなのだから。
が、それはそれとして。
「おい君たち、私の存在を理解しておきながらその話とは、いい度胸じゃないか」
「いやいやそうは言うけどよ、フーシャ。男なら誰だって気になるもんなんだって」
「気持ちはわかるけどさ、大声でする話じゃないじゃん」
咎めつつも、声はかけていく。
理由は単純、意味もなく男子な話で盛り上がりたい時はTS娘にもある。
過去の感覚を思い出し、バカ話をしたいときもある。
そういう時は声を掛ける、そういう気分じゃない時は無視。
概ね、私と野郎どもの暗黙の了解だ。
「そこはほら、フーシャはそういうんじゃないっていうかさ」
「そうッスよ、フーシャさんは俺達とマブなんスから」
「どうだか」
といいつつ、もし仮にこのままいい感じになったらお持ち帰りしたいという欲が野郎どもから透けている。
結構過酷な子供時代で、貞操だけは死守しきった私の直感が告げていた。
こういう場で、酒は飲んでも呑まれるな、だぞ。
「言っておくけど、プリンセスの胸囲については絶対に答えないからね」
「それ以外の人なら?」
「答えないけど、話には乗る」
正確にはシェナイトさんのことも話さない。
あの人、私みたいなファッション男嫌いとは違って、ガチの男嫌いだからさ。
まぁほわほわプリンセスをむくつけき連中から守ってれば自然とそうなるか。
そしてこいつらも、そのあたりはわきまえているのでシェナイトさんに触れることはない。
「しかし、思うんだがカザルマの街って巨乳が少なくないか?」
「胸がデカくて得する冒険者って、あんまりいないんだよ。君たちみたいなのが湧いてくるし」
「俺達は虫かなにかッスか?」
正確に言うと、胸を押さえつけてる人が多い。
大きく見せる利点が薄いってのは、本当にそのとおりで。
男遊びするタイプの女冒険者でも、普段は押さえつけてることがほとんどだ。
「あと、単純に押さえつけたほうが動きやすいんだよ。それに、そのほうが君たちにとっても楽じゃないか」
「まぁ、押さえてなけりゃ誘ってオッケーってのは、暗黙の了解ッスけど」
「そうじゃなくてさぁ、単純にカザルマがほかより平均小さいんじゃないかって俺は思うんだよ」
そうかなぁ、と夕飯を口に入れながら考える。
貧のプリンセスに、並――背丈の割にはあるけど――の私。
巨寄りのシェナイトさん。
知り合いの冒険者の顔を思い返すが、胸の大きさは千差万別だ。
若干私と仲のいい人に、巨乳が少ないかなってくらい。
「そして、その原因に俺は心当たりがある」
「っていうと?」
「原因はあんただよ、フーシャ」
私ぃ?
なにそれ、みたいなのが顔に出ていたんだろう。
ニ、と嗤って男は続ける。
「カザルマの街は、新人冒険者がダンジョンのある街の中だと一番多いって話なんだよ」
「そうなん?」
「そうそう、ギルドの姉ちゃんが言ってた。数字はよく覚えてねぇけど」
へー、意外。
でも確かによく考えると、カザルマのダンジョンって上層の難易度が低い。
中層以降は他のダンジョンと遜色なくなるせいで、体感中層が他よりきついなんて言われることもあるけど。
だったら、上層クリアしたら別の街に拠点を移してもいいわけだし。
そういう理由で、新人が多くても不思議じゃない。
……それと私の何がつながるんだ?
「んで、そんなカザルマの街には、いるわけだよ」
「何が」
「青少年の憧れバキューム、白迅のフーシャ先生が」
「あ、そうつながるの」
いやでも、私一人で新人の流入に変化起こすほどの影響力あるか?
あったら嫌だぞ、ちょうどよくない。
というかよくよく考えたら、私と新人が顔を合わせるのは新人が冒険者になってからだ。
中には私目当てに冒険者になるなんて奇特な輩もいるかもしれないが。
絶対統計に影響ないぞ。
「ないない、やっぱ絶対ない」
「まぁまぁ、そう言わないでくださいッスよ。俺だって、フーシャ先生に大人にしてもらったんスよ?」
「ここぞとばかりに、厭らしい言い回ししないでくれる?」
美少女にキモって言われたくて言ってるだろそれ。
キモイと思われても好感度が下がらないって、わかってるところが余計嫌だわ。
そもそも私は君の名前すら覚えてないくらい、君に興味がないだけだからな?
「フーシャ先生の薫陶を受けた冒険者は、男女問わずフーシャ先生が初恋になるッス」
「男女問わないの!?」
「こないだも、ミノタウロスの件で新人有望株のダリルとリフィアを落としたって聞いたッスよ」
ああ、あの二人。
確かにあれ以来、私を見つけると二人がかりで私を褒め称えるようになった。
なんかこう、ちょっとだけあこがれ以上の何かを感じる。
それはそれとして、どう考えてもあの二人は将来的にくっつくと思うぞ。
というか、そうならないと私が辛い。
弱いオタク……
「かくいう俺も、フーシャ先生が初恋だったッス」
「それを今ここで言うのか……」
「あ、でも今は彼女いるんで、フーシャ先生とは残念だけど一緒にはなれないッス」
「ええ……」
この後輩口調の男、私の少し下で元教え子らしい。
それはそれとして、道理であんま私にモーションかけて来ないと思った。
もう一人は露骨にちらちら胸見てるのに。
結構純だな、この後輩口調。
言い回しはキモかったけど。
「っておい、お前に彼女できたって、俺知らねぇんだけど?」
「言うわけないッスよ、万年彼女いない先輩に。こういう話しても後で流せる場がなかったらずっと秘密だったッス」
「っくそー、娼館だと大好評なのによぉ」
それはどう考えても相手が商売でやってるからだろ。
確か、この先輩男の方は前に見たことがある。
結構大きいパーティのリーダーをやっていて、デリカシーがない以外は優秀な冒険者だとか。
そのうち二つ名持ちになるんじゃないかとか、言われてたな。
つまり稼げてるってことだから、娼館の人たちにとってはいいカモだ。
「ところでフーシャ、グラス空いてんだけど、一杯いかないのか?」
「絶対いかない」
「そうかい、相変わらずお堅いね」
と、そこで先輩男はモーションをかけなくなった。
落とせないと見るや、すぐにこれだ。
そういうとこだぞ、いや乗らないけど。
「まぁ要するに、若いやつが多いから、巨乳が少ないってのが俺の研究成果だ」
「もっとマシな研究したら?」
「女の人の落とし方とかどうッスか?」
「てめぇらなぁ!」
巨乳が少ないっていう発言に対する理由自体は、結構ちゃんとしてたが。
そもそもその考えに至る時点でアホだろ、みたいなツッコミをしつつ。
正直、男の輪に入り込んでチヤホヤされるのは嫌いじゃない。
持ち帰られないよう気をつける必要はあるが、大抵の場合面のいい女と話せればそれでいいって連中がほとんどだ。
私の性別を無視しつつ、私の顔の良さをアテにしてやがる。
そういう意味で、チヤホヤされたい私とはウィンウィン。
ちょうどいい関係ってわけだな。
なんて思いつつ馬鹿話をして、そのまま何事もなく別れた。
なお、翌日あったダリルとリフィアのペアから「ロマンスの香りがします!」とか言われた。
なにそれ。
TSしたからにはこういうことしたいよね、みたいなお話。
日間一位になりました!
大変嬉しいです、ありがとうございます!