風魔術だけでも異世界は楽しいです ~美少女転生からのちょうどいいスローライフ~   作:暁刀魚

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女いっぱい寄ればかしましましましましい

 ある日、ギルドを訪れるとその中央でシェナイトさんがフリフリのドレスを着せられていた。

 直感的にまずいと判断した私は、即座に踵を返し――

 

「た、助けて……」

 

 シェナイトさんのか細い囁きを聞いてしまい、逃げられなくなった。

 

 シェナイトさん。

 プリンセス・シェフィのお付きで、幼い頃から彼女を守り続けてきたらしい。

 凛々しく、気高く。

 それ故に女性人気が高く。

 それ故にこうして女性陣の玩具にされることが多い。

 

 普段のシェナイトさんは、重厚な鎧に身を包んでいる。

 下半身はプリンセスの希望でギリギリスカートになっているので若干の女性らしさもあるが。

 その下はズボンだ。

 鎧を纏っていない時は、鎧を着るときのインナーの上にコートみたいな服装をしている。

 背丈は高めで、髪は前にも言ったけど首元のあたりでリボンで結んでいる。

 胸も大きい。

 

「……ごめんなさい」

「いえいえ」

 

 そんなシェナイトさんが、現在はフリフリのドレスを着せられていた。

 意外なのは、プリンセスの姿がないこと。

 こういう場には、彼女の歓声がつきものなのだが。

 

「今日は私一人で、今後の予定を決めるためにギルドの依頼ボードを見に来ていたの」

「で、女性陣に捕まった……と」

 

 シェナイトさんの話を聞きながら、私もシェナイトさんと同じように着せ替えられていた。

 普段、私は服装を風神のはごろも一本で統一している。

 自動修繕機能があり、匂いや汚れは清掃魔術で綺麗にできるからだ。

 代わり映えのしないファッションに、女性陣のあたりはたまにきつい。

 

「ふたりとも、これだけ素材がいいのにファッションを楽しまないなんて損よ」

「そうそう」

 

 なんて。

 私はアレだ、女性になってからこっち、未だにファッションというものがさっぱり理解できないのだ。

 なんとなくいい感じにはできる、でもそれが流行とか組み合わせってなると全然。

 だったら機能を言い訳にできる風神のはごろも一本のほうが楽。

 あと、今回みたいにTSモノだとTSキャラが周囲の女性陣の着せ替え人形にされる時がたまにあるけど。

 結構ありがたいと思うんだよね、これ。

 少なくとも私は、たまになら着せ替え人形にしてくれたほうがありがたい。

 日常生活で使えそうなものは、後で買って実際に着るのだ。

 今回は厳しそうだけど。

 

「私は……楽しみなんて、いらないわ。プリンセスを守ることが、私の使命だもの」

「そのプリンセスが、ナイトさんがいろんなことを楽しんでほしいっていって、たまに頼んでくるんだけど」

「くっ……」

 

 プリンセスもシェナイトさんも、使命があってこのダンジョンにやってきている。

 ただ、そのスタンスは正反対。

 「日常をできるだけ楽しむ」プリンセスと「プリンセスを守るためには日常なんていらない」シェナイトさんだ。

 プリンセスにとっては、そんなシェナイトさんに日常を楽しんでもらいたいらしい。

 

「ほらほら、この衣装なんてどうかしら。黒くて、夜のドレスって感じ。ナイトさんピッタリだと思わない?」

「う……」

 

 そしてシェナイトさんも、昔はともかく今は少し態度が軟化している。

 本人の趣味に合うファッションなら、考えてくれるようになったのだ。

 ちなみに、その趣味とはクールでかっこいい系。

 女性陣はもう少しシェナイトさんを可愛くしたいみたいだけど。

 まぁ、折衷案ってやつだ。

 

「……わかったわ。後でプリンセスにも見せるから、ドレスは宿に送ってちょうだい」

「え、いいの? これお店から借りてきたもので、結構お高いんだけど」

「それくらい、払えるわ……」

 

 うーん、結構金銭感覚は貴族よりなシェナイトさんだ。

 まぁ、自前の装備はすでに揃っており、冒険者として将来のために稼ぐ必要はなく。

 しかも目的のアイテム以外はすべて売却可という状況。

 日常的に下層で稼いでるプリンセスとシェナイトさんなら、それくらいお金もちじゃないと冒険者も夢がないか。

 

「で、フーシャさんなんだけど」

「迷うわよねー」

 

 さぁて、こっちもいよいよ議論が激化してきたぞう。

 私は全体的に小柄で、顔立ちも可愛い系だ。

 だからお姉さん方の可愛い系を着せたい欲求も満たせるのだけど。

 

「……下手な衣装だと、風神のはごろもに勝てないわ」

 

 これだ。

 風神のはごろもがね、これまたデザインがいいんですよね。

 ソシャゲの最高レアって感じ。

 ちょっとやそっとの衣装じゃ、歯が立たないわけで。

 

「フーシャさんに似合うのは絶対白! なんだけど、その白衣装の頂点がはごろもなのだわ」

「だわだわ。別にはごろもでもいいんじゃないって私は思うんだけど」

「せっかくなら、なにか着せたいの。わかってフーシャさん」

 

 わからないけど、わかった。

 私に口出しができる領域の会話を彼女たちはしていない。

 ブルベとイエベって何?

 前世でも聞いたことあるけど、なんでこの世界にも同じ用語が存在するの?

 異世界って不思議。

 とか思っていたら。

 

「……なら、風神のはごろもでいいんじゃない?」

「え? どういう……わお」

 

 シェナイトさんが声をかけてきた。

 と思ったら、わお。

 ノースリーブの黒ドレス。

 背中も大胆にあいていて、とてもセクシー。

 それでいて、本人の気だるげながらも恥ずかしそうな表情がたいへんキュート。

 ううん、お姉さんいい仕事しますね。

 

「風神のはごろもを、飾るのよ。フーシャは飾らないでしょう、はごろも」

「あー、なるほど。ってひぃ」

 

 瞬間。

 お姉さんたちの目が輝いた。

 というか怪しく光った。

 怖い。

 

「それよ!」

 

 一斉に、シェナイトさんに視線が向いて。

 それから私へ、捕食者の笑みを浮かべてにじり寄る。

 だから怖いって。

 

「考えてみれば、普段のフーシャさんは飾りげがなさすぎるのよ」

「今でも十分可愛いけど、もっともっと可愛くなるべきだわ!」

「その心遣いはありがたいけど、もうちょっとこう、牙を隠して!」

 

 ジリジリ。

 現在、私達がいるのはギルドの個室だ。

 逃げ場なんてないのだから、そんなに血相を変えなくても。

 

「ようし一から選び直しよ。いいかしら、フーシャさん」

「今日は護衛依頼も講習もないからいいけどぉ」

 

 ダンジョンに潜るつもりでギルドに来てたから、別に休んでもいいんだけどさ。

 風神のはごろもを着てる状態でおしゃれができると、色々幅が広がりそうなので助かるんだけどさ。

 女三人よれば姦しいとはいうけどさ。

 これはそれどころの騒ぎじゃないって!

 

 

 +

 

 

 ギルドの喧騒は、基本的にその場にいる男女比によって雰囲気が決定する。

 女性が多ければ男性陣の肩身は狭く。

 男性が多ければ女性はギルドに寄り付かない。

 どっちが多くなるかは、割とその日次第だ。

 今日は女性陣の日だったという話。

 ギルドの片隅のむくつけき一角から、着飾った状態で飲み物を飲んでいる私とシェナイトさんに視線が集まりつつ。

 

「迷惑かけたわね。悪い子たちじゃないのだけど」

「いえいえ。私としてもファッションって正直よくわからないから、あの子達に見てもらえると助かるんだよ」

「……私もよ」

 

 私の場合、それはTSによる性別の迷子が原因だ。

 男にも女にも意識的になれず、どっちつかずで。

 まぁ、ちょうどいいといえばちょうどいいんだけど。

 それでも、普通とは言い難いだろう。

 シェナイトさんの場合は……

 

「騎士として生きることだけ考えて、プリンセスの側で一生を終えるつもりだったから」

「……」

「でも、うまく行かないわね。結局、一人を守るにも私だけじゃ手が足りなくて」

 

 かつてのことを思い出しながら、私の目を見てシェナイトさんはいう。

 

「”順風の守り手”のようには、行かないわ」

「……そっか」

 

 順風の守り手。

 人知れず、野盗や人買い、ゴブリンなどの弱きを虐げるものに鉄槌を下す存在として、最近話題になっている人物だ。

 そんな順風の守り手は、かつてシェナイトさんが助けられなかったプリンセスを、助けたことがある。

 

「だから、私にとってもプリンセスにとっても。今はちょうどいい機会なのよね」

「機会?」

「人生を見つめ直す機会よ」

 

 ある意味で、それは青春だろう。

 プリンセスはまだ十六で、シェナイトさんも私と同年代。

 若いといえば若い盛り。

 悩むには、”ちょうどいい”タイミングだった。

 

 なお、結局風神のはごろもに施された様々なアクセは、もう一回選び直すこととなった。

 いやね、飛行魔術で飛んでると……落としちゃうんだよ、風に飛ばされて。

 私が探し物の天才じゃなければ、完全に失くしてしまうところだった。

 最終的に、飛んでも落ちないアクセに変更となったけど、うん。

 だいぶいい感じになったんじゃないだろうか。




ある程度TSを受容すると、着せ替え人形化がありがたくなるみたいなお話。
本作、大変ご好評いただき嬉しく思います。
忙しくて感想等は返せなくなってきていますが、よんでいます。
本当にありがとうございます!
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