風魔術だけでも異世界は楽しいです ~美少女転生からのちょうどいいスローライフ~   作:暁刀魚

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わるいおんなと騙されやすいプリンセス

 プリンセス・シェフィ。

 とある目的で、カザルマの街のダンジョンを中心に活動する冒険者。

 その正体はとある貴族のご令嬢が、正体を隠している……ということになっている。

 実際には、王国の第四王女。

 第四王女が外を出歩いてていいのかと思うが、諸々の理由で許可が降りている。

 一番の理由はシェフィが庶子であり、第四王女と言っても王位継承権とかはない立場だからなのだが。

 そんなシェフィには、ある弱点があった。

 

「だ、だからよぉ。俺の腕がポッキリ折れちまってよぉ、助けてほしいんだよ」

「う、うん。わかりました!」

「あっちに来てくれねぇか?」

「はいっ!」

 

 ――騙されやすいことだ。

 現在、私の眼の前でシェフィが町中で悪い大人に誘拐されそうになっている。

 腕を包帯でぐるぐる巻きにしているが、そのぐるぐる巻きにした腕を元気そうに振り回すんじゃない。

 プリンセスしか騙されんわ、そんなもの。

 

「ちょいちょいちょい。どう見ても折れてないから。ピンピンしてるから」

「あ、魔法使いさん! えっ!? そうなんですか!?」

 

 私が声を掛けると、ぱぁっと嬉しそうな笑顔をしてから、心底驚いた様子で悪い男を見る。

 

「ダマシテナイヨ、ウデ、オレテルヨ」

「魔法使いさん、やっぱりこの人、腕が折れちゃってるみたいです……」

「いやいやいや、騙されてるってプリンセス」

「そうなんですか!? うう、この人、悪い人なんですか……?」

 

 とまぁ、こんな具合に。

 最後に言った人の言葉を信じる、とかそのレベル。

 純真と言うか、無垢というか。

 いっくらなんでも騙されやすすぎだろ、と思うが。

 まぁ、それに関しては問題ない。

 プリンセスには騙されてもなんとかできる、ある能力が備わっているからだ。

 

「プリンセス、もし腕の骨が折れてるってことは、あの包帯に触るとめちゃくちゃ痛いってことだよ」

「そ、そうですね?」

「思いっきり触ってみれば、折れてるか解るじゃん?」

「ええ!?」

 

 プリンセスが、そんな事するわけにいかない、と首を横に振る。

 しかしここで意外なことに、騙そうとしているおっさんが手を上げた。

 いやだから、包帯でぐるぐる巻きにした方の手を上げるんじゃない。

 

「確かに、そっちの子の言うことは尤もだ」

「子?」

「でも、確かにこの腕は折れてるんだ。それを解ってもらうためなら……いいぜ、思いっきり触れてみても」

「私は子じゃないんだけど?」

 

 はたちなんですけど? 魔術の学校……は通ってないな。

 ええい無視するんじゃない!

 

「……わ、わかりました。そういうことなら……私、触ります!」

「あー、ちょっと待ったプリンセス。ちょっとこの木片を触ってみてくれる?」

 

 私は、持っている荷物の中に入っていた、以前ダンジョンでドロップした木片をプリンセスに手渡す。

 なんでこんなもん入れっぱなしにしてたんだと思ったけど、まぁちょうどいい機会なのでプリンセスに処理してもらおう。

 

「わかりました、こ、こう?」

「そうそう。……で、そのまま全力で力を込めてもらっても?」

「は、はい」

 

 何だ何だと、不思議そうに悪いおっさんが私達の会話を覗き込んでいる。

 そんな私と悪いおっさんの前でプリンセスが「えいっ」と気の抜けた掛け声を零すと――

 

 

 持っていた木片が、跡形もなく木っ端微塵に吹き飛んだ。

 

 

「――は?」

 

 ほんのりと、周囲に木の香りが漂う。

 香りとして認識されるくらい、木片は粉々になってしまったのだ。

 そんな中、おっさんの間の抜けた声が響く。

 

「見ての通り、プリンセスはとんでもないパワーの持ち主なんだよ。……それでいいなら、触らせてみる?」

「…………」

「あ、あうう、私そんなに凄い力持ちさんじゃないですよぅ」

 

 そう、そうなのだ。

 プリンセスはとにかく力持ちなのだ。

 原因は、身体強化に対する極端な適性。

 私の風魔術と同じで、ちょっとの魔力でえげつない身体能力を手にすることができる。

 代わりに魔術が一切使えないという欠点もあるが、それを補って余りあるパウアなのだ。

 

「し、失礼しましたー!」

「あ、い、行っちゃいました……」

「悪は去った……」

 

 これだけ騙されやすいプリンセスが、今も無事でいるのはこの身体能力のおかげ。

 おそらくあの男は、別の悪いやつからプリンセスの身体能力の件だけ伏せて教えられたんだろう。

 個人的にはあんな奴、さっさと街の警備兵に突き出したほうがいいと思うが。

 周囲の声を聞いた感じ、通報はされてるみたいだからそのうちとっ捕まるだろう。

 

「……やっぱりあの人、悪い人だったんですか?」

「そうだねぇ、プリンセスももうちょっと気をつけないとだめだよ」

「あうう……今日はナイトさんに怒られないようにしようって思ったのに、まただめでした……」

 

 プリンセスだって、騙されやすい自分をなんとかしたいとは思っている。

 でも、眼の前で困っている人を見ると、放っておけなくなってしまうのがプリンセスだ。

 間違いなく、善良でいい子ではある。

 

「どうすれば、騙されないようになるんでしょう……」

「んー、そうだねぇ。前にも言ったけど、大事なのは相手がどれだけ真剣に話してるかを見極めることだと思うよ」

 

 これは単純に、私の経験談なのだけど。

 私は相手が嘘を言っているかどうか、見極めることができる。

 風の流れを感じ取る私の感覚は、相手が嘘を言っている時に起きる風の変化すらも読み取ってしまうのだ。

 しかし、相手の言葉に嘘があるかどうかっていうのは、そこまで大事ではない。

 なにせ――

 

「人の言葉には、常にどこかしら嘘があるんだ」

「わ、私は嘘は、言ってないつもりなんですけど……」

「でも、勘違いや思い違いで、ちょっとした間違いを起こすことなら誰にでもあるでしょ?」

「それは……はい……」

 

 プリンセスはうっかりさんだから、何かと思い当たるところがあるのだろう。

 

「だからこそ、相手の言葉がどれだけ真剣かを考える。たとえその言葉が嘘だって、言っている本人が解っていても、信じる価値のある言葉はあるよ」

「そう、なんですか?」

「そうさ。例えば――大きな夢を語ってる時とか」

 

 夢とは、言ってしまえば嘘だ。

 いまだ叶えられていない夢を、いつか叶えてみせると豪語する。

 それは見方によっては、大嘘つきと言われても否定はできないだろう。

 

「でも、人間ってのはその言葉の真剣さに、同じ夢を見たくなる生き物なんだ」

「同じ夢を……見たくなる」

「他にも、今は事実じゃないことだけど、これから事実にして見せる嘘、とかね」

 

 そう言いながら、私は空を眺める。

 もう、時刻は夕日が地平線の向こうに消える頃。

 辺りは少しずつ暗くなり始めていて、多くの人が仕事を終えて帰路につくころだ。

 多分プリンセスも、それは同じはず。

 

「プリンセス、これから時間、あいてる?」

「えう? ええっと、今日はこの後宿でご飯のつもりだったけど……」

「シェナイトさんは、お出かけ中……と」

「知り合いの盾職の人達と、最近の盾職のセオリーについて研究する、って言ってました」

 

 ということは、夜は一人で夕飯を食べて、そのまま寝るつもりだったのだろう。

 

「なら、これから時間はあるってことだ」

「そ、そう……ですね?」

 

 そういうことなら、プリンセスを私が連れ出してもいいだろう。

 シェナイトさんは文句を言うかもしれないけれど――

 

 

「でしたら、プリンセス。私と一晩、最高の夜を過ごしてみない?」

 

 

 騙されてもいいと思える嘘、というものを。

 プリンセスに教えてみるのも、悪くない。

 

「あ、ぅ……」

 

 軽く一礼して、気障ったらしく手を差し伸べた私に。

 プリンセスは顔を真赤にして、答えた。

 

「……それは流石に、私だって騙されてるって……わかりますよ、魔法使いさん」

「プリンセスも、成長してるね」

 

 やがて、一つ息を整えてから。

 プリンセスは、私の手を取る。

 

 

「もう、魔法使いさんは……本当に悪い魔法使いさんですね」

 

 

 なんて。

 さて、今日は久しぶりに、ちょっと美味しいお酒でも飲んでみようかな。

 なんて思いながら、私はプリンセスの手を引いて、夜の街へと繰り出すのだった。

 …………あ、別にいかがわしい事をするわけじゃないからね!




TS女はわるいおんなであるべきだという思想の元書きました。
なお、本作で男、女に関わらず、主人公の恋愛が描かれることはないと思います。
他人の脳は焼いていきます。

週間一位ありがとうございます!
皆様の応援がやる気になりますので、今後もよろしくお願いします!
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