語録注意
ネットミーム注意
実際の宗教を愚弄する意図は一切ございません。
特定の宗教、団体、人物とは一切関係がございません
この話はフィクションです。
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手を合わせるとシャリ、と数珠の擦り合う音が小さく鳴る。簡易的な小さい仏像の前に座る俺を仏様が見ているような気がして、鼻で笑う。仏だって俺見るくらいならホモビ見るわ
「あっ、そうだ(唐突) そろそろ家出ないとまずい…まずくない?」
できるだけ早く立ち上がり、横に置いていた学校鞄を掴んで玄関に向かう。勿論、忘れ物確認も怠らない。慎重なのはいいゾ〜コレ、と呟くと、玄関横に置かれている爺ちゃんの遺影が目に止まった
「行ってきます」
外は晴天で、春とも夏とも言えない五月半ばの肌寒さが制服越しに俺を刺す。高校二年生になった俺は友達は一人を除いて居ない為、こうやって一人寂しく語録を使って登校しているのだ。何も人肌恋しいとは言わないけど、友達は沢山居て欲しい…居ても良くない?
御守り代わりの数珠が制服の隙間から見えないようにグイッと押し上げて道を歩いていると、10分もしないうちに学校の正門が見えてきた。
正門の前に、ポツンと誰か立っている
「あっ、おはようございます、益田さん」
そう言ってブロンドヘアの女の子が、振り返ってにっこり笑いかけた。俺の後ろに誰かいるのかと後ろを見るが、益田らしき人物はいない……まさか、俺に話し掛けて来ているのか? この女の子は?
いや、確かに、俺は益田だけども。
「あの……お名前、間違ってましたか?」
「い、いや、俺益田です…。すみません許してください何でもしますから!」
「いえ、大丈夫です。むしろなんかごめんなさい…? そ、それじゃあ私、行きますね」
クッッソ気まずくなりながら、ブロンドの子が正門を通って行った。
あの子と一緒に横を歩くのはなんかメンタルに来そうだったので、俺はスマホをいじって校門の横で誰か待ってますアピールをして数分経過した後に校門を抜けた。情けない男である。
そんな気まずい空気をやり過ごして放課後、俺は担任にプリントを運ぶ雑用を任されてしまった。それはいい。担任には授業中「はいじゃあ益田答えてくれ」みたいに当ててこないという大恩があるし、大した用事でも無いわけで………だが
「一緒に頑張りましょうね、益田さん」
「あっその…あっはい…」
あのクソ教師───なんてことをしてくれたんだ!!
女の子と陰キャを二人にしたって気まずいだけだろ、と叫び散らかしたいのをグッと堪えるが、自然と目の前の女の子と目線を合わせないように目が泳ぐのが分かって益々自分にイライラしてくる。
「…じ、自己紹介しましょうか!
「っす………。益田悟です…」
死ぬほど気まずいわバカタレ…ッ
ここで「しょうがねえなあ」と陽キャみたいに振る舞えたら話は別なんだが、情けないことに俺にそんな根性は無い。さながら質問されている野獣先輩のように、俺は陰キャらしい事しか喋れなかった。
プリントの束を抱えた瞬間、田中さんがビクリと大袈裟なくらい肩を揺らした。目線は廊下の窓の方へ向いていて、顔が恐怖で染まっている。
「たっ田中さん…?」
「………あ、すみません、ちょっとぼーっとしちゃいました」
「ソッスカ……」
その割には随分(表情筋)硬くなってんぜ? 幽霊でも居たんですかね…(適当)
少し早足で歩き始めた田中さんの斜め横を歩きながら、辺りを見渡して見るが、至って普通の廊下には怯えそうな虫も幽霊もパッと見た感じ居ない。……けど、あそこまでビビった理由は気になる。
「あの、田中さん」
「はい?」
「さっき何か───変なものとか、見えたりしたんですか」
足がゆっくりと止まって、田中さんがため息を吐く音が、静かな廊下に響く。
肩につかないくらいの金色の髪が夕日を浴びて、非日常的な美しさを放ちながら物理法則に従い揺れるのを、俺はぼうっと見ていた。
田中さんが俺の方へ振り返って、俺の手を掴んだ。白くて綺麗な手だ。
「見たんですか」
体を強ばらせて、ゆるゆると俺が無言で首を横に振ると、田中さんは再びふうっと息を吐いた。呆れでも拒絶でも無いその呼吸は、詰まったものを吐き出すような音のように、俺には聞こえた。
今言うのもなんだが、日本人らしくない西洋人ような見目はどこか未熟さを感じさせながらも、その辺のアイドルよりよっぽど綺麗で───
手が離される。思ったより力を込められていたらしい俺の手首が今になって痛み出すのを誤魔化すように、俺は数珠を左手首から外して差し出す。
じいさんに渡されたこの数珠は、田中さんの前に出すとやけにちんけに見えるが、気休めくらいにはなるだろう。
「これっ! あの、御守りの数珠です。持ってるだけでも、その…気持ち的に楽になるかも…」
「ふふっ」
笑われた。もう駄目だねこの学校生活…と虐められるのを覚悟していると、田中さんがシャツの胸元というか、深い谷間──に手を突っ込んで何かを取りだした。
大きな十字架のネックレス……じゃなくて、取り出されたのは木製のロザリオだ。
「ありがとうございます。益田さん」
お気持ちだけ受け取っておきますと言外に言われて、俺は自意識過剰さに恥ずかしくて黒塗りの高級車に突っ込んでしまう──ことは無く、再び廊下を歩き始めた。今度は少しづつだが、会話もある
「……その、田中さんが見たのって」
「…黒い馬と、甲冑です。馬がよく視界の端にいて、何か不吉なことが起きるんじゃないかって怖くて…」
「ただの野生の馬の可能性…は無いか。じゃあ、本当にオバケだったりして」
「───信じてくれるんですか?」
田中さんがボソリと呟いた。
信じるも何も、嘘じゃなさそうだし、嘘でもまあ別に…とは思うが、素直に言ってもよくないだろう。
──しかしただでさえコミュニケーション能力の低い俺が言葉を必死に選んでも、彼女を慰める上手い言葉は浮かんでこないのである。
「えーと、あの…その、な、なんとかなるといいですね」
「ふふ、」
廊下を歩きながら、何とか良い言葉が無いかと唸っていると田中さんが小さく笑った。嘲笑かと怯えながら端正な横顔を見ると、安堵したようにへなりと眉が下がって、口元が笑っている
「お人好しなんですね」
「いやあの、そん、あの、」
「信じてくれてありがとうございます。──けど、馬のことは、きっと私自身でなんとかしてみせますから」
───明確に、線引きされた。
これ以上は踏み込むな、と。踏み込んでくれるなと言われてしまった。まあ妥当だろう。誰だって踏み込まれたくない部分はあるものだし、知り合いでもない陰キャ相手なら尚更だろう。
なら──陰キャは潔く引くしかない。そもそも、田中さんはさっきまで名前すら知らなかった他人なのだ。
「分かりました」
「……ええ。…あ、もう着きましたね。」
職員室の扉を横に引いて開けて、夕暮れの色に染まった担任の机に書類を置く。担任は居なかった。トイレにでも行っているのかもしれない。
書類、小テストのプリント達が風で飛ばされないようにと上にその辺にあった筆箱を置いて重しにすると、ふと窓の外が目に付いた
そこには───黒い馬に乗った首の無い甲冑が、大きな鎌を俺たちに、向けている───有り得ない、バケモノが、居た。
とにかくおそろしい──見るだけで喉を掴まれているような気分にさせるその馬が、一度嘶いた。
「ひっ」
情けない引き攣った悲鳴が喉からこぼれると同時に強風が窓を揺らした。窓の揺れる音に驚いた瞬間──馬と甲冑は、ふっと蜃気楼のように儚く消えてしまった。
ほんの一瞬のことなのに、体がガタガタと震えて言うことを聞かない。
なんとか横を見ると、田中さんはシャツの胸元を握り締めて俯きながら可哀想なくらい固まっている
「たっ、た、田中さん!」
反応が無い
「田中望さん!!」
「はっはい!?」
肩を掴んで強く揺らすと、田中さんが顔を上げて黒い目を丸くしている。一瞬、ほんの一瞬、──あっ可愛いとか思ってしまった自分を叱咤して、田中さんの手を引っぱる。
「とりあえず校舎の外まで、いや、警察だ。近くの警察署まで逃げよう」
「──────。」
いまだ田中さんは呆然としている。が、今は一刻を争う。不審者…不審者? が出たのだし、構ってられないと手を引いたまま走る。
普段から日々の体力作りと、もし学校を何かが襲った時の為のイメージトレーニングを欠かさないで良かった。まあ、相手は銃を持ったテロリスト集団じゃなく、黒い馬と首なし甲冑なんだから、現実は時に厨二病の妄想を上回るのだと思い知らされたのだが──!
職員室を出て、廊下を全力疾走する。
階段を段飛ばしで転がるように降りて、上履きのまま靴箱を抜けると正門がまだ開いている。本来ならまだ部活だかなんだかで残っている生徒だって多い筈なのに、辺りは異常なくらいに静まり返っていて、走ったせいで荒くなっている俺達の呼吸音がやけにうるさく感じた
────突然、田中さんが足を止めた。
疲れたのだろうか。またあの化け物が現れたのだろうか。
俺が疑問を口にしようと、振り返ろうとした瞬間────
「──危ないっ!!」
勢い良く地面に押し倒されたと同時に強制的に上向きに固定された視界で空を見ると、そこには何かが浮いていた。
その"何か"には翼があり、手足があり、人型で、黒いスカートが風か何かで靡いている。ソレは高い上空に、ソラに在っても理解出来るほど──理解してしまうほどの美。
ばさばさとはためく翼は人外のそれだが、その美しい
なんだか見ているのも申し訳なく感じて、体を少し起こして見回すと、右足の近く、丁度三十センチも空いてないくらいの場所に斧と──黒い馬の切断された首が刺さっている。
それも、軽く刺さってるとか、埋もれてるとかではなくて、バッチリと、目視でわかるくらいに地面に勢い良くめり込んでいた。
「ヒッ────!」
あんなのが当たればタダじゃ───いや、命まで危ういかも知れない。現に、俺達の目の前に現れて恐怖に陥れたあの恐ろしい黒い馬は、なんとも猟奇的な姿になっている。馬だけを見れば、見事に首をスパッと切り落とされていて、壁に飾れるハンティングトロフィーのようでもあるのだが。
根源的恐怖が喉から引き攣った声を発させるが、そんな事は知らないと言わんばかりに、美しいその人型の女…? はゆっくりと地面に舞い降りた。
「─────。」
息を飲むほどに鋭い目線。それは俺ではなく、比喩的な意味無しで俺の上に乗っている田中さんに向いていた。
「み、未来さん」
「望。その男と関わるのは諦めなさい」
冷たい声でそう言い切った美しい人は、少し目線を動かし、俺と目を合わせた。綺麗なのに、それ以上に目線がキツくて見惚れることも出来やしない。
というか、この人は田中さんの知り合いなのだろうか? ならば何故、あんなに冷たい声を出すのか。
ふと──目が合った。田中さんではなく、美しい人に。
美しい、とにかく綺麗な人の口が開かれる。
───何故?
───ああ、あの人は話そうとしているのか。思考が、修道服を着た目の前の彼女の暴力的なまでの美しさに乱されている。
「貴方も、この事柄には深入りしないことを勧めます。」
やっぱり冷たい声で、まだ何か話そうとしていた美しい人が突然、息を飲んだ。
慌てて辺りを見ずとも、勝手に目線がすぐ近くに向く。
田中さんが馬の首にそっと触れていて、そして、何処か憐れむような目でそれを見ている。それだけの光景に目を奪われるなんて、おかしい。
───その思考が俺の頭を過ぎる前に、すぐさま、時間にして十秒も経たないくらいで変化は起きた。
「望っ!」
怒号のような声が飛ぶ───。
だが、それにこの"不思議な現象"を止める効果は無い。
「あ────」
声を漏らしたのは俺だったか、誰だったか。幻想的な白い光の粒子が、砂が風で舞うように田中さんに纏わりついて、吸い込まれるみたく消える。いや、事実として田中さんの中に光の粒子が入り込んだ──ように見えた。非現実的な光景に思考が止まって、瞬きすら忘れて俺は田中さんを見ていた。多分、あの美しい人も田中さんを見ていただろう。何故だかそう思った。
全部の光の粉がさっぱり消え失せると、田中さんの手には鎌が握られていた。それは確かに、あの時の──甲冑の握っていた鎌だ。
「そ、んな…」
消え失せるような声に現実に引き戻される。美しい人は、女神のような、天使のようなその人は罪を懺悔するように口を抑えた。
それが懺悔のように見えた理由はよく分からない。
「なにこれ────? って、ああ! すみません益田さん!」
慌てたように俺の上から降りた田中さんは、突然現れた鎌を地面に置いて、俺に手を差し伸べた。
有難く柔らかな手を握って立ち上がり、すぐさま手を離す。ずっと握っているのは申し訳ないってはっきりわかんだね。
「そう…いやなんだお前(素)」
「すみません、私もよく分かりません」
──お前もわかんねぇのかよ! これもうわかんねぇな。
ザッ、と砂を踏むような音がして、思わず二人で音の方を見ると、そこには苦虫を噛み潰したような、無理やりホモビに出演させられたような顔で、あの美しい人が立っていた。
「私が説明しましょう」
「未来さん! あの、未来さんは何を知っているんですか? あれは、あの化け物は、その翼は一体、なんなんですかっ」
「──落ち着きなさい、望。そこの貴方も、共に着いてきてくれば私が、いいえ、 "私たち" が説明しましょう。………叶うのなら、知らずにいて欲しかったですが」
最後に何か、聞こえなかったが付け足すように呟いて、美しい人──未来さん? は空を──具体的に言うと斜め右上空辺りを睨んだ。
「エス。居るのでしょう。エス!」
ぐわん、と。
声に呼応するように空間が捻れる、いや、歪む? とにかくよく分からないが、夕焼け空がそこだけ歪に曲がっていて。
───そこを引き裂くように、人が出てきた。
「大声を出さなくても聞こえていてよ、
「は」
出てきた男──? は空中からストンと地面に着地した。──ふわふわのフリルの付いたドレスのような黒いワンピース?のスカートと、長い黒髪を揺らして。
それは不思議の国のアリスの着ているようなエプロンワンピースのようなものにも見えるが、色が全体的に黒いからかなんとなくメイド服のようにも見える。その理由は長い袖の袖口辺りや肩、黒いスカートはフリルやリボンで飾られているからであり、幼稚に見えないくらいの適度な量で、適度な場所に装飾された可愛らしくもあり美しくもあるそれは、男──エスとやらの不気味さを増長させるものでしか無かった。
エスとやらをすぐさま男と見抜けなかったのは肌の露出が全くないのと、男らしさが現れる部分が徹底的──と言っていいほどに隠されていたのだ。声は男らしい──と言えなくもないくらいの絶妙な高さで、手は白いレースの手袋で隠されている。肩はフリルと少しサイズの大きいだろう服か? 腰は茶色の細いベルトがキュッと通されていて、更にふんわりと膨らんでいる膝まであるスカートに隠されている。足、足は──
そこまで考えて、ふと話し声が耳に飛び込む
「エス、教会まで運んでください」
「──ええ」
これまたぐわん、と辺りが歪んで、───思わず膝を着いて崩れ落ちた。
頭。頭が。頭がとにかく、もう、尋常じゃないくらい、痛い────!!
「ひゅう、ひゅぅ、っげほ、」
吐き気もしてきたし、頭は割れそうだし、いきなり意味わからんことに巻き込まれるし、本当に今日は厄日だ。
馬鹿みたいにキツイ吐き気のお陰で、なんとか頭痛が"マシ"に思えたのも束の間、俺は地面に顔面から崩れ落ちた。
「え、益田さん!? 益田さん、大丈夫ですか、益田さん!」
「安心なさい。そのうち良くなりますわ」
「そのうちって、ていうかここ、教会じゃあ───」
───キョウカイって、あの教会か?
確かに、さっきまで地面に立ってたのに今は顔面から床に崩れ落ちても顔に砂がまとわりついていない。その代わりすげえ床が冷たいし、なんとなく薄暗い。照明が付いていないのか?
かつん、カツン、カツン────
音がする。こっちに向かってくる、硬い床を歩く靴音がする。
「おやおやおや。突然どうされました?」
穏やかな声がした。