迫真適合者(コネクター)部   作:おんすていじ

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二話 あっ(察し)

 

 

許してくださいなんでもしますから!

 

───────

 

 

 穏やかな声がして、頭痛を無視して頭を上げるとそこには、声で想像した通りの、皺の入った穏やかそうな顔をした、白髪のカソック姿の男が、蝋燭で薄ぼんやりと照らされた中、立っていた。

 穏やかな、温和の雰囲気を纏った男は一歩、近付こうとして──そのまま息を飲んだ。

 

 

「───それは、」

「ええ、神父様。ご覧の通りです。望には……"接続者(コネクター)"の資格があったようです。」

「しかし、望はなんの鍛錬も積んでいないはずでは」

「そうなのです。神父様。鍛錬も、修行も、何もせずに彼女は"(アザー)適合(コネクト)"してしまいました。」

「そんなまさか!」

 

 神父様、とみらいさんと呼ばれた女性が神父を宥めるように呼んだ。

 

 

「これが真実なのです───望は私の追っていた神秘である──"デュラハン"と接続してしまいました。彼女の持つあの大鎌が何よりの証拠です」

 

 

 コネクタだのアザーコネクトだのデュラハンだのと、深刻そうに神父と未来さんが語っているが、俺にはさっぱりである。田中さんも分かっていないのだろう、ポカーンとした顔をしている。

 

 

「神父様、未来さん、さっきからなんなんですか! 貴方達は!」

「ああ、そうでした。神父様。彼女らに説明をしても、構いませんね」

「…ええ」

 

 

 クルッとターンするように振り返って、みらいさんが俺達に向き直り、自身を抱き締めるようにしながらホモビ──苦虫を噛み潰したような顔で口を開いた。

 

 

「まず、この世界には話の結晶というものが居ることを理解してください。これらは神秘とも、怪異とも呼ばれる、この世の理を逸脱した存在です」

「ちょっと待った」

「待ちません。聞きなさい。いいですか、貴方達が出会ったアレはデュラハン───という話の結晶なのです。語られたもの、謳われたものが概念となり、空想上のもの(おとぎ話)になった時、あれらは結晶としてこの世に現れるのです。そして、その出現を止めるにはアレらを才を持つものが、"適合者(コネクター)"が力として留めるしかない」

 

 

 非現実的な話だ。信じれないが、非現実的なものに、俺は少しばかり触れてしまっている。

 

 俺は今、この世の理を超越したものに触れんとしている──それだけは、たしかに分かった。しかし、はいそうですかと鵜呑みにできるほど俺は人間をやめていないので、俺の中の常識がそれらの理解を拒む。

 

 

「デュラハン、いいえ、あれがデュラハンならおかしいです。デュラハンは日本の伝承ではないでしょう?」

「そこが困った所なのよ……アレらに場所の縛りはなく、ただ世界中の──地球上のどこかにふと現れたかと思えば、伝承通りのことを起こす事のみが、アレらの共通条件なのです。」

「それじゃあ、あんなのがいきなり現れて、いきなり人を殺すこともあるのか!?」

 

 

 俺がそう叫ぶと、ええ、とみらいさんは頷いた。デュラハンは人の死期が近くなると現れる死神の一種とされているものだからまだ良かったが、それこそ人に害を及ぼす化け物の話なんて星の数ほどある。

 ああ───こんな話、信じてはいけないと分かっているのに、どうしても勝手に、俺のどこかがこの話を呑み込んでしまおうとしている。

 今も痛む脳裏にチラつくのは、恐ろしい甲冑の騎手と馬の姿。

 本能的に恐ろしいと思ってしまうアレらのようなものが人を襲うのなんて、考えたくもないのに容易に想像出来てしまった。

 

 

「そこで、私達は人々を守る為にアレらを殺すのです。」

 

 

 薄ぼんやりとした教会のステンドグラスから夕陽が強く差し込んで、十字架とみらいさんをオレンジ色に染めた

 

 

「古くから、それこそエクソシストと呼ばれた人々が悪魔を払っているような時代から、アレらを私達は殺してきました。これは一時しのぎです。しかし一時しのぎにはなるのです。才が無くとも、アレらは──ほんの一部を除いて──物理的に殺せるのです。故に、神父様のように関わってしまった人が修練を積み、自身に宿る神秘を使いアレらを殺す適合者(コネクター)になる場合もあります。」

「未来、私は彼らを」

「関わらせたくない、と?」

 

 

 みらいさんが、翼をばさりと揺らして、神聖で静謐な空間(教会)の中で祈るように──事実祈っているのだろうが──両手を組んだ。その姿は天使のようだ、あの白い翼はなんの話の結晶とやらなのだろうか。それこそ天使──なのか

 

 目が開かれた。

 

 

「神父様は慈悲深くあらせられる。──ですが、片や才があるもの、片や神秘を見てしまったもの。関わらないなんて、不可能なのです」

「彼だけでも──いいえ、彼は、おそらくですが適合の瞬間を目撃してしまったでしょう。……ああ、これも神の思し召しなのでしょうね」

 

 

 どうやら、話は固まってしまったらしい。

 神父は俺と田中さんの方へ近付いて、俺達の手を握った。

 

 

「大丈夫です──きっと、あなた達のことは、神が見守ってくださいますから──」

 

 えらく深刻そうに言う神父に、いや俺仏教徒なんすけど、とは言えなかった。

 

「神父様、そこの彼は仏教徒です」

「それは困りましたね──あの寺の方々は少しばかり苦手なのですが…まあいいでしょう。今日は泊まってもらいますが、構いませんね?」

「あっはい」

 

 神父の手が離れていって、辺りを見ると、いつの間にかエスとやらが居なくなっていた。

 あれは教会に入れないタイプの化け物──神秘なのだろうか? ゴスロリ女装の化け物とか居たかな

 

「益田さん、すみません」

「エッ何ッ!?」

「多分、益田さんはあのデュラハンを見てしまったから巻き込まれているんでしょう? 私が貴方を巻き込まなければ──」

「それは違うだろう」

 

 田中さんが、驚いたように目を丸くしているが、普通に違うだろう。

 

 

「田中さんは巻き込まないように一線を引いてくれてたけど、それを俺が越えたからこうなってるんだ。それに、悪いのは俺でもアンタでもなくて、あの化け物(デュラハン)なんだよ」

 

 

 俺が田中さんの手を引いて逃げたことは間違いだと俺は思わないし、田中さんが俺を関わらせないようにしたのも、俺は間違いだと思わない。

 要するに全部化け物が悪い。終わり! 閉廷! …以上! 皆解散!

 田中さんがポカーンとした顔で俺を見ている。───血の気が引いて行くのがわかった。

 

 

「陰キャのクセに出しゃばってすみません許してください何でもしますから!」

「ふふ。それ、口癖なんですか?」

「ワッ…ワァっ…!」

 

 

 

 

 

 

 ───そんな、どこにでもありそうな光景に、意味ありげにみらいさんは、否、蛇走未来は目を細め

 

 

「あっ…ふーん(察し)」

 

 

 と、何かを察すると、神父に一礼した。数秒の後に頭を上げて目配せをすると空間が歪み──そのまま、空間ごと攫われるように消えてしまった。

 

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