迫真適合者(コネクター)部   作:おんすていじ

3 / 4
三話 孤児院を越えた孤児院

 

や、やりませんねぇスギィ!!!(投稿間隔が開く音)

 

─────

 

 

 俺は今、教会──の隣にある孤児院にお邪魔している。

 

 

「兄ちゃんアレやってアレやって!」

「しょうがねぇなあ… ヒャオッヒャオッ ヒャオッ!」

「うわーそっくり!」

「美しい、あれが南斗水鳥拳!!」

「すげーっ」

「………………」

 

 

 子供達は随分と元気そうに俺にまとわりついてくる。俺が子供の頃はゲームか読書しかしていなかったものだから、こういう子供のパワフルさは大変新鮮である。

 カソックの上にエプロンを着た神父さんが、俺の傍にお玉を持って近づいてきた。

 

 

「すみませんね、わざわざ子供達と遊んでもらって」

「いっい↑や↓全然大丈夫ッス、こっ子供は元気が一番ッスからネェ〜!」

「なら良かった。もう少しで食事ができるので子供達と待っていてくださいね」

 

 

 この孤児院は、子供が少ない為神父さんと神父さんより古株のシスターで切り盛りしていたらしいが、古株のシスターが数ヶ月前に隠居してしまってから、今は唯一の高校生である田中さんの手を借りて生活しているのだと。

 普段からバイトをしていたり、高校生ということであまり遊んでくれない田中さんが家事に追われて全く遊んでくれなくなったことで、子供達も子供達なりにストレスが溜まっていたのだろう。

 知らない変なお兄さんである俺にも躊躇なく遊んで構ってと言ってくる子供の無邪気さは、インターネットに浸ってしなしなになったホモガキ()にとっては眩しい限りだ。

 こんな俺で良ければいくらでも遊ぼうじゃないか。俺にだって子供と遊べるくらいのコミュニケーション能力はあるのだから。

 

 

「…………」

「どうした、遊ばないのか?」

「おれ、お兄ちゃんだから…」

 

 

 ───孤児院にやってくる子の中には、複雑な事情を持った子供もいる。

 そういう子でも平等に接するという点では、きっと田中さんはすごいのだろう。俺だったらたまたまクラスが一緒なだけの同級生の名前なんて覚えていない。というか俺は田中さんに自己紹介されるまで名前が分からなかった。

 そういう所は唯一の友人であるアイツに似てしまったのだろうか。大変遺憾の意を示したい所存である。

 

 

「俺も高校二年生の立派なお兄ちゃんだ。つまりお兄ちゃん仲間だな」

「そうなるの?」

「そうなるんじゃないか?」

 

 

 こじつけがましいかもしれないが、接点は大事だ。

 この子も少しばかり、固くなった表情が柔らかくなっている。

 

 

「……名前、なんて言うの」

「益田悟だ。好きに呼んでくれていいぞ」

「おれショウゴ。うん、よろしく悟。おれのことはお兄ちゃんって呼んでいいよ」

 

 

 ───え?

 俺がお兄ちゃんじゃないのか?

 

 

「ファッ!?」

「なんか変か?」

「───ご飯の時間ですよ、みんな席に座ってください」

「あ! ご飯だって、行こう。悟」

 

 

 グイグイと手を引っ張られて、部屋の中心に二つ置かれた長机の傍の椅子に座らされた。もうショウゴは俺を弟扱いしているらしい。

 隣は左にショウゴがいて、俺はかなりギリギリな席に座っているようだ。机の角の辺りに俺の分の食事が置かれていると言えばわかりやすいだろう。

 アツアツのグラタンは食欲をそそる。大変美味しそうだ。

 

 ──いや、断ったのだ。

 

 最初俺は大丈夫ですコンビニでなんか買ってきますよと言ったのだが、まあまあまあと押し切られてしまった。二人がかりはずるいと思う。

 頂きますと両手を合わせようとした──が、周囲を見ると手を組んで祈りの言葉を言っている。

 まあ教会の神父さんが居る孤児院だしな、と心の中でいただきますと言い、現実でこっそり両手を合わせた後食べ始めた。流石にここでいただきま〜す! は無理だった。

 

 

「うん、おいしい」

「だろ? 神父さまのご飯は美味いんだ」

 

 

 シチュー系はあんまり家で作らないからか、それとも他人の料理に飢えていたのか分からないがめちゃくちゃ美味しい。舌が火傷しそうだが、その熱さが逆に旨味を増しているというか、家庭の味を極限まで美味くしたらこんな味だろうというか。

 大量生産品は粗が目立つというのに、俺含めて10人分くらいの量を作ったこの料理はその大量さを上手く使っている。味が濃すぎず薄すぎず、かと言って中途半端でもない。

 これと比べたら俺のグラタンはカスやと言っても構わないくらいの至極を俺は今味わっている──!

 

 気付けば、グラタンは空っぽになっていた。

 腹も満たされていて、俺は泣いていた。

 

 

「ま、益田さん?」

「ご馳走様でした……ぐずっ、なんてもんを食わせてくれたんや…これに比べたら俺のメシはカスや……!」

「カスではないと思いますが!? えっと、お水注ぎますね」

 

 

 田中さんが俺のコップに水を注いでくれて、ショウゴが俺の背をさすって、優しく寄り添う。ありがとうショウゴ、田中さん、俺は嬉しいよ。

 それはそれとして

 

 

「っず、ショウゴ、俺の皿にブロッコリーを盛るんじゃない」

「あ、バレた?」

「バレバレだぞ」

 

 

 ブロッコリーが二つ入った皿をショウゴに差し出すと、ショウゴはあからさまにうげぇ! と顔を顰めた。

 別にブロッコリーが嫌なわけじゃないが、俺が食べたってショウゴの為にならないので、俺は心を鬼にしてショウゴにブロッコリーを食わせるしかない。

 

 

「…ブロッコリー、食べたら」

「ん?」

「ブロッコリー食べたらさ、遊んでくれる?」

 

 

 ショウゴがフォークにブロッコリーを刺したまま俯いている。

 

 

「ああ、明日の朝までここに居るから、沢山遊んでやるよ」

「ほんと?」

「本当だ。俺が嘘つきに見えるか?」

「ちょっと見える」

「おい」

 

 

 ちょっと嘘つきに見えるなんて心外である。眉間を揉んでみたりしていると、ショウゴが決心したようにブロッコリーを口に入れた。

 ゆっくり咀嚼して、咀嚼して──飲み込んだ。

 

 

「見た!?」

「見たぞ、凄いじゃないか。あと一個だな」

 

 

 ショウゴは手馴れたようにヒョイっとブロッコリーを口に入れると、しわくちゃな顔で咀嚼して、また飲み込んだ。

 ブロッコリーって食べるとわさっとしていて森って感じがして、草っぽい味がしたから、子供の頃は嫌い──だった気もする。

 じいさんに食えと箸を突きつけられた気もするし、普通に食っていた気もする。

 子供の頃の記憶とは、案外、覚えている気がするだけなのだろう。

 今は誰も記憶の正しさを証明出来ないそれは、カッコつけて言うなら箱の中の猫みたいなものなのだろうか。

 

 ()の中に入ったそれの蓋を開けれてみれば、あるのは記憶通りのそれか、或いは───?

 

 

「悟!」

「っ───ああ、どうした?」

「もうみんな食べ終わっちゃったぞ」

 

 さっさと片付けようぜ、とショウゴが笑った。

 ──箱の鍵はとっくに無いし、箱を開ける必要なんてない。

 

 

「分かった。片付けなきゃな」

 

 

 ただ───時折箱の外側を、中身を恋しがるようになぞって、触れて、それでおしまい。

 きっとそういうものなのだ。

 

 

「益田くん、望。あなた達を集めたのは明日のためです。」

「明日のため?」

「明日、あなた達が適合者として相応しいかを確認するテストのようなものを行うつもりです。そこで不合格なら、あなた達は多少──いや結構──? まあそれなりに不自由な思いはするでしょうが、一生神秘に関わらずに生きていけるでしょう。」

 

 

 つまり、と神父さんは一拍置いた。

 

 

「私としては、あなた達にはわざと不合格になって欲しい。」

「えっ、あの! 神父様がそういうことを言っても大丈夫なのでしょうか?」

「まあダメですね。けれどあなた達は巻き込まれた身です。選ぶ権利くらいはあってもいいでしょう。寺と修道院に入って一生を過ごすか、命懸けの戦いに身を窶して死ぬか」

 

 

 どっちも嫌でござる──と言いたいが、多分、神父さんからすれば最大限の譲渡なのだろう。

 俺は色々見てしまったし、聞いてしまった。きっとあの説明は、みらいさん──未来と書くらしい──からのせめてもの情けなのだ。これから一生世俗から離れて暮らすか、化け物と戦って早死するしかない俺達への。

 

 

「そ、の。質問、いいっすか」

 

 

 ───けど

 

 

「ええ」

「わざと不合格になれば、お、俺達は一生関係ないフリして、化け物に人が襲われてるのを知ってるのに、無視して、生きなきゃならないんですよね」

「────ええ」

 

 

 正義感とか、義憤とか、そういうものじゃないけど。

 ───逃げるのは、とにかく気に入らない。

 それに、あの化け物に、話の結晶とかふざけたアレに誰かが、なんの罪もない人達が襲われるとか、真っ平御免なわけで。

 

 

「俺、絶対合格してみせます。」

「益田さん! 益田さんは、」

「俺は! アイツらのせいで、神秘だか結晶だか知らない化け物のせいで人生を棒に振るのなんて、嫌です。けど──」

 

 

 真っ青な顔して、震えてる人が、田中さんみたいに怖くて怯えている人がいるのに、俺だけ逃げるなんて嫌だ。

 ああ、それに、何よりも──!

 

 

「バケモノにビビられるだけとか、死ぬほど腹立つんです。お願いします、アイツらとの戦い方を教えてください。」

 

 

 頭を下げる。

 下げ続けても、神父さんはうんともすんとも言わない。

 

 ふう、と、大きなため息が聞こえた。

 

 

「───分かりました。ただし、途中で音を上げないように!」

「ありがとうございます!」

「っ、神父様、」

「なんですか、望」

 

 

 田中さんが神父さんと向き合う。日本人離れした青い目は、持ち主の心根を表したように真っ直ぐだった。

 そして、そのまま勢いよく───田中さんは頭を下げた。

 

 

「私にもあの、神秘というものとの戦闘方法を教えてください! 私にもコネクター? の素質があるんでしょう? ですから、ですから──」

「……まあ、どの道関わるのですし、いいでしょう。分かりました、一夜着けであなた達を"戦えるくらい"に鍛えてみせましょう。」

「ありがとうございます、神父様!」

 

 

 それから、俺は教会の地下で地獄を見た。

 まず、俺は延々と銃刀法を軽く無視しているだろう武器類を持たされ続けた───ロケットランチャーとか、刀とか、レイピアとか、とにかく教会にあったらダメだろって感じのものを色々持たされたり素振りさせられたりされた───が、これはまだこれからの地獄に比べればマシだった。

 

 

「さあ、どこからでもどうぞ」

 

 

 その言葉を皮切りに、とにかく丸腰の神父さんに、死ぬほどボコボコにされるのである。

 最初、俺達は素手の神父さんに殴りかかるのに躊躇したが──すぐに悟った。

 

 これ、本気でやらないと死ぬヤツだ──!

 

 

 

 田中さんが右腕を狙う───即座に体を捻られ、勢いのまま床に叩きつけられた。

 その隙に───隙はないけれど──腹を狙う───足を掴まれてそのままいなされてしまった。

 腕、足、首、頭、背中!

 どこを狙っても、どこから挑んでもてんでダメ! そりゃそうだ。当たり前である。

 神父さんには明らかに"慣れと経験"がある。確か、未来さんは才能が無くても、神父様のようにコネクターとして──とかなんとか言っていた。つまり、コネクターとはあの化け──いや、神秘を取り込めるやつだけじゃなく、あれと戦う人をそう呼ぶのだろう。

 アザーだとかコネクトだかはよく分からないが、って───!

 

 

「戦闘中に余所見をしていてはいけませんよ。頭を使うのはいい事ですがね」

「はぁ、はぁ、はぁ──そ、っすか、」

 

 

 俺がまたコンクリートの地面に叩きつけられた瞬間、頭上を鋭い蹴りが掠めた。白い足はヒュッと風を切る音を立てて神父さんの左腕に当たったのだが──それはただ当たっただけであった。

 

 

「嘘ッ!?」

「甘い」

 

 

 瞬きの間に過ぎてしまいそうな、そんな刹那のやり合いが、俺の頭上で行われていた。

 まず神父さんは田中さんの上段蹴りを左腕で止めて、そのまま空いている右腕で田中さんの足を掴んで、容赦なく投げ飛ばしてしまった。

 甘い───恐らく、田中さんは躊躇しているのだろう。そして、それは俺もだろう。未だに戦闘なんぞ生まれてこの方ゲームでしか経験のないような俺と、同じく経験のなそうな田中さん。

 ───田中さんの蹴りがやたら鋭いのはちょっと不思議だが、そこは置いておいて。

 

 そんなこんな、俺達が未だ立ち上がっている理由は、諦めたくないという、根拠も論理もクソもない根性論であった

 

 

「はぁっ、はぁ…」

「はぁ、はぁ……」

 

 

 田中さんは頬を赤くさせて、汗を額から流しながら息を切らしていた。それがやけに頼もしく見えて、俺はなんとか息を整えた。

 

 

「そろそろ休憩にしましょうか、四時間ぶっ通しは疲れたでしょう」

 

 

 まあ、いくら根性論といっても甘い誘惑に逆らえる訳もなく。

 

 

「オネシャス! センセンシャル!」

「私、今とってもお水が飲みたいです!」

「ええ、しっかり水分を取って──10分ほど休憩しましょうか。」

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。