「どうぞ」
「ありがとうございます」
中世ヨーロッパ風の部屋に通されてしばらくするとおよそ20代ぐらいの軍服を着た男性がコーヒーを目の前の机に置いてくれる。
服は着替え、渡された作業服のような服を今は着ている。暖かい部屋に少し眠たくなってくるが我慢してコーヒーを飲む。
「司令官はもうすぐ来られると思いますので、しばらくお待ちを」
「はい」
この部屋に辿り着くまでに車で移動したのを考えるとやはり、かなりの大きさなのだろう。
「お待たせしてすまない。君を発見したことの報告書を作っていたのだ」
「いえ!」
確か、ラウスと名乗っていた少女は部屋に入ると自分の対面のソファーに座りこちらを見据える。
白シャツに灰色のネクタイ、黒上着に着いている金ボタンは目立つ。灰色のズボンと黒のブーツの組み合わせは実に良い。彼女のスラッとした出で立ちによく似合っている。
「司令」
「ありがとう」
おそらく紅茶を出されたラウスは礼を言うと美しい所作で紅茶を一口、飲む。
コーヒーを出してくれた男性も彼女と似たような服装をしているが若干簡素なイメージを受ける。階級が違うからだろうか。
「さて、疑問は多々あるだろう。まずは説明かな?」
「はい、お願いします」
なんだかんだ話の進み方がスムーズすぎる気がするが話の腰を折るわけにも行かずに説明を聴くことにする。
ーー
説明用なのだろう、要点を纏めた冊子が渡されそれを基軸にして説明が進んだ。
軽く纏めると
ペーネギュンネ帝国
およそ500年ほど前に建国され、現在はグレイスワルツ二世が統治する世界最大の帝国である。
彼には3人の息子と1人の娘がおり、現在74歳のグレイスワルツ二世の後継を巡り、主に3人の息子たちが争っているらしい。
現在は亡国アリステスの機械兵との戦闘が絶えず、戦争中である。
亡国アリステス
現在は滅んでおり、存在しないが技術大国であり自立機能を持つ機械兵たちで世界に戦争を挑んだが機械兵たちが反乱を起こし、国が滅んだ。残された機械兵たちは戦いをやめずにいまだに隣国のペーネギュンネ帝国含む国々と戦争をしている。
帝国軍
ラウスたちの所属する軍。
その中でラウスたちは第四方面隊にあたる。第四方面は機械兵たちの主な進行ルートであり激戦区である。
ーー
よく分かってないけどよく分かった…。
つまりこの世界は戦記ものの世界でありAI軍団と戦争中であると言うことか。
あの時、機械の大蛇はAI軍団の兵と言う事になるのか。
「あの蛇な、あれは転生キラーと呼ばれている奴でな。よく食われるんだ、何も持ってない転生者は」
「本当ですか…」
知らないうちにかなり危険な状況であったと言うことに恐怖しながらも疑問を投げ掛ける。
「あの、転生者の扱いが凄く手慣れていると思うのですがそれなりの数が来ているのですか?」
「あぁ、私も転生者だぞ」
「そうなのですか!」
驚きすぎて大声が出てしまったがすぐに口を閉じる。
「こちらの世界に来てちょうど20年になる。生前の記憶などほぼないに等しい」
「そんなに…それではこの世界は元の世界に帰れないタイプの異世界と言う事ですか?」
「いや、そうではない方法はある。おそらくだがな」
ラウスは紅茶を静かに飲み干すとソーサーにカップを戻す。
「だが、かなり時間を使ってしまった。私も用事があるし、君も疲れただろう。しばらくゆっくり休むといい」
「ありがとうございます。ディートリヒ中将」
「うむ。そう言えば君の名前は?」
「桝本伊織です!」
「桝本か…覚えておこう」
「ラウス、帰還報告」
ラウスが手を差し出してきたのでこちらも慌てて手を差し握手を交わす前にノックも無しに扉が開けられ、和装の女性が入ってくる。
気だるそうな剣士少女であり、襟袖に触れるか触れないかの長さの灰髪がユラユラと揺れている。
「時雨、今は新規の対応中だ。それとノックをしろ」
「よろしくね、それと報告書」
「私に渡せ…」
服装は和洋折衷と言うのだろうか、黒一色の着物に羽織、その上から黒のハーネスを着け、黒の袴とコンバットブーツ。
腰のベルトには刀と脇差が備えられているが刀の装飾は色鮮やかで、黒一色の服装からよく映える。
時雨と呼ばれた女性から書類を渡されたなされるがままに受けとると彼女はそのまま手をヒラヒラと揺らしながら部屋を立ち去る。
「すまないな。彼女は時雨、抜刀連隊の連隊長だ」
「中将と年齢は変わらないように見えましたが彼女も転生者なのですか?」
「そうだ。アイツも古株だ。私の2年後に来たからもう18年か…早いものだ」
本当にアニメのように若そうな人物が幹部を努めているが見た目と実年齢は恐らく比例しないのだろう。
「すまない…とにかく、しばらく休め。リンドに部屋を案内させる、また明日には案内の者を寄越すからそのつもりでな」
「こちらです」
コーヒーを出してくれた金髪をオールバックにした男性、ランドが軽く会釈してくるとそのまま案内されるがままに車に乗る。
「色々と着いていけていないでしょうが慣れます。他の皆様もそうでした。大丈夫ですよ」
「貴方も転生者なのですか?」
先程の印象とは打って変わり気さくな感じで話しかけてくる男性、リンドは笑みを浮かべながら話し始める。
「いえ、私は違います。転生者、我々は《旅人》と呼んでいます。人数は多くはありませんが少なくありません。ですが旅人全員がこの部隊に所属していますよ」
「全員が軍属なのですか?」
「えぇ。そのうち理由は分かります」
話しているうちに着いたのか車が停止する。
「この、扉の先に25号室と言うのがあります。とりあえずはそこにお泊まりください。このカードキーをお渡ししますので失くさないように」
カードキーを受けとるとリンドは再び、車に乗り込む。
「部屋の中に必要なものは揃っていると思います。朝に案内の者が来ます。ひとまずはゆっくりしてください」
「ありがとうございます」
「では!」
遠ざかる車を見届けると鋼鉄のドアをカードキーで開ける。すると目の前に広がったのは木を主軸とした暖かみのある空間だった。
車で通ってきた鋼鉄の冷たい通路とはまるで違う。その中には扉が無数に並んでおりその中で25と大きく書かれた扉を見つける。
カードキーで解錠すると中も木を中心とした暖かな造りだ。広さは三畳ほど、その中にベット、机、ロッカーが詰め込まれている。
巨大な移動基地?とは言え個室なのは優遇されているのだろう。とにかく布団に包まれて寝ることにする。
なんか色々と言われて頭が混乱しているし、なんだかんだ夢であったら良いなと思いながら今度は自分の意思で意識を手放すのだった。