なんだかんだ眠ってしまっていたのを自覚したのは真っ黒な部屋で目を覚ましたからだ。
三畳ほどの部屋を見渡し昨日の出来事が夢ではないことを改めて確認する。
コンコン!
やや強めのノック音は部屋の扉から鳴っており時計を確認すると机の上に置いてあった電子時計が午前6時30分を示していた。
「はい…」
軽く服装を整えてまだ半覚醒状態で扉を開ける。
「おはようございます!!!」
扉を開けた瞬間、爆音が鳴り響き無理矢理意識が覚醒させられる。
扉の前に立っていた赤髪ショートの少女はその音量から想像がつくような元気そうな見た目をしていた。
昨日見た時雨さんに分けてあげたいぐらい、目は爛々と輝き輝くような笑みを浮かべている。
上着は朱色のフライトジャケット、襟元には白のスカーフが覗いており、黒のテーパードズボンの裾をブーツに納めたスタイルだ。
「おはようございます」
「昨日ぶりですね!蛇に殺されかけてた時はビックリしましたが無事で何よりですね!」
声量に関してはもう仕方ないと判断し、昨日の出来事を思い出す。
恐らく昨日の04と肩にマーキングされていた機体のパイロットなのだろう。リンドの話も加味すれば彼女が案内役と言う事だろう。
「さぁ!まずは朝御飯です!」
ガシッと腕を捕まれるとそのままズンズン進んでいく彼女。
「あの、自分は桝本伊織です」
「伊織さんですね!私は
名前も輝いている気がするが恐らく間違いではないだろう。
改めて周りを見ると昨日とは違いかなりの人数が動き回っていた、中にはこちらに手を振ってくれる人物もおり一応、こちらも手を振り返す。
陽向も人気者のようでかなりの頻度で話しかけられていた。
「ここから近いのは第3食堂なのでそちらに向かいますね!」
陽向の話によるとここには5つの食堂がありそれぞれ部屋やら現在地から近い場所で食事を取るらしい。
無論、各設備も無数に設置されており施設内の暮らしは慣れれば不自由ないらしい。
「こちらです!」
「おぉ」
食事は常にビュッフェスタイル。
好きなものを好きなだけ食べていいそうだ。
食堂は常に解放されており勤務形態によって様々な時間帯で動く人たちもいつでも暖かい料理が提供される。
「ミートボール!」
どうやら陽向はミートボールが大好物らしくトレーに盛られたモリモリのミートボールを眺めながら食事を取る。
体が若くなっているせいか思った以上にご飯が食べれた。
「昨日のロボットは一体…」
「あれですか、あれは強化外骨格、通称《鎧》です!歩兵より防御力、火力、機動力に優れていますが大きい分、戦場が限られますから昨日みたいに外なら大丈夫なんですがね!」
当直明けらしい彼女だが山盛りに盛られたミートボールとご飯がどんどんと消えていく。
と言うか喋ってるのに食事の手が止まらないのに一切溢さないのを見てマジックかなっと思ってしまうほどだった。
そうしている間に陽向を発見した同じ部隊の人たちも集まりだしてそれぞれ紹介しあった。
こうやって多くの人と話していると自然と移動要塞の様子も分かるものだ、全員がとても和気あいあいとしていて和やかな雰囲気を感じるのだった。
「食事の後は検査ですよ!」
ーー
朝食後、案内されたのは椅子しかない部屋。
椅子の周りには機器が並んでおり、検査場なのだと言うのは分かる。
「ではここでしばらく寝ててくださいね!」
《寝ると言う表現は正しくないがまぁ大抵の人間は寝るだろうねぇ》
陽向の言葉に反応したのは部屋に設置されたスピーカー、恐らく部屋に設置されたカメラ越しにこちらを見ているのだろう。
「主に転生者の能力、転生研究を行っている。東城アマネ技術大尉です!」
《よろしくねぇ~》
陽向の指示通りに椅子に座ると彼女は部屋を後にする、感覚的にはアマネと二人っきりになる。
それからは彼女の指示に従い機器を自分で装着すると椅子が倒れ、寝る形になる。
《君はペーネギュンテ帝国が保護した旅人の5500人目だ。キリがいいね。ちなみにラウスは5人目だよ、その前は亡くなってるから彼女が最古参になるねぇ》
機器が動いているのは分かるから検査はしているのだろう。
検査中、彼女はずっと話をしていたが特に返事を聞いてる様子もなく独り言のように話続ける。
《少し質問》
「は、はい」
アマネの独り言を眠り歌にして眠ってしまいそうになった瞬間、彼女からの問いかけに驚きながらも返事をする。
《君は転生者が全員軍属だと言う話は聞いたかね?》
「はい」
《どのように思った?》
「強制的に徴兵されてるのかなと」
質問の意図が分からないが素直に答える。
転生者と言うのは本来、その世界に存在しないはずの人間だ。世界からしてみれば異質そのものだろう。
よくある中世的な世界に飛ばされたのであれば戸籍管理などザルだ、いくらで潜り込めたりはするだろうがこの世界は技術力はかなり発達している。
前にいた世界のように出生時点で戸籍等は登録されるだろう。つまり、なんの背景を持たない人間が突然現れたとすぐに分かるはずだ、悪く思えば他国のスパイだとでも疑われかねない。
そんな存在をかなりの数、保護しているのは何かしらのメリットが国にとって存在しているからだろう。
と言うことを伝えるとその言葉を噛み砕くように黙り込む。
《君の考察は的を得ているね。素晴らしい考えだ》
転生者には俗に言う《特殊能力》と言うものが備わっているらしい。
その強さは人により、発現しない場合もあるらしいがそれを売りにして最初期の転生者たちは帝国に雇って貰い、所謂、帝国という後見人を手に入れたのだ。
つまり転生者は戦うことによって存在を許された不安定な立場と言うことになる。
この部隊も転生者しかいないと言うわけではないのは監視役も兼ねているからだろう、ラウスの秘書であるリンドがその証拠だ。
ラウスもそれは承知の上だろうが。
《この移動要塞、グランイルが我々、転生者にとって唯一住むことが許されている街でもあるのだよ…っとちょうど終わったね》
話のキリの良い所で検査も終わったらしく周りの機械たちも静かになる。
《残念ながら君も戦って貰うことになる。生きたければね》
「選択肢は無いんですね」
《そうだ。君は明日から教練を受けることになるだろう。今日はゆっくりしたまえ…伊織くん》
姿は最後まで見れなかったが白衣を着た姿だけが想像できそうな感じだった。
異世界などと言っても自らの道を自分で切り開くなんてヒーローみたいなことは出来ないと言う事か。
「異世界も現実もあんまり変わらないんだな…」
少しだけ残念に思いながら待ってくれていた陽向と共に基地案内を続けて貰うのだった。
ーー
「特殊能力に関してはこれからだが能力的にも一兵士として十二分な能力は持っているだろう」
ラウスの執務室、そのソファーに腰かけているアマネは机の上の瓶から角砂糖を摘まむとそれをそのまま口に放り込みガリガリと噛み砕く。
軍服の上に白衣を羽織っている彼女は黒の整った長髪、黒目、日本人女性らしい容姿だが目のハイライトが無く、不気味な印象を受ける。
「副作用は?」
「恐らく無いねぇ、あったとしてもかなりの軽度だ」
「ほう」
伊織に関する書類に目を通していたラウスは興味深げにアマネに視線を移す。
「副作用が無いのは私を除けば彼だけだ。これは貴重だよ」
「育てろ。それしかない」
「了解、司令官」
ユラリと立ち上がったアマネは静かに部屋の扉へと向かう。
「アマネ」
「?」
「もう4日も寝てないそうだな」
「もうそんなに経つかねぇ」
「寝ろ。3日以上は許可してないぞ」
「…分かったよ。では明後日また来るよ」
この部屋に来て初めて瞬きをした彼女はニタリと笑うとその場を音もなく後にするのだった。
「…」
ラウスは目尻を押さえて筋肉を解すと書類に採用の判を押すのだった。