異世界戦線異状あり   作:砂岩改(やや復活)

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雪解け

 

 

「伊織、そっちに行った!」

 

「了解!」

 

 雪が降り積もる森を駆け抜け、敵ロボットへと肉薄する。

 白を基調とした頭部と胴体が一体化したロボットの胴体部に剣を突き付けコアを破壊する。

 素早く距離を取ると僚機がその傷口に向けてライフルを発砲すると敵は爆発四散する。

 

「これで最後だ」

 

「最近少し増えましたね」

 

「雪解けも遠くありません!」

 

 転生してから4ヶ月、訓練も修了し伊織が配属されたのは機械化装備連隊、つまりパワードスーツ部隊員と言うことだ。

 2ヶ月の訓練を得て実戦で経験して2ヶ月、散発的な敵の哨戒部隊相手だがそれなりにやれるようになってきた。

 小隊も陽向と同じ小隊に配属され、彼女の僚機として戦闘を行ってきた。

 

「もうすぐですか」

 

「雪が解ければやつらも動き出す…」

 

「ですが今年は敵がかなり少ないですね!」

 

 敵こと機械軍は基本的に冬にはやって来ないというのが常識となりつつあった。

 もちろん、理由はある。機械軍は基本的に超高性能なバッテリーをエネルギー源として活動しているからだ。

 科学力が上がろうと所詮はバッテリー、寒さという過酷な気候には抗えず、大規模な進行は今まで確認されていない。

 だが小規模な哨戒部隊などは絶えず進行してきており、こうして小規模で散発的な戦闘が繰り広げられているのだ。

 

「そろそろ交代だね。バッテリー残量も少ない、グランイルに戻るよ」

 

 小隊長、タリル・ウエルは第4小隊長である。

 中性的な美男子でラベンダー色のフワフワした髪を見ていると女性に見えてしまう男の娘だ。

 

 グランイルの格納庫、そこの整備ハンガーに愛機を納めると昇降用の階段を使って降りる、全長が4mあるため飛び降りるには少しだけ勇気がいる高さだ。

 

 改めて自身の愛機《シュッツ》を見る。黒色を基調とし空力を意識した先鋭的なフォルムにアニメ好きとしては何度見ても興奮せざる得ない。

 そして肩に描かれた4と杖が合体したようなマーク。これは中将直属を意味する。まだ新米のペーペーを直属部隊に配属されたのは驚きだが期待されているのは悪くない気分だ。

 

「伊織さん!ご飯に行きましょう!」

 

「はい!」

 

 同じく帰投した陽向も相変わらず元気よく接してくれる。朱色のパイロットスーツはタイツにプロテクターを着けた感じで体のラインがハッキリ分かってしまうのが難点だ。

 彼女の言動から想像できないしっかりと鍛えぬかれた肉体と決して小さくない胸がよく分かる。

 

「陽向ちゃん、伊織くん。ちょっと待ってね」

 

 両肩を捕まれ陽向に連行なされそうな時にタリルは二人を呼び止める。

 

「明日の1000に全体ブリーフィングがあるから忘れずに参加するようにね」

 

「「了解!」」

 

 敬礼をすると陽向はそのまま伊織を連れ去り食堂へと向かう。

 

「全体ブリーフィングって初めてなんだけど」

 

「大体は大規模作戦前に行われることが多いですね。昨今は攻勢に転ずる場面も多くなりましたし大規模反攻作戦でもするのではないかと」

 

 もうすぐ雪解けと言っていたし敵の攻勢も近づいてくる。その鼻先をへし折る為の大規模攻勢なのだとしたら納得だ。

 バッテリー問題は機械兵だけではなくこちらも抱えている問題だ、気温が上がっており、バッテリーに負荷が少なくなる時期に一撃加えたいのだろう。

 

ーー

 

《作戦を通達する》

 

 無数のブリーフィングルームに響くのは司令官のラウスの言葉、画面越しだが彼女の姿を見るのは教練を終えた2ヶ月ぶりだ。

 伊織の編入に際し新たに編成されたタナトス小隊、タリル、スイル、陽向、伊織の4人は簡素な椅子に座りながら他の小隊たちと共に傾聴する。

 

《第2方面軍偵察隊よりアリステス亡国軍が進行を開始したとの連絡が2日前に届き、ルートを割り出した所、タルス港であると判明した》

 

 部屋は少しだがざわめく。

 タルス港は海ではなく巨大な湖、タルス湖に設置された帝国の重要施設の一つだ。

 広大な領地を持つ帝国とその同盟国は内陸深くにあるタルス湖の輸送路は重要なルートだ。

 帝国は海に接する港を保有しているもののタルス港を失えば長い陸路で輸送せざる得ず、第4方面軍含む内陸に展開している部隊や街の補給状況に陰りが出てしまう。

 

《既に第1方面軍の3個連隊。第2方面軍の4個連隊。第5方面軍の2個連隊。帝都守備軍の2個連隊が援軍として派遣される予定だ》

 

「僕たちの出番は無さそうだけどな…」

 

 タリルの言葉に内心頷く。

 タルス港の防衛は同盟国であるデラエス聖国に一任されておりアリステス亡国からの進行を防ぐためにタルス要塞が鎮座している。

 亡国軍の進行を何度も退けている要塞であるがその上でそれだけの増援を派遣するとは敵はかなり大部隊らしい。

 

《そして我々第4方面軍及び第3方面軍はプリミシラ要塞の攻略を命ぜられた》

 

 ラウスの言葉に部屋がさらに騒がしくなる。

 プリミシラ要塞は帝国と亡国の国境に存在する最大の要塞だ。

 亡国軍、帝国進攻の重要拠点でありここを攻略すれば戦線が大きく変わることになるだろう。上手く行けば敵の首都に対しての攻勢も可能だろう。

 

《なお、作戦には第一皇女殿下が責任者として参加され、各方面軍からも増援が予定されている。詳細な計画については……》

 

 突然の動きに目を回しながらも必死に聞くのだった。

 

ーー

 

「と言うことで僕たちタナトス小隊は前衛として作戦に参加する」

 

 タナトス小隊の主な任務は作戦第2段階にて敵部隊の掃討、第4段階で突入する抜刀連隊の護衛だ。

 

「タナトスを親衛隊にするのか?」

 

 寡黙なスイルは前線狙撃手、つまり凸砂と言うものだ。

 要塞攻略戦において敵の狙撃手を排除するのが彼女の仕事だ。

 

「恐らく、でもゆくゆくはと言う話だ。今作戦はグランイルの指揮を第一皇女殿下《シャルロット》が執る。その参謀として第3者方面軍司令官《ガンス・ホラ大将》が着くことになっている。ラウス司令は前線指揮官として陸戦艦《ケーニッヒ》にて指揮を執る」

 

「いつものことながら納得いきません!グランイルは私たちの家なのに!」

 

 陽向の苦情に個人的には同意する。グランイルは転生者たちの隔離も兼ねた施設だ。

 前線要塞としてグランイルが適任なのは認めるがその指揮官を追い出して前線に立たせるのは個人的にいい気分じゃない。

 

「毎度の事ながら矢面に立たされるがこの作戦は7年間膠着していた戦線が大きく変化する可能性がある。あれだけの大群が動けば要塞への援軍も限られる筈。伊織くんには来て早々、大きな作戦だが頑張ってほしい」

 

「私たちに任せてください!」

 

「……」

 

 陽向の声、スイルもこちらを見て微笑んでくれている2ヶ月、共に戦ってきた事を胸に大きく息を吸って頷く。

  

「お願いします!」

 

ーー

 

 作戦の準備は急速に進められた。

 敵のタルス要塞到着までは後3日、かなり遅い進攻速度だがいつでも出られるようにグランイルも作戦予定地点まで動き始める。

 

 第4方面軍所属の陸艦艇も追随し前線旗艦《ケーニッヒ》にタナトス小隊を含む前衛を勤める機械化装備部隊機が搭載されていく。

 

「グランイルを見ていると小さく見えますがケーニッヒも大きいですね」

 

「グランイルがデカ過ぎるだけだよ」

  

 アドランテ級陸上戦艦《ケーニッヒ》は二次大戦の戦艦をそのまま陸上に上げたようなデザインだ。陸上艦は無限軌道ではなくホバーなため陸海でも運用でき、グランイルよりも遥かに速い。

 

「現場はかなり雪が溶けているらしい。大規模作戦はバッテリー残量を考えながらの戦闘だから気をつけて」

 

「はい!」

 

 こうして準備は確実に進み、初の大規模作戦に伊織は身を震わせるのだった。

 

 

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