ゴブリンスレイヤーRTA 猫人術師チャート    作:雑種猫

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 チカレタ……裏パート書くの死ぬほど苦労したゾ……。
 水の都編までやってたら干からびていた。間違いない。 


3/裏 ある冒険者の結末

   

「祝!昇格!」

 

 いえーい、と昼間から祝杯(麦茶)をあげる。

 本当なら麦酒が飲みたいが、つい先日、鉱人の火酒でトンデモナイ酔い方をしたのでしばらく禁酒をいいつけられてしまった。酒場では母性が爆発した獣人女給(お姉ちゃん)が目を光らせている。かと言って別の酒場で隠れて飲酒しようものなら謎の情報網で即把握されることだろう。そうなれば何をされるかわかったものではない。詰みである。悲しきかな。妹は姉に逆らえない運命なのだ。

 

「ぷはー。黒曜から鋼鉄等級……長いようで短かったような気がする」

「正直、皆さんに着いていくのでやっとだったので、わたしは未だに実感が……」

 

 この2人が異例のスピード昇格である事は客観的に明らかであり、ここ最近は周りからヒソヒソ噂されることもしばしば。

 最も、”変なの“と一緒に毎度毎度ボロボロで帰還したり、人喰い(オーガ)を倒したことが知れ渡っているので、そこまで敵視される事はないが。因縁をつけてきたら、「一党を組んで1日3件のペースで依頼を達成すれば経験点ガッポガッポだよ?」と凄んでやればいい。大抵の相手はすごすごと引き下がるか同情される。自分から進んで行っているので後者に関しては余計なお世話だが。

 

「実感なんて後についてくるモノよ!気にしない気にしない!」

「かーっ!銀とは思えんお転婆娘が言うと説得力があるのぉ!」

 

 なんですってー!と小競り合い(いつもの)を始める二人。ストッパーである蜥蜴僧侶は牧場から卸したての乾酪(チーズ)に夢中になって「甘露!」と叫んでいる。夢中でなくてもしばらくは放っておくだろうが。

 女神官との会話がひと段落したら、つまみの木の実(ナッツ)を口に放りながら読みかけの呪文書を開く。

 

「それ、このあいだの遺跡で発見された呪文書ですか?」

「うん。『魔法の時代』*1の遺物。石化とか霊薬の呪文やら色々載ってたけど、とりあえずは1番興味がある《分解(ディスインテグレータ)》から覚えてる」

 

 本来なら然るべき宝物殿に安置するレベルの貴重な書物だが、呪文書があった遺跡の隠し部屋を発見したのは他ならぬ猫人術師であり、他の面々も思い思いの宝物を得たので文句は言われない。

 

「あなたも覚える?真言呪文。今なら《核撃・爆裂(フュージョンブラスト)》の呪文書もあるよ?」

「あはは……覚えたい気持ちはやまやまですけど、呪文書を読んでもちんぷんかんぷんなので遠慮しておきます」

「そっか。気が変わったらおしえて」

 

 ——きっと覚えても使いこなせないだろうな、と女神官は引き攣った笑みを浮かべる。

 

 真言呪文——真に力ある言葉(トゥルーワード)は神々が創世に用いた言語である。ゆえに、これを以て世界を改変する呪文は、神ならざる者の脳や精神に大きく負担をかける。

 真言はただ暗記するだけでも修練が必要であり、そんな苦労して覚えた真言もひとたび呪文を発動すれば、代償として発動と同時に忘却してしまう。魔術師が朝晩呪文書を開いているのはこれが理由だ。修練を積めば、忘却をある程度軽減して呪文の連続行使を可能とする技術を会得できるが、無論のこと血の滲む努力が必須。だからこそ呪文を連続行使可能な女魔術師や猫人術師が如何に呪文遣い(スペルスリンガー)として優れているかが浮き彫りになるのである。

 

 ——からから、とベルが鳴る。

 彼の到着だ。いつものように受付からゴブリン退治の依頼を持ってくると、相談とはいえない一方的な提案をして一同を呆れさせるのであった。

 

 

 §

 

 

 そして、小鬼退治、時々冒険をすることしばし。

 ギルドに現れたゴブリンスレイヤーはいつものように受付に向かう——ことなく、待合スペースの中心に無造作に踏み入った。

 いっつもゴブリンゴブリン言ってる奴が、いきなりこちらに来たのだ。彼のことを知っている冒険者はそれこそギョッとしたことだろう。だが、彼はお構いなしに「頼みがある」と口を開いた。

 

「ゴブリンの群れが来る。村はずれの牧場にだ。時間はおそらく今夜。数は分からん。だが、斥候の足跡の多さから見てロードがいるはずだ。つまり百は下らんだろう」

 

 ——百匹のゴブリン!?ロードに率いられた!?

 

 うげぇ、と誰も彼もが引き攣った表情を浮かべる。

 彼らのほとんどは、駆け出し時代にゴブリンの恐ろしさ——面倒くささを身に染みて理解している。ましてや百匹。もはやゴブリンの軍とでも呼ぶべきそれは、今晩のうちに侵攻してくるという。気が萎えるのは当然だろう。

 

「時間がない。洞窟ならともかく、野戦となると手が足りん。手伝ってほしい、頼む」

 

 ゴブリンスレイヤーは頭を下げた。しかし誰も、言葉を返そうとしない。それどころかざわざわと「でもゴブリンだろ?」「あいつら汚いしやだなぁ」「オレは御免だね」などと心無い否定的な意見が飛び交う。

 

「……おい。お前なんか、勘違いしてないか?」

 

 槍使いの冒険者——辺境最強の戦士が立ち上がる。

 

「ここは冒険者ギルドで、俺たちは冒険者だぜ?お願いなんざ聞く義理はねぇ。——依頼を出せよ、つまり報酬だ。なぁ?」

 

 そうだ、そうだと野次が飛ぶ。

 冒険者は命懸けだ。報酬なしのタダ働きなどごめんなのである。

 

「ちょっと何よソレ……!」

「気持ちはわかるが、今は」

「今お前さんが出ていくとややこしくなっちまうぞ」

 

 二階のほうで妖精弓手が顔を真っ赤にして飛び降りようとして、鉱人道士らに止められていた。その間にも下の階では話が進んでいく。

 辺境最強が参戦を宣言し、妖精弓手らも口々に参加を表明する。猫人術師も参加しようと声をあげ——

 

「——!」

 

 ——不意に、自らの信仰する天上の意思が流れ込んだ。

 

 周囲も神聖なる力の奔流を感じたのだろう。何人かがこちらを向く。

 

「……託宣(ハンドアウト)が来た」

「内容は小鬼を討ち滅ぼせ、と?」

「うん、それと理由はわからないけど『とある小鬼英雄(ゴブリンチャンピオン)を倒せ』って……」

「『宿敵を打倒せよ』ってヤツね!」

「これはまた、如何にも託宣(ハンドアウト)らしい託宣(ハンドアウト)じゃのう」

「うん。元々参加するつもりだったけど理由が増えた。よろしく」

 

 しかし、集まったのはそれだけだ。情だけで命を張れるほど冒険者は特勝な者達ではない。それこそ、危険に見合う報酬がなければ——

 

「ギ、ギルドからも!依頼が、ありますッ!ゴブリン1匹につき、金貨1枚の懸賞金を出します!チャンスですよ!冒険者さん!」

 

 受付嬢が依頼を持ってきた。

 内容は、小鬼退治。報酬は雑魚(ゴブリン)1匹につき金貨1である。なんと大盤振る舞いであろうか。これに喰いつかない冒険者はいない。

 

「俺たちゃ仲間でも友達でもないけど、冒険者だからな」

 

 一人の冒険者が鬨の声をあげ、他の冒険者も続く。

 ギルドに集っていた冒険者たちが口々に叫び、床を踏み鳴らす。

 

「良かったですね」

「……あぁ」

 

 ——この日、多く冒険者たちが、ゴブリン退治というありふれた依頼に殺到した。

 

 

 §

 

 

 ゴブリンの大群と冒険者たちの総力戦。戦況は圧倒的に此方が優位であった。迫り来るゴブリンに対し、ことごとくゴブリンスレイヤーの策がハマったのである。

 

『奴らは確実に肉の盾を使う。眠りの術をかけ、その隙に救出させろ』

 

 初手で肉の盾を使用したゴブリンたちは、数多の呪文遣い(スペルユーザー)の魔法で眠らされ、屈強な戦士たちが救出した。

 

『まっさきに敵の呪文遣いを叩いて潰せ』

 

 肉の盾を回収する戦士たちに呪文で追撃しようとした小鬼の呪術師(ゴブリンシャーマン)は弓手や投擲者によって尽く打倒された。

 

『群れが大きくなると狼を飼い、更に増えると狼に騎乗する。この人数なら十分に引きつけ、槍衾で対応できる』

 

「構えろ!」

 

 槍使いの号令と共に、槍衾が形成され、小鬼の乗り手(ゴブリンライダー)が狼ごと串刺しになる。踏ん張りがきかなかったのか、押し倒された冒険者が喉笛を噛み千切られたが、それもたった1人。大半は槍衾に貫かれ、背中のゴブリンは落下した。

 

「各方、かかれぇっ!」

 

 ゴブリン対冒険者。だが、今回は両者とも圧倒的な数による乱戦である。

 当然ながら正面戦闘は武具、体格、技量、全てが勝る冒険者たちが優勢であり、「ボロい商売だ!」と叫びながら幾人もの猛者が小鬼相手に無双する。 

 

「はっ!」

 

 猫人術師が投石した石弾がゴブリンの頭をカチ割る。視界を埋め尽くすほどのゴブリンの群れだ。目を瞑っても奥へとぶん投げれば大体当たる。

 

 ——弾、買って来て良かった。

 

 彼女の足元には、大量の石弾が安置されている。この石弾は猫人術師が溜めた貯金を奮発して購入したもので、銀貨数百枚分の弾数は優に千を越える。結構な散財だが、前に妖精弓手らとの遺跡探検で数多くのお宝を確保できたので所持金には余裕があったのだ。

 

 ——相手は確実に突っ込んでくる。なら、石弾を大量に用意して投擲手を配置すればいい。

 

 彼女の隣では、数多くの投擲手が石弾を放っている。

 この街には『弓は使えないが、投擲なら得意』というものは多い。何故なら、この辺境で一番数が多い種族が只人(ヒューム)であり、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()*2

 

『直接戦闘に自信がない。安全圏で戦いたい。でも、あまり武装にお金を出したくない』

 

 そんな面々が多いことを察した猫人術師は彼らに「後方の安全圏で石を投げるだけでいい。人数分の投石紐(スリング)と石弾代はこちらで持つ」と伝えると、嬉々として投擲手となった。なにせ、安全圏で無料の弾を投げ続けるだけで金貨と経験点が貰えるのだ。参加するに決まっている。中には、この日の為に投石杖(スリングスタッフ)を購入したという者も多い。

 

 ——投擲手は高威力高射程な投石杖(スリングスタッフ)が望ましい。でも、ひとりひとりに銀貨30枚の投石杖(スリングスタッフ)を買い与えては資金が足りない。()()()()()()()()()()()。上手くいってよかった。

 

 投石紐(スリング)は銀貨1枚と安い。だが、投擲距離が30mと低い。ゆえに、他者と獲物の取り合いになると判断した者は、『小鬼を3匹以上倒せば元が取れる』と考え、自主的に投擲距離が投石紐(スリング)の倍になる投石杖(スリングスタッフ)をこぞって購入するようになる。

 結果、発案した猫人術師はギルド割引でお得になった安い投石紐(スリング)数本と大量の石弾の代金だけで投石杖(スリングスタッフ)持ちの投擲手を複数人動員できる、という寸法だ。工房はさぞ大儲けしたことだろう。*3

 

 ——そろそろ、かな? 

 

 猫人術師が石を投げ続けていると、望遠鏡を覗き込む暗視持ちの物見から小鬼英雄(ゴブリンチャンピオン)が接近していると通達される。

 

 ——頃合いだ。

 

 猫人術師は、この戦いにおいてゴブリンスレイヤーにある許可を貰った。内容は、《分解(ディスインテグレータ)》の使用許可である。『魔法は攻撃よりも呪文にしかできないことを優先しろ』と言われたが、託宣(ハンドアウト)のこともあるし、そこは裏方業務による投擲部隊の組織・動員などの実績で黙らせ、『小鬼英雄(ゴブリンチャンピオン)が出た時のみ使用可』との言質を取ったのだ。

 

 ——まずは、手数を増やす。

 

 唱えるは高難易度呪文のひとつ【分身(アザーセルフ)】。己と同一の分身を生みだす強力無比な呪文であるが、知性に長けた猫人術師でさえ成功より失敗の数が多い。それほどに難解な呪文なのだ。

 

 ——でも、今回は()()がある!

 

 銀等級の魔女に頼み込んで借りた首飾り(ネックレス)——最高峰の呪文の発動体と高位の知力強化の指輪である。これらがあれば、例え高難易度呪文でさえも完璧に成立させることができる。

 

「《イーデム(同一)……ウンブラ()……ザイン(存在)》!」

 

 当然のように成功し、猫人術師が2人に増える。見張りに小鬼英雄(ゴブリンチャンピオン)の位置を教えてもらうと、最も小鬼が巻き込まれるであろう位置に移動し、《分解(ディスインテグレータ)》の詠唱を開始する。

 

「「《オムニス(万物)》……」」

 

 この高位呪文は、長い詠唱時間を有する。

 その分威力は凄まじく、直線上に物質を分解する熱線を発射すると100m範囲のものは軒並み風穴を開けられる。本来なら小鬼風情に使うのは勿体無い呪文であるが、相手が小鬼英雄(ゴブリンチャンピオン)ともなれば話は別だ。

 だが、大人しく呪文が完成するのを待つほどゴブリンも愚かではない。戦場で棒立ちしている小娘がいれば率先して襲うのがゴブリンである。だが、それはあくまで猫人術師単体ならの話だ。

 

 降り注ぐ石と矢の雨。絶え間なく呪文を唱え続ける呪文遣い(スペルスリンガー)。武器を携えて臆することなく果敢に攻める戦士。一騎当千を体現するかの如く縦横無尽に暴れる銀等級の猛者たち。

 

 この中から、猫人術師をピンポイントで狙う余力などあるはずがない。仮に狙う者がいたとしても次の瞬間には屍と化していることだろう。何せ、奴らの首は今や金貨となっている。欲望に身を委ねた金の亡者が草の根をかき分け血眼で小鬼を鏖殺しているのだ。彼等から逃れる術はない。

 

「「……《ノドゥス(結束)》……」」

「奥から田舎者(ホブ)の群れが来るぞォー!」

 

 そして奥から現れるのは、小鬼英雄(ゴブリンチャンピオン)率いるゴブリン上位種の精鋭部隊。

 

 ——あれが、託宣(ハンドアウト)に指定された相手か。

 

 私は、手前の冒険者に合図を出した。

 

「呪文が完成した!胸以外ちっこいのが《分解(ディスインテグレータ)》の熱線を放つぞぉー!!!焼かれたくなかったらこっちに走れぇー!!」

 

 ——誰が胸以外小さいって??????????

 

 猫人術師に体格の話は禁忌である。

 『小さくて可愛い』ぐらいなら許容範囲だが、『チビ』や『デブ』などの悪意ある悪口は絶対に許さない。ましてや、己のコンプレックスである身長に見合わない胸に触れたとなれば尚更だ。魅惑的な黄金比の肉体に憧れる猫人術師からしてみればこれ以上無い悪口である。

 

 一瞬、『こいつに撃ってやろうか?』とも思ったが、今はそれどころ——誠に不本意だが——ではない。警告の甲斐あって奥にいた冒険者は全員大慌てで引き下がっている。撃つなら今であろう。

 

 多くの冒険者が一時撤退する最中、「おいおい。あんな悪口言って大丈夫か?」という声と「あ?別に大したこと言ってねぇだろ」という聞き覚えのある声が聞こえた。

 

 ——オマエの面、覚えたからな?宴の時は覚悟しろ。

 

 猫人(フェリス)は因果応報がモットーである。

 仇は仇。恩は恩で返すのだ。

 

「「「「GOROOOOOB!!!」」」」

 

 一方、小鬼英雄(ゴブリンチャンピオン)たちは冒険者たちが自分に恐れ慄いて背を向けたと勘違いし、下卑た笑いを浮かべながら追撃とばかりに武器を構えて突進する。

 

 ——呪文は完成した。小鬼を灼きつくす!

 

「「……《リベロ(解放)》ッッ!!!」」

 

 2本の熱線が照射される。

 射線上にいたゴブリンはバターのように切断され、群れが一瞬にして壊滅する。圧倒的な破壊力だ。しかし——

 

「GROOOOOOB!!!!!」

 

 ——英雄を冠する小鬼はしぶとくも生きていた。

 

 猫人術師の誤算はみっつ。

 ひとつは、《分解(ディスインテグレータ)》の制御が難しく、小鬼英雄(ゴブリンチャンピオン)に対し集中火力が出せなかったこと。

 ふたつめは、どこから手に入れたのか魔法の片手半剣(バスタードソード)と業物の剣——こちらは分解された——で弾かれたこと。

 みっつめは—— 小鬼英雄(ゴブリンチャンピオン)が全速力で猫人術師ただ1人を怨敵として特攻し始めたことだ。

 

 ——後方に逃げる!?いや、そんな事をしたら一体どれほどの被害が出るかわかったものじゃない!被害が出る前に最大火力で焼き尽くす!

 

「《サジタ()……インフラマラエ(点火)……ラディウス(射出)》ッッ!!!」

 

 初歩にして最高火力を誇る火の呪文。

 冒険で腕を磨き、数多の魔術媒体を身につけた今、その恐るべき魔法の力はひとたび発動すれば眼前の難敵をことごとく焼き尽くすであろう。呪文は、相手が到達するよりも早く発動する——!

 

 ——から、ころ。と骰子(さいころ)の音がする。

 

 それは天上の差し手が振るったものであり、下界の住民である猫人術師に音は聴こえどもその骰子は見えない。だが、確信していた。出た目は間違いなく——()()()()()()()()

 

 呪文が発動しないまま、身体から熱が抜けていく。

 杖先に溜まっていた業火がみるみると萎んでいく。

 

 ——蛇の目。すなわち、大失敗(ファンブル)。それはこの場において呪文の失敗と己の死を意味する。

 

 《宿命(フェイト)》と《偶然(チャンス)》は平等だ。

 偶然は時に幸運を。宿命は時に厄災を齎す。今回訪れたのは、《偶然(チャンス)》ではなく、《宿命(フェイト)》だった。ただそれだけのことである。骰子(さいころ)の出目は絶対。それがこの四方世界における法則(ルール)だ。

 

 ——でも、()()()()()()()()()()!!!

 

 予めかけて貰っていた逆転の奇跡が発動する。

 交易神——《偶然(チャンス)》から零れ落ちた神の加護が巡り巡りて風を呼ぶ。盤上の骰子(さいころ)を吹き飛ばし、蛇の目のが裏返る。現れるのは1の裏。その目はきっと——幸運の証だ。

 

 肉体に信じられないほどの熱が湧き上がる。

 循環する力の波が萎んだ炎に注ぎ込まれるとそれらはたちまち蒼き紅蓮と化し、恐るべき破滅の矢となりて悪鬼を穿つ。

 

——これでも喰らえ(テイク・ザット・ユー・フィーンド)!!!

 

 煉獄が顕現する。渾身の一矢は瞬く間に怪物を灼き尽くした。

 

 

 §

 

 

「私たちの勝利と、牧場と、街と、冒険者と——……それから、いっつもいっつもゴブリンゴブリン言ってる、あのへんなのにかんぱーいっ!!」

 

 妖精弓手の音頭にわっと冒険者たちがわっ!と歓声を上げて次々に盃を掲げると、一気に中身を干す。たしかこれで5、6度目の乾杯だったが、冒険者たちは気にしない。勝利の宴は長いのである。

 

「あれ?そういえばあいつは?」

「なんやかんやあって部屋でノビてる。どこぞの猫人(フェリス)から怨みでも買ったんじゃないか?」

「あー。そういや一時撤退した時すっごい睨まれてたな、あいつ」

「おおよそ女体の禁忌(コンプレックス)に触れたんだろ。自業自得だ」

 

 そんな話を尻目に料理を頬張っていると、鉱人道士が持ち込んだ秘蔵の火酒を呷る。火酒特有の芳醇な香りにピンと耳を立てた猫人術師は「火酒だ!」と即座に反応した!

 

「火酒!私も火酒飲む——」

「ダ〜メ♡」

「はい……」

 

 光の速さで獣人女給に禁止(メッ)された。どうやら小鬼英雄には勝てても、未だ姉には勝てないようだ。その聡明な頭脳をもってしても勝率ゼロである。しょうがないので卓上のご飯を思いの丈だけかっ喰らうことにした。《分解(ディスインテグレータ)》の呪文で小鬼を大量に倒したので、投資した分の元はとれている。これぐらいの贅沢は許されるはずだ。

 

「ふーむ。いつみても清々しい食べっぷりじゃなぁ」

「獣人といえば獣人っぽいけど、それにしてもすごい食欲よね」

「特別な氏族の方だったりするんでしょうか?」

「あ、わかる?実はね——」

 

 なんか好き放題言われているが、そんなことより美食(ごはん)である。肉を喰らい、羊羹(スープ)を飲み干し、野菜を頬張る。あぁ、今日も飯が美味い!

 

 姉の話に仲間が何やら驚愕する中、我関せずといった様子で猫人術師は飯を喰らった。

*1
 ゴブリンスレイヤー達が生きる冒険の時代の一世代前。真言呪文が発見されて表に出た時代であり、最高レベルの魔術師達が高位呪文を行使してヒャッハーしていた魔法全盛期のヤベー時代。やがて飽きたのか、大半は四方世界の外へと次元渡りして表舞台から姿を消した。

*2
公式設定。TRPGでも只人(ヒューム)は初期技能で【武器:投擲(初歩)】を有している。

*3
確かに儲かったが、工房の翁と丁稚は大慌てで不足した投石杖(スリングスタッフ)を量産するハメになり、過労死しかけた。




 牧場防衛戦終了!これにて本編は完結です!ご視聴ありがとうございました!拙い文章でしたが、応援してくれた兄貴姉貴ありがとう!フラッシュ!!!
 ただ、これで終わりだとエピローグがなくて味気ないので……よし、じゃあ(この後にちょっとした幕間とオマケを)ぶち込んでやるぜ!
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